Neetel Inside ニートノベル
表紙

チ☆コがついてるジュリエット
3話 萌えの主張

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「………。」

茜色に染まる放課後の体育館裏。

泣き崩れる幸子と地面に倒れ血を流す関口。その向こうに見える美穂と川原。

それぞれの思惑は交錯しつつも、横から見れば数センチ上からはるか上空まで。
厳密に交わっている個所は一つもなかった。

“厄日”

そんな僕は、脳裏をよぎる言葉の的確さに妙なカタルシスを得ていた。


3.萌えの主張


放課後の体育館裏の人口密度は昼下がりの吉野家と同じ程度だと感じた。そう、殺伐さにおいても。
たむろする運動部員とダンゴムシを採取する生物部員との間に挟まれるように立ち尽くす僕。

「…放課後、体育館の裏に来てね」

あのセリフの意図をあれこれ考えながらも、結局は本人に聞くまではただの憶測にすぎないということに気づいた時には午前の授業を全て使ってしまっていた。

「やった!アルビノきた!これでかつるッ!!」

白衣を着たモンスターハンターの歓声を背景に。
考えうる事態とその対応策について、まだ現れそうにない幸子と、僕との接点を考える。

第一に、幸子と僕は話をしたことが無い。
せいぜい交わされるものとしたら、幸子側からの「おはよう」、そんなものだ。
最近では「テストの点数何点だった?」と聞かれたが
学年3位の高みから言われたんじゃ、下層民には“施し”程度の発言にしか思えない。
だから特に返事はしなかった。
…もしかしたら、そのとき無視されたことに対する、怨恨があったのかもしれない。

「ADNG(アルビノダンゴムシ)マジ熱いわーww」

…いや、まて、アレかもしれない。昭和の頃は体育館裏の呼び出しと言えば、“リンチ”か“アレ”の2択だったようだ。
が、しかし、“アレ”で体育館裏を選ぶのであれば年齢詐称を疑わなければならない。
しかしながら、朝の幸子の口上を聞くに、普通に思考回路ではないと予測もできる。
十分ありえる話だ。それに、もしも仮に“アレ”の場合なら、かえって対処は楽だ。
そう、そんな時こそ今まで造り上げた「踝を見せない女子なんて嫌いですッ!」という概要を
オブラートに包んでソフトに言い廻せばいいだけだ。

ところが、今日は朝のこともある。
あの張り紙は幸子が仕組んだもので、何らかの裏付けを元に僕を強請ろうって魂胆かもしれない。
その場合は相手の要求に応じて対処せざるを得ない。
考えられる中で最悪のケースがこれだ。

「ががんぼっ!野生のががんぼ発見!!」
「…東山くんっ!」
不意に名前を呼ばれる、幸子の声だ。
視線を生物部員とは逆の、声のした方へと向ける。

と、向こうから何かが駆けてくる、上は赤と白、下は黒と肌。
ゆさゆさと揺れるそれは小学生のころ不憫に思っていた運動会の徒競争の記憶を蘇らせる。


「ひゃぁっ!」

転んだ

「いたぁーいっ…」

そこには、膝を負傷した幸子、いや、運動着よろしく、ブルマを穿いた幸子がいた。

…なぜ体操着、それ以前にこの学校の体操着はブルマでは無いはずだ。


あっけにとられるのは僕だけではない、周囲の視線が幸子に集まる。

「アルビノ…」

生物部員の幸子に対する感想は平常心であるならば噴飯ものだが
現状の僕はそれを受け入れる、それはつまり今の精神状態が普通ではないということの表れだった。

「幸子…さん、どうしたの?…その格好…?」

顔をひきつらせながら問いただす。

「どうしたもこうしたも…人妻なんかより、ブルマの方が魅力的だと思わない!?」
目を欄々とさせながら、嬉々として僕に問いかけるブルマ姿の幸子。

「え、あ、あぁ…」

あっけにとられる僕を尻目に幸子は語り出す。

「そうでしょ!まぁ、確かに、男子としてはエプロンってのも解るわ!あの背面の
“スケスケ感”は裸と組み合わせることにより“絶大な威力”を発揮するわ!でもね!それは世間一般の意見として“未成年には有害”でしょ!?要するに“性的表現”と取られて“規制”される運命にあるの。2次成長真っ盛りの子が対象外なんて、そんなんじゃ天下は取れないわ!その点ブルマは“学校教育の現場で採用”されるぐらい健全なものであるにもかかわらずこの“性的”さ!私に言わせるのであれば“絶対領域”のさらに上の“未知の領域”まで晒しているのよ!?カメムシがVXガスを搭載して飛翔するぐらい無敵だと思わないッ!?」

…それってどのぐらい無敵なの?と意味も解らず、助けを求めるように生物部員へ向けると、既にそこは無人地帯となっている。
彼らが空気を読ませられるぐらいの状況…いや、動物的本能における危機感を刺激される状況、それが今まさになのだろう。
ちなみに、運動部員は幸子が語りを始めた頃に、音も無く、流れるように立ち去って行った。

「…私ね、今朝直感したの。東山君ならブルマの良さを解ってくれるって…。」
上目遣いの幸子が僕との距離を詰める。

「ちょ…近っ…!?」

あっという間に壁まで追いやられた僕の右手に柔らかい感触が伝わってくる。
反射的に、いや、確認する意味もあったかもしれない、2~3度手を動かす。

「あっ…」

途端に幸子が妙に艶っぽい声を出す。

確信ともに見下ろす

幸子の手が僕の手を取り、結果として幸子の胸に僕の手がめり込んでいる。

「ね…?ブルマって…んぁっ!…はぁ、いいでしょ…?ああっ!」




…ブルマ関係ねぇ!なんて言ってられない、ヤバイ、この状況は、ヤバイ。


「ぅおいッ!!ブヒ」

突然の鳴き声
…いや、脳内補正される声に目を向ける。

「は、話はき、聞いたよ…ぞ!東君嫌がってる…じゃないか!」

そこには斜に構え、此方を指摘するように指差す関口の姿があった。


「「は…?」」


幸子にとっては当然の反応だろう
僕においてはまさに仰せの通りと言ったところだが、あまりに唐突な出現に呆気に取られたというのが8割を占めていた。


「ぶ、ブルマなんて化石燃料、い、今は需要なんて無いっ!」


眼鏡を押し上げながら此方へ向き直る関口。


「それに…他の人に…個人的な萌えを押しつけるなんて…間違ってるッ!」

そう吐き捨てると、二人を突き飛ばさんとばかりに此方へ両手を突き出しながら突進してくる関口。

何故だろう、その時僕は、関口がいつもの養豚ではなく、野性的(ワイルド)なイノシシに見えた。


と、それまで掴まれていた僕の右手が解放され、ドンッと押しのけられる。


次の瞬間

「この」 幸子の右足刀が関口の首元にめり込む
「コレステロールが」 直後
「1度ならず」 後ろに仰け反る関口の両足を
「2度までもっ!」 幸子の左足が「スパンッ!」と綺麗に払う。

「ブッ…ヒィ…」
結果、95kgの養豚はその支えを失い、地に臥せた。

そして幸子も泣き崩れる。

「もう…少しだったのに…。」
そう、言いながら。

茜色に染まる体育館裏。

ふと、視線を感じ、顔をあげると、体育館の角から顔を出す美穂と川原の姿が見えた。

と、美穂が何か口をパクパクさせている。



“な・に・ご・と。”そう口の形で問いかける美穂に。




僕なりの、心底困った顔を作ると首を傾げてみせた。




       

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