Neetel Inside 文芸新都
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探偵 佐伯泰彦 対 超人X
第十二話  小汚い大人の考えと、僕のなけなしの勇気

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第十二話 「小汚い大人の考えと、僕のなけなしの勇気」



起:三百二個の瞳

 今あなたが二百人の前に立ち、完璧な演技を行う事が出来るか?
 こんな質問するのも何だけど、それは出来る事なのか?
 俳優、女優、演技を売り物にする人達だって完全にこなせるモノだろうか?
 ”その人に成りきる”
 それも特別な状況下、一回の失敗がそのまま致命的危機を招く恐れのある中で…
 
 何と言う事だろう…
 その男はそれをやり遂げた!
 三階の特別室には百人、廊下にはおよそ五十人もの人だかり
 その数、三百の瞳を見事に欺いたのだった。

「…最後は奴の手からこぼれた、この”永遠の炎”を奪う事に成功しましたが、あと一歩の所で奴は逃げてしまいました」
 ”どうだ!”と言わんばかりに勝ち誇った顔を見せ、佐伯泰彦に成りきった超人Xは両手を大きく広げた。
 盛大な拍手と共に、掲げた”永遠の炎”を掲げ、その影の揺らめきを見せつける。
 間違い無く本物ではある、なにせ当の本人が盗んだのだから。
 しかし超人Xは気が付いていなかった、誰も知らないその場所に後二つの瞳が残っている事に…



承:佐伯泰彦の最後の罠

 その瞳はじっとその男を見つめていた。
 違和感があったのだ、この佐伯泰彦に。
 遠くを見ると、一人だけ同じ様に違和感を感じていると思われる青年将校がいる。
 その青年将校は、拍手喝采の室内で一人浮かない顔をしてじっと佐伯泰彦を見ていた。
 彼がどう考えているか僕には一切分からないが、あえて言うなら”確信が持てない為に踏み切れない”その様にも見受けられた。
 僕はこの違和感を確信へと持って行く為、周りをしっかりと見渡す。
 僕が今居る場所から見れる範囲はごくわずか、その隙間から佐伯泰彦が仕掛けた最後の”罠”の確認をする。
(やっぱりだ!彼は佐伯先生じゃあない!)
 僕の中の違和感が確信へと移る。彼は恐らく超人X、と言う事は佐伯先生は負けてしまったのか?
 だとすれば…怖いけど、今ここで僕が仇を打たねば誰が超人Xを捕まえると言うのだ…

 体がガクガクと震える、どうしようもなく怖い。
 何せこの部屋で超人Xは三発も拳銃を撃っているのだ、運が悪ければ僕は死んでいた。
 でも…



転:IMITATION

 超人Xの華麗なる推理解説は終了し、彼は最後に
「では、念の為に私がこの”永遠の炎”を持っておきます。代わりにこの…どうです?良く出来たイミテーションをここに置いておきますね」
 そう言うと超人Xは懐から偽物の”永遠の炎”を台座の上に置いた。
 それは実によく出来ていて、遠目からでは全くの本物と変わらない程である。
「イミなんたらはどうでもいい!君が預かる以上、全責任は取ってもらうからな」
 足利大佐の耳が痛くなる様な大声が部屋中に響く
「当然でしょう、お任せ下さい」
 超人Xは本物の佐伯先生と変わらぬ頬笑みを彼らに向ける。
 …今しか無い、勇気を…勇気を出さねば

「ちょっと待って下さい!」
 その時、張りのある若い声が室内に響いた。



結:人間椅子

 声の主は、先程の青年将校。でもどこかで見た事ある顔…どこかで…
「何だね、綾ノ森君。今日はこれにて一件落着、もう解決したはずだぞ」
 今度は足利大佐の不機嫌な声が室内に響く。
「ずっと思っていたのですが、何も私立探偵の方に本物を隠し持っていて頂くより、我ら軍隊が保管した方が安全ではないでしょうか?」
 目に映る二人の男の顔付きが変わる。一人は超人X、そしてもう一人は足利大佐。
 足利大佐は蝋(ろう)で固めた髭先を撫でながらゆっくりと綾ノ森と呼ばれた青年将校の元へと近づく。
「綾ノ森君。君の仕事熱心さは実に感心している。流石はその若さで少佐となるだけの事はある」
 足利大佐は彼の肩を抱き、長椅子の上に二人して腰をかける。
「(綾ノ森君よぉ、我々はこれ以上面子を汚される訳にはいかんのだよ。預かっておきながら奪われる様な事に成れば、ワシもお前さんもただでは済まないのだぞ。ここは一つ彼に任せようじゃないか、もしも超人Xに奪われたとしても我々には害が無いのだからな)」
 ボソボソと彼の耳元に話しかける声が僕の耳のも届いた時、体の血がまるで沸騰した様に熱くなる。
「だめです!!そんな事をしてはだめです!!」
 僕は居てもたっても居られなくなり大声で叫んだ、当然どこから発せられるのか分からない謎の声に室内は再び騒然となる。
「この下からだ」
 足利大佐は力任せに長椅子の革張りのカバーをはぎ取る。
 とたんに僕の周囲が光に包まれ、目を開けると怖そうな大男と、知的な眼をした若い男の顔が
「椅子の中に隠れておったのかぁ貴様ぁ!」
 足利大佐の太い右腕でいとも容易く暗闇の空間から引きずり出される。

 周囲の驚きと冷酷なまでに冷たい視線が僕に突き刺さる。
 だけど…僕はただ、じっと佐伯泰彦…いや、超人Xを睨んだ。
 

       

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