Neetel Inside ニートノベル
表紙

DAYS
1話「非日常との出会い」

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「・・・はぁ」
狭い部屋の中でため息をつく少年がいる。そう、俺だ。
どう考えてもオッサンくさいしぐさだが、そんなことは気にしないでほしい。
さて、何故ため息なぞをついたのか。
答えは簡単、部室の看板を見ればわかるハズ。
そこにはこう書かれているだろう。
「文芸部」と。
あぁ、そうさ。
アイデアが浮かばなんだ。
誰かアイデアをくれよ、俺が書き起こしてやるぜ。
・・・・・・アホか俺は。
「どうしたの、恵一」
「んのわぁっ!?」
突然、後ろから声がかかる。
「なんだぁ、華菜か。驚かせんなよ」
「なにぃ?その言い草は?」
意地の悪い口調で華菜は言う。
こいつの名前は、月宮華菜(つきみや かな)。
文芸部で、俺以外の唯一の部員。
あまりにヘンテコな髪型と低い身長。
いわゆる、なんだ。「妹キャラ」?
そんなかんじのヤツだ。
「おい、何のようだ?」
「先生がよんでる」
「あ、今日補習あったんだ」
三言で出て行く俺もどうかと思うが、教師の発言には従わざるを得なく、
俺は自分の教室に行くハメとなった。
教師に呼ばれ、教室へ戻った俺だ。
しかし、そこには誰かがいる、ということは無かった。
俺は一人、無人の教室でただ居残っている。
「・・・あぁ~、小芝のヤロー、遅い!」
小芝とは、ウチの担任の瀬高のことだ。
頭がハゲてきて、小さな芝生のように見えることからこのあだ名がついた。
(そういや、なんか外が騒がしいけど・・・?)
俺は、廊下に出てあたりを見渡した。
するとそこにはとんでもないものがいた。
「宙に浮く人間」である。
信じられるかい?いや信じられないだろう。
俺だって今日の今、はじめて見た。
そして、そいつは着地した後、廊下のムコウへ走っていった。
(何だったんだ?アイツ・・・)
「コラ、何で外へ出ている?お前は補習生のハズだろうが。戻れ」
後ろから、小芝が声をかける。
「って、そんなことより、今の見ました?人が宙に浮いてるの」
小芝は、それを聞いて答える。
「はぁ?人が宙に浮いた?んなわけがあるか!さっさと戻れ!!」
何か変だ。
あの人間は、どうやら小芝には見えてないらしい。
・・・あいつ、いったい何者だ?
どうにか補習を終了させて文芸部部室へと戻ってきたのだが、
それを出迎えてくれたのは、
おなじみ、月宮華菜と、
先刻、宙に浮いていたヤツだ。
「・・・・・・お前ら、何してんの?」
誰もが浮かぶであろう疑問を投げかける。
「ん~、この子がここに走ってきたから拉致った」
うそつけ。
「ちぇっ」
ところで、こいつはなんなんだ。
「ん~、如月勇希ちゃんだって」
そうじゃなくて。
「お茶、おいしい?」
無視か。
「・・・・・・・・・・うん」
答えんでいい。
「そっか~、良かった」
ところで華菜よ。
「ん?」
この、勇希とやらはどうしてここにいる。
「だから、拉致ッた」
もういい、黙っとけ。
勇希さんよ、何でここに来た?
「・・・・・・逃げ場が・・・・・・ないから」
のどから搾り出すような声で答えた。
「これ・・・・・・何・・・・・・?」
静かに、テーブルの上に載っている一枚の板を指差す。
あぁ、これは華菜の部員表だ。
ここに着たら、これを表に向けて、帰るときに裏向けにするんだが、
それを華菜は割ってしまったんでな。
「私も・・・・・・欲しいな・・・」
なぜ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙の後、
「逃げ場が・・・・・・ないから・・・・・・」
わかったわかった。
「・・・・・・うん?」
俺も、さすがに何かおかしいことには気づいていた。
しかし、これで確定したようだ。
先刻のことを、思い出してほしい。
そう、俺以外には、この「如月勇希」は見えていないハズだ。
「小芝には見えていない」じゃない。
「小芝にも見えていない」だった。
ここに来るまでに出会った生徒は4人いたが、
その全員が「見ていない」と証言している。
先刻、勇希が浮いていたときにまわりにいた生徒たちもだ。
すなわち、こいつにも見えているハズがない。
「・・・おい、お前・・・」
「ん?」
「勇希が見えてるのか?お前には」
とりあえず、聞いてみたら、何かしら答えは返ってくる
「見えてない」
・・・・・・そうかい。
そうだったのかい。
で、お前は不思議に思わないのか?
「不思議な話オンリーなら、ここにいっぱいあるじゃん?」
といって、横にある本棚へと指を向けた。
「まぁ、そりゃそうだが。
じゃなくて、目の前に透明な人間がいるんだぞ!?」
「あの・・・・・・」
勇希が再び口を開く。
「お茶・・・もらっていいですか?」
そして、意味もない言葉を吐いた。
「ん、勝手にとっちゃっていいよ~」
はいそこ。
どこにいるかなんて、どうやってわかるんだ?
なんか、完璧にそっちに顔を向けていたが。
「ほら・・・カップ持ってるじゃん」
・・・・・・そうかい。
ん?ってことは、体と服類以外は見えているのか?
「だいたい、ね」
勇希、そのへんはどうなんだ?
「・・・私が望めば、見えるようになる」
ほほぅ、そうか。
それじゃぁ、華菜にも見えるように望んでみろ。
直後、
「うわぁ~、こんな格好してたんだねぇ~」
見えるようになったらしい。
「とりあえず、次は誰にも見えないようにしてみたら?」
「・・・・・・はい」
直後、
どういうことだ?俺には、見えているが。
「え、私には見えないけど~」
そこんとこはどうなんだ、勇希よ。
「・・・・・・わからない」
そうかい。まぁ、知ったこっちゃねえや。
「とりあえず、閉めるから部屋から出てくれ」
「わかった~」
「・・・・・・はい」
そして、俺は扉に鍵をした。

     

夕方

「・・・で」
家の前に立っている俺は、
ひとつ気になっていることがあった。
「お前はなんでここにいる!?」
「はい?」
そう、勇希が俺の家にいた。
しかも、2階のベランダに腰掛けている。
「・・・おい、家は?」
「ありません」
即答。
「・・・下宿とかには?」
「行ってません」
また即答。
「・・・どっか寝泊りしてる場所は?」
「橋の下」
恒例の即答。
「・・・何が言いたい?」
「住まわせてください」
恒例の即答。
「・・・そんなん言われても・・・」
「食事代くらい自分でまかないます」
恒例の即答・・・?
「そうじゃなくて、俺の家族にどういえばいいんだ?」
恒例の即答は、来なかった。
「・・・・・・忘れました?」
そうだった、こいつは自分が望まない限り、俺以外の人間には見えないんだ。
ってぇことは、何の問題もないのか?
・・・いや、問題がひとつある。
「・・・そこ、俺の部屋のベランダだよな?」
「はい」
「俺の部屋で寝泊りってか?」
「はい」
「はい、じゃない!」
お前は女だお前と同じ部屋で寝ろっていうのかよおい勇希よ。
冗談じゃないぞ、俺にはまだ彼女さえいないんだ。
近所の住人から怪しまれたらどうするんだ?
「私は、自分で(ry」
じゃなくて、俺の精神に異常をきたす恐れがあるといっているんだよ。
「心配ありません。気配を消すことくらい出来ます」
「・・・どうしてもそこじゃないとダメ?」
「はい」
「なんで?」
「橋の下は寒いからです」
「・・・・・・理由にならん・・・・・・」
よく考えてみたら、華菜のとこに行ってもいいんじゃないのか?
「それは・・・ちょっと」
そうか。
「どぅぅしてもここじゃないと嫌なんだな?」
「はい」
「・・・・・・しゃぁねえ。住まわせてやるよ」
「ありがとう・・・ございます」
なんか口調が変わったな。

その夜、俺は窓から差し込んでくる光によって目が覚めた。
「・・・・・・なんだ?」
窓の外を覗き込んでみると、
「・・・!!」
勇希がいた。
ただいるだけじゃない。
初めて見たときのように、光に包まれて空を飛んでいた。
背中から、巨大な白い翼を出して。
まるで、天使のように。
「あ、おはようございます」
誰でも言いそうな質問を浴びせる。
「お前、何もんだ?」
即答された答えは、こんなものだった。
「神より使わされし天使の一人」
やっぱりな。
なんかおかしいと思ってたんだよコイツ。
人間じゃないとは思っていたが、なんだ。
天使?
神より使わされし天使?
ふざけんじゃねぇよ。
俺はそんなものに耐性を持っちゃいない。
「・・・そうか」
俺は、逃げなかった。
その勇希の姿には、たったひとかけらの寂しさが含まれていたから。
「・・・・・・驚かないんですね」
驚いたさ、一生分な。
「で、俺をどうするつもりだ?」
「どうするつもりもありません。ただ、神の指示によってあなたの監視および保護を
 命じられた。それだけです」
・・・保護?
「考える必要はありません。私がいるかぎり、あなたに危害は加えさせませんから」
頼もしいお言葉だ。
しかし、ひとつ気になることがある。
俺の監視って言ってたけど、
俺はいったい何者だ?
「・・・それは・・・・・・」
考える必要がないってか?
「あなたにとって、それを知る必要はありません。それを知らないといけない状況に
 なれば、いずれ教えますよ」
そうか。分かった。
ところで、さっきから気になっていたことがあるんだが。
「・・・はい?」
「ズボンくらい履いてくれ。下着まる見えだぞ」
「―――ッ!?」
やっぱり、気づいていなかったようだ。
「見ないでッ!」
その叫びと同時に、光が飛んできて、頭に命中し、そのまま気を失った

       

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Neetsha