「うん。おk。採用。」
「へ?」
昨日連絡したコンビニに、「じゃあ明日履歴書もってきて。何時でも良いや。」
とかなりぶっきらぼうにいわれたので、恐る恐る昼過ぎにやってきたわけだが。
「あのね、うち、あんま人こないし、いいよー。自給は普通のところと一緒だしね。」
「えっと、あの、なんか質問とかは…?」
「そんなもん俺がめんどくさい。別に聞きたいことも特にないし。」
頭はただ伸ばしただけの髪がボサボサ、ひげは伸び放題で、体は縦に細長く、申し訳程度につけてるエプロンがヨレヨレになっている。
この男が、個人経営コンビニエンスストア「オツカレマート」の店長、「小津 彼人」(オヅ カレヒト)だ。
年齢おそらく20代後半。のはずだが、なにやら見た目がアレのせいかもっと年をとっているような気がする。
「適当に来て、帰りたくなったら、帰っちゃって。あ、レジからお金とるのだけは止めてね。」
ふわあ、とレジのイスに座ると、そのまま寝始めてしまった。
「いや、あの、俺、どんな仕事したら…。」
「うん?適当にしてたらいいよ。どうせ誰も来ないし。」
その通り、昼の時間帯であるにもかかわらず、店長の容貌に似ても似つかない小奇麗な店内には誰もいなかった。
一体いつ掃除してるんだろう…。ていうか経営大丈夫なのか。
「はぁ…。」
「じゃあ、今日はこれで面接とかいろいろ終わり。次は来たくなったら来てちょーだい。」
そういうと、店長は眠り込んでしまった。
大丈夫かな、いろいろと…。
僕はかなり不安になった。
「あれ、タハラ君じゃない?」
急に女の子の声がしたと思うと、そこには同級生の小津さんがいた。
僕の学校で結構男子に人気のある人だ。僕も名前くらいは知っている。
でも、話した回数は多分これで2、3回目ぐらいだろう。
やっぱり噂どおり、スッと整った顔立ちだ。
…まぁ、あのお姉さんには適わないけどな。フヒヒ。
ん?そういえば「小津」?
「あっ、またお兄ちゃん寝てるー!もう、だめでしょ!しっかりして!!」
「…ふわぁ、うるさいヤツが来たなぁ…」
なん…だと…。
「え、兄妹…?」
「バイト希望者ってタハラ君だったの!?うわー、ヤダヤダ、こんな恥ずかしい兄を見られて…」
言いながら、顔を真っ赤にして、両手で覆う。
不覚にもちょっと可愛いな、と思ってしまった。
ていうか小津さんってこんな子なんだなぁ…。
僕的には、可愛いって噂されるような子はもっとこう、高飛車な感じなのかと思ったけど。
「誰が恥ずかしい兄だ。何のようだよ、俺は眠いんだ…」
店長はムッっとした表情で小津さんを睨んだ。
「何のようじゃないでしょ!またお父さんに怒られても知らないからね!」
そういうと、小津さんは、レジにあった新聞紙を丸めて思い切り店長の頭を叩いた。
スパーン!!
「いってぇ…」
店長はそのままレジに沈んだ。
「タハラ君、この馬鹿兄のこと、よろしくお願いします。私も頑張ってお手伝いするから!」
「えっ!?あ、ま、まぁ、こちらこそ…」
これでいいのか…?僕。
でもまぁ、学内暫定三位の人気を誇る小津さんと一緒にバイトできるってのも、良いかもしれない。
…ていうか、最高じゃね?グヒヒヒヒ。
「じゃあ、とりあえず一緒に掃除でもしよう!」
「あ、やっぱ掃除してたの小津さんなんだ。」
「うん。恥ずかしながら、ウチの馬鹿兄は汚すことしか知らないからね。困ったものです。」
そういって肩をすくめる。
まぁ、なんとかなりそうだな。ていうか可愛い店員さんに会った後に、立て続けに可愛い同級生と二人きりでバイトとか。
まさか、これが噂に聞く主人公補正か…フヒヒヒヒ。
そうして、僕は面接初日からこの「オツカレマート」で働きだしたのである。