ひとりになりたい
夏みたいな六月の太陽が、雲ひとつない青空でじりじりと輝いている。あたりいちめんの田んぼは水が張られたばかりで、きらきらした光があちこちで揺れていた。わたしは眩しさに目を細めて、田んぼに囲まれた通学路を自転車で突っ切っていく。まわりに光をさえぎるものはなにもなくて、まっすぐな道ときらめく田んぼだけがどこまでも続いているみたいだった。
――だめだ……。
ひとり、わたしは呟く。とにかく人のいないところへ行きたい。そう思っていつもの帰り道を外れ、丘へ続く畦道に入った。坂がきつくなっていくと自然に下を向いてしまう。ペダルを漕ぐあずき色のジャージを履いた足が、ゆっくり上がって下がるのがなんとなくおもしろかった。
この変な色のジャージも、おばさんが乗るような自転車も、髪がぺったりしちゃう大っ嫌いなヘルメットも中学生になったとき買ってもらった。どれも新しいのに最初からくすんでいるみたいだった。あれから一年たったけど、わたしの世界にはあいかわらずつまらないものが多い。一秒後も百年後もきっと同じだから、生きてる意味なんかないってずっと思ってた。
でも今日みたいな日曜の部活帰り、いつも一緒だった早菜ちゃんが隣にいないのは淋しい。早菜ちゃんとあんまり話さなくなって、だんだんそれが当たり前みたいになっていく。時が止まったようなこの村でもなにかが変わっていって、気付かないうちにわたしも、おとなとかになっちゃうのかもしれない。星の王子様が言っていたみたいな、自分がこどもだったことを忘れてしまったおとな。いつかの未来はすごく遠く感じるけど、でもいつか、いまのことなんてかけらも思い出さないようなおとなになりたいって思う。
ペダルを漕ぐ足がふっと軽くなった。顔を上げると目の前には平らな道が続いていて、しばらく行ったところに一本の木がぽつんと立っている。わたしは木陰で自転車を降り、その根元に座った。水筒のスポーツドリンクを飲み干すと汗が噴き出してきて、額にかかった髪から顔につっと垂れてくる。わたしは髪を直そうとヘルメットを脱ぎ、バッグから出した鏡を覗いた。
鏡には恥ずかしいほど締まりのないにやにやしたわたしの顔が写っていた。普通にしていようと思っても、勝手に顔が笑ってしまってどうしようもない。本当にどうしたらいいのかぜんぜんわからなくて、わたしは抱えた膝に顔を埋め、足をバタバタさせた。なんでこんなに嬉しいんだろう。どうしてこんなに幸せだって感じるんだろう。あなたは幸せになれるって、一ヶ月前のわたしに、一年前のわたしに教えてあげたいきもちでいっぱいだった。
あー……キス、しちゃったんだなあ……。
頬が熱くなる。わたしはぎゅっと丸くなってそのまま土の上に転がった。こんな顔、恥ずかしくて誰にも見せられない。まだとうぶん帰れないなって思った。
早菜ちゃんも早く彼氏つくればいいのに。よけいなお世話かもしれないケド。