Neetel Inside 文芸新都
表紙

ある日の日
悲劇

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 それから、2ヶ月後。
史樹と春美は、休みの日があればどこかに出かける日が増えた。
 今日は、二人で買い物に行き、その帰りのことだった。
「最近ユミ見ないけど、どうしたんだろうね」
「この、2ヵ月ぐらい見てないから正直すごい心配してるんだよなぁ」
史樹は、気にしていた。ユミがいなくなったのはおそらく、自分が泣かせてしまったからだと。
 でも、どんなに悲しいことがあっても、けして史樹を遠くから見ていた。
「・・・史樹様どんなことがあろうともユミは、貴方様を見守ります」
そして、悲劇が起きた。

二人が横断歩道を渡っていた時だった。
靴紐が解けているのことを知らず春美は、靴紐を踏んでしまい転倒する。
 そこに、信号を無視した車が突っ込んでくる。
「春!!!!」
転倒し身動きが取れなくなっている春美を、史樹が突き飛ばす。

 ドン!!!

車に何かがぶつかり、鈍い音がした。
すこし、したあとに春美が目を覚ました。
 後ろを振り向くと頭から、血を流し救急車に運ばれる史樹、そこ一緒にいたのは。
「史樹様!史樹様!」
 ユミだった。
史樹が運ばれる救急車に、ユミが乗り込む。
ユミは、春美の方を見て。
「後ほど連絡します」
そう言うと、ドアが閉まり走り出す救急車。取り残された春美。
「私をかばって・・・史樹が」

手術中のランプが光る。ベンチに座っているユミ。
      10分

      20分

      30分

時間が過ぎていくが、一向に手術室のドアは開かない。
「史樹様・・・」
祈るようにユミが呟く。
     一時間後
史樹の母と妹の美夏、すこし後ろから距離をおいて春美がやってきた。
「あなた、たしか夏休みの時の」
「はい。ユミと申します」
「兄さんは、どうなんですか?」
美夏がユミに聞く。
「史樹さ・・・史樹君は、頭からの出血がひどいみたいです」
「そんな・・・」
がっくりと史樹の母は、ベンチに座る。
「お母さん・・・」
隣に座る美夏。
「史樹・・・」
手術室のドアを見て春美が呟く。
     それから。
     一時間

     二時間

     三時間
ただ、時間だけ無情にも過ぎていく。
いつの間にか、夜の9時になっていた。
     ウィーン
手術室のドアが開いた。

     


医者が出て来た。
「先生!」
すかさず駆け寄る、母、美夏、ユミ、春美。
「なんとか一命をとりとめました。」
「よかった。」
ホットする四人。
「ですが・・・いつ目を開けるか分かりません」
医者の一言で、空気が重くなった。
「目を開けるのは、史樹君の気力次第です」
手術室から目をつぶったままの、史樹が出てそのまま、病室へと運ばれる。
「史樹」
「兄さん」
運ばれる史樹の後に付いていく、母と美夏。
静かになった廊下に取り残された、ユミと春美。
「・・・行かなきゃ」
春美が歩き出すと。
「うっ!」
春美が自分の胸を押せて膝をついた。
「ゲホッゲホッ」
咳きをし始めた。
気になったユミが、駆け寄ると口を手で押さえて指と指の間から血を流してる、春美がいた。
「見られ・・・ちゃった」
「春美様・・・これは」
「実は私、ガンなんだ。肺ガン」
苦しそうに春美は、ユミに告げた。
「私の命はもって一か月ぐらいらしい」
立ち上がる春美。
「動かない方が」
フラフラな体で史樹のところに、行こうとしている春美を止めようとするユミ。
「一ついい?このことは、史樹には、言わないでね自分で伝いたいから」
ユミは、それを聞いてもう何も言えなかった。

事故が起きてから二週間後の時。
 学校に通っていないユミが、史樹の病室で椅子に座って手を握っていた時だった。
握っていた史樹の指が動いた。
「史樹様?」
指が動いたことに、気がついたユミが史樹に声を掛ける。
「・・・ユミか?」
目を開けてユミの顔を見る史樹。
「史樹様!よかった。目が開いた」
嬉しそうに喜ぶユミ。
「今、先生呼んできます」
立ち上がろうとするユミ。
「待って」
史樹がユミの手を強く握る。
「ここにいてくれ」
「ですが・・・」
「頼む俺の傍から離れないでくれ」
さらに、強く手を握る。
「はい、わかりました」
ユミは、椅子に座った。
「どれくらい経った?」
「二週間が過ぎました」
「そんなにか春美は?ケガは無かったか?」
「はい。無事でした」
「よかった・・・」
史樹は、ホットした顔をした。
「ユミ、心配させて悪かった」
「いえ。史樹様が無事ならばそれでいいです」
「いや、本当にすまなかった」
史樹は、握っていた手を放しユミの頭に手を乗せゆっくりそして、優しく撫でる。
「ユミは、俺の家族で妹でも思ってるんだぞ」
「史樹様・・・」
ユミの目から涙がこぼれる。
「何、泣いてるんだよ」
「つい嬉しくって」
「ったく。ところで春美は?」
「春美様は、学校に行っていますがもう、授業は午前だけと言っていましたから、おそらくもう来ると思います」
「そうか」
史樹とユミが話をしている中、史樹の病室前では。

ゲホッゲホッ

口をハンカチで押さえている春美がいた。
「もう、あまり時間が・・・」
ハンカチは、赤くなっていた。

     


史樹が目を覚ましてから2週間後史樹は、病院を退院した。
 が、春美のガンは、どんどん悪化していた。
すでに、12月になり学校は冬休み。
「もうちょっと、早めに退院したかったな」
部屋で史樹が呟く。
「そうですね。そうすれば、春美様と学校行けましたし」
史樹の部屋に、ユミが来ていた。
「そう言えば、最近春美みないけど、ユミ知ってる?」
「今春美様は、実家に帰ってるらしいです」
「そうなんだ」
春美は、ユミだけに伝えていた。
『実家の方の病院にガンの進み具合見てくる』
ユミは、春美のガンが気になっていた。

12月下旬、25日。クリスマス。
色々なところで、カップル歩いているが史樹自分の部屋にいるだけだった。
「春美・・・」
史樹は、窓を開けて向かいの家、春美の家を見ていた。
夜になり史樹は、美夏と夕食を食べる。母は、仕事でいない。
 ピンポーン

家に響くインターホン。
「私が出る」
美夏は、席を立ち玄関へと行く。
「兄さん」
美夏が戻って来た。
「兄さんの友達が」
「え?」
今度は、史樹が玄関に行くと。
「すいません」
ユミがいた。
「どうしたんだよ、夜に」
「学校で春美様がお待ちしています」
「なんで、学校なんだ?」
「お願いです、今から学校に行ってあげてください」
ユミの顔は、今までに見たことがない不安そうな顔をしていた。
「わかった」
史樹は、家を出る。
「いつ、春美がこっちに帰って来てたんだ?」
ユミに聞くが。
「・・・」
ユミは、下を向いたまま何も言わなかった。
学校に着くと。
「春美様は、グラウンドでお待ちしています」
史樹に告げた。
「わかった」
史樹は、グラウンドへと歩き出す。
史樹の目の前にグラウンドが見えてくる。
「春美!!」
グラウンドに立つ春美が見えた史樹だが、春美は片手に松葉杖を突いていた。
駆け寄る史樹。
「そこで止まって!」
すこし、距離をおいて駆け寄る史樹を止める春美。
「おまっ、どうしたんだよ」
「史樹に話したいことがあるんだ」
史樹の後ろにユミが立ち。
「話を聞いてあげて下さい」
耳打ちすると前に歩き出し春美の後ろに立つ。
「話したいことって」
春美の顔を見る史樹。

     


春美は、しっかりと史樹の顔を見る。だが、彼女の顔はとても苦しそうな顔をしている。
「私、史樹に黙ってたことがあるんだ・・・実は私、ガンなんだ。肺がん。」
「ウソだろ」
春美の言葉に、驚く史樹。
「冗談だろ?」
春美は、首を横に振る。
「私にガンがあるって知ったのは、中学1年の時なんだ」
膝から崩れ落ち地面に付く史樹。
「治るんだろ?」
膝を地面に付いて、下を向いたまま史樹が言った。
「治らない・・・もう手遅れらしいんだ最初に医者に見てもらった時には、もうかなり進んでたみたい」
春美の顔がさらに、苦しそうな顔をになり胸を押さえる。
「そんな、なんでだ、なんで春美がこんなことに」
拳を握り地面を叩く。
「なんで、こっちに戻って来たか分かる?」
史樹は、顔を上げて春美を見る。史樹の瞳からは、涙が光る。
「こっちに来た時にも言ったけど・・・史樹に会いに来たでもね、それだけじゃないんだ本当は、残りの命を史樹と過ごすためなんだ」
それを、聞いた史樹、春美の後ろで聞いていたユミは、泣き始める。
後ろを向く春美。
「・・・ユミ?あなたに会えて本当によかった。最後に・・・友達ができてよかった。これからは、史樹のことあなたが見てあ・・・げ・・・て」
そう言って春美は、後ろに倒れた。

「春美様!」
「春美!!!」
倒れた春美に駆け寄る二人。
「春美!春美!!」
史樹は、春美の体を起こす。
「この・・・2ヵ月あまり二人と過ごせたこと・・・ホントに嬉しかったよ」
「なに言ってるんだよ!まだ、逝くんじゃねぇ!!」
史樹の瞳から、大粒の涙が落ち春美の顔に落ちる。
「泣かないでよ・・・史樹。私は、何処も行かないよ・・・ずっと、史樹の傍にいるよ」
春美は、史樹の目から流れる涙を指で拭いてあげる。
「ユミ・・・」
ユミを見る春美。
「はい」
「私の家使って、いつでも史樹を・・・見ていられるから」
「そんな、こと言わないでください!」
「史樹と・・・一緒に卒業・・・したかっかな」
春美は、自分を照らす月を見て。
「史樹に出会えて・・・た・・・の・・・しかった」
月を見て春美の瞳が、静かにゆっくり閉じた。
「おい!春美!春美!」
史樹は、春美の体を何度も揺さぶるが春美の目は、再び開くことはなかった。
「・・・春美」
泣きながら史樹は、強く抱きしめる。
 すると、ユミが立ち上がり。
「春美様のためにこの歌を」
ユミは、両手を胸に置き目をつぶり空を見上げる。

『深い水の底沈む命たち数えていつかは、この願いが届くことを信じる、今は永遠の静けさだけたたずませて、愛する者の涙海に代わる。
あなただけに捧げる涙は、尽きることなく、あなただけを思いつずけて眠る、愛するあなたを思いつずけて眠るよ今。』

涙を流しながらユミは、歌う。その歌声は静かなグラウンドに響き渡り、月の光がスポットライトのようにユミを照らし空は、星たちが輝く。

     


 春美が、死んで一週間がたった。
史樹は、自分の部屋に閉じこもっていた。
「お母さん、兄さん自分の部屋に閉じこもってもう、一週間になるよ」
「相当ショックなんだよ、春美ちゃん、幼なじみだったんだもの」
母と美夏がリビングで、史樹のことで話してると。
 ピンポ~ン
不意にインターホンが、家に鳴り響いた。
母と夏美で玄関に行くと。
「すいません。史樹さ・・史樹君いますか?」
玄関に、ユミが立っていた。
「史樹は、いるにはいるんだけど、最近降りてこないのよ」
困りながらユミに言った。
「そうですか・・・」
ユミは、下を向く。
「あの~確か兄さんが入院した時、ずっと付き添ってた人ですよね」
「はい、今は、春美さんお願いで春美さんの家にいます」
「兄さんとどんな関係なんですか?」
美夏は、ユミが不思議と気になった。
「私は、その・・・」
そこへ階段から。
「ユミか・・・」
史樹が降りてきた。
「史樹様」
降りてきた史樹の方を見るユミ。
「兄さん!この人と兄さんは・・・」
美夏が史樹の顔を見て言うと。
「すまん、美夏。今はユミと話がしたいんだ」
史樹の顔は、悲しみがあふれていた。
「ユミ来てくれ」
「はい。失礼します」
ユミは、靴を脱いで階段を上がっていく。

ユミが史樹の部屋に入ると史樹は、部屋の真ん中でユミに後ろを向けて座りこむ。
「史樹様」
ネコミミを立て、尻尾を横に揺らしながらユミは、史樹の後ろに立つ。
「この先俺は、どうすればいいんだ?」
「それは・・・」
どう答えればいいのか迷うユミ。
「大切な人がいなくなると、こんなに悲しんだな・・・」
「史樹様」
前に回り込みしゃがんで、史樹の顔を覗き込むと。
「なんでどうして・・・」
史樹の目から涙がらこぼれていた。
「なぁ、ユミ」
「なんですか?」
「お前は、もうどこにも行かないよな?」
泣きながらユミを見る史樹。

「史樹様・・・」
「昔みたいに、いきなりどこかに行ったりしないよな!」
いきなり、取り乱すようにユミの肩を掴む。
「ユミまでいなくなったりしたら、俺は、俺は」
「落ち着いてください、史樹様!」
ユミの声で我に返る史樹。
「すまん。つい」
下を向く史樹。
「史樹様。」
ユミは、史樹の頬に手を当て自分の目線まで史樹の顔を上げる。
「私は、どこにも行きませんよ」
「ユミ」
「私は、いつもあなたの傍にいます」
史樹の目前には、優しいく微笑んでいて、目が輝いていた。
「だから、もう泣かないでください。春美様も泣いている史樹様見たくありませんよ」
「そうだな」
涙を拭く史樹。
「そろそろ、前に進んでください」
ユミは、史樹の顔を自分の胸に優しく包み込むように、抱きしめた。
「ユミ、ありがとう」
「いえ」
「これからも、俺の傍にいてくれ」
史樹は、ユミから離れ顔を見る。
「でも、彼女ではありませんよ」
「ユミがよければ」
「いけませんよ。私は、史樹様の家族ですから」
ユミは、にっこり笑みを浮かべながら尻尾を振るう。
「そうだったな」
史樹は、ユミの頭を撫でる。
「ユミに面倒掛けっぱなしだな」
「いいんですよ」
「ユミ、そろそろユミのこと美夏たちに言ってもいいか?」
「史樹様にお任せします」
「よし!じゃ行くか」

史樹は、美夏と母にユミの正体を言うことにした。
そのことを、知った二人はもちろん驚いていたがユミが帰って来たと嬉しくなっていた。

       

表紙

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Neetsha