Neetel Inside ニートノベル
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幼女を拾ったんだが
屋内確保

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 やべえ、やべえ、やべえ!
 俺の頭ん中じゃ、その言葉ばかりがグルグルしてた。
 まだ薄暗い周囲に人影はない。街は完全に沈黙している。
 俺は、幼女の箱をひっつかむと、上がりかまちに置いて、速攻でドアをロックしちまった。
 ここまでやって思ったんだ。
 俺……もう後戻りできなくなってね?

 俺の脳味噌、硬直。
 何やってんだ。何やってんだよ!
 馬鹿じゃねーの。自分から厄介事を呼び込むとか。どうみてもアホだろ。
 唾を飲み込みながら必死で考える。
 いまから、外に出してこようか。隣の家の前に置いてくれば……。
 だけど、もし人に見られたら? できねえ、俺にそんな度胸はねえよ!
 俺は玄関に頭をゴンゴンぶつけながら、おのれの馬鹿さ加減を嘆いた。


 こんなガキ、やっぱ放置しとくべきだったんだ。

 でも、幼女だぜ? 幼女が毛布にくるまって段ボール箱に丸まって寝てたら、保護するだろ?
 ――たとえが悪いな。普通、猫とか犬が捨てられてたら、保護するよな。それと同じ気持ちっていうかさ。
 だって、考えてもみてくれ。このまま放置したとするだろ? 次に起きたら、ウチの玄関の前で凍死してた……そんな話になってみろよ。どんだけ寝覚め悪いんだって話だよ。
 ってことは、だ。どっちに転んでも、俺は警察のご厄介ってか。クソ、冗談じゃねえ。

 ぶっちゃけ、こいつ猫じゃね? 動物が人間に化けてんじゃね? 実はいわゆる『狐狸に化かされる』類の妖怪なんじゃね?
 そりゃあ、近くに森も林もないけどさ。キツネやタヌキなんて、動物園でしか見たことないけどさ。妖怪だった信じてねえし、バカバカしいと思うけどさ。……猫耳幼女だぜ? 他にどう説明しろっていうんだ。耳付きとか、人じゃねーし。

 いやいやいや、落ち着いてよく考えろ、俺。こんなの、あからさまにおかしいだろ。
 徹夜したから幻覚が見えてるのかもしれん。
 それとも、いきなり発病したとか? そんな兆候、これっぽっちもなかったがナー。

 ……つまり、これはアレだ。相談フラグが立ったんだ。
 相談って、誰に? ドクター林か?
 常識的に考えて、自分自身ですら信じられない馬鹿な話、信じてくれるヤツなんかいねえだろ!
 大学の友達といったって、学校で一緒になってバカやるだけで、相手んちに行くほど濃密なつきあいじゃない。そんな付き合いの浅いヤツらにこの状況を見せてみろ。即通報コースだろうがああ!
 高校までの濃ゆいダチは、みんな地元に残ってる。電話をかけてみてもいいが、この状況をうまく説明できる気がしない。本気で泣けてくる。


 一通り、脳内で吠えたら、少し落ち着いた。


 俺は、上がりかまちに放置していた幼女入りの箱をベッドの側にそっと運んで、隣に腰を下ろした。
 深いため息とともに窓を見上げると、空が白み始めてた。
 箱の中で幼女は熟睡中だ。
 年の頃は、三~四歳ってとこだろうか。おかっぱの真っ黒な髪が、ほんのり赤くなった頬にかかっている。ピンと立った真っ白な耳は、柔らかそうだ。これ、本物かなあ。ピンクの皮膚に細かい白毛が生えてて、見た目は凄くホンモノっぽいんだが。触ってみたいぜ、この耳。
 身を引いて、もう一度幼女全体を見渡した。捨て幼女(?)だから小汚いかと思えば、そうでもない。幼女を包む赤みがかったチェックの毛布はきれいな色を保ったままだし、髪もつやつやのピカピカだ。薄汚れていれば、もっと脂ぎってベトついた感じになるよな、きっと。
 フード付きのパーカーは薄いピンクで、幼女によく似合っていた。白いTシャツの襟ぐりはきれいで、ヨレっていない。他の生地にも汚れた感じはない。近くで嗅いでみたが、変な匂いはしない……ようだ。むしろ、甘い匂いがする。なんの匂いだ? これ。

 思うんだけどさ。コイツ、結構可愛がられてたんじゃないのかな。
 俺は少し、悲しくなった。

 なるべく揺らさないように運んだとはいえ、起きる気配が全くない。よっぽど疲れてんだろうか。丸くなって顔を埋めて眠ってる。
 夢を見ているのか、耳や小鼻がぴくぴく動く。ちょっと面白い。
 こういう状態の動物って、思わず突っつきたくなるんだよな。なんでだろう。


 幼女を眺めてたら、昔飼っていた犬のことを思い出しちまった。
 俺が拾ってきた、俺の犬。もう死んじまったけど、よく馴れてて可愛かった。
 家犬だったからな。俺の足元で丸くなって寝てた。冬は一緒の布団で寝るんだ。湯たんぽみたいに温かい。俺より先に俺の布団にちゃっかり潜り込んで、まるっきり自分の布団みたいな顔してさ。
 どんな不眠の夜も、アイツがいれば俺は眠れた。少し高めの体温と、少し早めの鼓動を肌に感じていると、イライラが解けて知らないうちに夢の中だった。

 ――しばらく考えずに済んでたのに。クソっ。


 そういえばコイツ、ヒゲがないな。尻尾はどうだろう……。毛布に隠れて見れねえ。起こすのも面倒だから、後でチェックしよう。
 何食うんだろ。やっぱりミルクが王道だろうか。ガキの好みなんて、わかんねーよ。
 俺が小さい頃、どうしてたっけ。




 俺はこの後、出し忘れていた一ヶ月分の不燃ゴミを、ちゃんと出してきた。
 ついでに二十四時間スーパーで牛乳も買ってきた。普段は食わねえけど、食パンも買っといた。
 わざわざ、ジーパンとコートに着替えたんだが、帽子にマスクはかえってヤバかっただろうか。
 こころなしか、店員の視線が痛かったような気がする。これで捕まったら、ワイドショーで「そういえばあの時……」とか言われちまうのかも。冗談じゃねえよな。
 もっといろいろ買っとくべきだったかもしれん。が、あんま金持ってないし、俺は我慢して粗食で生きてる。幼女にも我慢してもらうしかないだろう。

 あとは、目覚めたときにこの妄想がなくなっていることを祈るだけだ。
 それじゃあ、お休みなさい。グッドラック!

       

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