快晴だ――と思う。
カーテンの布地越しににじむ光はけっこう強烈だ。徹夜明けの身にはこたえる。今日は暖かくなるのだろう。
どんより気分で目が覚めて、時計を見たら十一時だった。そろそろ昼飯の時間だ。
何を食おうか一通り考えたが、寝起きの悪い俺はまだ本調子じゃない。やっぱり、もうひと寝入りしてからと決めて、布団を引っぱった。
動かない。
少し切れ気味に、再度引っぱってみた。
やっぱり動かない。
舌打ちしながら半身を起こした俺の目に飛び込んだのは、足元で丸くなっている幼女の姿だった。
そうだったあああああ!
一気に目が醒める。
箱に入っていたはずの幼女が、なぜ足元に!?
考える暇もなく、幼女がもぞもぞ動き始めた。さっき、強く引っぱりすぎたか?
起きるな、起きるな、起きるな!
口の中で念仏よろしく唱えながら、俺は幼女を凝視していた。だが祈りは虚しく――幼女はガバッと起き上がると、真ん丸マナコで俺を見つめた。首をかしげた姿が、妙に愛らしい。
幼女の眸(ひとみ) は黒目がちでビー玉のようだった。
俺も状況を把握できていないが、相手はもっと分かってなさそうな顔をしてる。
くそっ、案外――っていうか、かなり可愛いぞ、この幼女。ああ、これはますます通報コースに近づいちまったんじゃないだろうか……。
つーか、誰が捨てやがった、こんなあどけない子。この場合、愛護動物の遺棄になんのかな。それとも児童虐待? どっちにしろ、犯罪だろ。こんなの、おかしいよ!
どれほどの時が過ぎただろう。
俺たちは、二人でたっぷり見つめ合った。
俺の喜怒哀楽がひとめぐりして、二巡目に入ろうとしたとき、幼女は突然満面の笑みを浮かべて俺に笑いかけると、なにか叫んだ。
叫んで――飛びかかってきた!
とっさに俺は目をつぶった。眼前で両手をかざして身構える。我ながら、情けないファイティング・ポーズだ。
いつまでも襲ってこない痛みをいぶかしみながら、恐る恐る目をあけると、幼女は頭から俺の布団に潜り込んでいた。
彼女は奥まで突き進んで一回転すると、「ぷはぁ!」という言葉と共に顔を出して、呆然と見つめる俺にニヘッと笑いかけた。
こちらが相好を崩す間もなく、幼女は枕に顔をうずめ、額をグリグリ押しつけてベストポジションを見つけると、おもむろにピチャピチャと空気をなめて、再び眠ってしまった。
なになになになに? なにが起こった!?
今なにが起こったあああああ!
相変わらずな怒濤の展開に、俺はついていけない。
だって、幼女が。俺の布団で、布団の中で眠ってるんだぜ。
俺の脳裏を、妄想がよぎった。
「おまわりさん、ここです!」
突然開けられたドア。逆光の中、仁王立ちになっている見知らぬおばさん。突きつけられた指の先にいるのは、布団の中にいる俺と幼女。
言い逃れできねえええええ!
不安でグルグルになっている俺の横で、幼女はしっかり熟睡していた。こいつの神経、信じられん。
呆れるやら情けないやら……。どうしたものかと正直途方に暮れていた。
その時、寝返りを打った幼女の柔らかくて小さな手が、俺の腕に触れた。
――温かい。
途端に、俺の怒りや混乱はどこかに行ってしまった。
なんてーか、圧倒的に『生きてる』って感じがしたんだ。
こいつの見た目もシチュエーションも、なにもかもがおかしいけど、確かに存在して生きている。
イキモノを放り投げるとか、俺には出来そうもない。
こうなったらもう、仕方ねえよな。
アイツがいた時みたいにやればいいさ。餌も寝床も多分、何とかなるだろ。
とりあえず、もう一度寝てから考えよう。
占領されてしまった布団の端で丸くなると、俺はもう一度深い眠りに落ちていった。