Neetel Inside 文芸新都
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Unlimited Tale
第四章 組織の影

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第4章  組織の影

ロイドたちがいるビュリック共和国は南部の荒野に位置し、作物などが育たない環境であった。そのため、鉱山から良質の鉱石を採掘し、それを様々な金属に加工する鉄鋼業を産業としてきた。
その技術を生かし、終末戦争期にはいち早く産業革命を起こし、様々な機械を開発した。また、戦争でも新型の銃や戦車などを駆使して大活躍した。
こうして、ビュリックは機械先進国へと成長したのである。その中でも工業都市コルツワーヌは産業革命発祥の地であり、ビュリック最大の工業都市である。しかし、首都ビュリックの急成長に押され、いまはその勢いが衰えている。

工業都市コルツワーヌ

ロイドとユリアは街に入ると、エルロードとの違いに目を丸くした。たくさんの巨大な煙突から吐き出される煙、馬も無いの勝手に走る機械の馬車、あちこちの工場から聞こえてくる機械の音。どれもエルロードには無い物ばかりである。

「すごいわね~、あたしたちの村とは別世界ね。」

ユリアは驚嘆の声を上げた。

「ベルゼルグはおろか、首都エルロードにもこんなものは無いぞ。」

ロイドも驚きを隠せなかった。二人はしばし、入り口に呆然と立ち尽くしていたが、気を取り直して情報収集を始めた。

「すまないが、聞きたいことがある。」

ロイドは通りを歩いていた、婦人に声をかけた。婦人はロイドの格好を見ていった。

「あら、あなたエルロードの騎士の方? こんなところに来るなんて珍しいわね。何の用なの?」

「王石を探している。心当たりは無いか?」

「王石? エルロードが何でそんなものに興味を持ってるのかしら? まあ、いいわ。向こうの通りにグレッグ修理工場っていう工場があるの。そこにいる爺さんがその手のことにやけに詳しいから行ってみたら?」

「分かった、協力感謝する。」

そういって、ロイドたちは工場へ向かった。

「ここがその工場か。」

ロイドたちはさびれた小さな建物を見つけた。看板には「グレッグ修理工場」と書いてある。中には、先ほど通りで見た機械の馬車が何台か置いてあり、老人と青年が修理をしている。

「いらっしゃい、お客さんかい?」

老人がロイドたちに気づき、店先に出てきた。

「実は尋ねたいことがある。王石について何か知らないか?」

老人は険しい顔をして言った。

「王石、そんなものに何の用があるんじゃ?下手なことに首を突っ込むものではないぞ、若いのや。」

「失礼。自己紹介が遅れたな、俺はロイド・アルナス、エルロードの騎士だ。国王陛下の命を受けて王石を探している。」

老人はしばらく考え込んだ。

「国王が何を考えているか知らんが、そうなれば話は別じゃ。しかし、こんな人通りの多いところで話すことはできん。わしらの家でゆっくりと話そう。」

そういって老人は青年のほうを向いた。

「ワトソンや、予定変更じゃ。家へ帰るぞ。」

「分かった、爺ちゃん。」

ワトソンと呼ばれた青年はそう答えると、となりの車庫へ向かった。そして、ワトソンは機械の馬車を走らせ店先に止めた。

「さあ、乗って。」

見ると前と後ろに椅子があった。言われるがままにロイドとユリアは扉を開け後ろの椅子に座った。

「一つ聞いていいか、この機械の馬車のような物は何だ?」

ワトソンは驚いて答えた。

「これは自動車っていう乗り物だよ。エルロードにはないのかい?」

「自動車?」

ロイドとユリアは聞きなれない言葉に混乱した。

「自動車っていうのは、火薬が爆発する力を利用して、ピストンを動かし、その上下運動を・・・・・・・。って聞いてる?」

ロイドとユリアはますます頭が混乱してきた。

「すまん、さっぱりわからん。」

ワトソンはため息をついて言った。

「要するに火のエネルギーを利用して走る乗り物ってことだよ。」

「なるほど・・・・。」

ワトソンは輪っかのようなものを握り、足元の板を踏み込んだ。

「じゃあ、出発するよ。」

すると車はうなりを上げて、走り始めた。ロイドたちにとって、車に乗るのは未知の体験であった。周りの景色が窓ガラス越しに、流れるように見える。馬しか乗ったことの無いロイドにとっては別世界であった。

「すごいスピードだな、車というのは。こんな速い乗り物に乗ったのは初めてだ。」

「そうかな、まだ60kmぐらいしか出てないけど。」

ワトソンはそう言いながら、慣れた手つきで車を運転している。ワトソンたちの乗る青い車は商業区を抜け、ハイウェイに入った。

「少し、とばすよ。」

そういってワトソンは足元にある板を思いっきり踏み込んだ。車のスピードがどんどん上がっていく。

「ところで、お前はどうやって車を操作してるんだ?」

「簡単だよ。まず僕が握っている輪っかのようなものは「ハンドル」って言って、これを回せば、回した分だけその方向に車が曲がっていくんだ。そして、足元にある三つの板。一番右側のは「アクセル」って言って、踏めば、踏んだ分だけ車が加速していく。
真ん中のは「ブレーキ」って言って、踏めば、踏んだ分だけ車は減速していく。一番左側のは「クラッチ」っていって、僕の左手にある「シフトレバー」って言うのと連動してるんだけど、説明するのは難しいからやめておくよ。簡単に言えば、車っていうのは主にハンドル、アクセル、ブレーキの3つを操作して動かすんだ。」

「なるほど・・・・・。」

ワトソンが説明している間にも、車はどんどん加速している。景色はすごいスピードで流れて行き、もはや見えなくなってきている。

「キャー、速すぎ、恐いよ~。」

ユリアはあまりの速さに悲鳴を上げ、目を閉じてしまっている。

「少し、速すぎないか。いったい何km出てるんだ?」

「えーと、今120kmぐらいだね、さっきの2倍。」

ワトソンはこんな状況でも穏やかな顔をして、言った。

「ワトソンはいわゆる、ハンドルを握ると性格が変わるタイプらしいのじゃ。すまんのう若いの。」

老人は憐憫の情をこめて言った。

しばらくハイウェイを走っていると、ワトソンたちの青い車の後ろに黒い車が現れた。

「チッ、見つかったか。」

ワトソンは舌打ちをした。

「見つかったって、どういうことだ?」

ロイドはわけが分からなかった。

「実は、僕たちはある組織に追われているんだ。その辺は帰ってからゆっくり話すとして、追っ手から逃げ切るよ、つかまってて!!」

ワトソンはそう言って、さらにアクセルを踏み込んだ。道行く車を右に左にかわし、二台の車はハイウェイを疾走する。

「おい、絶対に逃がすんじゃないぞ。」「分かっている、ワトソン・グレッグは最重要ターゲットだからな。」

後ろの黒い車の中では、黒服の男たちがなにやら話している。

「なかなか離れないな~。ちょっと本気でいくよ。」

ワトソンはそう言うと、右手でダイアルのようなものを捻った。

「それは何だ?」

「ちょっとブースト圧を上げたんだよ、これでさらにスピードが出るようになる。」

「これ以上速度を上げる気か・・・・・。」

ロイドはふとそんなことを思った。しかし、これから本気行くということは、今までの運転はドライブ程度だったのか。この男、恐ろしい限りである。

「野郎、スピードを上げやがった。」

黒服の男たちも負けずにワトソンについていく。しばらくして、目の前にカーブが迫ってきた。ワトソンはスピードを落とそうとはしない。メーターは200を指していた。

「おい、このままではぶつかるぞ!!」

ロイドは曲がりきれないと思った。しかし、ワトソンはアクセル、ブレーキ、ハンドルを巧みに操作し、車がなんと横を向き始めた。そしてそのままカーブに沿って滑っていき、やがて止まった。

「ふう、うまくいった。」

ワトソンが額の汗を拭うと、後ろから黒い車が迫ってきた。

「おい、スピード出し過ぎだぞ!!」

「しまった、奴につられてしまった。」

黒い車は急ブレーキを掛けたが時すでに遅し、そのままガードレールに突っ込んだ。ワトソンは再びハイウェイを走り始めた。

車はハイウェイを降り、居住区に着いた。商業区と違ってあちこちに家々が立ち並んでいる。しかも、エルロードの石造りの家と違って、頑丈そうな鉄の家ばかりだ。

「着いたよ、ここが僕たちの家だよ。」

そういってワトソンは車を停めた。

「おい、いつまで気絶しているんだ。起きろ。」

ユリアはロイドの隣で気絶していた。無理も無い、あんなめちゃくちゃな運転をされていたのだから・・・・・。

「うーん、おはよ~。」

やっとユリアが目を覚ました。しかし寝ぼけているようだ。

「おはようじゃない、もう夕方だ。」

「あれ、あたし何してたんだっけ?たしか、ワトソンの車に乗ってすごいスピードで怖くなって・・・・その後の記憶が無いな~。」

とりあえず、俺たちはワトソンの家へ入った。
居間へ通され、全員ソファに座って落ち着いたところで、ワトソンが話を切り出した。

「改めて自己紹介するね。僕はワトソン・グレッグ。」

「わしがワトソンの祖父のローランド・グレッグじゃ。この家ではわしとワトソンの二人暮らし、二人で町の小さな自動車修理工場を経営して、なんとか生活してるのじゃ。」

ワトソンの隣にいた老人はワトソンの祖父だったのだ。

「それじゃあ、本題に入ろうか。今から王石、謎の組織、僕たちのいきさつについて全て話そう。」

部屋の中に張り詰めた空気が漂った。そして、ワトソンは重々しく語り始めた。

「まず、王石については知ってるよね。ご存知の通り、王石は全て集めると悪魔王の力を手に入れると言われている。その悪魔王の力を手に入れようとしているのが、さっき僕たちを追ってきた秘密組織『ストーンバーグラーズ』なんだ。
でも、その目的は一切不明。それで、何で奴らに僕たちが追われているのかと言うと、話はずっと昔に遡る。
実は僕の父さんは冒険家で、王石の謎を探ろうと王石探しの旅をしていたんだ。そして、いくつか王石を発見することができ、その後、母さんと結婚して僕が生まれた。でも、幸せな生活はそう長くは続かなかったんだ・・・・・。僕の家に王石があると聞きつけた奴らは、ある日僕たちの家に押し入ってきた。そして、僕の目の前で父さんと母さんを殺し王石を強奪していった。
でも、父さんは死に際にもう一つ、王石の在り処を僕に教えてくれていたんだ。その情報を聞き出そうと今度は僕たちを追っているわけなんだ。」

ロイドたちは胸の痛む思いで、その話を聞いていた。

「なるほど、おそらくその『ストーンバーグラーズ』という組織が国王陛下がおっしゃっていた組織のことだろう。」

ワトソンは突然ソファから立ち上がると、

「君たちは王石を探しているんだろう。僕を仲間に加えてくれないか。父さんの夢を叶えてあげたいし、奴らに両親の復讐をしたいんだ。一生のお願いだ、頼む!!」

ワトソンは悔し涙を流しながら、叫んだ。

「わしからも、頼む。ワトソンを仲間に加えてやってはくれないか。」

ローランドも頭を下げた。ロイドはしばらく考え込んだ。

「いくら復讐のためとはいえ、この旅は非常に危険だ。一般市民を巻き込むわけには行かん。」

すると、ワトソンはポケットからコインを3枚取り出した。

「実は、僕は銃の腕前には自信があるんだ。見てて。」

そう言うと、コインを3枚空中にはじいた。そして腰から拳銃を引き抜いた。驚いたことに次の瞬間には、銃声と共にコインが3枚とも空中で撃ち抜かれていた。

「これでも足手まといかい。それに、僕は機械にも強いし、ドライビングテクニックもある。お役に立てると思うからお願いだ、仲間にしてくれ!!」

ロイドはワトソンの熱意に押されて言った。

「分かった。仲間にしてやろう。おっと、自己紹介がまだだったな。」

ロイドはソファから立っていった。

「俺はロイド・アルナスだ。よろしくな。」

「あたしは、ユリア・マーレックよ。よろしくね~。」

こうして、ロイドたち一行にワトソンが加わることとなった。

「さあ、もう辺りも暗くなってきたことじゃ。おまえさん達は今日はうちに泊まっていきなされ。」

ローランドの提案で、ロイドたちはワトソンの家にお世話になることになった。
こうして、夜は静かに更けていった・・・・・・・・。
                                                第4章  完

       

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