第6章 不死王の最期
「アノ世デ泣キ喚クガイイ。ハハハハハハハ。」
スカルロードが大鎌を振り下ろそうとした、その時!!
「ウォーターフォール!!」
呪文が聞こえたかと思うと、頭上から大量の水が降り注ぎ、スカルロードを押し流した。
「ユリア、大丈夫かい?」
すると、木陰から少年が出てきた。少年は金色の髪をしていて、赤いローブを纏い、白い杖を持っていた。ユリアと同じ魔術士であろうか。
「ラファエル!!」
「ユリア、あの少年と知り合いなのか?」
ロイドは尋ねた。
「彼は『ラファエル・アルバート』って言って、私のもう一人の幼馴染よ。」
ラファエルはロイドを見ると、お辞儀をした。
「騎士団長様、お会いできて光栄です。」
その直後、地響きがした。
「ラファエル、どうやら挨拶をしている場合ではなさそうだ。」
ロイドは剣を構えながら言った。
「己、人間ノ分際デ生意気ナ。マズハ魔術士ノ餓鬼カラ殺シテヤル!!」
スカルロードは大鎌を持ち立ち上がる。その目は憎悪で真っ赤に染まっていた。
「ユリア、立てるかい?」
ラファエルはユリアに手を差し伸べた。
「ありがとう。ラファエルがいれば怖くないわ。」
ユリアは手を掴み、立ち上がりながら言った。
「もう怒ったわ。あんな骸骨なんかバラバラにしてやるわ!!」
ユリアは怒りに震えた手で、杖を構えた。そこからはなにかとてつもない魔力を感じた。
「これが長老の言ってた、ユリアの潜在魔力なのか・・・・・?」
スカルロードは再び大鎌を振り上げて、襲い掛かってきた。
「ここは俺に任せろ!!」
ロイドは前に出ると、攻撃を盾で受け止めた。金属と金属がぶつかる鋭い音が響く。
「俺は呪いで奴を攻撃することはできないが、お前たちの盾になることはできる。俺が食い止めている間に奴を倒すんだ!!」
ユリアとラファエルは頷いた。
「食らいなさい、サンダーストーム!!」
ユリアが詠唱を終えると、スカルロードの頭上に雷雲が現れ、無数の稲妻が降り注いだ。明らかに今までの雷撃魔法とは違っていた。
「グオオオオオ!!」
スカルロードは苦痛にうめき声を上げ、膝をついた。ラファエルの魔法によって水浸しになっているスカルロードの体は、電流の伝導率が増していたのだ。
「すごい、ユリアいつの間にそんな上級魔法を・・・・。」
ラファエルは驚いた。いや、魔法の威力だけではない。ユリアの放つオーラは、今まで見たこともないようなものだった。
「己、小娘ゴトキニココマデヤラレルトハ・・・・。許サンゾ!!」
スカルロードはゆっくりと立ち上ると、真紅に染まった目でこちらを睨みつけた。
「アビスブレイズ!!」
呪文を詠唱すると、青白い炎が地を走りながらこちらへ向かってくる!!
「地獄ノ業火ニ焼カレルガイイ!!」
「二人とも、下がれ!!」
ロイドは盾を構え、炎へ突っ込んだ。
「ぐあああああああああ!!」
地獄の業火がロイドを容赦なく包み込む!!
「ロイドーーーーーーー!!」
ユリアとラファエルは叫んだ。炎が消えると、煙の中からロイドの姿が現れた。ロイドは膝をつき、肩で息をしていた。
「大丈夫だ、ユリア、ラファエル。この盾も鎧も聖なる加護を受けているため、邪悪な魔法は寄せ付けない。」
ロイドは肩で息をしながら続けた。
「しかし、致命傷は避けられたが、俺の体力も魔力ももう持たない。最後にお前達に力を貸す。」
そういってロイドは詠唱を始めた。
「ホーリーエンチャント!!」
すると、ユリアとラファエルの杖が光に包まれ、白く輝き始めた。
「これは、武器に聖なる力を宿す魔法。つまり・・・・。」
「己、小癪ナ真似ヲ・・・・。」
スカルロードはうろたえた。
「ユリアたちの精霊魔法は神聖魔法となる!!お前たちアンデットが一番苦手とするものだ!!」
ユリアとラファエルはお互いの目を見合った。
「いくわよ、ラファエル。」
「ああ、ユリア。」
二人は同時に詠唱を始めた。
「W(ダブル)サンダーボルト!!」
二つの雷が一体になり、巨大な稲妻となってスカルロードを貫く!!
「ヌオオオオオオオオオオオオオ!!」
轟音とともにスカルロードはまばゆい光に包まれ、浄化された。そこには、王石のはまった大鎌のみが転がっていた。ロイドはゆっくりと歩み寄ると、王石を取り出して腰の袋に入れた。
「2つ目の王石、入手だ。」
ロイドは腰を下ろした。
「大丈夫?」
ユリアは心配そうに声をかけた。
「大丈夫だ。治癒魔法をかければこのぐらいの火傷など治るのだが、俺の魔力も底をついた。それよりもユリア、俺が不甲斐ないばかりにすまなかった。そしてラファエル、ユリアを助けてくれてすまない。」
「いいですよ騎士団長様、お礼なんて。」
ラファエルは照れて言った。
「もうすっかり、夜だな。さっさと森を抜けるか。」
ロイドは辺りを見回して言った。
「うーん・・・・・。」
ワトソンも意識を取り戻したようだ。
「あれ、スカルロードは?それに、そこの男の子は?」
「詳しいことは後だ、森を抜けるぞ。」
四人は夜の闇を走っていった。
森を抜けると、夜空には星が輝き、月明かりが明るかった。ロイドはワトソンに事の一部始終を説明した。
「なるほど、そういう訳か。僕が不甲斐ないばかりに、ごめん。」
ワトソンはうなだれた。
「そう落ち込まないでよ、ワトソン。私も最初は腰抜かしてたんだし~。」
ユリアは励ました。
「結局、俺たちもまだまだ未熟だということだ。もっと強くなる必要がある。そういえばラファエル、自己紹介がまだだったな。」
ロイドはラファエルの方に向き直った。
「俺は『ロイド・アルナス』だ。エルロード魔法騎士団長で、国王陛下の命を受けて王石探しの旅をしている。」
「僕は『ワトソン・グレッグ』。ただの自動車修理工なんだけど、訳ありでロイドたちと旅をしているんだ。」
2人の自己紹介が終わると、ラファエルが続けた。
「僕は『ラファエル・アルバート』です。ユリアの幼馴染で、見習い魔術士です。」
3人はがっちりと握手をした。
「では、僕はこの辺で。また旅先でお会いするかもれませんね。」
そういって、ラファエルは手を振って走っていった。
「ね~、向こうに町が見えるわよ。」
ユリアが遠くを覗き込んで言った。
「あれは、僧侶の町『エルカドム』だね。丁度いいや、今晩はそこに泊まろう。教会で僕たちの呪いも解いてもらわないといけないし。」
ワトソンの提案で、一行はエルカドムに向かうことにした。
僧侶の町 エルカドム
エルカドムはビュリック共和国の南に位置する街で、古くから僧侶たちが沢山住んでいた。町は高貴な雰囲気で、石畳の道や一面に立ち並ぶ洋館が特徴的である。もちろん、教会もところどころに見受けられる。僧侶のほかにも、ビュリックの上流階級の人々が多くいる町である。
「ここがエルカドムか~、お洒落な所ね~。」
ユリアは目を輝かせてあたりを見ている。
「なに!! 1人1泊1000エルクだと!!」
ロイドは宿前で受付の男ともめあっていた。
「高すぎる、普通300~500エルクぐらいだろ?」
受付の男は困った顔をしている。
「そうは言いましても、うちはまだ安いほうですよ。他の宿は2000エルク、3000エルクぐらい平気でしますから。」
ロイドはしばらく考え、
「分かった。ここに泊まろう。」
しぶしぶ、宿代を払った。
「まったく、何てところだ。宿代が1000エルクもするなんて。」
部屋に着くと、ロイドはベッドに腰掛けてため息をついた。
「まあ、しょうがないよ。ここはビュリックで一番物価が高い町だから・・・・。」
ワトソンもため息をついて言った。
「ちょっと、なんで女の子の私が同じ部屋なのよ!!」
ユリアは腰に手をあてて怒っている。
「しょうがないだろ、ここしか部屋が空いてなかったんだから。」
「アンタたち、変な事したら骨の髄まで焼くわよ!!」
「誰がそんなことするか!!」
こうして夜は更けていき、3人は眠りについた。
月明かりは町を、淡く照らしていた・・・・・・・・・・・。
第6章 完