第8章 岩の守護神
拾参番鉱山
カントラの外れにある寂れた鉱山、ここが拾参番鉱山である。すでに廃鉱になっているため、鉱山夫たちの活気のあふれる声やつるはしを打ちつける音は聞こえず、入り口の奥には不気味な黒い闇が口を開けている。いかにも「死の鉱山」という雰囲気だ。
「いかにも何かいそうな気配がするな。気をつけて行くぞ。」
一行は慎重に鉱山の中に入っていった。中は真っ暗で何も見えなかった。
「くそ、何も見えない。目が慣れるまではここを動かないほうがいい。」
ロイドたちは目が慣れるまで、じっとしていた。
しだいに、鉱山の中が見えるようになってきた、その時!!
「キャーーーーーー!!」
ユリアの悲鳴が聞こえた。
「何があった?」「何か変なのがいるのよ。」
ロイドは目を凝らしてみてみると、淡い光を放つものが浮いていた。
「こいつは!!」
肉体を失い、魂となっても生き続けているアンデットモンスター、ゴーストだった。
「化け物め!!」
ワトソンは腰から拳銃を引き抜き、ゴーストに2、3発撃ち込んだ。だが、銃弾はすべて通り抜けてしまった。
「ゴーストは実体のないモンスターですわ。物理的な攻撃は一切通用しませんわ。」
ジョアンはそう言うとメイスをかざし詠唱を始めた。
「ホーリーレイ!!」
聖なる光がジョアンの前に集約され、光線となって放たれる。
「△α○Ω☆√×∫!!」
光線を浴びたゴーストは、分けの分からない言葉を叫び浄化された。
「アンデットモンスターなら、聖職者の私に任せて下さい。」
ジョアンはそう言った。
「しかし、妙だな。アンデットモンスターは屍霊術(ネクロマンシー)によって死者の魂や肉体に魔力を与えることで生み出されると聞いたことがある。例えば、フォーロウ樹海のスケルトンたちはあのスカルロードが操っていただろう。」
ロイドは腕組みをした。
「つまり、ここのゴーストは・・・・・。」
ワトソンは感づいた。
「そうだ、誰かが人為的に作り出したということだ。なんのためかは知らんが。」
「とにかく、先へ進むぞ。」
一行はさらに奥へ進んでいった。
しばらく進むと、奥に広間のようなものが見えてきた。しかし、入口を3匹のゴーストが塞いでいる。
「まるで何かを守っているようだな。いかにもここに王石がありますといわんばかりだ。」
ロイドはそう言うと、剣を構えた。
「強行突破するしかなさそうだ、いくぞ!!」
ロイドたちはゴーストの群れに突っ込んだ。すると、ゴーストたちは詠唱をはじめた。
「アイスランス・・・・」
ゴーストたちの眼前に巨大な氷柱が作られ、それがこちらへ飛んでくる!!
間一髪かわすと、ロイドは剣先をゴーストに向けた。
「くらえ、セイントアロー!!」
光の矢を剣先から放ち、それはゴーストを貫いた。
「フレイム!!」
一方、ユリアもゴーストを火だるまにした。
そのとき、残りのゴーストがワトソンに不気味な手を伸ばす!!
「ゴーストに触れられたら、生気を奪われてしまいますわ!!」
ジョアンは叫んだ。
「奴に普通の銃撃は効かない、こうなったら・・・・。」
ワトソンは腰から別の銃を引き抜いた
「魔法銃、ファイアブレット!!」
ワトソンが引き金を引くと銃口から火の玉が発射された。それはゴーストを焼き尽くした。ゴーストは3匹とも消えた。
「今のは魔法?」
ユリアはワトソンに尋ねた。
「いや、魔法じゃないよ。これはビュリックの最新技術を用いて作られた、使用者の魔力を弾丸に変える銃さ。父さんがアンデットを相手にするときに使っていたんだ。ただ、自力で魔法を使えない一般人は魔力が少ないから、何発も撃てないけどね。」
ワトソンは息を切らせながらそう答えた。
「さあ、行こうか。」
一行は広間へと入っていった。中は鉱山の中とは思えないほど広く、ところどころに採掘道具が転がっていた。そして、中央には王石が飾ってあった。
「やはり、武器屋の親父が見たのは王石だったのか。」
ロイドはそういうと王石に近づいていった。その時!!
「コンナトコロニ来ル人間ガイルトハ、酔狂ナ奴ラダナ。」
どこからか、声が聞こえた。」
「誰だ、正体を見せろ!!」
ロイドが叫ぶと、地響きを立てながら、王石の周りに鉱山の岩が次々と集まっていった。
「何、何が起こってるの?」
ユリアとジョアンは戸惑った。
やがて、それは巨人のような姿となった。
「我ハ王石ノ守護者ゴーレム。メフィストフェレス様復活ノタメニ王石ヲ渡スワケニハイカン。」
「ゴーストにここを襲わせたのもお前の仕業か?」
ロイドは質問した。
「ソウダ、偶然鉱山夫タチニ王石ヲ発見サレテシマッタノデナ、二度ト近ヅカナイヨウニゴーストヲケシカケタノダ。タマタマコノ付近ノ鉱山ハ、終末戦争期ニ強制労働デ死ンデ行ッタモノタチノ魂ガ彷徨ッテイタノデナ、ゴースト化サセテモラッタ。」
ゴーレムは答えた。
「死者の魂を弄ぶ行為、許せませんわ!!」
ジョアンは怒りをあらわにした。
「悪いが、力ずくでも王石はいただいて行く。」
ロイドは背中から剣を引き抜いた。
「ドコマデモ酔狂ナ人間ドモダ。大イナル大地ノ制裁、身ヲモッテ受ケルガイイ。」
ロイドは剣を構え、ゴーレムに斬りかかった。
「くらえ、ロザリオクロス!!」
聖剣イングラクトがゴーレムの体に触れると同時に、火花が散り、手に痺れが伝わった。
「くそ、何て硬いんだ。」
ロイドは右手を振り払った。
「ハハハ、ソンナ剣デハコノ岩ノ体ニハ傷一ツツケラレンハ。」
ゴーレムは嘲笑した。
「それなら魔法はどう? フレイム!!」
ユリアが魔法を放つと、ゴーレムの足元から火柱が上がった。
「フン、ソンナ炎ガ効クカ。」
ゴーレムはそういうと詠唱を始めた。
「大地ノ力受ケテミヨ、アースクエイク!!」
魔法を発動すると、こちらの足元の地面が槍のように隆起した。ロイドたちは間一髪、大地の槍の間をかいくぐって避けた。
「くそ、防戦一方だ。」
ロイドは舌打ちをした。
「そういえば、あのときの鷲みたいにどっかに王石の紋章って無いの?」
ユリアはあの時のガルーダ戦を思い出した。
「残念ながら、どこにも見当たらない。おそらく奴は王石を体内に取り込むことによって直接魔力供給を受けているんだろう。スカルロードも鎌の柄にはめ込むことによってそうしていた。」
「オシャベリヲシテイル暇ハナイゾ。ゴーレムナックル!!」
今度はゴーレムの拳が腕から切り離され、こちらに飛んで来る!!
「危ないですわ、プロテクトシールド!!」
直撃する直前、ジョアンの魔法によって目に前に光の盾が出現し拳を受け止めた。
「ソンナ魔法壁ナド、壊シテヤロウ。」
ゴーレムは拳を腕に装着した。
「ゴーレムナックル!!」
再びゴーレムの拳が飛んできて、光の盾に激突する。ジョアンは顔を歪め魔力を振り絞って、攻撃を受け止めた。
「ハハハ、イツマデ持カナ?」
ゴーレムは笑いながら、何回も攻撃を仕掛けた。盾にぶつかる度に金属音とともに衝撃が伝わる。
「ジョアン、持ちそうか?」
ロイドは尋ねた。
「そろそろ私の魔力も限界に来ていますわ。あまり持ちそうにありませんわ。」
ジョアンは息を切らしながら答えた。
「奴の岩の体をすべて破壊するのは困難だ。だとすれば、一点に風穴を開けて王石を取り出すしかない。しかし、どうすれば?」
ロイドは悔しげに剣を地面に突きたてた。
「この世界は火・氷・風・土・雷・水・光・闇の8つの属性があり、それぞれが循環していると聞いたことがあるわ。」
ユリアは言った。
「その属性関係にヒントがあるのか?」
ロイドはユリアのほうを見て言った。
「土は風によって削り取られる・・・・・・。」
ユリアは呟いた。
「でも残念だけど、あたし風の精霊魔法は使えないのよ。普通の人間は生まれつき備わっている属性が限られていて、どんなにがんばっても2種類の魔法しか使えないらしいの。あたしは火と雷の魔法しか使えないのよ。」
そう言ってユリアは残念そうに俯いた。
「土には風か・・・、奴を倒す鍵になるかもしれない、お前もたまには役に立つな。」
「『たまには』は余計よ!!」
ユリアは怒った。その瞬間、ガラスが割れるような音がした。ついに光の盾が壊されたのだ。
「ごめんなさい、私は・・もう・・限・・界で・・す・・・わ。」
ジョアンはそう呟いて倒れた。魔力を使い果たしてしまったようだ。
「ツイニ魔法壁ヲ破壊シタゾ、モウオ前タチハ終ワリだ。メフィストフェレス様ノ為ニ死ンデモラウ!!」
ゴーレムはそう言って腕を伸ばした。
「ワトソン、さっきの魔法銃、火以外の弾も撃てるのか?」
ロイドは策が浮かんだ。
「うん、一応全属性の弾が撃てるよ。でも、後1発が限度だよ。」
ワトソンは答えた。
「1発撃てれば十分だ。ユリア、ジョアンを頼む。ワトソン、援護頼んだぞ!!」
そう言い残し、ロイドはゴーレムへ立ち向かっていった。
第8章 完