雲子の日記5
3月25日(雨。気温低し。春はまだ?)
今日は一日中何も出来なかった。
何もしなかったのでは無い。
何もする必要が無かったのだ。
動かなくても、何も喋らなくても、食べ物だけは何とかなる。お昼も夕ご飯も、全部私のお部屋で済ました。
目の前が真っ暗になってゆく。
それは目を瞑ったから。
悩み相談板へは行かなくなった。
あそこは助け合いを建前にした生贄祭り会場だ。
今でも連日生贄が祭り上げられ、日夜亡者達が呻き合っている。
ゲーム作りなんて、なんで始めてしまったのだろう。
こんな根暗で駄目な女の子が、何を達成できるというのだ。
恋愛物なんて、やっぱり未経験者には無理。
ある程度思い浮かんだプロットも、よくよく思い返してみればどこかで見た、誰かの物真似。
処女。
夢を見るのは簡単よ。
でも夢を見る人間が、こんなんじゃ、やっぱ駄目ね。
ラファーカは主人公兼わたしの分身であるけど、私はラファーカみたいにお姫様ではない。
死者を蘇らせる奇跡の力を秘めた宝剣トラヴィアータを探す旅に出る必要も無いし、行く末に亡くなった兄が蘇るわけでもない。
旅の途中で不思議な生き物達が暮らす迷いの森で、しばらく足止めされたり、そこで仲間と出会い、一緒に森を出るという事もないし、出た先で旅の剣士と出会い、二人旅が始まり、そこから愛が芽生え、共に魔物と戦い、時には仲違いし、でもやっぱり元の鞘に戻ったりしつつも、障害発生。剣士は私を助ける為に魔物の攻撃から身を守って死んでしまう。それで残されたわたしに「ラファーカ。俺のことは良い。この五つ目の紋章を持って、トラヴィアータを、トラヴィアータを手に入れてくれ」と言い残し、帰らぬ人になる。
共に戦った仲間。
恋の道連れの死。
わたしはその場面に遭遇して泣く。
でも良く考えたら、トラヴィアータでおにいちゃんを復活させる事が出来るなら、その時その剣士も復活させちゃえば良いんだろうけど、そう言う矛盾を考えてるうちに頭が爆発しそうになって、やっぱり無理ね。
だから何もやる気が出なくなってしまって、今日はネットもほとんどせずに、一日中寝込んでいた。
で、ずっとベッドに横になりながら、暖かいお布団に包まって、お洗濯された良い匂いに包まれながら、ずっと良子さんのことを考えていた。
良子さんから電話来れば良いのに、って。
でも一向に来ないから、わたしはもはや今日なんか、こんな思いをさせられるくらいだったら、良子さんはわたしに電話なんかしなければ良かったのに、と思い始めていた。
良子さんと話す楽しさを知らなければ、こんな思いをしなくて済んだのに。
わたしから良子さんに接触したわけじゃないのに、何で私の方がヤキモキしなければならないの。
お兄ちゃん、世の中理不尽だらけですね。
でも、こんなわたしのゲームに、期待してくれる人も居るみたいで、「頑張れ」とか「応援してます」なんて言われると、なんとなく、始めたからには最後までやらなきゃ駄目なんじゃないだろうか、みたいにも感じられて、どうしよう、お兄ちゃん。
わたしの矛盾だらけのプロット。
絵も物語も、スクリプトも、全部自分ひとりで、出来るかもなんて思わなければ良かった。
このまま途中で放棄したら、わたしもあそこの、沢山居る法螺吹きの一人にクレジットされてしまう。
最後までわたし一人でやれるかしら。
そりゃあ、ハードルを低く設定すれば、今日中にだって終わらす事は出来るだろうけど、それでは意味が無い。
どうせやるなら、それなりの物を造りたい。
フリーゲーム業界に、名を馳せたい。
業界の姫MOKO。
現実のモコは、引き篭もりの、寝太郎。
何か、思いつくままに書きなぐるのは簡単だけど、予め目的を設定して、それに向かって前進するのは、とても難しい。
今までやったことも無い様なことを、次から次へとこなさなければならないから。
初めての山をロッククライミングするのに、どのルートを辿れば良いかなんて、その都度試行錯誤しなければならないのと一緒なのだろう。
とにかく、考えるのが、悩むのが辛い。
辛いというよりも、そんなことをしなくても、生きていけるんだ。
でも、何もしないと、本当に駄目になりそうで、何かをしなければ、と言う気持ちもある。
ゲーム作りは、絵も自分で設定できるから、そこが災いしてハードルが高くなってしまう。
やっぱり絵は才能が必要ね。文章もだけど。
絵は、難しい。ゲームはやめて、小説にしようかしら。
お兄ちゃん、どっちが良いと思いますか。
どちらにせよわたしは、何かをしなければ、落ち着きません。
こんなとき、良子さんから電話が来れば、色々話せて落ち着くかもしれないのに。
良子さんは一体、どうしちゃったんだろう。
もう、良子さんは駄目かもしれない。
最近ずっと良子さんのことばかり考えてしまって、おかしくなりそうです。
お兄ちゃん。
おやすみなさい。