Neetel Inside 文芸新都
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黒と白の黙示録
第二回(ベニー作)

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 全てを塗り潰すような、そんな夜だった。
「おかーさん! 流れ星~」
 海沿いには幾つか住宅がある。二階のベランダで、子供が空を見ている。闇を縫うようにして輝
く、星の残り火。
 母の声が、家の奥から聞こえてくる。
「そうー、すごいわね」
 母はトイレに籠もっていた。どうやら、酷い便秘だ。
「うんー! お星が二つー! あっ、いっこ落ちた!」
 激しく動いていた二つの光。そのうちの一つが墜落して――残りの一つが、一瞬止まって、そし
て、そして。
「よぉ、ぼーや」
 それは、輝くような黒だった。
「うわぁぁぁ!!」
 子供は驚き、思い切り尻もちをついた。無理からぬことである。ただの星だと思っていたものが、まさしく光速で自分の目の前に躍り出て、しかもそれが人間だったのだから。この子供でなくとも、例えばこの子の母親でも、情けなく尻をコンクリートにキスさせることだろう。
「どうだい、生き夜だな。こんな黒塗れの夜は、生命力が溢れてる。だから、さっきみたいなザコも元気でよぉ。全く、迷惑な――」
「お、おほしさま……!」
『お騒がせしましたー。対象は完全に活動停止しましたんでご安心をー』
「お、おほし……」
 子供は、いつの間にか小便を漏らしていた。無理からぬ。
『?』
「…あー、なんだ、ともかく、まあ……」
 黒の青年は、翼を一時休め、愛刀を鞘に収める。そして、子供の頭に、悪魔の返り血のこびり付いた手を構わずに置く。
 その時、下のトイレで、水の流れる音――
「悪魔って奴らは、お前らを不幸にする。必ずだ。俺も、俺の友達も、お前らも、そう、全ての人間が、不幸になる。こんな夜、俺は“コテツ”を振るうんだ。ただ、言っとくと、俺は基本的には自分の――」
『あとは組織のために、ですねー。あ、そろそろ戻りましょ。こんなトコ上に見られたら怒られますもん!』
 黒にそぐわない、どこかぼやけた雰囲気を漂わす青年は、黒の青年より大分背丈が低かった。彼は黒の背中をつつき、帰還を促す。
「オーケイ、こどもの精神ケアも終わったし、もういいな」
『いーんです!』
「ところで」
『はいー?』
「俺は組織なんざどーでも」
『いーんですっ!』
 二人は、再び翼を広げた。瞬間、強い風が周囲に巻き起こる。子供は闇に取残された。だが、それも一瞬のことだった。手洗いを終えた母が、階段を上がってくる音。
 どうしたの!? 母は、今までに見たこともないような無残なことになっている子供を見て、叫んだ。
「ほしは……おほしは……おにいちゃんだったんだ……」
 そう、何度も、うわ言のように繰り返していた。
 子供は、成長し大人になっても、二度と夜の空を見ようとしないだろう。

       

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