黒と白の黙示録
第八回(ベニー作)
トウヤが倒れていた。
驚愕と、呆れの混じった様子のアキナ。
「ちょ……何遊んでるの貴方!?」
「い、いきなりガトリングなんか撃つから……」
説明しよう。アキナが光を発すると同時に、トウヤは悪魔に突っ込んで行っていたのだ。その閃
光は何気に凄まじく、トウヤからはアキナの様子が全くと言っていい程に窺えなかった(意識は悪
魔に向いていたので、尚更のことである)。同様に、アキナからも。
放たれた散弾は、悪魔に向かい一直線。その内の何発かが、トウヤの肉体をも撃ち抜いたのであ
った。残念なことに、アキナのガトリングガンには、第六回に登場した“サン・マルコ”のように
「不浄の存在のみ撃ち抜く」などという御都合主義的な便利設定は設けられておらず、憐れトウヤ
は出血多量で意識朦朧となった。
「…呆れた。貴方、本当に第一階級?」
「て、テメェが、前方確認せずに勢いで撃つから……」
「勢いはそちらでしょう!? 何、いきなり突っ込んでいくとかその頭悪い戦法! バカじゃない
の?」
「うっせえ……こっちにも、事情があんだ……」
「事情?」
「だってよぉ……前回は、“サン・マルコ”で一瞬だったし、その前は余りに手応えがなかった…
…俺は、闘いに餓えてたんだよ! 本当の闘いに!!」
『そうだねー。前回はボクのせいだもんねーふーんふ』
適当なキーリ。
『で、どうするトウヤ? 戻す?』
「バ、バカヤロー……今戻されたら、俺は何のために出てきたんだ。このままじゃ、ヘタレギャグ
路線まっしぐらだ……俺はまだやれる、俺は――」
その時。
銃弾第二群が、悪魔とトウヤに襲い掛かる。
「うわっ」
トウヤ、今回はさすがに生命の危機を感じ、必死に飛び上がり、寸でのところでかわす。銃弾は
悪魔を数発掠めた。鮮血が飛び散る。
「殺す気か!?」
地面に帽子を叩きつけるような勢いで、トウヤが叫ぶ。
「貴方もいつまでも遊んでないで、ね?」
しょうもない息子をたしなめるのに似た口調で、アキナは言う。
「命の危機だってのに遊ぶか!」
「いいこと? 貴方と私の前にいるのは、手負いとはいえ、上級の悪魔……感じているでしょう」
「…ああ」
トウヤは、くすんだ地面から二人を見上げている血染めの悪魔を睨みつけた。
「野郎、力溜めてやがる」
「そう……褒めるわけではないけれど、さすが上級……あの悪魔は、最早自分の死を悟っている。
逃げるつもりは微塵もない。貴方か、私のどちらかを道連れにしようと、それだけを考えている眼
をしている」
「あれは、前向きの眼だ……死ぬ時は前のめり、か。悪魔らしくねぇ。らしくねぇが……」
トウヤは、僅かに表情を和らげ、嬉しそうに。
「…好きなタイプだぜ」
悪魔は、ギギギ、ギ、と、唸りながら。その気迫は大地を静かに揺らす。
「…ねーちゃんよ」
「アキナ」
「アキナ、ここは俺にやらせろ。アンタはもう手を出すなよ」
「…正気? 貴方、ただでさえ傷を負っているのに、その上、一撃に命を賭している悪魔……当た
れば、命はないわよ?」
「…るな」
「え?」
トウヤは、悪魔に向かって飛んだ。
「ナメんな!」
トウヤは、“コテツ”を振りかざした――