Neetel Inside ニートノベル
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境界
普通の人間による普通の独白

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 お前は異常だ。
 昔友達に言われた言葉。反論するつもりもなにもなかった。人間というひとくくりのものの中でも分類はある。あるいは区別。ないし差別。まぁ、多少のニュアンスの違いこそあれ行為は同じだ。とにかく、僕は友達とカテゴリーにおいて境を作られていしまったわけだ。
 普通と異常という分け方。その場合、僕は明らかに前者だと言える。何においても。例外なく。
 テストの点数は平均点、偏差値は50.0、学年順位199人中100人目。
 家庭は平々凡々、親の収入は平均値。
 運動は得意ではないが苦手ではない。どのスポーツも平均的にできるし、どんな種目であろうとも人並みにできないことはありえない。逆になにであっても秀でたものは一つもない。それはスポーツに限らず文化系全般でもそう。
 これは20年間で得た確証だ。たかがこれだけの人生で確証など得られるものかと思うかもしれないが、ならば偶然が生まれてからこの方20年継続することなどありえるだろうか。20年とは、概算7300日、175200時間、10512000分、630720000秒。一瞬を仮に長めにとって一秒と定義するなら、約6億回もの瞬間全て偶然が発生し続けていることになる。こんなの、もはや偶然は必然になるだろう。普通であり続けるという偶然が必然的に起こると換言できる。
 だから、アイデンティティというものを問われれば普通であることと答えられるだろう。限りなく普通であることは普通ではないことくらい自覚している。一方で、友達はそれを違う言葉で思考していたらしい。より端的な言葉で。
「完全に普通であることは完全に異常であると言って差し支えないだろう? 普通ってのはぴったり平均のことじゃない。普通のラインを彷徨う集団が普通なんだ。全てがまるっきりぴったり普通なのは普通じゃないんだよ。だから普通の人間はパラメータに個体差がある。ただし、その値は普通の範囲だけどな。よって普通であることは普通にしかできねぇが、完全な普通になることは普通には無理だ。殊にそれを継続なんて――それこそ、異常くらいにしかできない」
 このセリフに、僕は変なことを言うんだなという感想を持った。わざと逆説的な表現を用いて気取っているのかと。事実違わずその通りで多少気取るところのあるやつなのだが、ただ言っていることは際限なく正解だ。
 正しすぎて嫌だった。いや、そうじゃない。正しさの正しい定義なんてどこにもない。ただ、僕の中で一度出された答えをぴったり反芻されるのが嫌だったのだ。自分のことは誰よりも自分が知っている。もちろん客観的にしかわからない僕もあるだろう。けれど主観的にも同じなのだ。そしてこれが僕の異常性を確定づけた。主観的にも客観的にも異常であれば異常でないという結論付けが異常になる、といったところだろう。
 まとめれば、普通と異常、僕はそれで言えば前者だ。ただし、あまりに前者であるが故、後者でもあると言える。ああ、頭が混乱してきた。語り部であるところの僕がよくわかっていないのだから、聞き手としてはたまったものではないだろう。語り部としては失格の印を押されかねないが、普通の表現力では異常な事象を表現できないということで許してほしい。言い訳がましくて嫌だけど、十中八九事実だ。
 矛盾した存在というわけではない。矛盾は空想のみにその存在を許され、現実に在ることができるはずがない。だから僕は論理的には正しく構成されているはずだ。存在していい程度には。
 正直生きにくいとは思う。これから僕は普通に進学して普通に就職して普通に結婚して普通に子供を作って普通に老いて普通に退職して普通に死んでゆくのだろう。進むべきレールがわかりきっている。わかりきっているからこそ、どうあってもその道を進んでしまうからこそ、僕には自由はない。必ず普通になる。確実に限定されてしまう。あるいは限定されるというよりも僕に用意された道が全て普通であるだけなのかもしれない。見える景色も響く音色も触れる感触も薫る香りも感じる味も何もかも。
 こんなに退屈なことはない。ゆえに僕の口癖は、つまらない、だ。生きることがつまらないし、死ぬこともつまらない。ただ、一度死ぬとやり直しがきかないから惰性で生きているだけだ。加えて死ぬのは結構めんどくさい。生きる方が十分楽だ。自殺する奴は実際結構な労力を払っているはずで、だったら他のことに払えばいいものをと思うが各々の事情があるのだろう。わざわざ立ち入ってまで探求しようとは思わない。それこそめんどくさい。
 だから僕は今日も何となしに生きていて、この無駄に青い空を眺めながら学校へと向かうのだ。

       

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