Neetel Inside ニートノベル
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真実までの道程

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「さて、まずどうするんだ?」
「そうだな……。聞き込みでもするか?」
「えらくベーシックな手段でいいと思うけど、肝心の聞く相手がいないぞ。目撃者だろう生徒は今みんな家だし」
 参考人として呼ばれているのなら来ているかも知れないが、居たところで校門が仕舞っている時点で会えないだろう。
 てなわけで、さっそく捜査に行き詰った僕らだった。しかしそう思ったのは僕だけだったらしく、千堂は自信に満ちた顔だ。何か策でもあるのだろうか。
「確かに生徒も重要な情報をもっているだろう。だがしかし、それ以上に情報を持っている者がいるではないか」
 口ぶりがもう探偵だった。だが、僕にはさっぱりわからない。道を行き交う人に聞くのだろうか。けれど、それならまだ生徒の方が有用な情報を持っている気がする。事件が起きたのは学校の中なのだ。わざわざ校内に入ってくるほどの野次馬などいないだろうし、居たところで少ない。わざわざそれを探す理由などない。
「そんなやついるか?」
「簡単なことだ。ほら、校庭を見ろ」
 校庭に目を向けると、相も変わらず警察らしき人がいるだけだった。
「だから誰だよ、もったいぶらずに言えよ」
 そう言うと、千堂は溜息を一つはぁと付く。こんなことも解らないのか、とでも言うような態度。続いて彼女は校庭を指さし、なにげなくこう言った。
「なんだ、お前は目が悪いな。あそこにいるではないか。警察が」
 …………………………。
 頭に三点リーダが何個も浮かんだ。換言すれば、何も言えなかった。
 したり顔とはこのことか、どうだと言わんばかりににやついた顔でこちらを見る。だが、僕としてはあきれ顔をせざるを得ない。
「お前、普通に馬鹿だったんだな」
「馬鹿とは何事だ」
「いや、正気で言ってるのか? 今ならギャグとして引き返せるんだけど」
「大真面目だ。今までの人生で一番真面目なことをいったと思うぞ」
 一番というのは脚色だろうが、しかし真剣に言っているのは間違いないようだ。だからこそ問題なのだけれど。
「警察が調べた情報を一般人に教えてくれるわけないだろう」
「しかし、友人なのだぞ?」
「友達なら尚の事だと思う。復讐に走る可能性があるし」
「そういう考え方もあるか。だが、友人であると言えば調査の情報をある程度聞くことは無理な流れではないだろう?」
「それはそうだけど……」
「なら聞いてみるだけ聞いてもいいだろう」
 駄目もと、ということか。
「……まぁ」
 僕が妥協したような風になったので、千堂は警官に近づいた。とはいっても、校門は閉まっているのでそこから声をかけるしかない。
「すいませーん」
 その矮躯から警官に届くほどの大きい声が出るのかと思ったが、千堂の声はグラウンド中に響いた。帰宅部のくせになんという肺活量。
 なんだなんだと警官が何人か集まる。そして、僕らを見るや彼らは集まって、一人だけが最終的にこちらに来た。残りは北方向へと戻っていく。先程の集合で誰が対応するか話していたのだろう。
「えっと、どうしたのかな?」
 若いそうな初々しい、と言っても僕らの方が随分若いけど、警官が話しかけてきた。千堂はここぞとばかり女の子らしい風を装って話しかける。外見上はもちろん女の子だが、性格においては女の子なんて似つかわしくなかった彼女だけに、少し驚きだ。繕うことはできるのか。あるいは、いつもを繕っているのか。
「あの、一昨日のことなんですけど」
 遠慮がちに、丁寧に話しかける。
「あ、ああ。もしかして彼女のお友達ですか?」
「はい、そうなんです。国原さんが死んでしまったって聞きました。でもそれをきいただけで、どうして彼女がそんなことになったのか解らなくて。ずっと考えても解らないし、これ以上じっとしていることができなくて」
 半ば泣きそうなように見える、あくまで見えるだけだけど、千堂に合わせて僕は顔を伏せつつ頷く。その様子に警官は感じるところがあったようだ。少し目を手で拭っている。
「そうかい。彼女もいい友達をもったものだね」
「で、よければ少しでも教えていただきたいんです」
 うるんだ瞳で千石は情報提供を依頼する。女の涙はいかほどまで通じるのだろうか。
「あー、うん」
 効果てきめんなのか、警官は困った顔をした。それはそうだろう。いくら感情では解ろうと、守秘義務がある。教えられるものではないのだ。ただ、教えてあげたい気持ちは多分にある。
「あの、じゃあせめて自殺なのか他殺なのかくらいは教えてもらってもいいですか? 自殺だとしたら、それは気付いてあげられなかった僕らにも責任がある……」
 だから僕はこう言った。こういう、根本のところくらいは教えてくれるだろう。しかし、もちろん自殺他殺だけ聞いて終わるつもりはない。けれど、確認しておくのも悪くは無いだろう。なんにしても会話を継続しなくてはいけない。戻られては質問することすらできないのだ。
「いや、他殺だと思うよ」
 警官は、周りを気にするようなそぶりを見せてから少し声を小さくして答えた。
「っていうことは誰かに殺されたってことに?」
「そう、なるね」
「犯人ってもう捕まったんですか?」
「いや、まだだ」
「えっ……。犯人って、まさかこの学校にいるなんてこと、ないですよね?」
 僕はやや怖がるような表情をして言ってみる。
「それ以上は、ちょっと……」
「でも! 僕たち、明日から学校なんです。もし、学校にいるんだとしたら安心していけません」
 そういうと、にこやかに返してきた。
「そこら辺は大丈夫だよ。当分、僕たちが警備することになっている」
「……そうですか。あの、あともう一ついいですか?」
「なんだい?」
「彼女はどういう風に死んでいったんですか?」
 そこで警官は喉がつまったようになった。
「……どういう風にって?」
「端的に言えば死因です」
「それは……どうしても知りたい事かい?」
 あの死の状況を伝えたくないのだろう。歯切れが悪い。
「はい。……実は、僕はまだ国原さんが死んだとは、思いたくないんです。だからできるだけその証拠が欲しい。例えば、誰かも解らない程に酷く惨殺されていたら。……考えたくもないことですけど、もしもそうなら彼女じゃない可能性もあるんじゃないかと思います。だから、聞きたいんです」
「……やっぱり、悪いけれど言えない。ただ、これだけは教えておくよ。君たちにとってはこの上ない悪い知らせだけれど、あれは間違いなく、国原さんだそうだ。DNA鑑定。高校生の君たちなら解るよね? それで断定されたんだ」
「……そう、ですか」
「さて、じゃあもう仕事に戻るね。一刻も早く犯人を捕まえられるよう、これ以上犠牲を出さぬよう、僕たちも頑張るよ。君たちも辛いだろうけれど明日から頑張って」
「ありがとうございました」
 僕たちはそろって頭を下げた。警官も軽く一礼し、学校の方へ戻っていった。それを確認した僕らは顔を上げる。

     

「やはり、大したことは聞けなかったな」
 僕と千堂は溜息をついた。
「いや、こんなときほど浅見光彦がうらやましいときは無い」
「小説の人物を羨ましがらないでくれよ」
 浅見光彦はフィクションであり、実際の人物・団体とはいっさい関係ありません。と、千堂に教えてやった。
「小説ほど上手く運ばないものだ」
「まぁ、推理小説は事件が解決すること前提で書かれてるからなぁ。例外もあるだろうけど。物語には収束する方向がある。一方現実にはそれが無いから小説より奇なりなんて言うのかもしれないな」
 実際、この問題の解答がどこに行きつくのか見当はまだ付いていない。ハッピーエンドかバッドエンドかなんて解らないし、現時点で決まっているはずもない。
「そんな小説に関する推察はどうでもいいのだ。本題に戻ろう」
 というわけで閑話休題する僕らだった。
「警察の人の話、解ったことはそんなないよな」
「まぁな」
「でもこれで犯人が一人削れた」
 千堂は首をかしげる。意外に可愛いい。が、しかし今はそんな感想を持っている場合ではない。
「誰だ?」
「国原さ」
「国原?」
「そう。よくある入れ替えトリック。死んだはずの人間が生きてるっていうさ」
 僕の意図するところが解ったのかぽんと手のひらを叩いた。
「ああ。他の人を殺し、それを自分の死体と見せかけてってやつか」
「うん。その可能性はもう、殆どないと言っていいんじゃないかな?」
 うんうんと頷く彼女。一を与えれば勝手に十を知るやつだから、きっともう説明は不要だろう。答え合わせのつもりで話す僕だった。
「だろうな。その類のものは警察が来ないないし来られない場所であったり、ある手段で特定できない方法をとるものだ。それがすでに国原と特定できているとなると」
「そういうこと。それに警察が来る前提で考えると、単なる時間稼ぎと考えていいだろう。そんなのどの道ばれるからな。しかし発覚までのここ数日、第二の事件は起きていない。まぁ警察しか知らない事件ならまだ別だけど、事件の起きた学校を警備するのなら、第二の事件が起こっているとすればもっと町に警官がいると思うんだ。警備の意味で。まさか警察のまだいる学校での第二の事件は考えにくいし。だから、少なくとも現時点ではあれは国原でいいと考えるのが妥当だと思う」
 淡々と述べる僕を感心したように目を開いて見つめる千堂。説明が終わると、ふむ、と言って改めてこっちを見た。
「私は驚いたぞ」
「え、この推理が?」
「まぁ、お前が推理については頭が働くと言うこともそうだが、何より――」
「なんだよ」
 もったいぶられるのは好きじゃない。答えを急かす。しかし、動じず千堂は息を溜める。言うか否か考えている風にも取れた。が、結局きちんと言葉で発せられた。
「お前は友人を、死体になってまでも疑うんだな」
 そう彼女は言ったのだった。
「私は無条件にお前や榊田、国原を犯人から外していた。お前は全てを疑っているんだな。もしかしたら自身すらも疑っているんじゃないのか? まぁ、それは記憶が立証しているんだろうが。ともかく、私は感心した。」
 ともすれば皮肉にも聞こえるが、言葉の主が千堂であるからそれはないだろう。皮肉を使うくらいなら彼女は直接言う。それは性格が真っすぐとかではなく、皮肉なんて回りくどいことをするのは非合理的だからだ。だとして、受け取る側が皮肉にしか聞こえてなければ結局皮肉なのだけれど。そして僕も現在、そういう取り方をしていたのだった。
「全然嬉しくないな。それに千堂、お前勘違いしてるよ。まるっきり逆だ。疑いたくないから先に潔白を証明しておくんだよ」
 存分に他者を疑うために疑いたくないものを消しておくんだと、説明してみた。すると、千堂は思いのほか素直に受け入れてくれた。
「成るほど。納得だ」
「それはなにより」
 本当に納得したのかは疑問だ。
「ところでそれならば、私の身の潔白は証明しなくていいのか?」
 真剣に悩んでいる風な彼女に対し、僕は嘆息混じりに言葉を返す。
「いいよ。もう友達を疑うのは面倒だ」
「そうか」
 一言返してきた千堂は、学校を背にしてどこかに歩き出した。白い髪が揺れる。当たり前だけど楽しげでは無い。僕もそれに付いていく。明日はもう学校だ。今日のうちに色々調べて起きたのだろう。果たしてどこに行くのかは分からないが、あてもなくと言った風には見えなかったので行き先を特に問うことはしなかった。
 さて、では心の中だけの秘密の話。
 実際は僕が先に言った、疑いたくないから先に潔白を証明しておく、は本心じゃない。そもそも、僕は身内や友達を疑うことはしていない。当然国原だってそうだ。だが、国原だったものは現在もう国原ではない。別のものだ。そう、死体。僕にそんな友達はいない。千堂は、死体になってまでも疑うんだな、と言ったがそうじゃない。死体だから疑ったのだ。
 この世にもう、国原はいない。あれはもう、友達じゃない。

     

 結局その日は何も収穫は無く、翌日はあっさりやってきた。
「おはよう」
「おはよう」
 僕と千堂も三日前以前と同じように待ち合わせして学校へと向かう。学校は正門周辺にはもう昨日警官が言っていた通り警備が付いていて少し物騒な体ではあったが、それを除けば変ったものは無かった。門で先生が挨拶していたし、僕も相も変わらず小声で返すのだった。
 学校へ入ると、真っ赤に染まっていたはずの場所は綺麗に土色に戻っていた。始めてみる人がいたならばそこで三日前何があったかなんて気付かないだろう。僕らは元通りになってしまったそこを眺めつつ、昇降口へ歩くのだった。
 上履きに履き替えて廊下を左に真っすぐに歩く。2年生の教室はやや遠いところにあるので履き替えるころにチャイムが鳴ったら遅刻は必至。僕らはというと、いつもそんなギリギリには来ておらず時間に余裕があるのでゆったりと歩いている。昇降口は学校の敷地で言えば正門から右端、2年生の教室は左端にある。ちょうど学校を目いっぱい横断する感じだ。不便この上ない。ちょっとした話をするのにも十分な距離だ。
「さて、今日はどうするか」
 千堂が言った。朝挨拶をしてから、何かを話すのは初めてだった。通学途中は彼女がずっと考え込んでいる風だったので話しかけるにもできない状態だったのだ。
「どうするってなんだよ」 
 僕は尋ねた。
「いや、犯人探しのことだ」
「今日もやるのか?」
「当然だ。犯人を探すまで終わらないぞ」
 流石に一日では終わらなかったようだ。半ば解っていたけれど、昨日で終わってくれたらという願望が無かったわけじゃない。探偵ごっこは当分続きそうだ。
 とはいえ、探すと言っても犯人を絞れる情報など一つもない。情報源に成り得る警察からさえあれだけしか聞くことができなかったのだ。どうすると聞かれても今までそれとかけ離れていた生活をしていた僕には難しい。情報収集に尽きるのだろうが、犯人がどの範囲内いるかさえ解らないこの状況では聞き込みするにしても絶望的な範囲だ。
 ならば国原から辿っていくしかない。けれどあいつは引っ込み思案な性格で僕らや彼女の両親、生徒会の人以外に付き合いがあるとは考えにくい。中学校や小学校の時の仲、ということならばありうるかもしれない。でも、だとしたら何で今更なのだろう。高校になって何で。
「国原につながるものが無いんじゃあしょうがないだろう」
「そんなの、たくさんいるではないか。この学校の生徒が」
「いや、俺らや生徒会以外付き合いないだろうあいつ」
「袖振り合うも多生の縁というだろう」
「だったら学校以外だってあてはまるじゃないか」
「国原は学校で死んでいたのだ。部外者が学校に入ってきたら目立ってしょうがないと思うんだが」
「誰もいない時だったんじゃないのか? 国原が殺されたのは最後の先生が帰る時間から翌日の最初の一人が来るまでの間。深夜なら誰もいないだろうし、学校内を疑わせるためかもしれないぞ」
「まぁ、なんにせよ、容疑者をつぶしていくことは悪いことではないだろう」
「それはそうだけど。うちの学校全員で600人はいなかったか? 一人300人ってきつ過ぎるだろう。容疑者をつぶすにしても効率が悪すぎる」
 更に言えば教職員や事務員もいるのだ。一日100人に聞いたって一週間はかかる。
「問題ない」
 僕の思考をよそに、やたらに自信ありげな千堂。
「どうして」
「お前、私に心を読まれたと思ったことがあっただろう」
「まぁ、あるけど」
 口に出していないのに先回りしてつっこみを入れられることはよくあった。その度に本当はエスパー何じゃないかと思うこともあったけど、非現実的だと思っていたのだ。しかしこの口ぶりはまるで、そうだと言っているかのようだ。
「そう。同じように、心を読めばいいのさ」
 ふっと笑って、千堂は眼鏡を外した。

     

「お前正気か?」
「正気も正気。大真面目だ」
「熱でもあるんだろう。どれ」
 そう言って熱を確認しようと僕は右手を伸ばした。が、僕の腕をだれかの左手がつかんだ。手の先を辿ると、どうやら千堂が邪魔したらしかった。
「熱などない。というか、額を触るにしては位置の低いその手は何だ」
 その言葉を受けて僕の右手を見てみると、手の平はなかなか自己主張している千堂の胸に触れそうになるほど近い。これはびっくりだ。わざとだけど。
「いや、心臓の調子を見ようかと。拍動をね。熱の確認はどこ触っても一緒だろ? ついでにさ」
「不埒だな。お前こそ熱があるんじゃないのか」
 僕の適当さあふれる言い訳に、彼女は呆れたような溜息をつく。ついでにそれとなく半歩後ろに下がった。どうやらそういうことに関して全く無関心ではないらしい。ただ、自分の行為に関しては無頓着だけど。
「それを言うなら全国の高校生男子が常に熱があることになるぞ。僕は健全……もとい大丈夫だ。しかし、反応から見るに頭は回ってるんだな。熱はないらしい」
「どんな確認の仕方だ。それに、全国の男子高校生は一緒にされたくないと思っていると思うぞ」
「お前は男が解ってないな。だが、それよりも心配すべきはお前の頭の方だ」
 熱はない。となると、正常な脳みそを回転させて心を読むなどと言ったことになる。
 千堂はどうやら電波少女だったらしい。僕は心の中で頭を抱えた。うすうす感づいてはいたけど、悩みの種が一つ増えてしまったわけだ。絶対に受信したくない電波だ。
 いや、確かに読まれたようなことはあったけれどいつもじゃない。たまたま次に言う言葉が見え見えだったというだけだと思っていた。
「電波じゃない」
 早速心を読んでくる。なんだかもう、僕が思考を電波で発して千堂に受信されている気分だ。となればもう口で発する必要はないのだろうが、会話において声を発しないことは気持ち悪さを覚えるので喋る。というかまだ信じたくない。信じてしまえば電波少年になってしまう気がする。もしも僕がそうなって、電波少年と電波少女がそろうようなことがあったなら、それはそれは災害レベルの電波が生まれかねない。って、そんな心配をしているわけではないけれど。
 もうなかなか電波に汚染されているのかもしれない。
「だって、心を読むって超能力じゃん」
 僕がそう言うと、うっかりしていたという風に元々大きい目を更に大きくさせた。
「ああ、いや。そうか、そうともとれるな。すまない。正確に言えば心を読むに似たことをするだけだ」 
「読心術?」
「まぁ、その類だ。とはいえ私のは至極曖昧なものだけどな」
「というと?」
「相手の表情、声音の変化、質問に対する機微、応答による身体の反応。そういったものを総括して判断する。これが私の心を読むと言う行為だ。厳密に考えていることが解るわけじゃない。思考を読むんじゃなく、あくまで外見に表れたことで想像するだけ。大まかに過ぎないんだ。俗な言葉で言えば顔色を読むってやつだよ。感覚的なものだからきちんとした方法論を述べることはできないが。それに」
 あまり使いたくないものだしな、と彼女は続けた。
 僕は少し胸をなで下ろす。どうやら本人いわく超能力ではないらしい。僕の見当は外れていたのか。嬉しい限りだ。まぁ、それにしたって心を読むなんて今時天下一の嘘つきだって言わないような虚言だけど。
 しかし要領を得ない言い方をする。読心術の類であることは解ったけど、それ以上はさっぱりわからない。やり方を知ったところでできる芸当じゃないだろうけど。と、僕の気持ちを察したのか千堂は続ける。
「ふぅん。単なる超能力よりは胡散臭くなくなったけど。でも僕はお前みたいな芸当できないぞ。しかも結局600人調べなければならないことに変わりはない」
 各々に聞いていかなければならないことには変わりはなく、多少調査スピードが速くなっただけのこと。
 だが、千堂は自信満々だった。
「確かに。だが、心配には及ばない」
「どうやって」
「それは……っと」
 ここまできて、ようやく教室前に着いた。扉の上を見ると2年B組と書いてあるプレートがある。僕らのクラスだった。
 千堂は扉に手をかける。
「この話は後にしよう。じきに解る」
「いや、気になるんだけど」
 僕がそういうと、こちらを見て笑った。
「私の目は相手の観察だけが得意なわけではないんだ。実はこの学校の誰よりも目がいい。マサイ族ばりだぞ」
 全然答えになっていないセリフを吐いて、彼女は中に入っていく。全く、これじゃいいところでCMを挟むテレビ番組のようだ。果たして、どうするつもりなのか。僕は千堂の考えてることなんてさっぱりわからないから解らない。

       

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Neetsha