「ハイヨー、シルバー!」
「黙れジジイ! 俺はシルバーじゃねぇ、トナカイ様だ!」
「似たようなもんだろ。シルバーでいいじゃん」
「……てめぇ、いい加減にしないと座薬の代わりに俺の角突き刺すぞ!」
サンタクロースとトナカイはにらみ合う。トナカイがソリに乗るサンタの方を振り向いている格好だ。いさかいなんて子供に夢を与える側としてやっていいのかは知れないが、気が合わない以上しょうがないのかもしれない。
「君、今全国の痔の人を敵に回したよ。……まぁ、それは置いといて。今日は忙しいからね。なんせ年一度の大仕事だ」
「そうだな。一年、この日のために生きてるようなもんだし」
「何仕事上がりにビール飲んでるオッサンのセリフを吐いてんのさ」
「しょうがないだろ、他に仕事も無いんだよ」
「ニートじゃん」
「ニートじゃねぇよ! 正に現在、ジャストナウ、働いてるだろうが! 休暇が長いと言ってくれ! なんだ、そういうお前はなんかしてるってのか?」
年1日出勤なんて志望が殺到しそうな仕事だ。ただ、条件がトナカイであることなので人間には就くことができない。まったくもって残念。
サンタはふんと鼻を鳴らし胸を張った。実際には腹が出たといった方がいいけれど。
「うん、コンビニのバイト」
まさかの衝撃告白。子供には絶対に聞かせられないセリフだった。
トナカイはびっくりした顔でサンタの方を向く。
「え?」
「あれ、知らなかった?」
「プレゼントの用意してるとかじゃなく?」
「だからその資金稼ぎさ。最近はゲーム機をねだる子供が多くて、いっぱい稼がないと買えないんだよ。昔はベーゴマとか剣玉でよかったからそんなでもなかったんだけどね」
やたらにリアルな発言だ。意外に苦労しているらしい。
「アンタそんなことしてたのか……。っていうか普通に買ってたんだ……」
「そうそう、以外に大変なのよ。君たちみたいに当日まで草ムッシャムッシャしてればいいわけじゃないのさ」
「ムカツク言い方だな! お前のヒゲをムッシャムッシャしてやろうか、この野郎! ……でも、なんでそこまでするんだよ。大変だろ?」
「なんだい? わかりきってるでしょ、そんなの。それはね」
サンタは自分が抱える袋に手を伸ばす。取り出したのは一枚のカード。そして白い髭に覆われた口が開く。
「お金じゃ買えない価値がある! 買えるものは――」
「へぇ、サンタって裏でこんなことしてたんだ」
僕はテレビに視線を留めつつ、ココアをすすった。仕事から帰ってきたばかりで冷えていた体が温まる。
今日は12月24日。窓の方を眺めると雪がしんしんと降っている。幻想的な夜だ。
「CMの話でしょ。なに真に受けてんの」
妻は寝室から出てくると、冷静にツッコミを入れてきた。どうやら娘を寝かしつけてきたようだ。画面ではサンタとトナカイが「プレゼントはカードで!」とか言っている。ごめん、今年は現金で買っちゃった。
「寝室まで聞こえてた? あ、じゃあ音量下げよう。起きちゃうかもしれないし」
「大丈夫。ただ最近よくやってるから、画面見て分かったのよ」
「へぇ。っていうかこれ、普通に買うとかさ、なんかサンタっていうよりはただのお父さんって感じだな」
「ははは、確かに。夢の無いサンタよね」
「間違ってはいないけど、酷い言い様だなそれ」
どうにも子供のイメージを真っ向から粉砕しかねん奴だが、僕はこのサンタにはやたら親近感が湧いた。あるいはそれを狙ったCMなのかもしれない。
ココアを飲み終えて、僕はソファーから腰を上げる。
「さてと、じゃあ今日最後のお仕事行ってきますか」
「そうね。行ってらっしゃい、お父さん。あ、サンタさんね」
妻は包装紙とリボンできれいに包まれた箱を出す。僕こと夢の無いサンタはそれを持って寝室の方へと足を運び、すやすやと眠る娘の横にそっと置いた。