賭博神話ゼブライト
02.クレイジィ・フェアリィ
「だって二分の一だものなァ――そんな分厚い綱を、こいつが踏み外すわけはねえよ。
なァ、シマ?」
少女が沈黙の銃を卓に戻す。ごとり、と次の役目を再び待つ鉛の塊。
シマは、そこでようやく雨宮の存在に気づいたようだった。
肩越しに振り返り、あっ、とその口がまんまるを描く。
「あ――雨宮っ!」
澄んだ声が聖堂に響き渡り、雨宮は一歩引いて身構える。交差する視線。
シマは雨宮の残った腕を掴み、ぶんぶんと振り回した。
「久しぶり! 元気だった? わぁ、なんか、老けたね!」
「……ん? お、おう」呆気に取られ、一瞬ろれつが回らなくなる。
シマの上家に座っていた虎縞法被を着た少女が胡乱げに顔を上げた。
「にいちゃん、誰や? シマの連れか?」
右腕にはりついたシマを振り払い、雨宮はこほんと咳払いをする。
改めて四人を見渡す。
「急にやってきて悪かったね。俺は――」
「雨宮秀一、だろ」
答えたのはシマではなく、見覚えのある顔だった。
「よぉ烈香。おまえともご無沙汰だったな」
「なんや? 烈香とシマもグルだったんかいな。ひとりで乗り込んできたのはうちだけか?」
「違う――」
十六夜烈香は、かけていたサングラスをあげた。アーモンド形のつややかな瞳は不満の色に染まっている。
「私は友達は作らない。あんたらだって勝負師ならそうだろう、さくみ、シャガ」
さくみと呼ばれた法被少女はけらけらと笑い、赤いシスターは微笑で肯定した。
なるほどこいつらが噂のトリプルSランクか――と雨宮は忍び笑いをもらす。
「俺がここに来たのは、まァ観戦だよ。風清会がとうとう打ち倒されるってんでね、歴史的瞬間に立ち会おうってわけだ。これで日本の治安もよくなるね」
シャガの表情は凍っているよう。それがかえって不気味だ。
「ねぇねぇ、わたしの応援しにきたんでしょ?」
「おまえはどうしてそうポジティブなんだシマ? 頭沸いてんのか? この腕が誰のせいで」
ぽんぽんと袖を叩く。
「ぶっ飛んでったと思ってんだよ」
「えぇ、わたしのせい? 天馬じゃん?」
「どっちもだ。てか天馬のせいにすんの?
――おお、そうだ。列香。おまえ急にいなくなるもんだから白垣が心配してたぜ。
これが終わったら帰ってやれよ。寂しくて夜も眠れんそうだ」
はぁ、とため息をつく烈香からは彼女の積み重ねてきた苦労が窺える。
「あいつの差し金でやってきたのか――あのバカに言っといて。
もう代打ちはやめる、ひとりでやってくって」
「ふうん。じゃ、そう伝えとくよ。――ってわけで、俺のこたァ気にするな」
手ごろな瓦礫を積み上げて即席の椅子を作り、雨宮はシマとさくみの間に座った。
「どうぞ続けてくれ、次は誰が引き金を引くのか、楽しみにしてるぜ――
このキチガイども」
くすくすくす。
四人の少女は妖精のように笑った。