Neetel Inside 文芸新都
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Orange Juice
第三話

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第三話

「明日スタジオで練習するから、放課後に駅前に集合ね」
そんなことを今日学校で小林に言われた。なるほど、明日からようやく本格的な練習が始まるってわけだ。その夜、僕は自分の曲の再確認し、ギターの手入れをして床についた。

放課後。駅から歩いて15分ほどのところにあるスタジオに来ていた。スタジオに来たのが初めてだった僕は自分のギターのセッティングをし、マイク等の調整はベースの池田やドラムの保坂に任せていた。
「あ、あ。まぁ、こんなもんでいいかな。」
どうやらマイクの調整も終わったようだ。これで一通り準備は整った。
「じゃあ、早速だけど、曲、聞かせてくれよ。作ってきたんだろ?」
池田に促され、顔を見合わせる僕と小林。
「あ、えっと、じゃあ、先にお願い。」
なんだか小林が恥ずかしそうにしていたので、僕が先に演奏することにした。

あの夜浮かんだメロディに、適当に英語で詩をつけながら歌い、ギターを弾いた。
一通り演奏し終わり、
「まぁ、大体こんなもんだな。」
「おぉ、なかなかいいじゃないか。」
池田が言う。保坂はもうドラムの打ち方を考えているのか、特にコメントはよこさなかった。
「‥‥、へぇ、意外。。。」
「なんか言ったか?」
ぼそっとつぶやくような小林の言葉がうまく聞き取れなくて聞き返した。
「いや、水口君って、もっと救いようのないくらいダークな曲を書いてくると思ってたから、意外だなーって。」
「なんでまたそんなふうに?」
「だって水口君も、私と同じこと考えてると思ったから。」
「ん?どういう意味?」
「‥‥、じゃあ、私の曲を聴いて。」
質問には答えず、小林はギターを弾き始めた。

小林のつむぐメロディは、どこまでも陰鬱で、深く深く沈みこんでいくような音だった。
そんな音のイメージは、目立つ方ではないにしろ、人懐っこいようなかわいらしい顔で、人当たりもいい小林のイメージからは遠くかけ離れたものだった。
「‥‥、どっちかってーと、小林の方が意外なんじゃないか?」
ついつい口をついて出てしまった。
「そう?」
「ああ。なんかもっと、フツーのポップソングを書いてくるかと思った。」
少しむっとしたような表情を浮かべる小林。
「そう。で、どう思う?池田君と保坂君は?」
「うーん、小林さんの曲もなかなか良かったと思うよ。」
当たり障りのない意見を言う池田。
「ありがと、でも、じゃあ、どうしよっか‥‥。」
沈黙。
するとしばらくドラムをたたかずじっとしていた保坂が口を開いた。
「えっとさ、水口の曲はイントロとサビの部分がすげーいいよ。で、小林さんのは全体的にダークでいい雰囲気。だからさ、水口の曲のイントロとサビに、小林さんの曲から取ってきてつなぎに使ったらどう?俺が思うに結構いい感じに仕上がると思うよ。」
お互いに顔を見合わせるぼくと小林。
「‥‥、じゃあ、やってみる?」
「‥‥、そうだな。」
小林から曲の大体のコード進行を教えてもらい、演奏してみた。

信じられないほどに、うまくつながった。
まるで元からひとつの曲だったみたいに。

僕の曲の星空のイメージと、
彼女の曲の深海のイメージ。
二つ合わさって、わっかを作って。

僕たちの曲が始まった。

       

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