魔人ブウとの激戦から五年余り過ぎた頃――
「なに?結婚式だと?」
ブルマがいきなりこう言い出したのだ。俺が驚いたのは言うまでもない。
「そうよ。ねえ、ベジータ。私たちよく考えてみると結婚してないじゃない?」
「そ、そうだがなぁ。今はもう子供も居る。そして、お前は俺の妻と言うことになっている。周りの人間・・・カカロットやらピッコロやらもそれは知っているはずだだから、今更その必要は・・・」
俺がそういうと、ブルマは困ったような表情で首を振る。
「それが、ダメなのよ。ほら、コレ見てよ」
なにやら折りたたんだ紙のようなものをブルマがポケットから取り出し、俺の手に渡した。何が書かれているのだろうか、俺はそれを開く。
――こんにちは。ベジータさん、ブルマさん。元気ですか?――
お久しぶりです。僕はこうして手紙を出すのは初めてです。あまりどう書いていいのか分かりませんが、今僕が思っていることをこの手紙に綴ろうと思います。
悪の魔人ブウを倒してから、五年も過ぎたんですね。今のブウさんは、僕のもうひとりの父親、ミスター・サタンと仲良く暮らしているようです。
そう、僕はビーデルさんと結婚しました。ちょうど一年前です。今は僕にも一人の娘がいます。父親になるということは、思っていたより苦労が多かったです。ベジータさん、あなたはどうでしたか?
まあ、それはともかく本題に入ります。ちょうど八年ほど前、未来のトランクス(さん?)が未来の人造人間の二人を無事に倒せたことをタイムマシンで報告に来たことがありましたよね?
そのとき、僕はあのときのトランクス(さん)からこう聞いたんです。
『僕たちの居る世界では、父さんと母さんは結婚していないんです』
詳しく聞くと、
『人造人間の恐怖から解放され、すっかり平和になった未来でも、いまだに悲しみの残る人は存在しています。僕の師匠だった悟飯さんの母親、チチさん。その他大勢の、世界中の人々。
僕の母さんだってそうです。僕の目の前では決して言葉にもしませんが、父さんのことを今でも思って、夜が更けたころに一人で泣いているときがあります。僕はそれを見たとき、どうしようもなく居たたまれない気持ちになるのです』
このとき聞いた話は、今でも僕の心に残っています。僕に話してくれた彼の表情が悲しげだったのです。
話は変わりますが、つい昨日僕のパソコンに一通のメールが来ていました。詳しくは記せませんが、どうやら未来のトランクスからのようです。
どうやって届けてきたのかは知りませんが、内容は簡単にまとめると、次のようになります。
どうやら未来のブルマさんが、ふと『結婚式を挙げたかった』と、ポツリと呟いたそうです。トランクスには聞こえていなかったつもりだったようでしたが、ちゃんと聞いていたようでした。
そのために、トランクスは母さんに何かをしてあげたい。そう思ったようです。いろいろと考えを起こした結果、このような結論に達したようです。
『父さんと母さんの結婚式の写真を、一枚でもいいから分けて欲しいのです。そのため、そっちの今から一ヵ月後に、タイムマシンでこちらの世界に来る予定になっています。お願いできますか、悟飯さん?』
文面をそのまま写しました。今は何故か、パソコンにメールは残っていませんが、あれは絶対にトランクスからのメッセージであったと確信できます。
ペラ
しかし、僕は忘れていました。あなたたちがまだ結婚をしていないということを。
まあ多少のことを省きますが、ベジータさん。ブルマさん。お二人とも、結婚してはいかがですか?
もちろん、僕も結婚するに当たって、親族への挨拶や式場探し、費用などの問題もいろいろとありましたが、結婚をして今の僕は後悔してはいません。むしろ、美しい妻、可愛い娘、元気なお母さん、そのお父さんと幸せに暮らしています。
ちなみに、悟天はいま一人暮らしをしています。お母さんも淋しがってはいましたが、ほぼ毎日手紙が送られてくるので、元気でやっているのでしょう。
話が逸れましたが、こっちのトランクスももうお年頃になってきています。おそらく、いずれは結婚もするでしょう。そのときに相手側の親族と会って話をするとします。
その際、トランクスの両親であるあなた方が結婚していない、ということになったら、おそらくは少々困ったことになると思います。それに、ベジータさんには分からないと思いますが、結婚をしていないといろいろと苦労があるものなのです。
「俺にはわからないだと?くそったれめ!!ここだけ余計だ!!」
「いろいろと長いのよ・・・そこから先は最後あたりまで、結婚のことについて語ってるわ。悟飯君」
…とにかく、未来のトランクスのためにもあなたたちは結婚をすることをお勧めいたします。
孫悟飯より
「もうおしまいか・・・くそ、紙三枚に裏表まで文字でびっしり埋め尽くしやがって・・・」
こんなに長い文章を読むのは久しぶりだ、俺はそういえば、本すら読んだことなかった。
「そんなことより、どうするのよ。式場は」
ブルマは横の棚から数冊のカタログを取り出した。
「お、おい・・・ちょっと待て。」
「あら、ベジータ。あなた、未来のトランクスのためにしてあげたいと思わないの?結婚」
「いや、しかし・・・心の準備が・・・」
「でも、私もこんなきれいな服着てみたかったんだぁ。ほら、これ見てよ。ベジータ」
ブルマはカタログの中に映し出されている数着のウエディングドレス見て、子供のようにはしゃいでいる。
そんなヤツの笑顔を見ているうちに、俺も思った。
案外、結婚というのも悪くはないかもしれん。
つづく