ニーノベ三題噺企画会場
お題②/かささごと/黒兎玖乃
「おい、知ってるか」
「何だ?」
「隣の明美ちゃん、博志に持ってかれたらしいぜ」
「マジかよ! くそう、俺みたいなのとくっつくわけがないとは思っていたけど、まさか博志にとられるとはなあ……」
「まあ、そもそも俺達なんかとはくっつくはずがないんだけどな」
「だよなあ…………」
「ま、俺達も気長に運命の人が現れるのを待とうや」
「そう考えるのが一番気が楽だな」
「…………ところで、ちょっと話があるんだが」
「今度は何だ?」
「例の件だよ。俺達の組織についての話だ」
「ああ、なるほど」
「このところ、俺達二人を除いて会議に参加するものが少ない。最近めっきり寒くなってきたから参加したくない気持ちも分かるが、どうしたものか」
「たまに来たとしても、俺達みたいに泊り込みで話し合ったりしないものな」
「ま、仕事をほっぽりだして色々と話しこんでる俺達も俺達だが」
「ははは、言うなよそういうことを」
「時は金なりってね。ぼつぼつ仕事するよりかは、こうやって端からほっぽりだして違うことに集中した方がよっぽどお得ってもんだ」
「言っちゃいけねえことだが、そいつについては同感だ」
「まったくだな」
「…………時間、か」
「どうした? 急に感傷的になって」
「いや、昔からよく言うじゃないか。時間は人を大人にするって」
「ああ……何か聞いたことがあるな。俺達には関係ない話だと思ってた、てか関係ないよね」
「そりゃ当然なんだけどさ。ふとした瞬間に考えることって良くあるじゃん」
「うーん…………だとしたら、俺達はもう大人になれてるんだろうか」
「って思ううちはまだまだ子どもなんだ、っていう心理テストがあった」
「何だよ、それ」
「大人になれているんだろうか? と思ううちは大人で、そんな事を気にしなくなった瞬間に大人になるっていう話らしい」
「お前が哲学的なこと言うと、胡散臭く聞こえるな」
「お前みたいな無味乾燥な奴には言われたくないね」
「お前こそほこり被ったような面しやがって」
「ほっほう」
「はふほう」
「それにしても、俺らって今の今までよくこうやって話してこれたなあ」
「そんな悲しくなるこというなよ……分かりきったことほど単刀直入に言われると悲しく思えてくるんだからさ」
「悪い悪い。でも、もう随分と長いよな」
「ああ。以前はもっと組織らしい組織だったんだけどな」
「みんな、仕事で忙しいみたいで」
「そうだな」
「……俺達も、いい加減仕事に目覚めなきゃいけないかな」
「…………かも、しれない」
「明日の天気で、仕事をするかどうか判断するか」
「ああ」
「……俺達、変われるかなあ?」
「何事も自分次第だろ。自分が出来るって思えば、何でも出来るようになるさ」
「そうだと良いんだけど」
「こんなところでグチグチ言っててもしょうがねえよ。前向きに生きていこうや」
「前を向く機会はあんまりないんだけどな」
「そりゃそうだ」
「さて、それじゃ仕事が来るのを黙って待つこととしましょうかね」
「だな」
「先生、置き傘が二本残っています」
「誰も使ってないみたいだな。処分しておいてくれ」