私は部屋の中央に立ち、杖を拾っては離すという作業を繰り返している。
「ねぇ、ずっとこんな事ばっかりやってて。本当に出られるのかな?」
「私の予想が当たっていればね」
ミルトは床を見つめながら、何やら難しそうな顔で眉間に皺を寄せている。
私達の立つ床には、大きな円が描かれ。時計でいう12時の部分を0として、1から365までの数字が円を一周するように刻まれている。
円の中心には、液晶版が取り付けられいて。私が倒した杖の指した数字が、どんどんと加算されている。ちなみに、現在の数字は1110。
「あのぅ。後どれぐらい続ければいいのかな?」
「私達が目覚めたカプセルの近くに端末があったでしょ?」
「うん、私には扱いかたなんてさっぱりだったけど。ミルトはわかったの?」
「大よその事だけどね。要するに、ここは昔。とある宗教が作ったシェルターなんだよ」
「シェルター……なんでそんなものが必要だったんだろ」
「端末には”星害”と呼ばれる、未曾有の大災害から生き延びる為って書いてあったけど……宗教団体の言ってる事だし。実際、本当にそんな事が起こったのかは眉唾ものだけどね」
なんだか壮大で、現実味がなくて、頭が痛くなってくる。
「でもさ、私達はその宗教の事もこの……えと、シェルター?の事も知らないって変じゃない?」
「それは仕方ないよ。私達はこのシェルターに入る前に、記憶を消されているっぽいから」
「は、はぁ……それで、私もミルトも名前しか覚えていなかったってわけかぁ」
「その通りだよ、レイン。記憶を消したのは、多分この施設から簡単に出られないようにするためだろうね」
メモを閉じ。ミルトは液晶の前に立った。
「ふむふむ。カウンターは1110か。ここからが問題だね」
「そうなの?」
「私の予想では、このカウンターが1111になったら出られるはずなんだ」
「こ、根拠は?」
「この宗教の経典に書いてあった。大災害の1111年後に。この星でなんちゃら神が復活とか書いてあったし」
そ、それだけの理由?なんか、全然論理的じゃないと思うんだけど。
「さ、レイン。がんばって1のところに倒してね」
「い、1のところに置いちゃ駄目だよね?」
「駄目だよ。この装置は不確定な確率で導き出された数字にしか反応しないんだから」
「ら、らじゃあ。失敗したらごめんね」
「失敗したら、思わず殺してしまうかも。ここなら殺人事件にもならないだろうし」
怖い。でも、ここには私達しかいないのだし。あながち洒落になってない表現だと思う。
「い、行くよ……」
とん。今まで何百回と繰り返してきた通りに、杖を置き。手を離す。ころん、と転がった杖の先が示したのは……。
「や、やった……い、いちだよ。ミルト」
「おめでとう。良かった。これで、ここから出られる」
重い音をたてて。ゆっくりと、施設の壁が螺旋状に回転しながら開いていく。
「なんで私達なんだろうね」
外から入ってくる、眩しい光に目を細めながら。私はミルトに聞いた。
「私が教祖の娘で、レインのお父さんが入信者の中で一番お布施したから。らしいよ?」
「何それ、超くだんない」
「さぁ、行こう。あのシステムのカウンター通りなら、1111年ぶりの外の世界だ」
「え?せんひゃくじゅういちねんぶり?」
ミルトの言っている意味が、良くわからない。もしかして、ミルトは全部知って……。
「終わった世界の続きを見に行こう。レイン、この世界にはもう、私達しかいないのだから」