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ニーノベ三題噺企画会場
お題①/黒船忍法帖/牢太郎

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 嘉永6年――西暦にして1853年のこと、地平線に忽然と一つの影が現れた。
 『黒船』である。
 正式には、蒸気フリゲートと言う。
 この巨大な軍艦を先頭とした船団が、突如、幕府の鎖国令を無視して浦賀沖に入港。
 勝手に港の測量やら何やらをはじめ、しまいには空砲とはいえ大砲までぶっ放しはじめた。
 …と言うと一夜にして侵略しにきたみたいであるが、実を言うと忽然でも突如としてでもなく、
この黒船騒動はあらかじめ通達した上での行動であった。
 当時の江戸幕府が「鎖国」を標榜しつつ、特定の国と交易を続けていたのは有名な話だ。
 その得意先であるオランダ商館長ヤン・ヘンドリクなんちゃらから事前に
「来年の3月、アメリカ人がやってくる。幕府は滅亡する!!」
 と予言されていたにもかかわらず、当の役人たちが
「プwメリケンて何ぞwwんなもんおい返してやんよ」
 と余裕をかましたために、このような事態に陥ったのである。
 幕府の役人たちが今頃になって戦々恐々としたのは言うまでもない。鎖国した世でさえ、
島原の乱ようなことがあったのだ。開国しようものなら渡来の宗教・文化が流入して波乱を
巻き起こすのは火を見るより明らか。長きに渡る徳川の世が終わりを告げるのは必定。

 ――と、この一大事の中、事件の渦中である黒船に迫りつつある者が一人…。
 その名も根来二兎丸(ねごろにとまる)!!
 といってピンと来る者はいないであろう。著者も知らない。黒船の船員も同じく
「どうせどこの馬の骨とも知れない浪人もといニートだろ。面倒臭いから殺しちまおw」
 と目視するや否や、銃を構え狙いを定めようとしたがその時、
「OH!!ジーザス!!」
 彼は腰を抜かして、後ろに倒れた!そしてがくがく震えながらペリー提督にすがりついた。
 よく見れば、その者…水上を歩いているように見える。しかも桜柄の裃、唐草文様の袴と
いう井出達、頭には連獅子で使う真っ赤な長髪のカツラをかぶった傾奇者スタイルで。
 それがなんと海面に浮かべた紙の舟の上にちょこなんとつま先立ちし、手に持った杖を
オールのようにして漕ぎながら黒船に近づいてきたのである。
 黒鉄の船VS白紙の船…そんなシュールな光景にさすがのペリーも目を丸くした。
「ワッツ? なんだあれは…」
 と思わず口走ると、ふいに背後にいた背の低い男が声をあげた。
「あ、あれは忍者!?」
 後に名を残すジョン万次郎である。彼は幕府の代表として交渉に赴いていたのだ。

「いざ尋常に勝負!」
 刹那、二兎丸は跳躍した。そして手にもった杖の先を口にあてがい
「根来忍法! 口射精!」
 と叫びつつ杖に息を吹きこんだ。次の瞬間、杖の一方の先から海水が噴出し、黒船めが
けてビーム状に飛来した! 
 波揺れに慣れているはずの船乗りたちがこの時バランスを崩し昏倒したのは、この水鉄砲
の威力によるものであった…が、そうであると誰が想像しえよう?
 何が起きたか理解できぬままペリーが体を起こすと船の欄干にはすでに二兎丸の姿が!
「がははは、黒船敗れたり!どうじゃメリケンども。ワシを雇わんか?この国は退屈すぎ
てかなわん。ワシァ、日々に飽き飽きした。いっちょあんたらについてこの日ノ本をぶ…」
 と言葉を終える間もなく、前に突っ伏した二兎丸の後頭部には、な、なんと三枚の手裏剣
が打ちこまれていた!

 ペリーたちを本当の意味で驚愕せしめたのは、それからであった。二兎丸は後、彼らの
目の前で斬首され、その首が晒された。しかも殺人が行われたというのに町民は終始、
お祭りムードであった。これは外人の目から見ればさぞおぞましく映ったであろう。
 結果、開国の返事は急遽先送りにされ、幕府は歴史上もっとも貴重な一年間を過ごす
こととなる。この騒動に、とある忍者の就職活動が関係していたことなど今や知る者もなし。
 そして1年後、再び黒船に乗り込もうと船を漕ぎだす者がいた。その名は――

       

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