私の名前は愛。『愛』と書いて『らぶ』って読むの。
日本人だけど、生まれはアメリカ。アメリカって漢字で書くと『米』よね。
だから、私のあだ名は『愛米』と書いて『ラブコメ』……。
「うっす、ラブコメ! パンを咥えながら曲がり角目掛けて走ってるか?」
そんなあだ名をつけたのは、隣に住む健一。
「おはよう、健一。殺すわよ」
「突っ込みが怖いわ! ラブコメなんだから、ラブコメらしい毎日を過ごすのがお前の義務だろ」
「そんな義務はお断り。私は平々凡々と生きていくのよ」
こんなやり取りが毎朝あるのだから、さすがにうんざりしている。
けど、それが続いてれば、こんな事にならなかったのに。
目覚ましが壊れてたのにも気付かず寝てしまったばっかりに、本当にトーストを咥えながら走って登校する事になるなんて――
「はぁ、はぁ……遅刻しちゃう」
今、曲がり角で誰かとぶつかれば、名実ともにラブコメになっちゃう。
でも、気をつけてれば――
「いったぁーい……」
やっちゃった。
「いってぇ……ラブコメぇ、何してんだよ」
「け、健一こそなんで逆走してんのよ!」
「俺は忘れ物を取りに……はっ!? パンツ見えてんぞ、お前!」
「キャーッ!」
慌ててスカートを抑えたけど、心底嫌になるくらいの王道展開に、自然と涙が溢れてくる。
「もう……あんたのせいで遅刻するし、パンも落としちゃっうし……ラブコメしちゃったし……」
「ごめんな、愛……」
私が泣き出したので、さすがに悪く思ったのか、健一は謝ってくれた。
それに、初めてちゃんと名前を呼んでもらえて――
「はんせいしてまーす」
全力で殴ってやった。