Neetel Inside ニートノベル
表紙

シェンロン・カイナ
『10.一日の終わり』

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 師走が話した経緯はこうだ。
 最近、兄と喧嘩気味だったのだが、二日前ついカッとなって家を飛び出した。
 外は危ないと知っていたが、頭が冷えたら帰ろうと思っていた。
 ふらふらと公園を彷徨っていたら、殺人鬼に出くわした。
 そいつは風を操る妙な女だった。きっとホームレスもその女がやったに違いない。
「で、そいつにやられて命からがら逃げ果せた君を颯爽と華麗にこのミルナちゃんが助けたってわけよ」
「ああ……恩に着るよ。本当に助かった。ありがとう」
「どういたしまして」とミルナはにこやかに笑った。「月夜の晩にはいい落し物って、ホントなんだねえ」
「やっぱり殺人鬼も、私たちと同じだったんだ」
 半ば覚悟していたのか、言葉とは裏腹にマリはさほど驚いていないようだった。
「そいつは――」と師走は一呼吸置いてから、続けた。
「僕のことをイレギュラーって呼んでた。たぶん、普通じゃない能力の持ち主って意味なんだろうけど」
 師走は思い出す。カンナの殺意の籠った眼を。兄の驚愕した顔を。
「あいつはもしかしたら、能力者を狩っているのかもしれない。ひょっとしたら殺されたホームレスも、妙な能力持ちだったのかも」
 我ながらよくもまァ次から次へと嘘と真を織り交ぜた供述ができるものだ、と師走は自らに感心した。
「それは大変だぁ。マリ、調子乗って外で糸出しちゃダメだよ?」とまったく危機感を感じていなさそうにミルナが言った。マリは重々しく頷く。
「とにかく、殺人鬼がいる限りは、私たちも落ち着いて行動しないと」
 そう言ってマリは携帯電話を取り出した。師走が慌てて身を起こしかける。
「ま、マリ姉。もしかして兄さんに電話するの?」
「うん。迎えに来てもらわなきゃ。動けないでしょ、師走」
 ごめん、ホントにごめんと師走は何度も前置きしてから、
「今、兄さんとは少しまずいんだ。その……できれば、怪我が治るまで、マリ姉の家にいたいんだけど……ダメ?」
 と眼を潤ませて懇願した。昔からマリはこの必殺技に勝てた試しはないので、やれやれと携帯電話を引っ込めた。
「しょうがないなぁ。じゃ、私からクリスに師走と仲直りしろって――」
「これは僕たちの問題だから」師走は苛立ちを巧妙に隠すことに全力を注いだ。
「兄さんには黙ってて。僕がここにいることも。大丈夫、後で生きてるってことだけ連絡しておくから」
「でも……」
「一生のお願いだよ、マリ姉」
「……わかった。でも、ちゃんと話し合わなきゃダメだよ。兄弟なんだから」
 もちろん、と師走は真面目くさって頷いた。
「よし、話はとりあえずまとまったっしょ」ミルナが背伸びして大あくびをした。
「そろそろ寝ようって。もうクタクタ」
 と、二人の視線が師走に集まった。
「何?」
「困った」とミルナが頬をかいた。「それ私の布団じゃんか」
 どうなることかと師走は身を固くしたが、
「はいはい、ミルナは私の部屋で寝ましょうね」
「え? 私はべつに師走と一緒でも、あ、ちょ、ま」
 いいから、とミルナはずるずるマリに引きずられていった。
 部屋から出て行く際に肩越しに振り返って、横たわる師走に手を振った。
「またね、お猿さん」
 師走はやや躊躇ってから、軽く手を振り返した。


<顎ノート>
読者を意識して書く→ピカロアイリス
唯我独尊→天雀、雀奴
若さ→シマウマ

俺若さたりねーんだな。わかったわかった。
昔からそーなんだけど、下手に気を遣うと上手くいかないんだよなー。
天性のわがまま体質。

       

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