Neetel Inside ニートノベル
表紙

シェンロン・カイナ
26.皆を集めて探偵さてと言い

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「どっから話そうかなー。私はこの町に夏の終わりにやってきて、マリに助けてもらって、ふらふらしてたわけ。血ィドバァって出た怪我してたし、いい休暇かだと思ってさ。でもやっぱダメだねえ、退屈しすぎて苛々しはじめた。
 そんな時、師走に会ったんだ。血塗れになった、黄金の猿の姿で。
 師走は殺人鬼にやられたって言ってた。ホームレスを殺したやつじゃないかってね。実際はあいつがその殺人鬼だったわけだけど、その話を聞いたときから――あー違うな、傷だらけの師走を見つけたときから、私は師走をぼろぼろにしたやつに興味が湧いてた。会ってみたかった。
 だからあの日から、そいつのことばかり考えてた。
 それから例の連続失踪事件が起こった。ふらっと人が急にいなくなって、そのまま戻ってこない神隠し。
 でもそれはあんまり興味なかった。誰がどこで死のうと私には関係ないし。マリはすごく心配してたけど。治安とか。
 きっと優しかったからマリは負けてしまったんだねぇ。
 ――え? 違うって、復讐するために犯人を捜したわけじゃない。
 マリは強かった。だからマリを殺せたのは、師走を叩きのめしたやつだってわかった。
 私、どうしても、何が何でも、そいつと闘ってみたかった。
 どっちが強いのか、試してみたかった。考えるだけで胸がドキドキして――狂ってるって?
いいよべつに、狂ってて。正気なんて、つまらなくね?
 マリが死んだホールで、私は二十年前の吸血鬼事件の新聞記事の欠片と、マリの携帯を手に入れた。すぐに警官に取り押さえられちゃったけどね。最近の警察ってカツ丼くれないんだね。
 私は、襲われた二人、マリと師走の共通点を考えた。学生、幼馴染、能力者――探偵部。
 その時にはもう、能力者を誰かが狩っているんだってことはわかった。師走がいってたんだ、襲撃者は能力者をイレギュラーって呼んだって。
 それって、そいつらのことを認めてないってことでしょ。
 犯人は能力者を差別し、秩序のために排除する正義屋気取りのバカ野郎。
 ぶっ飛ばしてやらなきゃ気が済まねー。そう思った。
 その頃くらいだね、連続失踪事件もそいつがやったんだろうなって気づいたのは。
 私はいなくなった人たちの家族を訪ねて歩いた。失踪者たちは、やっぱりニュースの通りある日ぱたっと消えてしまったんだって。いなくなるのは決まって夜中、次の朝にはもぬけの殻。
 誰かに拉致されたんじゃないかって誰かいってたけど、そんなわけない。もし殺人鬼に連れて行かれたなら、きっともっと派手にやったはずだ。でもみんな静かに消えていった。なぜって、自分の意思で彼らは夜中、外に出たから。
 異能の力を持った彼らは、自分の力をこっそり使って発散する遊びをやめられなかった。
 そうやって時々、自分を確かめていないと、何かが消えてしまうように思えたんだろうね。
 たとえば能力を心の慰めにしている人は、その能力が消えたら怖いし困るだろ?
 だから確かめたくなる。自分がちゃんと、異常であるかどうか。
 殺人鬼は、そうやって能力者たちをどうやってかはわからないけど、探知して狩っていったんだ。
 マリも、能力をどこかで使って殺人鬼にバレた。
 そして、あの音楽ホールで――。
 正義屋気取りの殺人鬼は、吸血鬼事件を追ってる。
 私は二つ目の手がかりを調べた。でもこれは簡単だった。真相を知ってる人がいたから。
 二十年前、吸血鬼殺人事件は迷宮入りなんかしてなかった。
 どうしてかって? かんたんかんたん、犯人の素性はね、小説家。その当時、大ヒットした小説が映画化されたばかりで、あちこちの外国でも放映されてすごく好評だったらしいよ。オカルトもののジュブナイル。今度私も借りて見てみよっかな。
 その小説家は、作品が売れたお金で、警察に猟奇殺人事件をもみ消すように頼むくらいなんてことはなかったんだ。
 でも地元の人たちはみんな、その人が怪しいって疑ってた。それが、この町の人が夜を恐れるようになった原因。
 その小説家の名前が知りたい? ――知りたくないっていってもいってやるっての。
 そいつの名前は藍馬宗治、当時三十二歳。
 君のお父さんだよ、カンナ。
 ――話を続けてもいい? 具合悪いんだったらアキラに支えてもらいなよ。相棒なんだろ?
 吸血鬼事件を殺人鬼が追っているなら、私といつかぶつかるって思ったけど、藍馬宗治の周りを調べてるうちにもっと早くケリがつきそうな気配になってきたんだ。
 藍馬宗治は七年前に他界。それ以来、娘のカンナはひとり暮らし。
 マリとアキラと師走の幼馴染で、探偵部の部長で、揉め事には首を突っ込みたがる夕闇が丘高校名物の女子生徒。
 今はどういうわけか、アキラと一緒にこっそり暮らしてる。
 そのアキラも奇妙なことに、弟がいなくなったのに心配もしないで学校に通ってる。事情なんてすべてわかってて、心配なんかしなくていいって顔で。
 カンナ、君、葬式で私にいったよね。おまえがマリの代わりに殺されればよかったんだ――って。結構効いたよ、あのセリフ。
 マリは変死扱いだった。燃えたのは、マリだけ。周囲の床や壁には焦げ跡ひとつなかった。それが殺人鬼の能力の特徴なんだろうね。
 マリはさ、自殺とも他殺とも事故死とも判断がついてないんだよ、世間では。
 どうしてあんたは、マリが殺されたんだって知ってたんだい? そう思ったから?
 あんた、探偵なんだろ。探偵は推理しなくっちゃ。なんとなくそう思ったから犯人はあいつです、なんていえないでしょーが。
 聞こえてるかな、藍馬カンナ、空木アキラ。
 私はあんたらを、人殺しだっていってるんだぜ」


 長い長い沈黙の末に、クリスが口を開いた。
「おまえだって、師走を殺したんだろ。あの夜の闘いは、おまえがやったんだろ」
 クリスの問いにミルナはあっさり頷いた。
「じゃあおまえにどうこういわれる筋合いはない。お互い様だ」
 クリスはカンナを守るように背中に隠し、懐から抜き身のナイフを取り出した。銀色の刀身がぎらりと妖しく光る。
「だから今度は俺がおまえを殺してやる。弟の仇だ。そしておまえは、カンナの敵だ」
「ふうん。あんたはどう思う、カンナ」
 ミルナは体を傾けて、クリスの向こうで俯いているカンナに問いかけた。
「自分のこと、私のこと、どうケリをつけ」
 刻まれろ。
 ミルナが咄嗟に背後に飛び、一瞬前まで彼女がいた空間を烈風が切り裂いた。アスファルトが裂け、細かな破片が弾ける。
 振り下ろされた杖の先にあしらわれた瑠璃色の宝玉の中で、行き場のない煙が渦を巻いている。
 カンナが病人じみた顔を上げた。
「あんたはイレギュラー、世界に敵対するどうしようもない反逆者。いたらいけないやつなのよ。だから殺さなくっちゃ。死んでもらわなくっちゃ。みんなの、ために」
「あの優しいマリを殺しても、自分が正義の味方だと思ってんの?」
 カンナは、クリスが今まで見たことのない表情を浮かべた。
 唇を吊り上げ、目つきの鋭さは矢よりも尖っている。
「いろいろごちゃごちゃいってたけど、あんたがいなくなれば、そんな現実はなくなる。すべておまえの狂った妄想。そう、あんたは狂ってるの、ミルナ。だから、いま、楽にしてあげる」
 ミルナの眼前に杖が差し向けられる。
「そう、それでいいんだ。そうでなくっちゃ。反省なんかされても興ざめだ。償いなんか意味がない。最後まで闘うしかない。だけど私は負けない。だって架々藤ミルナは」
 学生服の袖を肩口までまくり上げた。
「最ッ強だから」
 ジグソーパズルが組み合わさっていくように、深緑の鱗が右腕を覆っていく。その侵食が首筋へ拡大するとミルナは顔を苦悶に歪めたが、すぐに元の不適さを取り戻した。
「強者たれ――メタルソニック!」
 杖の先から青い光が走り、カンナとクリスの胸を貫いた。カンナが唱えたのは肉体強化と速度上昇の魔術。
「クリス、これであんたも少しは闘えるはずよ。せいぜいがんばって私の役に立ちなさい」
「合点承知」
 言うやいなや、クリスはたわめた膝を解き放ちミルナ目がけて飛んだ。
 振り下ろされた魔刀と突き上げた鱗手が激突し、星のような火花を咲かす。
 クリスが身を捻って突きを繰り出す。構えもなにもあったものではない、ただナイフを振り回しているだけの攻撃だったが、まともに受ければ容易くミルナの全身を分割できるだろう。
 バカ正直に突っ込んできたクリスをくるりと回って捌き、背後を取る。がら空きだ。背骨を叩き折らんと拳を放つ――が、
「砕けろ――ナイトメアブリット!」
 青い光弾が魔術師の杖先から放たれた瞬間、ミルナは上半身を逸らした。高速回転する光弾が電信柱を爆破した。
「シャァッ!」
 体勢を崩したミルナに襲いかかるクリスのナイフ。彼女はそのまま地面へと倒れこみ、覆いかぶさろうとしたクリスの腹を下から蹴り上げて後方へふっ飛ばした。
 クリスはそのまま団地のベランダへと着地する。
 ミルナは後転し身を起こし、眼前で二発目の光弾を鱗手で弾いた。風船が割れるような音がし、青い光の粒子が舞う。空中に小さな青信号が無数に現れたようだ。
 カンナに向かって突撃するも、壁を蹴って飛んできたクリスのナイフに防がれる。
 拳とナイフの鍔迫り合い。ミルナはにやっと口をゆがめた。
「やるねぇ、アキラ」
「そういうてめえは大したことないな……!」
 軽い挑発にミルナは歯を見せた。
「弟とおんなじことを言うんだ、ねっ!」
 そのままナイフを受け流し、左手の掌底をクリスの顎に打ち付ける。
 のけぞった彼の足を払い、その身体が完全に浮く。あっけなく隙を見せたクリスの呆然とした表情。緩やかになる時。
 ミルナは身をよじり、狙いを定めた。その眼がすうっと細くなり、見開かれた。
 弾丸と化した拳は道路に塗られた標識を粉砕し、その下の黒ずんだ土さえ吹き上げた。
 そこにクリスの姿はない。視界の隅で、カンナが杖をこちらへ向けているのが見えた。
 千切れんばかりの勢いで背後へ振り返ったミルナの鳩尾に、全体重を乗せたクリスのナイフが突き立った。
「あっ」




<顎ノート>
冒頭の長口舌は三人称の中の一人称、みたいな? 小手先芸を?やってみました?てへ?
一月の顎さんマジぶん殴りたいっす!

バトルシーンがとにかくムズイ。みんなどうやってんの?
間の取り方とかもわからん……。

ミルナさんがクリスをやたらと本名で呼ぶのは「寝ぼけて夢に逃げてんじゃねーカス」ってこと。
寝ぼけてたのは俺だったァァァァいつの間にかァァァァァ
ピシガシグッグ

       

表紙

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Neetsha