Neetel Inside ニートノベル
表紙

太陽が登る月が沈む
ロバ

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目が覚めると僕はロバだった。
口には何か棒をくわえていて、その先には二円札が二枚。荒れ果てた牧場にいて、牧場の先には遠いけれどすぐ近くに緑豊かな場所があった。
何故僕がロバなのか。何故僕がここにいるのか全く分からない。何も思い出せなかった。すぐに記憶喪失だと悟った。
とりあえずここを出ようと外へ向かって走ると他のロバにぶつかった。
そのまま口論もなく突然殴ってきたので僕も戦った。
後ろ足で立っての前足でお互いを蹴り合っていると牧場主の変なおっさんがやってきた。
手にはおたまのようなものが合ってそれで僕達を殴ってきた。
かちんときた僕は喧嘩も忘れてその牧場主に突進していった。けれどすぐに投げ飛ばされてしまった。
周りのロバたちも「あーあかないっこないのに」と目が物語っていた。
一人じゃ負けてしまう。けどやるしかない。
さっきの喧嘩と同じように攻撃すると牧場主はドンドン小さくなっていた。いつのまにかさっき喧嘩していたロバも参加していた。
大分小さくなったので僕はそいつを牧場の外へぽーんと投げ捨てておいた。
「やったやった! これで俺達は自由だ!」
喧嘩していたロバは狂喜乱舞し走り回って周りのロバたちにそう叫んでいた。
けど回りのロバたちは僕達を遠巻きにしらーっと見つめるだけで誰も何も言わない。
「どうしたんだよみんな!? 俺達は自由だぜ!」
喧嘩していたロバがもう一度そう叫ぶとさっき牧場主を投げ捨てた方からどんどん他の牧場主が現れてきた。みんな色々な武器を持っていた。
圧倒的な数でとても勝てるとは思えない。後ろを向くと急な下り坂で転げ落ちて怪我をしてしまいそうだった。僕は「逃げるぞ!」と喧嘩していたロバに話し掛けて真直ぐ一番敵の手薄なところに向かって駆けた。喧嘩していたロバもそれに続く。
そこの人達は卵の黄身だけの部分を沢山投げつけてきた。当たったらやばいと思ったけれど幸い一つも当たらずにすんだ。
どんどん接近していくと一人だけ場違いに白い布みたいな小汚い服を着て変なバッグみたいなのからお金を投げつけてくる女の人がいた。
何故か僕はその人を背中に乗せて走った。その人は最初は少し抵抗したけどすぐに「自由にしてくれるのか……?」と聞いてきた。僕は黙って走り続けた。
その女の人は貧乏で黄身みたいなものを買って投げる余裕が無かった。だから一生懸命今まで溜めていた貯金を代わりに投げつけてきたのだ。
その人を乗せて走ると小学校の校庭になった。後ろからどんどん追いかけてくる。
いつのまにか喧嘩していたロバにもう一人のロバが一緒に付いてきた。けどまるで最初からいたようだった。
目指す場所はローマだ。道順は分かっている。北へ向えばいい。
「ローマの道なら右だ。右からいったほうがはやい」
女の人が言った。僕はその言葉に従って階段を駆け上った。
後ろからどんどん追いかけてくる。裏切り者だの待てだの叫んでいた。
もう少しで追いつかれてしまう。しかも乗せているせいできつい。いっそこの人を振り落としてしまうかと思った。すると彼女が「助けてくれ! 私を信じてくれ!」と叫んだので気合でなんとか追っ手を振り払った。
けど喧嘩していたロバたちはそのまま北へと向かって走っていった。しかもその後を僕が振り払った追って達が追いかけている。
「オークス! 右だ! オォォークスゥ!」
僕は喧嘩していたロバの名前を呼んだけれど彼らには聞こえなかったようでそのままいってしまった。僕も戻って声をかける余裕なんかなかったのでそのまま走り抜けた。
「捨石なら多いほうがいい」
女の人がぼそっと呟いた。僕にはそれが囮を意味してもう生きてあえないだろうという事がわかった。でもその通りだなと思ってしまった自分と彼女を酷い奴だと思った。
「しまった! こっちにはお父さんがいるんだった!!」
そのまま走っていると唐突に思い出したように彼女は叫んだ。彼女の言う通りすぐにお父さんと思われる、地面に座っている禿げたメガネの太ったおっさんと門の前で仁王立ちしている渋いおっさんがいた。
強行突破しかないと思った僕はそのまま渋いおっさんに向かって走った。渋いおっさんは「私は緩慢なのだ」と言った。いつのまにか渋いおっさんは消えていた。
なぜ引き止めないのだろう。不思議に思って後ろをちらりと振り返ると彼女のお父さんと目が合った。しばらくにらみ合いが続いた後「私は怠け者なんだ」そう言って目を逸らした。僕も真直ぐ前を見つめて走った。
上で彼女が「お父さん……」と小さく呟いたのが分かった。なんとなくだけどこの後彼女のお父さんは罰を受けるだろうと思う。
坂を駆け上っているとオークスともう一人のロバと合流した。嬉しくなって僕は何度も二人の名前を呼んだ。
「オークス! 生きてたんだな!」
「ああ、そっちもな」
僕達は横に一列に並んで走った。前から歩行者がきたらどうしようかと不安にも思ったけれど歩行者は別に来なかった。
途中自転車を見つけたのでオークスともう一人が自転車に乗った。僕も乗りたかったけど上に彼女乗せてるので乗れなかった。
僕はこっちの道順が全く分からないので彼女に任せっきりになった。しばらく走っていると名前の話になった。
喧嘩していたロバはオークスと名乗った。もう一人のロバも同じように名前を名乗った。彼女もそれに習って自分の名前を言った。けど僕だけいえなかった。
「俺の名前わかる?」
とオークスに聞いたけどわからなかった。なんせ僕は記憶喪失だから名前なんてわからないしなぜ自分がロバなのかということもわからない。けど彼女といてなんとなく自分は人間だったのだなと思うようになった。オークスともう一人は僕が記憶喪失という事は知っていたので彼女に僕が記憶喪失だという事を伝えておいた。
楽しく談笑しているとトンネルに入った。走っていると途中トリケラトプスが首だけ出して僕達を襲おうとしていたけど届かなかった。怖かったけれどやせ我慢してそのまま走りつづけた。
「しまった、こっちは大坂じゃないか!!」
トンネルを抜けてすぐにオークスが叫んだ。言われてみるとこっちの道は大坂だった。トンネルの前で右折しないとローマにはいけなかったけれどお話が楽しかったせいで間違えてしまったのだ。
彼女は「すまない……私の責任だ」と謝った。
「そうだ! お前が……ああっもう! 談笑なんかしなけりゃ良かった!」
オークスは呪わしげに彼女見つめたがすぐに自分にも落ち度があると思い直した。
今から戻ろうと提案したが彼女は駄目だと応えた。オークスもこっちからは戻れないといった。何故かは分からないが納得した。
とりあえず近くの店で休もうという結論になった。すると突然彼女はぐったりとしてしまう。
色々書いてある数値と棒グラフが出てきてその中で体力が102、何かが140ちょい、疲労が82だった。
僕達はロバなので何を示すのか全く分からなくて少し悩んだが疲れているんだとという結論に至った。すぐに近くの店に入ってみてもらうと風邪らしかった。
店主の髭のおっさんはとても堅気には見えなかったけどいい人でよく彼女の面倒を見てくれたお陰ですぐに体調は復活した。
風邪だったのか。気付かなくてすまなかったな。いや、いい。迷惑をかけてすまなかった。
そんなやりとりを何回か繰り返していると髭の店主は驚いたように目を丸くさせていた。どうしたのかと彼女が聞くと僕を指差して「このロバは喋れるのか」といった。
今までロバの声しか出せなかったのにいつのまにか人間の言葉も喋れるようになっていたらしく嬉しかった。けどそれ以上にオークスともう一人は「良かったなぁ!」と感激したようでまるでディズニー映画のように抱き合って合体してグリフォンになった。
上がライオンで下がピポポグリフらしかった。
その日は一日良く休んで次の日彼女は朝ご飯にマックを食べていた。
突然僕は彼女になった。
今なら言える気がする。そう思って私は彼に話し掛けた。
「私ね……学業に失敗したんだ」
大学受験といってもわからないだろうと思って学業といっておいた。
すぐに僕は元に戻った。
僕はロバだったので学業が何かわからなかったけど彼女が泣きながら言っている姿をみて何となくわかった。
「負けたのか?」
と静かに聞く。彼女は肩を震わせながら小さく「うん」とだけ応えた。
また僕は彼女になった。
その後何か会話が続くと思ったけれど彼は一言だけ言った。
「新しい芽生えだ――」
僕はそこで目が覚めた。

       

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