Neetel Inside 文芸新都
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エロ×中二病×シナモン/彼女とのくだらない会話/山田一人


「Is this a pen? これはペンですか?」
「No. This is a cinnamon.いいえ、これはシナモンです」
 四時限目、退屈な英語の授業。僕はあまりにレベルの低い内容から、授業を聞かずに窓の外を見ていた。この程度のレベルの英語は小学生のときからできた。くだらない。
 グラウンドでは三年生がサッカーをしている。体育の授業だろう。本気になってボールを追いかけまわす彼らは実に滑稽だった。何をそんなに頑張る必要がある。くだらない。
 グラウンドを見るのにも飽き、再び教室に視線を戻す。そして目立たないように教室を見回した。一番後ろの窓側。教室内を一望するにはもってこいの座席だ。
 真面目に黒板を見てノートをとるやつ、友達とお喋りしているやつ、手紙を回しているやつ、落書きをしているやつ、寝ているやつ。どいつもこいつも僕には低レベルに見えた。こんなやつらが僕と同い年だなんて信じられない。一体どんな人生を送ってきたのだろう。
 ふん、と思わず鼻を鳴らしてしまう。こんなやつらと同じ扱いを受けているなんて心外だ。
 苛々しながら椅子にふんぞり返っていると、隣の席の女子が僕の方をじろじろと見ていた。長い黒髪に白い肌。柔和な笑みを浮かべている。名前は覚えていない。
 顔に何かついてるとでもいうのか。僕は自分の顔に触れて確かめてみる。
「ごめんね、顔に何かついてるとかそういうのじゃないんだ」
 女子はクスクスと笑いながら言った。
「何なの?」
 思わず不快さをあらわにして返事をしてしまう。僕としたことがスマートじゃない。
「いつも退屈そうにきょろきょろしてるからさ。気になっちゃって」
「そりゃあ退屈だよ。授業のレベルが低すぎるんだ」
「へえ。英語得意なんだ」
「小学生の頃は英会話の塾に行っていたからね」
「英語以外の勉強もできるの?」
「まあね、ちょっと予習復習すれば問題ない」
「すごいね。だから周りの人を見下すような態度でいるんだね」
 彼女は笑みを崩さずに言った。
 僕は見透かされたような気持ちになり不快さが増す。確かに周りの奴らを見下してはいるものの、それを態度に出さないように努めていたから。
「ああ、見下しているよ」
 看破されているのなら仕方がない。事実だし素直に認めることにしよう。
「どいつもこいつも、くだらないやつばかりだ。中学生にもなってガキっぽさが抜けやしない」
「でも、みんな少しずつ色気づいてるよ。恋愛に興味を示す人が多くなったり。これってちょっと大人に近づいてるってことじゃないかな」
「所詮はガキの恋愛だよ。くだらない。お遊び程度の付き合いで長続きなんてしやしない」
「確かに、みんな長続きしないかも。私も二カ月以上続いたことないもの」
 意外だった。彼女も異性と付き合ったことがあるとは。少し舌足らずな喋り方や垢ぬけない雰囲気がそう思わせているのかもしれない。
「だろう。恋愛にうつつを抜かしてても背伸びしたガキであることに変わりはないよ」
「君は恋愛に興味はないの?」
「ないね。馬鹿ばっかりの同年代に魅力を感じないし、そもそも恋愛にメリットを感じない」
「ふうん」
 彼女は僕を小馬鹿にするように言う。少しカチンと来る。
「何か文句でもあるのか?」
「あら、怒らせちゃった? そんなつもりはなかったんだけど――」
 彼女は余裕のある表情で弁解する。だが、その途中で教師の声が飛んできた。
「そこ、私語はやめなさい」
 少し話に集中しすぎたようだ。とりあえず謝っておくか。
「すみません」
「ごめんなさい」
 彼女も僕に続いて謝った。
「じゃあ、罰としてこの英文を訳して。ちょっと難しいわよ」
 教師は黒板に書かれた二つの英文を指さした。ちょっと難しい? 馬鹿にしやがって。
「まるでシナモンに愛撫されているようだ、とユキは言った」
「はい、よくできました」
 次は彼女か。僕は余裕だったが彼女はどうだろうか。
「女性が発するフェロモンはシナモンの香りによく似ている、とリーは言った」
「はい。二人とも英語得意なのね。だからといって私語はしないように」
 そう言って教師は僕たちから視線を外した。
「君も英語得意なんだな」
「まあ、予習復習はちゃんとしているから。そんなことより」
 彼女は再び注意されないように声のトーンを落とした。
「君は恋愛ってどんなことするものだと思ってるの?」
「それは中学生の恋愛ってことでいいのかい?」
「ええ」
「なら簡単だ。中身の無いおしゃべりに時間を無駄にするようなデート。手をつないだりキスをしたりするかもしれないけど、やっぱりくだらないよ」
「それだけ?」
「どういうことだ」
 僕は思わず訊き返す。すると彼女はさらに声のトーンを落として話し始めた。
「私は小学校六年生の頃に処女を喪失したわ。相手は近所のお兄さん。今はこの学校の三年生」
 衝撃的な告白だった。彼女に恋愛経験あるというだけで意外に思ってしまったのだから、驚くのは当たり前だ。
「でもそのお兄さんとはすぐに別れたわ。ちょうど一カ月くらいだったかな。今までで一番長いお付き合い」
「早熟だ」
 という言葉しか出てこなかった。彼女は話を続ける。
「それから中学に上がってすぐに別のクラスの男の子と付き合った。セックスもした。だけど二週間も続かなかったかな」
 それからさらに彼女は自分の経験した男の話を続けた。僕はただ黙って聞くことしかできなかった。
「私たち、中学生だけどセックスができるの。子供が作れちゃうの。そういう身体に成長してるの」
「早すぎるよ。あくまで背伸びしてるだけだよ。身体に悪いし、妊娠したらどうするんだ」
「避妊くらいちゃんとしてるよ。少なくとも私は」
「だけど、いくらなんでも……」
「最近の中学生はみんな平気でセックスしてるよ。あの子も、あの子だって」
 彼女はクラスにいる一部の女子をひっそりと指さした。見るからに遊んでいそうな雰囲気の女子ばかりだ。経験者の中でただ一人、彼女だけが浮いている。どこからどうみても、そういう風には見えなかった。
「だけど、確かに背伸びしてるって言われたらその通りかもしれない」
「ほら――」
「でもね、私には君も背伸びしてるように見えるよ」
 彼女は再び柔和な笑みを浮かべて僕の目を見つめた。僕は目をそらすことができない。彼女の瞳の奥に吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚に陥る。
 沈黙。見つめ合ったままどれだけの時間が経ったのか。僅か数秒かもしれないし、数分、数十分見つめ合ったままだったかもしれない。
 そんな状況を壊すように授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「はい。キリがいいので今日はここまで」
 他の生徒たちはぞろぞろと立ち上がる。僕たちも視線を外し、そっと立ちあがった。
 日直の号令で挨拶をすませ、給食の準備に取り掛かる。そう言えば僕と彼女は隣同士、同じ班だ。給食のとき、気まずくならなければいいけど。
 机を並べ替え、みんなでくっつけ合う。彼女の机は僕の正面。
 並べ終えると、彼女は僕の方に寄って来た。何事かと思っていると、そっと僕に耳打ちする。
「昼休み、体育館の中の倉庫に来て」
 不意の誘い少し戸惑う。そんな僕の表情を見て彼女は笑う。
「背伸びするって、悪い事じゃないと思うよ」
 そう言って、彼女は友人の女子と共にどこかへ行った。何度見ても、彼女の笑みはあどけなさの残る少女のものだった。




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 エロ×中二病×シナモンというお題で書かせていただきました。シナモンの絡め方に頭を抱え、逃げるような使い方になってしまいました。
 最近、清楚な見た目だけど処女じゃない女性というのが僕の中のマイブームでして、この作品でも似たような女性を書かせていただきました。
 シナモンほどではないにしろ、エロというお題は難しいものですね。

 読んでいただきありがとうございました。

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