娼婦+逆さま+崇拝/ルナティックの歌/橘圭郎
天にはまんまるお月様
月にはねんごろ女神様。
女神を仰いだ神殿は
夜に花咲く娼婦の館。
大陸一の神殿に
そぞろと集う男共。
こちらは海の向こうから
あちらは砂の舞う地から。
聞いた噂に釣られてね
すごい女がいるってさ。
晴れた空には傘を差し
雨降る日にはびしょ濡れよ。
だって彼女はルナティック
月(ルナ)の名を持つ巫女だもの。
蝶の留め金、髪に着け
薄衣(うすぎぬ)まとって踊るのさ。
ラライララライ ララライ ライ
お手をどうぞと微笑んで
ほんのり染まった頬よせて。
蒼い瞳にゃ狂気が宿る
サライサラライ サラライ ライ
見つめられたらもう虜。
ところがある日、あちこちで
変な病が流行ったと。
全身ぶつぶつ腫れだして
熱に浮かされ夢心地。
終いにゃ脳みそドロドロに
溶けて狂って死ぬんだと。
王様、司祭、医者、大臣
雁首そろえて話し合い。
病に原因あるならば
しらみ潰しに探し出せ。
兵(つわもの)放って草の根分けて
集めた証言ひとしきり。
男が揃って言うことにゃ
皆が彼女を抱いたとさ。
天に輝くお日様は
汚れたものが大嫌い。
土も空気も樹も人も
腐れる前に焼き払え。
手遅れになぞするものか
疑わしきは焼き払え。
槍持ち司祭、列を組み
日輪(ひのわ)の旗をなびかせり。
娼婦のルナをひっ捕らえ
見せしめ広場に引っ立てた。
女の妬み深いこと
ここぞとばかりに石投げる。
ざまあ見ろ見ろ、いい気味だ
綺麗で若けりゃ偉いのか。
足に縄され鞭打たれ
夜蝶は二度と羽ばたけじ。
杭で張り付け逆さ吊り
真っ逆さまさ、逆さまさ。
ついにそのときやってきた
ねぶり火あぶり、猫かぶり。
松明構えて司祭は問うた
「最期に言い残すことは?」
けろり笑って彼女は返す
「傘を差してよ。眩しいわ」
後はお決まり、いざ点火
焦げて煙っておさらばさ。
だけどだけどね、これだけで
話が終わるわけがない。
焼けた彼女の身体から
灰が飛び散り宙を舞う。
舞って落ちたるその先で
ぞわりぞわぞわ、花が咲く。
切って払っても減りゃしない
どんどこ増える蒼い花。
ルナの瞳に似た色の
ぞっとするよな美しさ。
いくら日輪が照ろうとも
滅ぶことなき夜(よ)の香り。
愛でよ讃えよ語り継げ
ぞわりぞわぞわ、花が咲く。