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男女恋愛+エロ+男女恋愛/『檻』/藤原諸現象

 <まえがき>

今回は企画趣旨に加え「お題を引いた後1時間以内で完成させてUP」
という縛りルールを個人的に課して書いてみることにしました。

お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:14)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『エロ』です。(23:13)
お題くじ:藤原諸現象さんのお題は『男女恋愛』です。(23:13)

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 俺とジュンコが知り合ったのは、動物園の、獰猛なトラの檻の中だった。

 なぜ俺達がそんな場所に居たのか、今となっては知る由も無い。ただ、なんとなく檻と檻のわずかな隙間に身を滑らせたら、思いのほかスルスルって、スルスル、スルスル、スルスルって、なんか知らないけど入っちゃって愉快で愉快でどうしょうもなかったんだ。だから仕方無いだろ。愉快。愉快。ああ愉快。
 やったぜ、俺。なんか知らないけど前人未踏っぽい離れ業をやってのけちゃったかも、って浮かれてたら、すでに先客がいたわけで。
 それが、つまり現在のセフレ、ジュンコだった。
 念の為に言っておくがセフレとは、セントフレア、聖なる炎、の略ではない。
 ああそう。そうだよ練馬区の渡邉さん、セフレとは、セックス及びオーラルセックス及びアナルセックス及びペッティングによる結びつきのみを重点的に強化されたことによって親交の生じたフレンドのことだ。もっと分かり易く言うと、セックスフレンドだ。
 トラに食われかけていたジュンコは俺に救いの目を向けたさ。ヘルプミー、ヘルプミー、って、即興で作曲して歌ってたさ。
 俺もさっそく、リュックサックからギブソン製のタンバリンを取り出して、彼女の歌に合いの手を入れた。シャンシャンシャン。かなり正確なリズムで。しかも裏打ちで。シャンシャンシャンシャンシャン。愉快。愉快。ああ愉快。
 けれどもジュンコが求めていたのは、そんな偽善じみたパフォーマンスじゃなかった。彼女は純粋に、俺に助けて欲しかっただけなのだ。
 そうと分かったらシャル、ウィー、ダンス。俺はあらゆる格闘技を3日でマスターした肉食系男子なのだ。トラ退治など朝飯前だった。
 面倒くさいんで書かないが、ここから俺のかっこいいアクションシーンのすごく上手い描写があったと思ってくれ。とりあえずトラは一匹残らずミンチにしてやった。俺の秘奥義、バーニング・フリージング・ジャンピング・イン・ザ・リサイクルショップによって。俺を怒らせた哀れな道化師どもは、みんな必ずこうなる。

「どうしてあんな危険な場所にいたんだい?」
 皇室御用達ラブホテル『ずんだもち』の一室で、俺は電子タバコをふかしながらジュンコに聞いた。
「だって、虎穴に入らずんば虎子を得ず、って、シェイクスピアの戯曲に書いてあったでしょう」
「君は本当に、虎子なんて欲しいのかな?」
「え……」
「君が、ジュンコが本当に欲しいのは、俺じゃないのか?」
 彼女は何も答えなかった。ただ沈黙のままにうつむいて、憂いを帯びた横顔を覗かせる。俺はそんなジュンコの様子を垣間見るたび、どことなく水戸黄門を思い出す。このモンド・コロが目に入らぬか。モンド・コロとはおそらく卑猥なフランス語だと信じていた。そういった時期が俺にもあったし、きっと二十世紀を過ごした全ての少年がそうだったと思う。
 俺はジュンコのふくよかな肉体の穴という穴にペニスをぶち込んだ。不器用だった俺は、そうすることでしかジュンコに対する愛情を表現できなかった。道化師とはまさにこの俺のほうだった。

 さんざん射精しまくった後、俺とジュンコの背徳の恋は終わった。死別だった。抗生物質の効かない大腸菌がジュンコの全てを奪ったのだ。俺は世界中の大腸菌を恨んだ。無駄なのは分かりきっていた。大腸菌の皆さんだってきっと猛反省しているだろうから。

 あの日以来、俺は一人で、足繁く動物園に通うようになった。トラの檻の中でまたジュンコが俺に助けを求めている気がしてななかったからだ。事実それは俺の妄想でしかないと思い知らされた。檻の中でトラに襲われていたのは、介護を必要とする後期高齢者ばかりだった。
 それでも俺はジュンコを探しいている。ジュンコは俺にとって無くてはならない大切な性欲の捌け口だった、失ってしまった今となって、ようやくその名器に気付けた。
 澄み渡る快晴の蒼穹に、一筋の飛行機雲が描かれて、やがて消えた。
 俺は再び歩き出す。新たなるモンド・コロへ向かって。


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『春は灼熱』(2010/07/31連載開始)
http://neetsha.com/inside/main.php?id=9013

       

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