Neetel Inside ニートノベル
表紙

恋愛戦争論
二話

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 体育の授業。それは清春にとってとても最悪な授業であった。しかしそれは過去の話。今は孝太と一緒にペアを組んで楽しく授業を進められるからだ。
「おしっ、こっちにパス!」
 孝太は野球のグローブを左手にはめ、その手を自分の胸元へと持っていく。
「えいっ」
 それに清春は狙いを定めて思い切り投げる。体育の授業は男子、女子と別れて行われる。男女共にソフトボールをやっていて、校庭を半分ずつにして使っている。
「うお!またえらく飛ばすなぁ……。どんまいどんまい!」
 清春が投げたボールは孝太のグローブのはるか上空を飛び、女子の方へと飛んでいってしまった。清春は軽く頭を下げてごめん、という素振りを見せ、孝太はそれを何にも気にせず笑いながら走って取りに行く。その間清春は右手の肩をぐるぐると回し、強く投げすぎたせいか多少の違和感を感じていた。
「はい、ボール」
 孝太が後もう少しでボールが手に届くというところで、そのボールの目の前にいた美雪に先に取られ手渡される。
「お、サンキューな」
 そう言って孝太はその場からボールを清春の方へと力強く高く投げる。美雪はその孝太の投げる姿をじっと見つめていた。
「美雪?なにぼーっとしてんの?ほら、投げるからね」
 美雪とペアを組んでいる倉野ともえはそんな美雪をせかす。「あ、う、ごめん!」と美雪はすぐに返事をして、ともえの速球を簡単に受け止める。ともえは運動部に入っていないにもかかわらず、クラスの女子の中では一、二番目を争うほど運動神経がいい。そんな運動神経の良いともえのボールを簡単に受け止める美雪も、ともえには及ばないが相当運動神経が良いのだ。
「あ、やべ!キヨ、取れるか!?」
 すると孝太はさっき思い切り投げたボールを清春が取れるか心配になり、突然叫びだした。清春が立っている場所から数メートル前方に浮かんでいるボールは、かなり高い位置から清春へとどんどん近づいている。
「えっと、オーライ、オーライ」
 清春はなんとか取ろうと少しずつ後ろへと下がり、ボールの落下地点に近づく。清春はオーライと言うものの、病弱で運動神経の良くない清春にそんなものは取れるはずもない。それがすぐにわかった孝太と、孝太の声でそれがわかった美雪は間に合わないことを承知で猛ダッシュで清春の所へと向かう。
「うわっ」
 後ろへ下がっていた清春は自分の長いジャージに足を引っ掛け、そのまま転倒してしまう。そしてその清春の頭のすぐ後ろにボールは落ちた。運よく助かった清春は、ゆっくりと立ち上がってボールを拾いに歩く。一方清春が無事だとわかった瞬間、さっきまで走っていた二人は減速し立ち止まる。
「よかった……キヨったら、全然オーライじゃないじゃない。もうびっくりしたなぁ」
「あっぶねぇ。もう少し後先考えてから投げればよかった」
 そう同時に呟くと、二人は互いに目を合わせてしばらく黙り込む。それから急に笑い出し、場はなんともいえない空気になる。一方完全に取り残されたともえは、胸を撫で下ろしてからずっと清春のことを見つめていた。
「えっと、孝太君もキヨが心配なんだ!なんだか私みたい」
 美雪がくすくす笑いながらそう言うと、孝太は少し照れくさそうにしてから口を開く。
「いやぁ、一応俺が投げた球だし。それに、なんか放っておけないキャラじゃん、キヨって」
 するとまたお互いに見つめあい、今度は豪快に笑い出す。それから二人はペアのところへと帰り、その授業は以後何のアクシデントもなく終わった。

 体育の時間が終わると今度は昼休み。昼食タイムだ。清春、孝太は一つの机に二人の弁当を置き、仲良くぱくついていた。他のクラスメートたちも持参してきた弁当を食べたり、コンビニで買ったものを食べたり、はたまた食堂に食べに行ったりしていた。
「お、キヨの卵焼きうまそーだな」
 孝太は箸をしゃぶりながら清春の卵焼きを目を輝かせながら見つめる。清春はこういうときにはどういった返事をすればいいのかわからず、「あ」とか「う」しか言えずにたじろいでいた。すると孝太の後方から足音が近づいてくる。
「キヨのお母さんの卵焼きは絶品だからね!」
 孝太の後ろには美雪、それとともえが立っていた。
「キヨ、こういうときは食べる?って聞くものだよ」
 美雪がそう言うと清春は手をポン、と叩いてその通りに聞く。
「食べる?」
 すると孝太は「おう!」と満面の笑みを浮かべて清春の弁当箱から卵焼きを取って食べる。「うっめぇー」と言ってさらににこやかな表情になり、清春、美雪、ともえはそれにつられて笑ってしまう。
「それよりも……美雪、どうしたの?」
 美雪がわけもなく近づいてくることは滅多になく、それを不自然だと思った清春はすぐに理由を聞く。
「いやさ、うちの学校ってもうすぐ開校記念日じゃん?去年は日曜日と被っちゃったし、今年はなにかして遊ぼうと思ってさ。遊園地行かない?」
 美雪がそう言った直後、孝太はまだ口に卵焼きがあるというのに「おっへーおっへー」と、おそらく肯定的な意味を持つ何かを言う。が、清春はしばらく黙り込んでしまう。今まで友達と遊園地なんて行ったことはないし、遊びにも誘われたこともないのだ。それに急に遊園地に行こうなんて言われれば、誰だって少しは戸惑ってしまうだろう。
「キヨ、行こうよ。ね」
 美雪がそう言うと今までその後ろに隠れていたともえも口を開く。
「そ、そうだよ!行こうよ、き、清春君も!」
 それが後押しになったのか清春はうん、と頷いて今度の開校記念日に遊園地に行くことになった。

       

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