Neetel Inside ニートノベル
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恋愛戦争論
開戦

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 早朝のことだった。清春はあまり眠れなかったのだろうか、ベッドの端でずっと体育座りをしていた。雀の鳴き声が心地よいBGMになってくれていたのだが、今の清春にはただの騒音にしかなっていなかった。
「胸が、痛い……昨日の美雪、とっても嬉しそうだった。なら、きっと、僕だって……」
 小さく呟いて、その場から立ち上がる。そして洗面所へと向かい、顔を洗う。顔を拭いた後に鏡を覗くが、清春の目の下には隈ができていた。そして、それを見た後に大きなため息をついた。

 清春が教室に入ると、そこにはすでに孝太と美雪が仲良く話していた。それを見た清春はとても憂鬱な気分になる。
「お、おはよう、キヨ。どうした?なんかすごい疲れてるみたいだぞ?」
 孝太は清春に気がつくなりそう挨拶してきた。しかし、美雪は孝太の方を向いて笑顔を絶やすことはなかった。
「なぁ、キヨが来てるぞ。挨拶ぐらいしろって」
 孝太は苦笑いをしたまま美雪にそう言うと、美雪は「おはよう」と軽く挨拶をした。清春も同じく「おはよう」と返すが、そのときの表情はとても暗かった。その後一切口を開くこともなく清春は自分の席へと行き、本を取り出しそのまま読み始めてしまった。孝太はそれから清春のことをちらちらと見るものの、美雪は全くそれに気がついていないようだった。孝太もさすがに美雪との会話を突然止めて清春の元へと行くことはできないようだった。その数分後に教室のドアが開き、ともえが入ってきた。
「あれ、清春君……」
 ともえの視界に入ったのは、まず清春だった。また始業式のときのように一人で本を読んでいたからだろう。そこで孝太と美雪を探し、二人が話しているところを見つける。なんで清春君を入れてあげないのだろう、そう思いつつ自分の席へと鞄を置きに行った。
「あ、ともえ!おはよう!」
 美雪はともえが視界に入るなりすぐにそう挨拶をした。そして、その声に清春は肩をびくつかせていた。
「僕のときは、そんなんじゃなかった。僕、なにかしたのかな……」
 そう零し、清春は机の上でぐったりする。今日はいいことはなさそうだ、そう思いボーっとしてると、担任が入ってきて朝のホームルームが始まった。



 帰りのホームルーム。結局今日は孝太と美雪はずっと一緒にいた。清春はその二人のことを端で時々覗いていた。そしてそのたびにため息を零していたのだ。ともえはと言うと、他の仲のいい友達と一緒に行動をしていた。
「もう、いいや。今日は帰ろう」
 ホームルームが終わり、清春はまた呟いた。今日はとても呟くこととため息が多かった。だが清春はそんなことに全く気がついていなかった。
「キヨ。一緒に帰ろうぜ」
 孝太は清春にそう言う。久しぶりに会話した気がする、なんて思った清春は快くそれを承諾し、一緒に帰宅しようとした。
「なぁ、今日はあんまり一緒にいられなくて悪かったな」
 二人きりになったところで、孝太はそう口にした。突然のことだった。清春はそれにどう答えていいのかわからず、とりあえず「うん」とだけ返事をする。
「中野がなかなか放してくれなくてよ。明日はキヨとずっと一緒だからな」
 その孝太の発言に、清春の耳はピクリと動いた。
「なんか、その言い方……美雪のこと鬱陶しいって言ってるみたい」
 そうボソッと言う。清春はそう言うが、孝太は決してそんなつもりで言ったのではない。ただ清春に謝りたかっただけなのだ。
「違うって。今日は中野と一緒に話してて、そのときにお前のこと入れて上げられなくてごめんって思ったんだ」
 もっともな言い分だった。思い返してみれば、孝太は今日何度も清春を会話の中に入れようと努力をしていた。しかしなかなかうまくはいかず、清春は会話に入れなかっただけなのだ。
「今の言い方だって、そうだ。美雪が邪魔だって言いたいんだ!」
 清春はその場に立ち止まってそう怒鳴る。
「僕なんかどうだっていいんだ!別に一人でいることくらい慣れてるんだ!でも美雪は僕みたいに一人じゃ駄目なんだ!それは絶対に駄目なんだ!コウは美雪のことを何も分かっていないんだ!」
 だんだん興奮してきたのか、清春の声量はどんどん上がっていった。そして言いたいことはすべて言ったのだろうか「ごめん」と小さく言い走ってどこかへ行ってしまった。孝太は一人取り残され、清春に誤解されたままその場に突っ立ていた。
「あぁ!……もう、くそっ。悪かった、悪かったって。ちょっと言い方がきつかったかも知れない、けど、俺は……キヨのことを……」
 烏の鳴き声が当たり一帯に響いていた。

       

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