Neetel Inside ニートノベル
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 都内某所

 ジュリアーホテル 午後十一時過ぎ

 その最上階ではけたたましい警報音が鳴り響いている。その原因は今、一つ下の階にいる。そこではまた別の音が響き渡っている。

「おいっ!! どうなってんだよ! 何だ、あいつらは!?」
 男は激しい炸裂音から柱で身を隠しながら、見慣れない携帯電話に怒鳴り散らしている。
「わからない。 とにかくそこは危険。 今から脱出ルートを送るからそこから脱出を」
 携帯からは淡々としていながらもまだ幼さの残る声が聞える。男はその声を聞きながらも懐から拳銃を取り出し応戦する。相手の人数は五~六人。全員が黒服にサングラス。
(そもそも『これ』がこんなに大事なの……っ)
 ポケットの中身の事を考えているうちに足元には手榴弾が転がってきた。
「やばっ」
 男はとっさに手榴弾を蹴り飛ばし後ろに飛び退くが、爆発に巻き込まれ数十メートル吹き飛ばされる形になってしまった。
『赤毛はどこに行った?』
『向こうにいるぞ』
 赤毛の男は手榴弾の爆風をそのまま利用して吹き飛びながらも距離を稼いだ。だが、このフロアもそんなには広くない。そろそろ下に降りなければ囲まれて終わりだ。
『あれを、使え』
 その声に後ろを振り向くと、黒服の一人がロケットランチャーを担ぎだして赤毛の男を狙っていた。
「あれはヤバいって! ひより! 俺の前にある防火シャッター、今すぐ降ろせ!!」
 分かった、と先程の会話と同じ幼い声―…ひよりが言うとすぐに目の前の防火シャッターが降りてきた。赤毛の男は滑り込むように潜り、閉まり切るのを確認するとそのまま階段を目指した。

     

 が、体は宙に浮き、階段を下ることも出来なかった。なぜなら発射されたロケットランチャーはシャッターにぶつかり爆発。その爆風は手榴弾の数倍の威力で赤毛の男の身体を吹き飛ばした。そのまま真っ直ぐに大きなガラスをブチ破って身体はホテルの外に放り出された。
 ジュリアーホテルは五十六階建ての超一流ホテルで地上約二百五十メートルである。その高さとほぼ同じ高さに赤毛の男の身体がある。
「………へ? うそぉぉぉおおお~」
 叫びながら落下する赤毛の男に追い討ちをかけるように黒服たちは拳銃を下に向ける。チュイン、チュインと壁に弾丸が当たるが赤毛の男には当たらない。
 声をあげて落ちていたが諦めたように目を瞑り、落ちていく。しかし、声は聞こえてくる。ただ、明らかに声の質が違う。先程までのふぬけ声ではなく気合いの入った声が聞えてくる。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
 その声に呼応するように赤い髪がさらに赤くなっていく。そして目を見開くと目も赤く、さらには髪からは火の粉のようなものが舞っている。そう、まるで本物の炎のように。
 背中から落ちていた身体をひねり、下を見据え壁に足を付けて下に向かい走り出した。地上までの距離が一気に縮むと壁を思いっきり蹴り、ホテル敷地内の公園に突っ込んだ。
 上から見ていた黒服たちにも伝わるほどの衝撃だった。そこからは大量の土煙が上がり、周りの木々は倒れていく。それをボーッと見ていた黒服たちは何かに気づいたようにロビーに降りて行った。

     

 一階のロビーでは大量の窓ガラスが割れ、ソファーは吹き飛び、テーブルは散乱し、衝撃の大きさを物語っている。奇跡的に大きなケガをしている人はいないものの、すでに大量の野次馬が出来ている。皆、何が起きるか分からないのでホテルの中からは出ないでギリギリの所で眺めている。その中にはホテルの仕事を忘れて見ている者もいる。上から下りてきた黒服たちは野次馬を押しのけて前に出るが言葉を失った。まるで隕石が落ちてきたかのように地面がえぐれクレーターが出来ていた。
「おい、何があった」
 ハッとして振り向くがまた凍ってしまう。そこには同じ黒服を着た男が立っていた。身長は目測約二メートル、丸太のように太い腕を持ち頭はスキンヘッドで生々しい傷跡が頭に見て取れる。
「何があったと聞いている、答えろ」
「…あっ、すいません。『あれ』は何者かに持っていかれ―」
 男は言葉を言いきる前に真横に吹き飛ばされた。周りの野次馬からは、かすかに悲鳴は聞えたが何で吹き飛んだのかは分からない。
「…探して来い」
「ですが、もう近くには…」
「もう一度言う。探して来い」
 黒服たちはビクつきながらも林へ駆け出した。声には明らかに殺気染みたものが込められていた。
 大男はポケットから体の大きさに不釣り合いなケータイを取り出した。
「もしもし、申し訳ございません。『あれ』は持っていかれました」
『そ…か。……………かたず……頼ん……、地引(ジビキ)』
「はい、分かりました。後処理は私が、では」
 電話を切って連れてきた黒服に命令すると、黒服たちは野次馬に向かうが大男―…地引はクレーターのほうに向かった。忌々しそうにクレーターを眺める地引の掌にあるケータイは粉々になっていた。それを投げ捨てるとホテルの中に入って行った。

     

 赤毛の男はホテルから遠く離れた廃ビルの屋上に倒れていた。男の頭はホテルを駆け下りた時の炎のような髪から赤い髪に戻っていた。
 ポケットからケータイを取り出し、よく壊れなかったなっと感心しながら電話をかけた。
「よぅ、脱出したぞ」
 口からは疲れ切った声が漏れる。
『私の送ったルートとだいぶ違ったみたいだけど』
「あ~…そうだ、あのルートは遠回りだったからショートカットしたんだよ」
『うそつき。そもそもホテルから飛び降りたってことは…リョウ、『力』使ったんでしょう』
「説教なら帰ったら聞くよ。それより疲れたから切るわ、じゃあ」
 あ、ちょっと…、と聞えたが電話を切った。それから何度も電話が鳴っているが出なかった。いや、疲れ切った身体では電話を取れなかった。
 赤毛の男―…リョウは激しい睡魔に襲われて、そのまま目を閉じた。

       

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