Neetel Inside ニートノベル
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運び屋
1話

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 通勤中のサラリーマンで賑わう駅近くの線路沿いにある二階しかない古いビル。一階には整体院があり、その右横にある暗く急な階段を上がった先の左にあるドアの所には「何でも屋」と書いた看板が掛かっている。リョウは事務所のドアをゆっくりと開けて入った。
「……ただい―」
「遅い」
 ドアを開けると同時に目の前から声が飛んできた。黒いタートルネックにショートパンツを穿き、腰までありそうな水色の髪を下のほうでツインテールにしたひよりが待っていた。顔つきは幼いが少しキツイ目をしている。
「って、ボロボロじゃない」
 リョウがきていた黒いスーツは所々に穴が開いていたり、切れていたり、さらには少し焦げている。
「ホッホッホ、みっともない」
 今度はひよりの後ろから声が聞えた。事務所の真ん中には、テーブルを挟むようにソファーが二つ置いてある。事務所の出入り口に近いほうのソファーに頭が白髪で真っ白にしカーディガンを羽織ったお婆さんが背を向けるように座っていた。リョウは声が聞えるなりひよりを押し退けてお婆さんに歩み寄る。お婆さんの顔は皺が少し寄っていて、とても優しそうである。
「おい、ババァ、テメェなにしに……~~~~っ」
 お婆さんはソファーに立てかけていた杖をリョウの右足に押し付けた。靴を履いていて見えないがピンポイントに足の傷に杖が当たっている。まるでお婆さんはリョウがどこにケガをしているか分かっているかのように。
「テメェ……殺す」
 リョウの右腕が伸びてきた瞬間に杖にさらに力を加えて右足を押し付ける。痛みに一瞬動きが止まったところを、杖を下から上へ跳ね上げ右腕を払うとそのままリョウの眉間に杖を構え動きが完全に止めた。お婆さんの顔はさっきまでと違って真剣そのものである。
「ちょっとリョウ、何してんの! 時子(トキコ)さん、大丈夫?」
 ひよりがリョウとお婆さん―…時子の間に入るように駆け寄ってきた。
「ホッホッホ、大丈夫だよ」
 そう言うと時子は、優しそうなお婆さんの顔に戻っていた。
「リョウ、どこ行くの」
 リョウは事務所の出入り口に向かっていた。
「うっせ、着替えてくるんだよ」
 そう言うとドアを開いて出ていく。その時後ろから「ホッホッホ、みっともない」と聞えた気がしてリョウは思いっきりドアを閉めた。

     

 リョウは事務所を出てすぐ左―…外の階段を上ってそのまま正面にあるドア。その中の物置兼ロッカーで身体に包帯を巻き、湿布を貼っている。服を脱ぐと切り傷、火傷、打ち身の痕が痛々しく残っている。傷の処理が終わるとロッカーから着替えを取り出しながら昨日の依頼を思い出していた。


 昨夜、九時頃。そろそろ事務所を閉めようと片づけ(主にひよりが)していた時、ドアの外に人の気配がしたような気がしてオレは外に出た。確かに人はいたのだろう。階段の下に停めてあっただろう黒い車が外に出た瞬間に走り出して行ったのだから。そしてドアの前には一通の封筒が置いてあった。こんな時間に、とは思ったがたまにあることなので封筒を手に事務所に戻った。
 「何それ?」
 「依頼だよ」
 ふ~ん、と言ってひよりは片づけに戻りオレは一番奥のデスクに座り中身を確かめた。中身は依頼書と前金が入っていた。事務所を閉める時だったから明日にしよと思ったが珍しく前金が入っているから迷う。
 依頼書には
『ジュアリーホテルの最上階に忘れ物をしてしまった。それを取りに行って来てもらいたい。金庫に入っているのですぐに場所は分かるとは思うが、くれぐれも中身は見ないようにしてもらいたい。では、明日の午前中に取りに行くので宜しくお願い致します』
オレはひよりを呼び止めてどうするか聞いた。
 「明日来るって書いてあるんだからやらなきゃ、ダメでしょ。それに前金だってあるし」
 「んじゃ、いきますか」
 俺は早速、ジャケットを手に事務所を出る。
 が、ひよりにロッカーに叩きこまれた。ひより曰く私服じゃダメらしい。仕方なくロッカーの奥深くに眠っていたスーツに着替えて事務所を後にした。

       

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