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表紙

HVDO〜変態少女開発機構〜
第二部 第四話「影が像を暴露する 二」

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 春木虎討伐計画概要

 第1目標
  春木虎(以下、目標)のHVDO能力による討伐
 第2目標
  木下くりの幼女化解除
 第3目標
  最高の快楽への到達

 
 決行日時 
  1月17日 17時より準備行動を開始 目標との接触は同日深夜1時
 決行場所 
  目標の潜伏している廃病院から萌田公園へと移動


 目標の特徴
  9つの能力を持つHVDO能力者
  性癖バトルの経験が豊富
  冷静沈着で的確な判断力
  極度のロリコン
  現時点で判明している目標のHVDO能力
   1.能力の対象が特定の質問にイエスと答えた場合、時間経過と共に対象は幼女化する
   2.1日に1度だけ小学生以下の人物の衣服を指定した物に変えられる
   3.完全に幼女化した対象から、差し引いた分の記憶を奪う
   4.射程内にいる戦闘可能なHVDO能力者と共に小学校空間に強制移動する
   5.対象者のリコーダーを舐めている間だけ対象者に姿を認識されない


 準備段階

 対象は究極のロリコンなので、私の裸を見ても興奮しない。よって、私の露出能力による羞恥を最大限まで引き出し、エロスを加える事によってこれに対抗する必要がある。そして露出を極めるには多くの人の「目」が必要である。

 1.ネット掲示板を利用し人を集める
 「ザ・ショウ」を使い特定の場所を指定して移動する為に、ある程度の人口密度を意図的に作る。
 決行日17時よりネット掲示板にスレッドを立て、私の裸を見てくれる人を募集する。いやらしい視線が多い方が望ましいので、出来る限り変態の男ばかりが集う板を選ぶ。
 詳細な場所に関しては明記せず、地元の人間だけが分かるように書く必要がある。同様に、決行日時も曖昧に表現する。肝心なのは、「ここに行けば何かエロい事が起きるかもしれない」と書き込みを見た人に漠然と思わせる事。信憑性を持たせる為、乳房の画像をアップロードする。最終的に集める人数は100人程度を予定して印象操作を行う。

 2.警察の押さえ込み
 十分な露出を行う為には警察の介入を遅らせなければならない。当日は、ネット掲示板から警察への通報が入ると予測される。三枝家の名前を出して周辺の巡回を緩めさせるプレッシャーを与えると同時、他のネット掲示板で別の場所を指定した犯行予告を乱発し、ネット通報の信憑性を一時的に下げる。
 ただし、守られた露出では興奮出来ないので、私兵による警備など武力の利用はしない。

 3.最大限の羞恥を引き出す
 ただ裸で人の前に出るだけの露出では、目標の討伐には至らない。念入りに肉体の手入れをし、性的興奮を引き出す衣装を吟味し、いやらしい演出を考える。見られて興奮すると同時に、「見られて興奮している事」に理解を得る形で攻撃を行う。
 よって、今回の露出において、私は人生を投げ打つ覚悟をしなければならない。


 決行段階

 1.目標との接触
 こちらから目標に接触した場合、目標は警戒をするはずである。警戒したままでは、目標は能力を私に使用しないので「ザ・ショウ」が発動出来ない。
 目標が警戒を解くに至る、納得する理由付けを自然な流れの中で作る事が肝要。受験に備えて木下くりの幼女化を解除する事が1つ。それからもう1つ、ご主人様の存在を利用する事によってこれを成す。

 2.露出
 準備段階、及び能力の発動に全て成功した場合、私はこれまでの人生で最大の羞恥を味わう事になる。その時、私が何を思い行動するかは、その時になってみないと分からない。

 3.事後処理
 考察の価なし。


 この計画書は、「発見される事」を目的に書かれている。
 これを発見するのはおそらく柚之原か、あるいはトムと呼ばれる能力者だろう。
 後者の場合は手間が省かれるが、前者の場合はその判断を介した上で決断をしてもらいたい。
 私が何の為にこの計画書を残したか、私が誰に1番自分の全てを見てもらう必要があるか、その判断は全て任せる。


第四話 影が像を暴露する 二

 ステージの上に立ち、光を浴びた三枝委員長はまさに妖艶の一言に尽き、中学校の制服が演出しているのは、幼さよりむしろ卑猥さで、取り囲むようにして見る男達の、荒ぶる吐息と不埒な期待が蒸気となって、彼女に向かって一直線に集まっていくようでした。
 自分の位置からは遥か前方、観客達の最前列に春木氏の後頭部を見つけました。自分がこれ以上前に進めないのとは逆に、人の圧力によって外に脱出する事は不可能なようでしたが、仮にそれが出来たとしても、春木氏ほどの一流の変態であれば、これから始まる三枝委員長一世一代のショウを見逃すような真似は絶対にしないはずです。
 三枝委員長の言葉に嘘はない。自分はそう思いました。恥ずかしい姿を見てもらうと言ったのですから、それはもう三枝委員長自身がドン引きするような見せ方をするに違いありませんし、また、例え相手が春木氏といえども、本気で勝つ算段で、全力を尽くして露出プレイの真髄へと向かうでしょう。三枝委員長の辞書からはおそらく、手加減や妥協という言葉が軒並み消え失せているはずです。
 いつも完璧に手入れされているブレザーを脱ぎ、無造作に足元に落とすと、自分を含む観衆の注目は「次はどの服を脱ぐのだろう」という事に集中し、三枝委員長はそれに最も奴隷らしい、実に男心を理解した答えを見事に導き出しました。
 そう、パンツです。
 シャツ、スカート、ニーソという3種の神器を揃えた御姿を、足元に落ちたブレザーが演出しているその構図に、あえてタイトルをつけるならば「禁断の放課後」といった所でしょうか。今は性欲に支配された汚らしい男達は、その誰しもがかつてはどこかの学校の生徒であり、同級生とのエロ妄想に花を咲かせていた時期があったはずなのです。よって、制服姿は出来るだけ長く堪能したい。堪能しつつも、次のステップに進みたい。服を着つつ、もし今先生が来ても言い訳が出来る範囲で、なおかつ性的進歩を見せて欲しいという男の本能的欲求に答える100点満点の解答。今、目の前にいる女子がノーパンであるというただそれだけの事実は、時に性器を直接目撃するよりも興奮する代物なのです。
 おお……。おおっっ。おお!! お゛お゛お゛お゛!! という具合に、三枝委員長のパンツが下がるのと反比例して、観衆のボルテージは上がっていきました。何をやらせてもパーフェクトな三枝委員長の事ですから、複雑怪奇で倒錯傾向にある男の性的欲求を読み取る事など、最早造作もない事なのでしょう。三枝委員長は、脱いだパンツ(純白で、かわいらしいリボンのついている、おそらく高級素材で出来たオートクチュール)を手に持ってぎゅっと握り締めた後、誰からともなくほぼ無意識に手を伸ばした観客達に向けて、それを放り投げました。
 幸運にも三枝委員長の脱ぎたてほやほやパンツを掴んだ男性は、ノータイムでそれを自らの鼻に押し付けて、何度も何度も深呼吸をして、周りの人間はそれを羨ましそうに眺めていました。
 ノーパンになった三枝委員長は、スカートの前部分をぐっと押さえ、あざとささえ感じられる内股で観客を見渡しました。そこにいる1人1人の顔を確認するように、頬をやや朱に染めながら、過剰なまでにパンツ穿いてない事を、布1枚の下はおまんこ丸出しである事をアピールするその姿に、確かに自分は興奮していましたが、「もしやここで今自分が勃起してしまったら、三枝委員長に負けた事になり、またEDに逆戻りするのでは?」という事実にはっと気づき、途端に恐怖風が横っ面を殴り、戦慄を背骨にぶち込まれた気分になりました。
 これは三枝委員長が春木氏を倒すために用意された舞台であると共に、自分のご主人様としての素質を試す、修羅のある場でもあったのです。


 雄達の放つむんむんの熱気に身体を焼かれるのを嫌がるように、三枝委員長が体を後ろに捻ったその瞬間、スカートがひらりとめくれ、ほんの僅か、2フレームほどの時間だけ、丸いお尻の生肌がちらりと見えたような記がしました。とはいえ全ての人がそれを確認した訳ではなく、人数にしてステージに近い20人、つまり全体のおよそ4分の1ほどが認識した極々些細なエロスでしたが、しかしそれが演出の妙という物でした。
 ちらっと見えたお尻を目撃した人々が反応し、「見えた!」という声が出て盛り上がると、見られなかった人たちもその見えたという反応に呼応し、まるで水面に広がる波紋の如く興奮は広がっていきました。ほとんどの人がきちんと見てもいないお尻に対して勃起し、妄想をかきたてる訳ですから、今この空間に妄想具現化装置を設置したら瞬く間にタモリ倶楽部の様相を呈するはずです。
 ここで一旦、ステージ上のプッシーキャットから目を離し、この観客達の考察に移ります。何故なら、自分も少しは冷静さを取り戻さないと愚息が暴走してしまう恐れがあるからです。
 思うに、今いるこの観客達は、おそらくネットで集められた人物達ではないでしょうか。容姿、思考、雰囲気には多くの共通点が見受けられ、人間をおおまかに分類したのなら同じ所に属している事は間違いないのに、1人1人お互いに面識があるようには思えず、しかし「目の前の女の子がこれから何か変態じみた事をして、それを自分は見逃さない」というある種「闘志」ともとれるような認識を共有しており、これは即ち、「目的のみを知らされている他人達」という事で、また、自分が見る限りでは、そこに意識された演技のような物は一切なく、気にならない程の無秩序さで満ちていて、三枝委員長が金に物を言わせて雇ったエキストラではない事は確かでした。
 棄却。
 三枝委員長はこのステージにおいて、これまでの自分を捨てるつもりだという事が窺い知れます。
「ご、ご主人様……!」
 ステージ上で、後ろを向いたままの三枝委員長が、震える声で自分の事を呼び、自分は否が応にもそちらを向かざるを得ません。
「ご主人様……! これ以上やれと仰られるなら……やります。やりますけれど、やっぱりやめろと仰られるなら、ステージに上がってきて、私の事を止めてください……!」
 一瞬、疑問符が浮かび、それはすぐ様エクスクラメーションマークへと変化しました。
 無論、というか言うまでもなく、自分は三枝委員長にこのような方法で恥を晒せと命令した覚えはないので、彼女自身が進んでその身を業火に捧げている訳です。つまりこれはどういう事かというと、三枝委員長は今の台詞において、「無理やりにやらされている感」を巧みに演出したのです。
 自ら喜んで股を開くビッチよりも、嫌がりながらも股を開くやまとなでしこの方が支持率が高いというのは周知の事実。何らかの命令によって仕方なく露出された局部は、3割増しの興奮度が観測されるという調査結果も出ています。
 しばらくの間、観客達はまるでお互いに牽制しあうように顔を見合わせていましたが、名乗り出てくる者がいないと見て煽りを始めました。「……げっ!」「……-げっ!」「……脱ーげっ!」「脱げ!」「見せろ!」「ぺろぺろ!」段々と大きく、多様になっていく声に反応し、三枝委員長は観念したようにスカートの裾をゆっくりとめくっていきました。
 三枝委員長のお尻が白日の下に晒されるその刹那、ステージに乱入する者が現れました。
 もちろん、自分ではありません。もちろん、春木氏でもありません。
 ステージに立ち、観客達を見渡したその小さな影は、くりちゃんでした。いえ、正確に言えば、幼女になったくりちゃん、という事は、既に本物のくりちゃんの幼女化は解除されたはずですから、春木氏が召喚していた偽くりちゃんという事になります。
 三枝委員長のカウンター能力によってここに瞬間移動してきたのが「3人」だった事を自分は思い出しました。春木氏と、三枝委員長と、そして偽くりちゃん。春木氏の能力は封印されたはずなので、新しく召喚された訳ではなく、元から出現していた所、「消えろ」という命令が下る前に移動してきたからまだ消えていないという事なのでしょう。ステージに立った偽くりちゃんは、三枝委員長に向かってこう宣戦布告をしました。
「私のご主人様からの命令です。これから私はあなたと露出で勝負します」
 ちなみに偽くりちゃんは、全裸に給食のかっぽう着という超マニアックないでたちで、後ろから見ると白いお尻が丸出しでした。
 おそらく、三枝委員長のカウンター能力が発動するその瞬間、春木氏は偽くりちゃんをこの姿に着替えさせたのでしょう。やはり百戦錬磨の春木氏、侮れません。そして今回の性癖バトルは、露出バトルへと形を変えて、更なるド変態ゾーンへと突入していくようです。

     

 あの春木氏を相手にして、カウンター能力の発動に至るまでの流れを悟られぬように作り上げ、一撃で確実に仕留めるに足る野外ストリップ羞恥という発想に至り、それを実行に移した三枝委員長の行動力も去ることながら、想定外からの攻撃を喰らっても一瞬で状況を見極め、裸かっぽう着による露出対抗という妙手を打った春木氏の凄まじいまでの判断力。目の前でめくるめく繰り広げられていた展開に、自分がただ右往左往している間に高く積み上げられた攻防は、真剣勝負という土台の上に成り立った物でした。
 しかしながら、春木氏が三枝委員長に対して反撃をしたという事は、見方を少し変えれば「反撃をしなければまずい状態だった」であったという事の逆説的証明になります。
 そもそも、女子に対してロリを仕掛けて勝利を得るという事自体、自分には酷く難しい事のように思えますが、何せ自分と等々力氏の負けを差し引いても最低6勝し、新しいHVDO能力を得てきた春木氏な訳ですから、過去の対戦相手の中に女性が居ても何ら不思議ではなく、もしも敗北経験があるなら更なる勝利の山、無いのであれば無敵の称号がその背後に存在するという事もあって、春木氏ならば相手を百合とロリに同時に目覚めさせるくらい、何なくやってのけると予想するのは実に易しい事です。
 この事実は、春木氏が反撃をしたのが、「やられる前にやる」「自分が新しい性癖に目覚める前に相手をロリコンに目覚めさせる」という、攻撃をもって防御とする行動である事を示しています。端的に表現すれば、春木氏は三枝委員長の攻撃に「ビビって」いる。少なくとも無傷の圧勝では済まない気配をつぶさに感じ取ったはずである、という自分の推察に間違いはないはずです。そしてこれは同時に、いくら筋金入りのロリコンといえども、三枝委員長のわがままボディーに大して完全なノーリアクションを決め込める訳ではなく、魅力的に映ってしまう一瞬があるという発見でもあります。
 で、あるからして戦況はなお三枝委員長に有利であると、ここはあえて断言させていただきます。敵が隙を見せたその瞬間に、最高潮の恥じらいを叩き込み勃起まで追い込む。春木氏は9つの能力を失い、三枝委員長は処女を守り抜き、観客達には無料で今夜のおかずが支給される。良い事尽くめの未来が、すぐそこに待っているのです。
 が、自分も三枝委員長の攻撃に巻き込まれないように注意をしなければなりません。ちなみに、自分の勃起率は既に85%を超えています。まだ乳首さえ見えてすらいないのに。
「受けて立つわ」
 ステージ上の三枝委員長は、突然の乱入者である偽くりちゃんの宣戦にそう答えました。もちろん観客達の中にいた一定数のロリコン達は、小さな身体にも確かにある尻の穴に向かって雄たけびをあげて狂喜しています。偽くりちゃんが振り返り、観客席の方に向いてその実に愛くるしい顔立ちが明らかになると、更にその声は大きくなりました。
「最高だァーーーっ!!!」
「来て良かったぁーーーっ!!!」
「釣りとか言ってた奴ざまぁーーーーーっ!!!!!」
 家を持っていてもおかしくないような良い大人達が、中学生と小学生の裸に対して、発狂しそうなほどに大声をあげて喜んでいる。
 どうやら、この国の未来は明るいようです。


 自分は改めて、並んだ2つの果実を眺めます。
 向かって左にある1つは、例えるならば瑞々しい白桃。ただ見ているだけで唾が口の中に溢れ出し、やがて幻想の甘味さえ感じ始めるような、黄色から白、桃色までのグラデーションが実に見事な至高の1品。その柔らかな肌を包む制服を乱暴にひん剥いて、ほんの少し口に含んだならば、もうこの世には帰ってこれなくなるような快楽が得られる事は間違いなく、まさしく文字通り、桃源郷へと導かれてしまう予感がします。その旅は、朧月のような眼から始まり、シズルな唇の湖で背徳的な水浴びを楽しんで、ボリューミーなバストの谷間を越え、なだらかな腹部を舌で駆け抜け、そしてまだ若い森へと辿り尽くと、そこで女神と出会える魅惑の道程です。肉の曲線には究極の美が秘められているように思え、そのシルエットを見た瞬間に、男は何も考えられなくなるのです。
 そしてもう1つの果実は、例えるならば摘みたてのさくらんぼ。ふとした瞬間、生きている事自体が不思議に思えるような小さな身体には、まだ未完成でありながらも、強烈に香る艶美を含んでいます。幼さやあどけなさの裏にこそある、荒削りでありながらも純粋な性、ピュアリティー。本人に未だその自覚が無いように見える所がまた、実に犯罪的でいやらしい所であり、困らせたいような、喜ばせたいような、折れてしまいそうな、だからこそ強く抱きしめたくなるような、守ってあげたくなるような、そして汚してしまいたくなるような気分になって、ようやく気づくのです。彼女と、それを見ている自分は良く磨かれた鏡に映った、たった1房のさくらんぼであるという事に。
 2つの果実はそのどちらも、美味という点においてはまず間違いなく、しかもどちらか1つではなく、どちらもこれからじっくりと鑑賞する事が出来るのですから、文句など出るはずがありません。既に観客達は全員、目の前の美少女2人に恋に落ちていて、これを非とする者がいるのならば、今から国会議事堂に自爆テロしに行く覚悟が出来ている者も何割かはいるはずです。
「このまま立っていても埒があきませんから、1つ勝負をしませんか?」
 と、提案したのは確かに偽くりちゃんの方で、声紋は一致していましたが、その口調が余りにも本物のくりちゃんの口調とかけ離れすぎていて、一瞬誰が喋っているのか混乱したくらいでした。「勝負?」と三枝委員長が訊き返すと、偽くりちゃんは表情を変えずにこう続けました。
「ここは古風に、野球拳というのはどうですか?」
 野球拳。「野球ぅ~~すぅ~るならぁ~~こういう具合にしりゃさんせぇ~~」という紳士のスポーツベースボールを愚弄、冒涜しているとしか思えないあの遊び。ルールは至って単純。ジャンケンで負けた方が1枚脱ぎ、脱げなくなった方が負け。
 しかしこの場合、野球拳の敗北はむしろ望ましい事であるはずです。なぜなら、負ければ堂々と衣服を脱ぐ事が出来、勝ってしまった方は服を脱ぐチャンスを逃して、負けた方が脱ぐ所を一旦は見ていなければなりません。そして偽くりちゃんの服はかっぽう着1枚に対して、三枝委員長はシャツ、スカート、ニーソ、ブラを含めたら4枚。じゃんけん4連敗の確率は16分の1。賭けるには、いかにも危うすぎる。
 無論、野球拳に勝ってしまったからといって、服を脱げなくなる訳ではありません。偽くりちゃんが先に脱いで、後から三枝委員長が脱ぐという事も可能ではありますし、それに「脱ぐ理由」として、三枝委員長は先程、「ご主人様の命令によって」というすこぶる煽りの効いた理由付けをしていますから、決して不利な状況に陥るはずではないのですが、この観客達の盛り上がりっぷりは無視できません。
 偽くりちゃんの口から「野球拳」という単語が出た瞬間からの、このおっさん達のテンションの上がりっぷりは、変態に対して常人より遥かに理解ある自分といえども流石にドン引きレベルでした。何がそこまでそそられるのか、やはり、意図せず脱がされてしまうという羞恥、かつては地上波でも放送されたという言い伝えもある大衆エロスの魅力でしょうか。果たしてこの盛り上がりに裏打ちされた児童ポルノの後に、何をもってして三枝委員長は対抗出来るというのでしょう。


「逃げますか?」
 返事を渋る三枝委員長に対して、偽くりちゃんはそう挑発しました。観客からは「やれ!」という声がかんしゃく玉のようにパチパチとあがり、このフリをもしも拒否すれば、観客達は一気に冷め、一斉に偽くりちゃんの味方に回る事が分かりきっていました。
「私は、逃げないわ」
 そう答え、燃え盛る炎にガソリンが注がれようとしたその瞬間、三枝委員長は遮るように声を張り上げました。
「だけど、その前に!」
 凛とした三枝委員長のその表情は、学校の代表として朝礼台にあがる時のそれに酷似しており、混沌に満ちた観客達に一陣の秩序が吹き込まれました。
「裸を見てもらう前に、自己紹介をしましょうか。今、ここに集まってくれている人達は皆、私の事もあなたの事も知らないはずだし」
 性欲に突き動かされ、我を忘れた人々を一瞬で冷却した三枝委員長の演説技術ももちろんですが、真に評価すべきはその一手に込められた罠と、鋼鉄のような覚悟です。
 偽くりちゃんは、春木氏によって召喚された言わばロボットのような物のはずです。見た目は小学生の時のくりちゃんにそっくりですし、命令によって似たように振舞いますが、所詮は模造品であり、オリジナルではありません。つまり、人生という背景が無いのです。
 さて、パーソナルを持たない存在は、一体自己紹介の時に、何と名乗れば良いのでしょうか?
 ここで思い出して欲しいのは、先程の春木氏の発言と態度です。三枝委員長と対峙し、悩みを打ち明けた時、春木氏はこう言っていました。「理想の幼女が召喚されるはずなのに、くりちゃんしか出なくて困っている」と。三枝委員長はそこに、春木氏の抱くくりちゃんへの恋心を指摘しましたが、先の発言は同時に別の側面も暗示しています。
 ずばり、春木氏はくりちゃんこそが「自らの理想の幼女」であるという事を認めたくないのです。
 頭では、くりちゃんよりも良い幼女がどこかにいるはずだと考えているはずなのに、自らの能力が提供するのはいつもくりちゃんというこの矛盾。一部の隙も無い、マシーンのような春木氏に芽生えたこの微妙なバグには確かに付け入る隙があり、相手の弱点を突いてこそ、勝機という物は訪れるのです。
 三枝委員長の差し向けた「自己紹介」という単語は、言わば絶対安全圏からの精密なスナイプ。
 一体お前は何者か? と問うだけで、攻撃は完了する。……いえ、もう1つだけ、この攻撃を成立させるのに必要な物がありました。
 三枝委員長は1歩だけ前に出て、観客席に向かって言います。
「私の名前は三枝瑞樹。15歳の中学3年生です。住所は○○の○○で、人に裸を見られるのが大好きな変態です!」
 その後まくしたてるように、血液型、星座、スリーサイズ、生理周期、クラスでの役割と、これから受験をする高校と、入学したらどのような卑猥な行為をしたいかを饒舌に語りました。自分は慌てながらも周囲を見ると、一字一句漏らさぬようにメモを取る人がいたり、「三枝って……あの三枝家の娘か!?」と既に知っていた人も若干名いた模様で、三枝委員長は「街で私を見かけたら、声をかけてくださればいつでも服を脱いでお渡しします」という強烈に変態じみた言葉で自己紹介を締めくくりました。


 鮮烈なまでの覚悟を、これでどうだという具合に見せ付けた三枝委員長は、1歩下がって、舞台を偽くりちゃんに譲りました。さあ、ただでさえどう答えるべきか迷う局面で、天高く上がったハードルに、偽くりちゃんもとい春木氏は一体どんな答えを返すのでしょうか。
 全員の注目が集まり、しんと静まり返った特設野外ストリップ劇場に、水滴を1つ零したかの如く、偽くりちゃんの声は静かに広がっていきました。
「私の名前は……木下くりです」
 意外っ! それは詐称!
 まっすぐド正面から、くりちゃんの名を騙る偽くりちゃん。その意図の湧き出た所、自分は奇妙で愉快な事象に、ここに来てようやく気づきました。春木氏がついに、くりちゃんこそが理想の幼女であるという事を認めた、という解釈は早合点であり、その前に1つだけ、この嘘から読み取らなければならない事があります。
 自我。
 何故、このような簡単な事に今まで気づかなかったのでしょうか。春木氏の召喚能力によって召喚された幼女は、無論、春木氏の意思に従って行動するはずですが、先ほど、偽くりちゃんは三枝委員長に向かってこう宣言していました。
『私のご主人様からの命令です。これから私はあなたと露出で勝負します』
 もしも、1つ1つ指示を受けて行動をしているのであれば、この宣言の必要性はなく、すぐに勝負にとりかかっていても良かったはずです。どのように手足を動かし、どのような言葉を選び、どのように誘惑をすれば最も効率的であるのか、ロリコンを極めた春木氏がその1から10までをプロデュース出来るのであれば、水が低きに流れるが如く、至極当然に完璧な舞台が出来上がるはずです。
 それをせず、大まかな命令だけを下して後は偽くりちゃんの判断に任せたという事はつまり、春木氏は実際の言葉を介してしか偽くりちゃんに指示を飛ばせないという事の反証であるのです。HVDO能力は、そのほとんどが使い手の「意思」に依存します。例えば三枝委員長の、念じただけで裸になれるという第1能力などはその最もわかりやすい例であり、自分の能力も接触と同時におしっこの事を考えなければ発動はしません(ただし、自分の場合はあらゆる思考と並列して常に美少女の尿の事を考えている事が多いので、ある種常時発動と考えていただいて構いません)。偽くりちゃんの存在自体があくまでも春木氏の能力の一部であるならば、その肉体及び精神は常に使い手の手中にあるはずです。思い返してみれば、体育館倉庫でのレイプの時も、春木氏はくりちゃんに「消えろ」と言葉で命令していました。
 偽くりちゃんが、単純な命令を受けての自動型であるならば、そこには固有の思考ルーチンが存在しうるはずです。意思なくして、生命は活動をしません。
 そして、自己紹介を強要されると、偽くりちゃんは自分の事を「木下くり」だと言いました。それは春木氏が、偽くりちゃんに対して「木下くり」である事を命令、いえ、願った結果(ここはあえてこう表現させてもらいましょう)、ただ演じるだけではなく、「木下くり」その物になろうと努力している事の証明でもあります。
 自分はこの重大な事実に気づくと同時、心から三枝委員長に対して忠告を飛ばしたくなりました。
 三枝委員長、どうか気をつけてください。相手は紛れも無く1人の人間です。春木氏の事を慕い、命令に従う事だけを存在意義とする、究極の奴隷、その完成形です。従って、そこには三枝委員長にも負けず劣らずの覚悟があるはずなのです。

     

 ゆっくりと撃鉄を起こすように、2人は拳を脇に抱えました。
「最初はグーはいりません。1発勝負でいきましょう」
 そう提案したのは偽くりちゃんで、三枝委員長もそれに同意しました。
 本来の野球拳は、あくまでも楽しい雰囲気の下、盛り上げる役目の進行役が、陽気な音楽に乗って例のいかにも馬鹿馬鹿しいメロディーで「アウト! セーフ!」と申し訳程度の野球要素を加えて行われるはずなのですが、ここはあくまでも真剣勝負。「脱がされる」権利を得る事によるメリットの大きさは先ほども自分が述べた通りであり、自己紹介という難題を開き直りによって容易くクリアした偽くりちゃんは、既に裸かっぽう着をいかにしてエロく脱ぐかの算段を頭の中でしているはずです。そもそも裸にかっぽう着という衣装自体、なんだかこう、非常にムラムラとする見た目ではあるのですが、それでもすっぽんぽんを早く見たいと願うのは男の性、もとい童貞の性という物でしょう。
「いきますよ」
 数秒後、グーか、パーか、チョキか、解き放たれた手の平の形だけで全てが決まる。2人の意思には既に、何を出すか、確固たる答えがあるはずなのに、当たり前ですが勝敗はどちらに転ぶか分かりません。三枝委員長に与する自分としては、せめてスカートを脱ぐ1勝は最低でも達成しなければなりません。そもそも、偽くりちゃんが1度全裸になって、観客達が全員ロリにしか興味を持たないLO定期購読者になってしまったら、三枝委員長の全裸はそれこそぼろ雑巾のようにないがしろにされてしまうのでは無いでしょうか。
 いやあるいは、三枝委員長ロリに目覚め、そのまま敗北という危険性すら……。
「じゃん、けん……ぽん!」
 恐ろしくなって、思わず目を瞑ってしまいました。数秒の沈黙があって、自分はゆっくりと目を開いたと同時、男たちの声が飛び込んできました。
 偽くりちゃんが出していた手はパー。
 そして三枝委員長が出していたのは……グー。
 かろうじてではありますが、どうやら危険な状況は回避できたようです。この1敗によって、三枝委員長はスカートを脱ぐ権利を得る事が出来ました。おそらく最初は手で覆うようにして隠すでしょうが、ちらちらと生えかけの陰毛とおまんまんを見せつつ、次の勝負に時間をかけてゆっくりとやれば、勝機も見えてくるはずです。
 ほっと胸をなでおろしていると、観客達のざわめきの中に少しだけ、「ブーイング」とまではいかなくとも、疑問、反論、批評のような物が混じった事に気づき、自分はステージを再び凝視しました。
 なんとそこでは三枝委員長が、あろう事かパンツではなく、シャツの中に手を入れて、ブラから先に脱いでいたのです。
 ノーブラノーパンは確かに魅力的です。それは自分も認めます。しかし、今はそのようにもったいぶった扇情を演出している場合ではないのではないでしょうか。目の前の幼女が、次もじゃんけんに勝ってくれるとは限らないのです。


 三枝委員長は、たった今脱いだブラをパンツの時と同じように空中に放り投げました。唯物論の上においてはただの白い布きれであるそれを手にした、第2の幸運なる男性は、自らの上着をそそくさと脱いですぐにそれをだるんだるんの乳にはめ込んでいました。変態多すぎでしょう、この空間。
「さあ、次にいきましょうか」
 と、自信たっぷりに前に出た三枝委員長。次も負ける気満々です。何か、自分には分からないようなじゃんけん必勝法を編み出しているとでも言うのでしょうか。見た限りでは、その断片さえも感じ取れませんが、これでいよいよ偽くりちゃんの方にも余裕が無くなってきたというのは確かな事実です。三枝委員長の衣服は残り3枚。ニーソは最後まで取っておくとして、残りは上と下の2枚。
 いえ、もしかしたら……自分を不安が煽りました。もしかしたら、三枝委員長は次に負けたらニーソを脱ぐつもりではないでしょうか。不安は時間の経過と共に、具体性を増していきます。
 三枝委員長が、シャツでもスカートでもなく、先にブラを脱いだ事によって、彼女の持つ「淑女度」は確かに上昇しました。ぎりぎりまで、まともな人としてありたい。「裸を見てもらう」という宣言はしたものの、まだ迷いがある。やまとなでしことしての最後の意地。こんな恥ずかしい所を見られたら、もうお嫁にいけないっ。的な、日本男児であれば誰でもする超妄想を、三枝委員長はその臨界点まで引き出そうとしているのではないでしょうか。
 確かに、そのような「清純派痴女」というアンチロジカルな概念は、男心を巧みにくすぐるものですし、実に勃起しますし、それは春木氏も例外ではないであろう事は認めます。しかし次に負けても脱ぐのがニーソとなれば、ここから2連敗の確率は4分の1。危険すぎる。
 それに、ニーソを先に脱ぐと、「全裸ニーソ」の良さを殺してしまう形になってしまう。これは自分の趣味を完全に抜きにして、世間一般的に考えて、全人類の男を代表して申し上げますが、ただの全裸よりニーソをつけた全裸の方が興奮するに決まっています。いざ行為になった時に汚れてしまうですとか、若々しいふとももの張り付くような感触が味わえないだとか、せちがらい事情も確かに存在しますが、全裸ニーソは国際社会における常識であり、基礎教養なのです。
 少しばかり興奮してしまいましたが、つまり自分の言いたい事は、乙女を演じる事を意識する余り、変態の気持ちを分からなくなってしまうようでは、春木氏はおろか自分も倒す事は出来ないという事です。とはいえ、それをこの位置からステージ上の三枝委員長に伝える事など今は不可能。ただ固唾を呑んで見守るしかありません。
「いきますよ?」
「ええ」
 2人は再びその拳が運命まで届くように引っ張り、
「じゃん、けん、……ぽん!」
 三枝委員長の手は、再びグー。
 そして偽くりちゃんの手は……なんと再びパー。
 渾身の2連敗。
 ですが、まだ安心は出来ません。
 三枝委員長がニーソを脱いでしまう可能性はまだ残っている。
 誰からともなく湧き上がり、瞬く間に増幅していった「脱げ!」コールに、三枝委員長はこう答えました。
「ご主人様からの命令で、ニーソックスは最後まで取っておけと言われていますので……次は……スカートを脱ぎます」
 なんという意思疎通。


 かろうじて、全裸ニーソの見せ逃しという自分の心配事は回避されたようです。しかしそもそも、じゃんけんに2連敗出来た事が、三枝委員長の持って生まれた星といいますか、人生の大事な日は決してうんこを踏まない、格の違いのような物を感じました。それとも何か、凡人には理解さえ出来ないじゃんけん必勝法は、三枝委員長だけが閲覧する事を許されたアカシックレコードの片隅に存在するとでも言うのでしょうか。あながち冗談にも思えぬ話です。
 ノーパンノーブラにシャツとニーソ。どんなにお金をかけたブランド物の服だって、この格好に勝てる物はなく、シャツの裾から見えるマンチラはこの地球上において最も魅力的な景色であるという有力な学説もあります。
 もしかすると、これで春木氏との勝負は決するかもしれません。
 自分はそんな淡い期待を抱きながら、三枝委員長の動きを一瞬でも見逃さぬよう、しかし勃ってしまわぬよう、両目を阿呆かと思うほど見開きました。
 三枝委員長が、学校指定の白スカートに手をかけました。
 両の手で前かんを抜き、腰を緩めた所で1度手が止まり、顔をあげる三枝委員長。
 裏事情を知っていて、なおかつ三枝委員長が真性のド変態であり、これは彼女自身が計画してやった事なのだと重々知っている自分でも、その少し潤んだ瞳には心臓のあたりにある感情機械をズキュンとやられました。
 女の子にとって1番恥ずかしい部分を、変態達がこんなに集まった公衆の面前で、晒してしまうというその行為の重さ。明日から、町ですれ違った人の中には、三枝委員長がどんなカタチをしていて、どれくらい毛が生えていて、どんな風に濡れるのかを知っている人がいても何らおかしくはなく、しかも名前も住所も通っている学校もつい先ほど公開しまって、どこでも脱ぐという変態宣言もしている訳ですから、噂は瞬く間に学校の皆に知られてしまうでしょうし、家にもいられなくなるかもしれません。勘当や懲罰の可能性すらある。
 まさに、露出狂千秋楽。これから三枝委員長は、これまで歩んできたお嬢様としての人生ではなく、世間からさげずんだ目で見られる正真正銘の変態としての人生を生きるのです。自分はその重すぎる現実に耐えられなくなって、思わず、「考え直した方が……!」と声をあげましたが、全てを言い切る前に飲み込んで、言葉はすぐに周囲に渦巻く津波のような性欲の嵐にかき消されてしまいました。自分は言い終わる前に、重要な事に気づいたのです。
 その重すぎる覚悟があるからこそ、三枝委員長は絶頂に達する事が出来る。
 変態の生き方なんて、2つに1つに決まっています。
 隠して愛でるか、晒して爆ぜるか。
 三枝委員長はただ後者を選んだというだけの事。それを笑う者がもしもいるというのなら、自分は世界にいるあらゆる変態を代表して、そいつをぶん殴ってやります。
 今、自分が出来る事は、三枝委員長の痴態を見守りつつ、主としての威厳を保つ事、ただそれだけ。 そして全てが終わって、三枝委員長が自分の事を認めてくれるというのであれば、裸のままの彼女をきつく抱きしめて、耳元で、「おしっこしてください」と囁くだけの事です。


 さて、そろそろこの糞気持ち悪い自分語りはやめて、ステージに目を向けるとしましょう。シーンは今まさに、三枝委員長がスカートを脱ぐその瞬間です。
 どれだけの覚悟を決めようと、どれだけエロかろうと、時間や重力といったこの世界の理は至って平常運転を続け、映画のようにスローモーションになる訳でもなくただ、すとん、と意外な程に呆気なく、スカートは着地しました。
 良く磨かれた革靴から黒ニーソへとジャンプして、そのままずずずいと視線を上昇させて、絶対領域に踏み込み、しばらくむちむちふとももを堪能すると、おやおや? いつもひらひらと男を笑うプリーツの存在がそこには無く、ふっと視線を戻して足首に憎き布の死骸が転がっている事に気づき、ややや、これはこれは、非常事態ではないか、と今度は高速で眼球を動かし、境目までひとっとびにやってくると、古典表現、「鼻血ブーッ」が実に良く似合う状況であると脳が処理しました。
 自分がそんな悠長な処理をしている間に、観客達の息の揃った「脱げ!」コールは、「捲れ!」コールへとBボタンを連打する暇もなくジョグレス進化を遂げていて、三枝委員長の表情はそのコールにまんざらでもなく、シャツの裾、2つの三角形をぎゅっと掴んで、もじもじふるふるとしていました。
 そんなスーパーもじふる状態の恥じらい度MAX乙女が、いざ未使用大量破壊兵器を白日の下へと暴こうかとしたその瞬間、白い布が宙を舞いました。
 パンツか? ブラか? いいや……あれはかっぽう着だ!
 慌てて三枝委員長にへばりついて離さない眼球を無理やりひき剥がすと、その隣では、「おはようじょー!」とでも今にも大声で叫びそうな、生まれたままの姿で両手をあげて満面の笑顔の偽くりちゃんが立っていました。
 ごるごるごるごる……最初、自分はその声が、魔界からたった今目覚めた魔王の欠伸であると認識しましたが、それはどうやら間違いのようでした。それはロリコン達のうなり声、興奮メーターを振り切った、満月が無くてもセルフで変身する半獣達の咆哮でした。
 偽くりちゃんの、まったいらなその身体。完璧に閉ざされた、いわゆる「すぢ」と、まだ色素の沈着していない乳首。一糸まとわぬその姿。天孫降臨。アグネス大激怒。
 ラフプレイ。と、表現するのが正しいはずです。自分で野球拳を提案しておいて、自分でそのルールを破ったのですから、なんの事はありません、ただの羅刹です。
 しかしいかに掟破りな方法といえども、状況は進行してしまいました。さっきまで三枝委員長のこれまでの人生と、これからの豚生にいかがわしい想いを寄せていた人々は皆、もう偽くりちゃん銘柄の株を買いに走っています。美幼女の全裸なんて、早々生で見られる物ではありません。
 多分何人かの方がパンツの中で射精して、ほのかにイカ臭ささえ漂い始めた淫獣の群れを一瞬で黙らせたのは、奇妙な「発砲音」でした。
 ポン。
 と、間抜けな響き。
 続けて、ポン、ポポン……。
 一斉に、その音の鳴る方、つまり三枝委員長に視線が集まります。
 三枝委員長の尻の穴から、複数の「卵」が飛び出しているのに気づいたのは、それから数秒後の事でした。

     

 大きさからして、それはにわとりの卵ではなく、うずらの卵だったようです。
 にしたって何故、美少女のケツの穴からうずらの卵が飛び出してきたのか。三枝委員長が自分の気づかぬ内にうずらになっていた。と考えるか、あるいは三枝委員長は元々うずらだった。と考える他に、もっと自然な考え方があります。それは、三枝委員長がうずらの卵を自らのアナルにぶち込んでいた。しかも、出てきた量からして割と頻繁にそういうプレイも楽しんでいた。という、まあおそらくは限りなく正解に近いであろう衝撃の過去です。
 どうしてうずらの卵を腸内に入れようと思ったんですか? そう尋ねた所で、まともな答えはきっと返ってこないでしょう。何せ質問の時点でまともではないですし、例えどれだけ理屈の通った事を筋道立てて諭されたとしても、「だからとして卵をアナルに入れる結論に至るのか……?」という疑問は未来永劫、払拭出来そうにありません。
 確かに、淫乱雌奴隷という人種は、菊門に何かしらを入れられがちな種類の生き物ではあります。例えばアナルビーズですとか、アナルバイブですとか、アナルニンジンですとか、それはもう多岐に渡り、たまたまなったご主人様の趣味によっては、ロストバージンよりアナルファックの方が先、という憂き目に会っている人間も多々いるかもしれません。
 しかしながら、奴隷が自主的にうずらの卵を入れたというのは前代未聞の事のように思われます。八宝菜じゃないんですから、そう簡単に投入して良い物ではないのではないか、という自分の意見に賛同する方は多いのではないでしょうか。
 ですが、そのような無謀が、どこをどう転じたのか分かりませんが、今は好機となっています。偽くりちゃんのラフプレイによって根こそぎ持っていかれた観客達の興味が、今の砲撃によって一気に取り戻せた事、それ自体は確かなのです。
 素っ裸で諸手を挙げる幼女に対し、盛り上がりに上がった観客席の空気は一転して、「どうすりゃいいんだ……?」というダウナーな雰囲気に自ずと落ち着き、疑問1割、興奮1割、ドン引き8割という逆境が構築され、ここから三枝委員長はどう展開させるつもりなのか、自分は心の底から心配しています。
 直立不動のまま、ステージに転がった卵を拾おうとも、見ようともしない三枝委員長は、まだ腸内に残っていた卵を、ポポンと2つ3つ捻り出してから、「ふぅ」と謎のため息をついて、途端に、キリッとした顔つきになりました。
 人としてかなり最低の部類に入るであろう姿をこの大衆の前で見せ付けたばかりとは到底思えない、凛とした空気を纏いながら、三枝委員長は偽くりちゃんへと1歩1歩、着実に歩み寄りました。あらかじめ長めのシャツを着ていたらしく、姿勢を正しても局部が見えないようにセッティングしてあったのは流石といった所ですが、歩く度に危険度は増しています。
 かろうじて最後の砦を守りつつ、偽くりちゃんの前までやってきた三枝委員長は、砦も何も既に領地全面開放状態の、超自由主義の幼女に向けて、つい数秒前に尻の穴からうずらの卵を出した人間とは思えない程おしとやかに、こう言いました。
「ありがとう」


 思わぬ台詞に偽くりちゃんは当然うろたえます。
「……何がですか?」
「私が恥ずかしがっているのを見て、これを私にくれたのでしょう?」
 と言って三枝委員長が差し出したのはかっぽう着。なるほど、偽くりちゃんのルール無視の露出を攻める事はあえてせずに、かっぽう着を返却し、しかも「自分は恥ずかしがっていた」という事も強調したなかなか巧妙な一手です。
 しかし実質、脱衣を目的とした野球拳に勝利をしたのは三枝委員長ですが、じゃんけんに勝ったのは偽くりちゃん。勝者が敗者に気を使ったという構図が作られると、結局得をしてしまうのは偽くりちゃんの方では……と、自分が疑問に思うと、三枝委員長はこう畳み掛けました。
「でも、心配はいらないわ。見ての通り、私はすっかりご主人様に調教されてしまっているし、今日、こうしてこの舞台で裸を晒そうと決意したのも紛れも無く私なのだから」
 三枝委員長の中でのご主人様、もとい自分は、一体どこまで鬼畜なのか。
「お互いに露出を続けましょう。今度は遠慮はいらないわ」
 その一言で、観客席に再び火が点りました。ここは自由とHentaiの国、日本なのですから、女子が自らの穴に何を入れていようと構わないじゃないか。むしろ万歳。食べさせてくれ。テイクアウトプリーズ。そんな観衆達の心の声が聞こえてくるようです。
「とはいえ、あなたはもう全て脱いでしまっている」
 色々と付属品のついた三枝委員長とは違って、分娩台からここまで来ましたスタイルの偽くりちゃんにはもう脱ぐ物がありません。だからこそさっきからそこかしこで一生懸命何かを上下に擦っている音が聞こえてきているのですが、果たして三枝委員長は何を言いたいのでしょう?
「だから、私が手伝ってあげようと思うの」
 ステージ上で微笑みの爆弾を炸裂させた三枝委員長は、相手に礼を言わせる暇も無く、電光石火、行動へと移りました。
 偽くりちゃんの背後へと素早く回り、バックポジションを取った三枝委員長。右手を肩の上から、左手を脇の下から差し入れて、偽くりちゃんの乳首を両方同時にダブルクリックした様子。
「あっ」
 漏れた声を自分は聞き逃しませんでした。なんという早業。
「て、手伝うって、何を手伝う気なんですか……?」
 偽くりちゃんは三枝委員長の魔の手から逃れようと足掻きましたが体格差があってそれも不可能。
「オナニーに決まってるじゃない」
 という台詞はあくまでも自分の予想であり、実際は三枝委員長が偽くりちゃんに対してこっそりと耳打ちしただけで、正確には聞き取れなかったのですが、おそらく限りなく事実に即した言葉であったはずです。
 2人はその身をぴとりと寄せ合って、何ともやんごとなき事をおっぱじめました。


 まさかの百合展開に、自分は一瞬ついていくのを放棄しかけましたが、ここで飲み込まれてはあっという間に勃起してしまう、何としてもそれは避けねばならないと決意を改めて、煩悩を抑え込みつつ頭を回転させました。
 この露出バトルの目的は、今更改めて言うまでもなく春木氏を撃破する事です。この場合の撃破とは即ち、春木氏に「ロリ<露出」である事を認めさせる事であり、その上で勃起させる事、つまり偽くりちゃんがいくら露出によって恥をかいたところで、それはロリゆえの魅力であるとも解釈出来るので、致命傷に至るダメージは与えられません。よって、三枝委員長自身が露出の魅力を体現する事が必要となってくる訳です。逆に、三枝委員長の敗北イコール彼女自身の幼女化と、処女の喪失という2つの強烈なリスクは依然としてあり、偽くりちゃんの魅力を三枝委員長が認めてしまえば、それは大いに有り得る絶望なのです。
 であれば、偽くりちゃんのオナニー補助など、百害あって一利なし。ただいたずらにロリの深淵へと踏み込むだけで、こちらには何の得もないではないか。という至極真っ当な難問が生じます。
 一体何を狙っているのか。普段の三枝委員長は、常に冷静沈着で、的確な判断力と行動力を持った出来すぎたお人ですし、ミスを犯したなどという話は噂ですら聞いた事がありません。この奇襲オナニーにも、その裏には何かしらの狙いがあると自分は思うのですが、果たしてそれは、この異常な状況においても真であり続けるのでしょうか。
 ふと、景色が遠のくような感覚に襲われます。
 ひょっとして、三枝委員長はもう、当初の目的を忘れているのではないでしょうか?
 言うまでもなく、彼女は人に自分の裸を見られるのが大好きな稀代のフラッシャーであるので、先ほどスカートを脱いだ時点、いえ、ひょっとすると、このステージに立った時点で、絶頂に達していた可能性は大いにあります。となれば、先程のうずらの卵がトドメとなって、思考回路をショートさせた可能性もあり、まともな判断が出来なくなっている可能性もあり、興奮しすぎて何が何だか分からなくなっている可能性もあり、もうとにかくエロい事が出来れば何でもいいと、自暴自棄になっている可能性もあります。
 暴走。
 頼みの綱である三枝委員長が、そんな状態に陥ってしまっていたら、自分は一体どうすれば良いのか、まるで濃い霧の森の中に、コンパスはコンパスでも円を描く方のを間違えて持ってきてしまったような失意です。
「なるほど、そういう事ね」
 ふいに耳元で囁いた声は、また気づかぬ内に戻ってきていたトムの声でした。ところで関係ない話ですが、透明人間と結婚出来るのは透明人間だけです。浮気と、半透明の子供が怖くないのならば。
「……どこに行ってたんですか?」と、自分。
「いやね、ちょいとゲストを呼びに行っててさ。もうすぐ来ると思う」
 不適に笑うトム。どこまでが本当だか分からない上に、ぼかしぼかしなので、ここで自分が、そのゲストとやらが何者で、何故呼んだのかなどと必死になって追求するのも馬鹿らしいと思えたので、あえて流しました。
「それより、『なるほどってどういう意味ですか、馬鹿な僕に教えてくだちゃい』って訊きなさいよ」
 クズ腐女子の分際で……。自分は怒りを鎮めて無視を貫きます。
「よし、それならお姉さんが教えてあげよう」聞いてねーよ。「いやー分からないもんかね? ちょっと頭を捻ってみれば分かる事。三枝瑞樹はあのステージを、自分の物だけにしようとしている。男共の視線を全て占領したがっている。となれば、邪魔になるのはあのエロ幼女だけど、無理やり退場させれば非難を食らうのは間違いない。では、一体どうすれば良いんでしょう?」
 わざわざ説明されなくても、それをさっきから考えているのです。
「正解は、全てを出し尽くさせて戦闘不能にすれば良い。簡単でしょ?」
「……だから、一体どうやって?」
 深い闇の奥底で、白い蛙が笑っています。
「女はね、本当の本当に絶頂に達すると、しばらくの間動きたくなくなるもんなのよ。まだほとんど手付かずのあの子を堕とすのは並大抵の事ではないでしょうけど、三枝瑞樹なら、あるいはね」
 一層大きくなった歓声に突き動かされ、自分は再び前に目を向けました。ステージ上ではちょうど、体を完全に預ける形になった偽くりちゃんの、まだ幼すぎる蜜所に三枝委員長の細い指が忍び寄っていく所でした。

     

 あいにくと自分は今、高性能カメラどころか携帯電話すら持っておらず、この実に素晴らしい光景を記録に残せないというくやしさがまずあり、その先に、いつでもなく今、他のどこでもなくこの場所に居る事が出来た幸運を神に感謝する気持ちがあり、どの道これだけの人数に撮影されていれば、あっという間にネットの海に放流される事は容易に想像出来ましたので、今はただ肉眼に丁寧に焼き付ける事と、勃起しないように心がける事が肝要であるという結論に辿り着きましたが、後者はなんとも難しい相談であるようです。
 思えば、三枝委員長がくりちゃんの身体を弄ぶのはこれが初めての事ではありません。ド・ヘンタイ・フタナリスキーこと音羽君が、本物のくりちゃんの方にちんこを生やし、そのちんこの勃起が収まらなくなった時に駆けつけて始末をしてくれたのが、誰あろう三枝委員長でした。その時自分は、トイレの壁越しに聞こえる嬌声に耳を傾け、束の間のレズタイムをほくほく楽しんだのですが、とはいえ何分、結局はちんこがしごかれているというお話ですから、言うほど興奮はしなかったように記憶しています(記憶違いは誰にでもある事です)。
 しかし今回は、言ってみればガチ百合。待ったなしの1本勝負。果たして三枝委員長は、自身がロリに目覚める前に偽くりちゃんを絶頂に導く事が出来るのでしょうか。そしてどのようにして、偽くりちゃんの痴態を我々に見せてくれるのでしょうか。
 女子の細くて綺麗な指が、同じく女子の身体を這い、快楽へと誘うというその行為自体、全生物の本能である「とりあえず子孫を残そう」という基本理念にそもそも大いに反していると言えるのですが、ならば何ゆえにこのように男を(あるいは女を)奮い立たせるのでしょうか、なんとも不思議です。
 2人は座って、というより三枝委員長が偽くりちゃんを無理やりに座らせる形にして、まぐわいは続きました。三枝委員長の10本の指は、まるでピアノでも奏でるみたいに、偽くりちゃんのぷっくらと浮いた乳首を弾き、まだつぼみの花が将来綺麗に咲く事を祈るように、丁寧に丁寧に愛でているのです。前門のロリ、後門の露出狂。絶体絶命とはまさにこの事なのかもしれません。
 この様を「百合」と表現した者には天賦の才があるように思われます。ややうつむき加減に咲く白い花。外巻きに跳ねるように開く花弁の重なりは、あたかも女体同士の重なりを巧みに表現しているようです。
「や、やめ……私にそんな趣味は……」
 必死に三枝委員長の指技から逃れようとする偽くりちゃんでしたが、それが余計にいやらしく映りましたし、そもそも先に奇襲を仕掛けたのは偽くりちゃんの方ですから、助け舟は一向に港を出る気配がありません。
「遠慮なんてしなくていいわ」
「そうじゃ……なくてぇ……!」
 偽くりちゃんの言葉の端々に、酷く淫らな物が少しずつ確実に混ざり始めました。息を呑み込み、じっと見守っていた観衆も、思わずため息が出るほどの素晴らしい前戯です。同時に、例え偽くりちゃんが春木氏の能力によって召喚された存在であっても、春木氏以外によって感じさせられ得るという事が、これではっきりと分かりました。
 勝利はまだ、手の届く所にあるのです。


 公開ペッティングの進行は、緩やかかつ的確に行われ、ステージの上は最早2人だけの空間と化し、「元々こいつらデキてたんじゃねえか!?」と疑いたくなるほどに、ラブラブいちゃいちゃな時間がメロウに流れました。
「どうして胸を触ってるだけでそんなに感じちゃうのかしらね?」
「感じてない……! 感じてないからぁっ……」
 青い吐息に赤い感情。
「嘘つく子には押し置きが必要ね」
 強くつまんで、ぴんと指先で弾いて、もう片方はころころと転がし、
「あふぁっ……」
「かわいい声。いじらめれるのが好きみたいね」
 台本でもあるのかと言うほど完全に役割が出来てしまっている2人です。
「おかしいっ……私とあなたは敵ですよ……?」
「敵でもいいわ。抱きしめてあげる」
 元々0距離の所を三枝委員長の豊満なお胸が偽くりちゃんの身体を包み込むくらいまで更に距離を詰めて、それでもまだ、膨らみかけですらない丘予定地にある2つのポッチを、決して逃さずに指で刺激し続けるというその執念じみた愛撫。APPARE。
「お、おかしくなっちゃうぅ……」
「なっちゃえばいいのよ」
 おい、こっちがおかしくなります。
 三枝委員長、本来の性癖である所の露出は、「いかにして自分を見てもらうか」という所に重点が置かれます。よって、彼女の持つ本質も、「いかにして自分を高めるか」に対して機能を極め、いわば真性のドMと解釈するのが通常ですが、何度も申し上げてきた通り彼女は「規格外」なのです。例えば自分は、お恥ずかしい話「なわとび」が不得意で、2重跳びどころか後ろ回し跳びすら危うい有様なのですが、ここで仮に三枝委員長も自分と同じくなわとびが不得意だとすると、彼女は3重はやぶさ跳びを華麗に決めた上で「不得意」であると分類する訳です。もしもこの行為が終わって、彼女にこう尋ねたとしましょう。「以前どこかで幼女に性的いたずらをした事があるんですか?」彼女は少しはにかんでこう答えるはずです。「いいえ、初めてよ。あまり上手く出来なかったわ」
 そういった観点から冷静に見れば、この光景は当たり前といえば当たり前の事なのです。偽くりちゃんの打って出た策は、あろう事か三枝委員長の「本気」を呼び覚まし、偽くりちゃん本人を溺れさせる結果となってしまった。そして誰も救助には来ない。
 敵ながら同情に値する偽くりちゃんを、更なる快感という名の悲劇が襲います。
「胸だけでこんなに悦んでくれるなら、こっちを触ったらどうなってしまうのかしら……?」
 ドSな微笑で、まずは鼓膜から迫る三枝委員長の見事な攻撃。見た目上は必死にあがいている偽くりちゃんですが、ほとんど力を入れる事が出来ないはずです。勝負の世界に容赦などありはしませんし、愛撫にもそれは必要ありません。
「……ほら」
「あああっ! いやぁ!」
 三枝委員長の指は、偽くりちゃんの一呼吸の内に宮殿へと進軍しました。そこは紛れも無く、偽くりちゃんの内部へと繋がる正門です。


 一般的に、男性は視覚によって性的興奮を得る事が多いそうですが、それを裏付けるような事象が、今この場において観測されました。三枝委員長の指が偽くりちゃんの秘部に到達した瞬間に見せた、ほんの僅かな挙動。それをつぶさに感じ取り、全員が共有した「今、触れた」という感覚は嘘ではなかったはずです。
 触れる直前に偽くりちゃんはバネ仕掛けのように股をびしっと閉じて、防御体制をとっていましたが、むしろそれが仇となりました。「触れた」と皆が思った次の瞬間から、三枝委員長は閉じられた脚に自らの脚を絡ませて、そしてゆっくり負荷をかけて無理やりに開いていったのです。まるで三枝委員長のおみ足は、元々これをする為だけに与えられたのではないかと思うほどに、正確な挙動でした。
「やだっ……やめてぇぇぇ……!」
 涙交じりの訴えもむなしく、両開きになった偽くりちゃんの下半身。そこに三枝委員長のニーソが絡み合って、聖人じゃなくても目を背けたくなるほどに(とはいえ実際に目を背ける事は聖人であろうと難儀に違いはないのですが)卑猥なタンデムが出来上がりました。大きめのぬいぐるみを抱えるような格好の三枝委員長の局部は、偽くりちゃんの身体によって隠されていますが、偽くりちゃんの局部の方は、つまり全開状態。これがパチンコなら玉入れ放題のフィーバータイムです。パチンコじゃなくてもフィーバーです。
「こんな……つもりじゃあっ……」
「また嘘ついてる。本当は少し期待してたんでしょう? その証拠に……」
 股間から引き抜いた指を三枝委員長が光にかざすと、そこには謎の水分によるちょっとした「光沢」のような物が見え、観客達からは「おおっ……!」という砂漠でオアシスを見つけたような声があがりました。
「もうこんなにして、はしたない子ね」
「嘘……! ちがっ……」
「何が違うの? 詳しく教えて」
 再度股間へと伸ばされた指は先ほどよりも深い位置に進みます。具体的に言えば、ぴったり閉ざされた柔肉をぐりぐりと掻き分けて、ピンク色の部分がほんの少し見えるくらいまで。
「ほら、みんな見てる」
 瞬きをする者はいません。カメラを持っている者は決して撮り逃さないように、持たざる者は限界まで眼球を枯らして、2人の痴態にフォーカスを合わせているのです。
 三枝委員長の右手は、偽くりちゃんの腕と肩を拘束しながら乳首を刺激し、左手はわき腹を締め付けながら股間を刺激しています。いずれも女子の弱点に違いなく、快感は、一気に爆発するその時に向けて刻一刻と静かに積もっていくのです。その作業工程の、なんと猥褻な事か。こんなにエロ素晴らしい物を見せていただいて、御代をお支払いしないというのは、万死に値する重罪のようにも思えます。
「い、いい加減にして……!」
 偽くりちゃんは、ありったけの力を込めて、三枝委員長の腕を振り払いました。脚部の方は未だ支配下に置かれていますが、上半身はほんの少しだけ自由を手に入れました。
「これ以上は絶対に駄目っ! 私は、私の身体は……マスターの物なんだか……ら……」
 最後の言葉が聞こえるか否かという微妙な所で、三枝委員長が唇を合わせて言葉を塞ぎました。
「あれ、マジのキスじゃね?」
 と耳元でトムが囁いたので、自分は「女子同士の結婚式ではいくらくらいご祝儀を包めばいいのだろうか」と真面目に考え始めました。

     

 異性が確実に結ばれるように、神様が性器を用意したのだとしたら、同性でも愛し合えるように、唇は用意されたのかもしれません。何せ三枝委員長は、まるで絶対の権利を行使するかの如く偽くりちゃんの口内へ、遠慮なくずぶずぶと貪るように舌を入れていましたから、自分がそんな事を思ってしまうのも無理からぬ事です。
「ふぁ…………はぁ…………」
 宣戦布告なしの奇襲攻撃を受けた偽くりちゃんの全身からは、すとんと力が抜けたようでした。最早火薬庫には満足に抵抗出来る弾薬など残されていないらしく、ただただされるがままに蹂躙されるのみで、これにて完全に勝負は決したかに見えましたが、それは自分の愚かな勘違いでした。
 特攻。
 偽くりちゃんが次に取った行動をこう称して何ら語弊は無いはずです。
 観客達の視線は、首から上で行われる壮絶な空中戦から、そのずっと下の下、より壮絶な海戦へと移りました。三枝委員長の指が偽くりちゃんの秘部に猛攻を仕掛けているのと同様に、偽くりちゃんも三枝委員長の秘部へと果敢に攻め入っていたのです。
 こうなってしまうと、もう完全に性行為です。
 一体それは何基準だ、と苦情があるかもしれませんので説明します。まだどちらかが一方的に身体を弄るだけならば、年端もいかない子供達の無邪気な戯れと受け取ってもらえたかもしれません。特濃ディープキスも、まあ超ぎりぎりですが、仲が良いという意味のアレだと判断しようと思えば出来なくも無い。が、股間を指で刺激しあってるとなれば、もうそれは、誰がどう贔屓目に見ても、性行為ですから。性行為、ですから。
 しかしながら、偽くりちゃんのその反撃を「特攻」と呼んだのはもう1つの意味があります。それは即ち、冷静かつ客観的に見れば、敗戦国家が最後の最後に意地を張り通すような、馬鹿げた悪あがきであった、という事です。
 勉強しかり、運動しかり、じゃんけんなどという運勝負しかり、そして、愛撫しかり、この人に勝てる訳がないのです。三枝委員長は、偽くりちゃんが肉体に痛みを感じない範囲を重々心得ているようで、じらしてじらしてじらして攻める、最も快感の増すアルゴリズムを完璧に守る高等テクを保つ一方、偽くりちゃんの愛撫はまさに稚戯。三枝委員長の性器をただ指で触りまわしているだけで、全然核心には迫れていないのです。
 三枝委員長の手の動きが激しくなるのに比例して、偽くりちゃんの息遣いは荒くなり、小刻みな震えが増えて参りました。制空権も制海権も根こそぎ持っていかれている彼女には、もう全面降伏しか手は残されていないのです。 
 くたーっと骨抜きになった小さな身体を完全に預けられた三枝委員長は、最早戦う形にさえなっていない偽くりちゃんの性器に向け、これでトドメとばかりに舌を突き出して舐めました。やがて、地球の自転が早くなるのではないかと心配になるくらいの悲鳴をあげて、偽くりちゃんは絶頂に達しました。
 偽くりちゃんの身体を優しくステージに横たえさせ、ゆっくりと立ち上がった三枝委員長がほんの少し不満げに見えたのは、果たして自分の気のせいでしょうか。気のせいでないとしたら、その不満は、「もっと楽しみたかった」という悪魔的な不満であるに違いなく、戦果の大きさを物語っています。
 焼け野原となったステージには1人、魔王が立っていました。


 次の瞬間、誰からともなく、ぱらぱらと拍手が起こりました。拍手は次第に大きくなり、やがて万雷のそれとなって、三枝委員長と偽くりちゃんの2人に送られました。
 偽くりちゃんが絶頂を迎え、そのいやらしさ極まりない幼児体型をこれでもかというほどに見せつけ、これにて本日のメインイベントは終了し、そろそろ解散と思った者が大多数だったのでしょう。実際、ほとんどの人はもうカメラを仕舞っていて、周囲に国家権力の気配が無いか心配をし始めた所でした。
 あれだけ素晴らしいロリ百合まな板ショーを見せられたら、これでお開きだと思うのも仕方の無い事です。終わりの拍手を送りたくなるのも十分分かりますが、今ここにいる観客達は根本的な間違いを犯しています。
 そう、これからが、本番なのです。
「皆さん、お待たせしました」
 三枝委員長の一声で、拍手はピタっと止み、再び注目が集まりました。大衆は常に幸福の奴隷です。
「木下さんばかりが気持ちよくなってしまって……私は置いてけぼりです」
 さも悲しそうに、三枝委員長はそう言って、うつむき加減に客席に目を配りました。
「この中に、私を絶頂に導いてくれる方はいらっしゃいませんか? もしもいたら、出てきて欲しいのですが……」
 ストリップショーからの集団レイプ。エロ漫画で120万回ほど見てきた展開です。それを実際にやろうと言うのでしょうか。自分は三枝委員長の正真正銘のド変態さに唾を飲み込み、周りを見渡しました。
 圧倒的無言。その裏には、軟弱な男同士の牽制しあいが隠されています。
 確かにエロ漫画に良くあるシチュエーションとはいえ、ここはエロ漫画の世界ではありませんから、刑法181条により、集団強姦罪には4年以上の懲役がつきます。今の場合は、三枝委員長側から誘っているのは明白で、この事実に対しての証人もこれだけの数がいますが、全員が共犯となった場合、彼女の手の平がちょんと返れば、これまで積み上げてきたそれぞれの人生はあっという間に反故にされてしまいます。無論、人生を投げ捨ててでも抱く価値が三枝委員長にあるのも間違いはないのですが、しかし三枝委員長の身体はたったの1つですから、当然、1度火がつけば奪い合いになります。力の強い者が勝つ原始時代に一時的にタイムスリップし、弾かれた者はぶっかけすらままならない可能性もあります。
 よって、誰も動けないのです。「俺がやるぞー!」と大声で出て行こうものなら、後ろから新しい男がきて蹴飛ばされ、蹴飛ばした男も更に後ろからやってきた男に蹴飛ばされるという無限ループが待っています。あらかじめ順番をくじびきか何かで決め、効率よく輪姦していくプランが決まっていれば話は別ですが、このにわか集団ではそれも望めません。
 また、こういった高度に政治的な問題とは別に、「自信」という重要な問題もあります。
 何せ相手は、ほぼ未開発の幼女をほぼ指だけでイかせた性のスペシャリストです。それを相手に武器もなしに戦って、果たして勝てるというのか。三枝委員長は「私を絶頂に導いてくれる方」と指名しました。それが成就せずに、コトが終わると同時に豹変した三枝委員長に「……けっ、粗チンが」などと罵られようものならば、心にマリアナ海溝より深い傷が刻まれ、そこに大量の練りからしがなだれ込んでいく絵が容易に想像がつきます。
 つまり、動きたくても動けないのです。
「あれ、やりたくないの?」と、耳元でトム。
 やりたいに決まっている。しかし、やれないのです。


 そういった集団心理が生まれ、結局名乗りをあげる者が1人も出ないという事を、三枝委員長は想定した上で言ったのでしょう。次の台詞で、それが分かりました。
「……どうやら、いらっしゃらないようですね。それなら仕方ありません。自分自身で、慰める他ありませんね……」
 という訳で、蓋を開けてみれば何の事はない、非常に回りくどいオナニー宣言だったというオチです。半分安心、半分落胆という雰囲気に包まれた会場は、しかし侮りも色濃く、言葉に訳すに「いくら魅力ある身体といえども、流石に幼女とのレズプレイに勝るオナニーなど存在しえないだろう」という意見がクラウドしていました。
 そんな無難さを覆すのが三枝委員長というお人です。
 おもむろに、1つ1つ丁寧にシャツのボタンを上から外していく三枝委員。下半身丸出しスタイルの卑猥さは、先にも重々述べたのでご理解いただけたと自負していますが、それは同時に三枝委員長にとって強力な武器を1つ、封じているという事でもあります、これは言ってみれば、歩飛角香銀金玉落ちで将棋を打つようなものであり、羽生レベルでなければこれで勝つ事は出来ません。
 三枝委員長の持っている天性の武器。それは即ち、「おっぱい」です。
 中学生にあるまじきその胸の猥褻物。まったいらな偽くりちゃん、それに毛が生えた程度の(乳毛という意味ではありません)本家くりちゃん。両者は持っていない、そして未来永劫持つ事はないであろうリーサルウェポン。男には決してない、あってはならない母性の塊。即ちプルトンをついに今、三枝委員長は解き放ちました。
 ばぃぃ~~ん。
 という擬音が似合いそうな乳房。
 思えば、ここまでの戦いで、あえて口にはしませんでしたが、自分は皆さんが思っているよりも遥かに苦戦してきました。三枝委員長のスカートが落ちた時、偽くりちゃんが全裸になった時、愛撫が始まった時、舌が挿入された時、偽くりちゃんが絶頂に達した時、いずれも自分は99%まで勃起して、何度も何度も心の中で言い聞かせました「自分は変態であり、おしっこだけを愛していれば良いのだ」はっきりいって2人の裸を事前に見ていなければ即死でした。
 かろうじて堪えていたのです。常人ならとっくにちんこが爆発しています。
 しかし今回の戦いで最も危なかったのが、三枝委員長のおっぱいが解放された今この瞬間です。何度も見ているはずなのに、実際、この手に掴んだ事まであるというのに、その時よりも遥かに魅力的に見えてしまうのです。これがつまり、「露出」の真髄という事なのでしょう。
 次の瞬間、耳に聞きなれた音が届きました。BOMB! 例の爆発音です。自分は慌てて股間を確認しましたが、どうにもなっていません。ほとんど勃起していますが、まだ土俵際で踏ん張っています。次に爆発音のした方向を見ると、煙があがっていました。その周囲では、観客の何人かが騒いでいます。「どうした!?」「テロか!?」「突然こいつの股間が爆発したんだ!」「俺は何もやってないぞ!」
 前方に向き直ります。春木氏の後ろ姿を探し、それはすぐに見つける事が出来ました。しかし爆発したのは春木氏ではないようで、彼は平然と三枝委員長を見続けています。つまり、決着はまだしていない……!
 爆発したのは自分でもなければ、春木氏でもなく、三枝委員長でもなく、トムでもない。これはつまり、別のHVDO能力者が観客達の中に混ざっていたという事を示しています。
 自分はふと、思い出しました。
 人一倍おっぱいが好きな、彼の事を。

     

 HVDO能力者のエロに対する執着は尋常ではなく、東に乳丸出しの病人がいれば行って揉みほぐし、西に疲れた乳丸出しがいれば行って結局揉みほぐすが信条の等々力氏が、この一大イベントを見逃すはずもなく、むしろこの集団の中に居ないと思い込む方が不自然であるという事に今更ながら気づきました。
 等々力氏はどうやら帽子を深く被っていたらしく、身長も髪型も目立つ風体ながら、自分は爆発するまでついに気づきませんでしたが、そもそもあまり観客の方を真剣に見る暇もなく、ステージ上の舞姫と、最前列でそれを見ている春木氏の様子にしか目は配っていなかったので、これは言い訳かもしれませんが、気づかなかったのも仕方のない事であるように思われます。
 突然の爆発に、観客達は一時騒然となりましたが、「そんなことよりオナニーだ」の精神は伊達ではなく、股間を押さえて身悶える等々力氏を集団の中からゴミ屑のように放り出す、という人として全うな解決法によって喧騒はすぐに収まり、三枝委員長もまるで何事もなかったかのように脱衣を進めました。
 等々力氏が、今度は台詞さえ与えられず、信じられないほどあっけなく敗北したのは、三枝委員長のおっぱいを見るという本懐を成し遂げた末での事ですので、同情の余地は一切ありませんが、問題はこの馬鹿みたいな敗北によって、三枝委員長は新しいHVDO能力を得たという事です。
 放尿好きの自分は当然、露出に関しても造詣が深いのですが、それでも三枝委員長に発現したHVDO能力を予想する事は非常に難しいと言わざるを得ません。しかし、たった2つの能力(1つ目の能力はほとんど使っていないので、実質はたった1つの能力ですが)を活用する事で、ここまでの攻撃を作り上げた訳ですから、ここに3つ目の能力が加わった時、どれだけのエロスを叩き出すかはまったくの未知数であり、赤道まで連れてこられたゴマフアザラシの如く無気力に転がる等々力氏の死体に、近い将来の自分が重なって見え、やや憂鬱になりました。
「ひょっとして、さっき言っていたゲストというのは等々力氏の事ですか?」
 自分は小声で、周りに聞こえないようトムにそう尋ねました。
「いや? 五十妻君の大好きな等々力君は、最初からここに来ていたみたいだよ。私が呼んだ人は、来てくれるかどうかも分からないしね」
 ゲストというのは一体誰ですか、と尋ねるチャンスが再度訪れている事には気づいていましたが、今度は別の理由でそれが出来ませんでした。至急、訂正の必要があります。
「自分が等々力氏を大好きとは心外です。拷問の時の自分の発言は、柚之原さんを罠にかける為の嘘だと言いましたよね?」
 でゅふふ、という気持ち悪い笑い声が聞こえ、
「いやいや、同性に対する恋心ってのは案外自分では気づかないもんでね。何の気なしに等々力君の名前が出てきたのは、つまりさ、そういう事なんじゃないの~?」
 戯言は無視するに限りますが、等々力氏が最初からストリップを見ていたという事はどうやら事実なようです。
 やはり彼はおっぱい星の皇子なので、偽くりちゃんの洗濯板には微塵も惹かれなかったと見るのが妥当ですが、とはいえ、等々力氏がここまで耐えられた事は、過去の彼と比べると物凄い成長であると言えるでしょう。
 まあ、野郎の下半身の話はどうでもいいです。肝心なのは、遂に一糸纏わぬ姿になった三枝委員長です。自分は再び、ステージに目を向けます。


 芸術。
 ミロしかり誕生しかり、ヴィーナスと表現される女性の裸体は、人を感動させるエネルギーを発する宿命にあります。例え中身がとんでもないド変態だろうと、それを観賞しているのが下心100%のいかがわしい集団だろうと、三枝委員長の肉体は、エロの一言で済ますにはもったいない芸術性を伴って、そこに堂々と立っているのです。
 見ているだけでさらさらの質感が伝わってくるような黒髪を後ろにかきあげると、聖人君子の如き慈悲深い双眸と、寂とした表情に差したほの紅い火照りが光に浮かびました。口をきゅっと閉じて、高い鼻で静かに鼓動する生体文学。首筋を伝って視線を下ろすと、人体の中で最もはっきり皮膚の上からでも形が分かる骨である鎖骨が、あたかも絵画の一部となった額縁のように、そこを超えた部分から始まる魅惑の丘を飾っています。
 自分は等々力氏ほど女性の乳房に対して執着がある訳ではありませんが、この2つの膨らみにかける情熱は分からないでもありません。何の確証もありませんが、それは世界で1番柔らかい物ではないかと推理され、触るにしても舐めるにしても吸うにしても眺めるにしても、柔らかい事は気持ちの良い事です。そんな柔らかな塊にちょこんと乗った乳首の圧倒的存在感たるや筆舌に尽くし難く、興奮すればするほど立ってくるという男心くすぐる性質は、神が人に与えた究極のメリハリです。
 更に下って、スリムなのにしっかりと肉感のある腹部。鼻を突っ込んで思いっきり深呼吸したくなる綺麗なおへそから、艶かしい腰のでっぱりとそこから広がっていくお尻の肉を堪能し、いよいよ肝心の、女子が1番人前で見せちゃいけない部分をやがて目撃してしまうのです。
 先ほどの偽くりちゃんの愛撫は、拙いなりにも三枝委員長を刺激していたようでした。下品ではない性器というのは、果たしておかしな表現でしょうか、しかし少なくとも自分にはそう思えました。割目にも、陰唇にも、陰毛にも、不思議といやらしい所が一切無く、完璧に調和のとれた1つの彫刻のように、そこに収まっていたのです。
 むっちり系のふとももは、もしも手で触れれば吸い付いて離れなくなる事は間違いなく、黒ニーソによって際立つ白い肌の清潔さが、いよいよ迫真に近づく境界であり、股下に構成されるデルタ地帯によって、前から見える向こう側の尻肉は、意外性を持って目を喜ばせてくれました。第二の絶対領域とも揶揄されるその空間には、「空」という哲学が画されているようでもあります。
 三枝委員長の肉体の全貌を見て、死を覚悟していた自分は愚か者でありました。それは露出という羞恥によって、以前見た事のある裸体から、更に発展した究極の美へと変貌を遂げていたのです。つまり自分は気づきます。
 それは、勃起していい物ですら無かったのです。
 人間、余りにも神々しい物を見てしまうと、常に滾っている欲望や邪念などは振り払われ、賢者の如き冷静さを取り戻してしまうものなようで、事実、自分のちんこは今、なりを潜め、三枝委員長が脱ぐ前よりもおとなしくなって、だらしなくぶら下がっています。
 こんな芸術品に発情するなんて、変態としてではなく人間としてどうかしているのです。観客達の中には、両手を併せておがんでいる者がいます。両目からぼろぼろと涙をこぼして、それを乱暴に拭う者もいます。それでも勃ってしまう愚息に怒りを覚え、グーで殴っている者もいます。


 そんな阿鼻叫喚を見つめる三枝委員長は、果たして何を思うのでしょうか。脱いだシャツを、横たわった偽くりちゃんの体にそっとかけて(その動作の洗練された過程を説明すると大変な容量になるので、ここでは省略します)、改めて客席に向き直って目を瞑って深呼吸をすると、意外なほどに小さな声で、淡々と言いました。
「今からオナニーをします。私が絶頂に達する所を、皆さんどうか見ていてください」
 非常にまずい。三枝委員長の身体が芸術品である事については、先に重ね重ね表現しましたが、そんなエロとはほど遠い存在が、マスターベーションという卑猥極まりない行為をしてしまうとなると、それを見た人間の感情に、何が発生するかは全くの未知です。脳内物質が奇跡的な割合で衝突しあって、ひょっとしたら、超能力に目覚めてしまう人間がいるのではないかと心配になって、自分が既に目覚めている事を思い出しました。
 もしもこれから三枝委員長が本気で乳首をこりこりし始めて、クリトリスをびくびくといじって、膣に指をずぼずぼ入れて、思いっきり淫乱に、内に秘めた本質を解き放ち始めたら、はっきり言って勃起せずにいられる自信など微塵もありません。なるほどこいつは勃起させるぜ! と心から叫んで、憤死する未来がすぐ近くまで来ているのです。
 それでもなお、逃げるという選択肢はありえません。自分には春木氏との勝負の行方を見守る義務があり、三枝委員長の痴態を見る権利があるのです。その過程で自分が死んでしまおうと、それは今挙げた義務と権利には何の関わりもない事であり、死する時が来れば、ただ潔く逝くのみです。
 夜深し 女神降り立つ 月の下 ロリにほっこり 股間もっこり
 そんな拙い辞世の句まで浮かび始めた自分の脳はおそらくもう駄目です。確かに失う物は大きいですが、ここから逃げた時に失う物はもっと大きいに違いありません。三枝委員長はご主人様としての素質が無いとして自分の事を見放してしまうかもしれませんが、それも仕方のない事。ただ自分に、三枝委員長を調教するだけの器が無かったというだけですから。
 諦めの境地に達した自分の肩に、ぽんと手が乗っかりました。
 最初、自分はそれが誰だか分かりませんでしたが、振り向く気さえ起きませんでした。
 しかし結局、自分の周囲の人々が、自分に無視を続けさせてくれませんでした。
「さっきの……」「いや、似てるけど違うぞ」「お、お姉さんとかですか?」
 ひそひそ声はやがて明らかな質問や、興奮、それから期待に変わっていきました。
「私の呼んだゲストが来てくれたみたいよ」
 と、トムが耳元で囁いてからようやく、自分はゆっくりと、後ろを振り向く事が出来ました。
 そこに立っていたのは、ずっと生活を共にしていたというのに、久々に会ったような気がする不思議な人でした。厳粛な裁判官でも殺人許可を出してしまいそうな程に、怒りに満ちた鬼の形相を見て、自分は不思議と心から安心出来たのです。顔がひきつっていたのは、決して恐怖からではありません。涙が零れそうになるのを、無理に堪えていたからです。
 自分はそこにある夢でも幻でもない人の形に向けて、名前を呼びかけます。
「くりちゃん……」
 いつもの声で、いつもの返答。
「その名前で呼ぶなっつってんだろ!」

     

 くりちゃん。
 そう呼んで怒られる事も、今となっては懐かしい事で、よくよく考えてみれば、糞生意気なわがまま暴力女であるくりちゃんが、慈愛の大天使幼女くりちゃんとなってから、1ヶ月という時間が流れていた事を思い出し、「くりちゃんはやはり一生幼女のままの方が良かったのではないか」というやたら正論っぽい思想に至ってしまうほど。自分は情けないほどにうろたえて、かけるべき質問の「優先順位」を間違えました。
「な、何故こんな所に……?」
「あん?」と、非常にタチ悪い感じで、「いやあんたが目覚めたらここに来るようにって書き置きを残したんでしょうが。来てくれたらもう一生例の妙な能力を使わないって約束するって書いてあったから、ちょっと悩んだけど来たんだし」と答えました。
 当然、そんな書き置きを残した覚えはありませんので、これはつまりトムの策による物という事になります。自分をこの場所に呼び出した後、くりちゃんが寝ている間に家に侵入し、書き置きをして、目覚ましか何かをセットしておいたのでしょう。
「つか、あんたさぁ……ちんこ切られる覚悟出来てるよね?」
 冷静かつ高圧的に、くりちゃんは自分にそう尋ねましたが、それは質問というより脅しと捉えるのが正常な判断と言えます。がしかし、脅しといえども決して嘘ではありません。くりちゃんはやると言ったらやる女です。
 自分は色々な思いを頭の中で巡らせました。幼女化したくりちゃんと同棲している時、すこぶる健康な生活と偽って散々にしてきた、様々ないやらしい所業の数々は、どれ1つをとってみても、くりちゃんにとっては男の魂をちょん切る十分な理由のように思えましたので、まずはどれから謝っていいのか、いっそのこと自分も女になってしまって、つい先ほど知った濃密たる百合の世界へとダイブするのも悪くはないかもしれないなどととち狂い始めた矢先に、くりちゃんは頭を手のひらで押さえてこう言いました。
「頭いてー……つーか私どんだけ寝てたんだ? しかも何であんたの家で寝てたんだ? すんごい長くて、すんごい嫌な夢を見ていた気がするんだけど……」
 自分は息の止まるような思いで尋ねます。
「あの、ひょっとして、覚えていないのですか?」
 そう、自分は優先順位を間違えていたのです。「何故こんな所に」よりも先に、幼女になっていた時の事を覚えているかどうか、を聞き正すべきだったのです。まずは自らの身の安全。それこそがこの混沌の時代において、最も重要な情報なのです。
「……何がだよ?」
 怪訝そうに睨むくりちゃん。おそるおそる質問を重ねます。
「つかぬ事をお伺いしますが、寝る前、自分が何をしていたか覚えていますか?」
「寝る前?」
 くりちゃんは視線を左上に泳がせて、何度か瞬きしたあと、それでも思い出せないらしく、腕を組み、首を捻り、やがてハッと気づいたように、手をポンと昭和風に叩きました。
「そうだ! 私は確か春木にはめられて……それで小学生になって……あれ? それから……どうしたっけ? 身体は……ちゃんと戻ってるな。ん? どういう事だ?」
 日本語覚えたてのチンパンジーのようなこの愛らしい仕草に、自分は少しほっこりとしてしまいましたが、それを堪能している時ではありません。
「くりちゃん、明日からは……?」
「え? 冬休みだろ?」
 よし、覚えてない! セーフ!


 などと喜んでいる場合ではありません。
 これから一生かけて、くりちゃんだけに現実の日付を隠し通すなんて到底不可能な事ですし、時間が経過してしまっている事がバレてしまえば当然、その間何をしていたんだ、という話になります。覚えていないとはいえ、夢のような形で意識の中にはあるようですので、自分のした悪行を1つ1つ思い出す度にちんこを切られていては、つまりちんこがいくらあっても足りません。
 やむを得ません。ここは多少の被害を覚悟で、本当の事を伝え(ただし、その過程で自分のした行為は出来るだけ隠せるように工作し)、現在の状況を理解してもらうのが先です。つまり真の「優先順位」はこうです。
「これから自分が説明する事に対して、どれだけ怒りが湧いても乱暴な事はしないでください。約束できますね?」
 くりちゃんの性格からして、素直に「はい、約束します」などと言わない事は分かりきっていましたが、無言で頭をぶん殴られるとまでは思ってもいませんでした。あの天使が、たったの数年でこんな事に……。気を取り直して、再度告げます。
「くりちゃんが幼女になったのは、あくまで春木氏の能力のせいです。そこは勘違いしないでください。幼女化による被害の一切は、春木氏に対して損害賠償を請求してください。そんなにちんこを切りたいというのなら、自分のではなく春木氏のを。いいですね?」
「だから、何が言いたいんだよ?」
 自分は冗談に聞こえないように気をつけながら、慎重に慎重に言葉を紡ぎます。
「冬休みは終わりました。年も変わっています。それどころか、我々はもうすぐ受験です」
「あ? 何言ってんだ? 頭打っておかしくなったか?」
 どちらかというと、おかしくなってしまったのは、あなたの方なのですよくりちゃん。
「春木氏のHVDO能力によって、くりちゃんは身体だけではなく頭の中まで幼女に戻っていたんです。それをつい先ほど、三枝委員長が春木氏を罠にかけて、くりちゃんの幼女化を解いて、元に戻したという訳です」
「え? え? ちょっと待て……ん?」
 それから自分は同じ内容を3度ほど繰り返して話し、ようやくくりちゃんは頭では理解したようでしたが、まだ納得まではしていませんでした。というより、信じたくなかったのでしょう。ずっと小学生のまま過ごしていたという事も、高校浪人寸前だという事も。
 哀れみに満ちてくりちゃんをぼんやり眺めていると、自分も少しばかりの客観性を取り戻してきました。
 ここはどこだったか? 三枝委員長の用意した野外ストリップ会場です。
 さっきまで何を見ていたか? 三枝委員長が全裸になって公開オナニーを始めた所です。
 あ! と気づいた時には遅かったのです。
 「優先順位」が、今やっと分かりました。
 くりちゃんに対して問うのではなく、自分に対して問うべきだった問い。
 それは、「今、自分は何をすべきか?」という生き方を改めさせられかねない問いなのでした。


 突然のくりちゃん登場に、自分は平常心を失って三枝委員長のオナニーを見る事をすっかり忘れていたのです。これは猛省すべき事であり、もう1度柚之原さんの拷問を受けたとしても仕方のない罪ですが、もし本当にそうなったら超軽めの5分コースでお願いします。
 自分がこのおもらし女の相手をしている内に、三枝委員長のオナニーは佳境を迎えていました。処女膜が破れそうな勢いで指を突っ込んで、18禁ゲームみたいにあへあへ言いながら、がに股で立ち、快楽に全てを任せながら腰を振っている三枝委員長。それはそれは無様な姿でしたが、見ごたえは確かにありました。自分とくりちゃんの会話に、周囲の誰も興味を持たず、何の介入も無かったのも、ステージの上がこんな大変な事になっていたと分かれば納得出来ます。歓声さえあがらなかったのは、皆が皆一心不乱に、ズボンの中で一物をしごいていたからでしょう。
 三枝委員長一世一代の、我が身を捨てた大暴走を、少しでも見逃してしまっていたという狼藉。これは一生をかけても到底償いきれない失敗です。
「ちょ……あれ委員長!? な、な、な、何やってんだオイ?」
 こんな貧乳おもらし女の為に割いている時間などもうありません。自分は無視しますが、「無視すんな変態!」と脇腹に良い1発が入ったので、仕方なく早口で説明します。
「三枝委員長が露出プレイをする為にここの皆を集めたんですよ。見りゃ分かるでしょ」
 生意気言うなと言わんばかりに、がしがし、ともう2、3発入りましたが、すかさず拳を手で受け止めて能力を発動させると「もう変な能力は使わないって言っただろ!」とキレたので、もっともっと早口で「それは別のHVDO能力者の罠です。また騙されてるんですよくりちゃんは」と言った後に再度発動させると、やっと大人しくなってくれました。この貧乳おもらし記憶喪失女が。と心の中で毒づきます。
「委員長って本当の本当に変態だったんだな……ていうかさ、春木とかいうあの変態は一体どうなったんだよ?」
 うるせえなぁと思いつつも、確かにそれは気になる所です。等々力氏以降、ちんこの爆発は起きた様子はありませんから、まだ負けてはいないはず。性的にどんどんエキサイトしていく三枝委員長も横目で見つつ、春木氏の姿を探しますと、若干手間取ったものの後姿を見つける事が出来ました。
 春木氏は、至近距離で行われている三枝委員長のアヘ顔シングルピース(もう1つの手はもちろん股間)を、それはもう平然と眺めていたのです。
 やはり春木氏は本物の変態のようです。幼女力が無ければ、倒す事は叶わないというのでしょうか。
 自分のちんこももう限界になり、観客席のイカくささも最高潮まで達し、隣のくりちゃんが同級生の性癖にドン引きしたのと同時、三枝委員長がついに絶頂に達しました。
 瞬間、凄まじい事が起きました。
 それは自分が、HVDOに関わりを持ち始めて、いえ、持つ前から思い返してみても、まるで見た事の無い状況であり、味わった事の無い衝撃でした。くりちゃんもそれは同じようで、「ひぃぃぃ」と情けない声を出して自分の身体にしがみついてきました(尿の貯蔵量から考えて、若干自然に失禁した可能性があります)。
 観客席前方、つまり三枝委員長の真ん前、春木氏の並びから順番に、その後方、つまり自分とくりちゃんが今いる方向に向かって、連鎖的爆発が起こりました。1つ1つは聞き覚えのある爆発音でしたが、流石にこの数が連続にとなると、最早それは別物でした。
 それら連鎖している爆発は全て、男たちの股間から起きています。殺傷能力は十分にありそうな規模ですが、不思議と肉体に被害はなく、しかし痛みは伴うので呻く。それは自分が過去味わった敗北と同じ性質をもっていて、つい先程等々力氏の身に起きたそれと全く同じでした。
 会場に集まった、100名を超える男の陰茎が、一斉に爆発する。
 こんな珍事、どこの新聞にも載っていませんし、ファンタジーでも滅多にある事ではありません。

     

「少年。僕に後悔は無いんだ。
 幼女の美しい1本スジを見る事が出来たからじゃない。うぶなのに濃厚な百合絡みを味わえたからじゃない。若さで破裂しそうな肉体を大胆に使ったオナニーをおかずにせんずりこけたからじゃない。
 後悔をしていないというのは、そういう事じゃないんだ。
 もうすぐ僕は気を失う。それと同時にこれらの素晴らしい記憶も失ってしまうような気がする。
 だから少年。僕達と同じ場所にいて、それでも生き残った君にこそ伝えておきたいんだ。僕が後悔をしていないのは、あらゆるエロに対しての執着ではなくて、僕が僕でなくならずに済んだという自己への執着の話なんだ。
 僕は、僕のした行動に後悔をしない。それだけは、どうか覚えていてくれないか……」
 年齢はおそらく30ほどでしょうか、中肉中背の黒縁メガネで、人畜無害なその表紙、ふいに開いたページには、名もなき漢の挽歌が刻まれていました。遺書のように託された言葉の1つ1つに自分は頷き、ゆっくりと目を閉じていくその見知らぬ人物を見送り、心の中で「いや、ただスケベが災いして酷い目にあってるだけだろ」と冷静な突っ込みをいれつつも立ち上がり、辺りを見回しました。
 自分のすぐ足元で気絶したその男以外にも、性的敗北者、もといクズ達が次々にその場に倒れ、僅かな間、呻きとも嗚咽とも取れる声が五月雨のように聞こえてきましたが、しばらくすればそれも止んで、やがて凄惨な戦場のごとき光景が目の前に広がりました。
 100を超える死体と、漂う栗の花の匂い。
 その中に立っているのは、呆然とした自分。そんな自分にしがみついて、この異様な光景を前に引きつりっぱなしのくりちゃん。ステージの上で全裸で仁王立ちする三枝委員長。そして、大して驚いた様子もなく、死屍累々を楽しそうに眺める春木氏の4人。それぞれに温度差がありました。
 自分はくりちゃんをひきずりながら、気を失った人々の身体と身体の間のスペースに足を差し込み、さながら10年近く片付けていない汚部屋を探検するように1歩1歩を確かに踏みしめ、ステージの方へと進んでいきました。
 先程までの喧騒が嘘になって、今はただ深夜の静寂だけが満ちる公園を、自分はひたすら歩きます。なんと言葉をかけていいのか、いや、そもそも言葉をかける権利があるのか。そんな間抜けな悩みを真剣に考えながらも距離は残酷に縮まっていき、三枝委員長の方は元来の人格者として相応しいきりっとした表情に変わり、その振る舞いには清楚さが溢れ、まあ全裸ではありましたが、いつもの調子を取り戻しているようでした。
 自分が、「あの……」と声をあげた瞬間、わざと遮るように、春木氏がこう言ったのです。
「素晴らしかったよ、三枝さん」
 それから小さく拍手。
 三枝委員長は微笑んで、「ありがとう」と答えました。


「これは一体どういう能力なんだい? 差し支えなければ、教えて欲しいな」
 ごく自然にそう尋ねる事が出来る春木氏の才能が、自分は心底うらやましくあります。
「まだはっきりとは分からないけれど、私を見て興奮していた人の股間が爆発して『私の露出に関する記憶や記録』が消滅する能力のようね。発動条件は、私が『絶頂に達する事』って所かしら。あなた達2人が無事な所を見ると、どうやらHVDO能力者には効果が無いみたい」
 という事はつまり、先程三枝委員長が自分で晒した個人情報と、肉奴隷宣言が全く無かった事になるという事でしょうか。「取り返しのつかない事」を取り返しのつく状態で繰り返せる。これはつまり、変態プレイのレベルをやや下げつつも、繰り返しによる創意工夫が加わり、結果的にレベルアップが狙えるというギミックです。今回はただ氏名住所奴隷宣言、ロリ百合からの単独全裸オナニーという構成の露出プレイでしたが、ここに牛乳浣腸を加えたり、両親の目の前で行ったり、集団レイプされてみたりと、ぱっと思いつくだけでも様々なバリエーションが考えられるので、三枝委員長は、等々力氏を倒した事によって新しく得たこのHVDO能力により、拍車をかけて酷い変態になったと言えるはずです。
「良い能力だね。特に複数のHVDO能力者を同時に攻撃出来るのは非常に強力だと思うよ」
 冷静かつ的確な春木氏の診断に、自分は思わず頷いてしまいそうでした。事実、今回死んだのは等々力氏1人でしたが、くりちゃんの邪魔が入った事(「助け」と言うべきだと思われるかもしれませんが、あえてこう表現します)によって自分は死なずに済んだというだけであり、それが無ければ自分はあっさりと三枝委員長の生贄になっていた所でしょう。
 春木氏の好評価に、三枝委員長は目を細めて答えました。
「だけど、結局私は、あなたには勝てなかっ……」
「待ってください」
 思わず、誰がそう言ったのか、周りを確認しました。3人が自分に注目している事に気づき、自分が言っていたという事実に驚きましたが、わざわざ考える必要もなく言葉は勝手に出てきました。
「三枝委員長は負けていないはずです」
 隣で「こいつらにはついていけない」というような表情をするくりちゃんに、自分はちらりと目配せをしてから、
「くりちゃんが来なければ、自分は確実に三枝委員長に負けていました。そうなれば、三枝委員長はもう1つ新しいHVDO能力を得ていたはずです」
 これに春木氏が反応します。
「そのどんな物かさえ分からない新しい能力によって、僕は倒されていたはずだ。と?」
 それが架空と妄想の上に成り立った拙い理であるという事は分かっています。分かっていますが、黙ってはいられなかったのです。やはり春木氏は自分の敵であり、三枝委員長は愛すべき奴隷です。
 このまま、たらればの「勝っていた」「負けていた」の水掛け論に陥る可能性を察したのか、三枝委員長は諦めたように言いました。
「五十妻君、もういいのよ。私が負けた事は……」
 という所で再び遮ったのは、今度は自分ではなく春木氏。
「おっと、結果に変わりはないが、三枝さんが「負けていない」という五十妻君の意見には、実は僕も賛成なんだ」
 春木氏ははにかんだようにそう言って、三枝委員長の乳首をぴんとはじきました。


 爽やかな笑顔の下に隠した、鋭い刃が音も無く飛び出ます。
「三枝さん。君さ、最後の方は僕達観客に向けてではなくて、五十妻君だけに向けてオナニーしていただろ?」
 突然の指摘に、自分は確かにうろたえましたが、もっとうろたえていたのが誰あろう三枝委員長本人でした。ミスパーフェクトとも称される三枝委員長がこんなに動揺しているのは、ついぞ見た事がありません。いえ、よく見れば頬も若干紅潮しています。これは、もしかして、自分の、あるいは全男性の大好物である「恥じらい」という代物なのでしょうか。
「くりちゃんが到着して、五十妻君がそっちに注目したのが、ステージに立った三枝さんからははっきり見えたんだろうね。HVDOの世界に入ってからというもの、かなりの人数の女子のオナニーを見てきている僕が言うんだから、間違いはないはずだよ。三枝委員長は、五十妻君に向けてオナニーしていた」
「そ、そんな事は……!」三枝委員長が声をあげますが、続きません。
「あるんだな。これが。まあつまりだね、『もしもくりちゃんが来なかったら』という過程の話ではあるけれど、もしも三枝委員長が『僕のくりちゃん』と百合していた時と同様に、『会場に向けて』オナニーをしていたら……勝負は分からなかったという事さ」
 今更ながら、春木氏の股間がもっこりとしている事に自分は気づきました。
「ただし、現実は1つしかない」
 ええ、春木氏の言う通りです。今ここにある現実は、三枝委員長が全力を出し切ったという事と、春木氏がそれでも生き残っているという事だけです。春木氏は満足げに頷いて、一瞬だけくりちゃんの方を見ると、声を1段階大きくしました。
「……が! 僕には三枝さんに勝っちゃいけない理由があるんだな、これが」
 その時、ステージの上から、よろよろとした足取りで全裸の偽くりちゃんが降りてきました。慌てて、くりちゃんの方を見るとなんとこの馬鹿は、それが自分のもう1つの姿であるという事に気づいていなかったようなのです。「あ、また新しい変態だ」くらいの気持ちで、過去の自分を見つめている様子。まあ年齢が違うという事もありますし、自分がもう1人いる訳がないという前提もありますが、事実をはっきり伝えたらどうなるかは気になる所です。
 春木氏にもたれかかって、泣きながら「ごめんなさいご主人様ぁ……!」と謝罪を繰り返す偽くりちゃんに、春木氏は上着をそっとかけました。まだ全裸のままの三枝委員長は、春木氏に尋ねます。
「勝ってはいけない理由、とは?」
「10個目の能力さ」
「おっと、それを教えてあげちゃうのは、ちょっと大サービスすぎやしない?」
 といきなり声を出したのはトムでした。姿を確認出来ないので、三枝委員長とくりちゃんは周囲を警戒しましたが、自分からしたらもう慣れたものです。春木氏も自分と同様だったのは、少々意外ではありましたが。
「何はともあれ五十妻君は生き残ったのだから、教えてしまっても構わないだろう? ……まあ、やめろと言われても従う気はないけどね」
 くすくすと笑う春木氏に、底知れぬ恐怖の片鱗を見ました。


「言うまでもなく、HVDO能力者はその性癖バトルにおいて勝利を収めると、新しい能力が得られる。ただし、その新しい能力には『上限』がある。それが10個という訳さ」
 新事実。ですが、驚くほどではありません。
 以前、これについては自分も少し考えた事があります。もしも能力が無限に増えていくとしたら、世界は広いですから、100個くらい能力を持った変態がいてもおかしくはなく、そんな奴には勝ち目がありません。しかしそれでは性癖バトルが無意味になってしまう。よって、それが正確にいくつかは今の今まで知りませんでしたが、何かしら上限があるはずだ、とは思っていたのです。
 春木氏はメインの手品を披露するように、こう続けます。
「そして10個目の能力は、『世界改変態』と決まっているんだ」
「世界……改変?」
 ギャグエロラブコメバトルという雑食ジャンルからですら、勢い良く大気圏外に飛び出したその言葉に、自分は軽い眩暈を覚えましたが、春木氏は一切構いません。
「いや違う、『世界改変態』だ。僕達の性癖が、この世界を再構築するのさ」
 ヤバい人だ。というのは分かっていましたが、こういう「ヤバさ」だとは思っていませんでした。自分はどう捉えて良いやら分からず、三枝委員長の方を見ましたが、彼女も同じ心境だったようです。
 しかし当人は至って真面目であり、近くで聞いているはずのトムもそれに反応しない事から、春木氏が今言っている事が真実である事が窺い知れました。
「……勘違いしないで欲しいな。僕が狂ったんじゃなくて、世界が狂ってるんだ」
 勇気を振り絞って、自分はこう尋ねます。
「あの、それはもしかして、例えば自分が10個目の能力を得たとしたら、『地球の海を全て美少女の尿にする』だとか、『雨の代わりに美少女の尿が降って来る』だとか、『美少女がおもらしをする生中継が常に空に映る』だとか、そういう夢のような世界が実現出来るという事ですか?」
「それが夢のようとは僕には思えないが、そういう事も出来るには出来るね」
 俄然、やる気が出てきましたが、くりちゃんが「こいつ……頭おかしい……」と呟いていました。
「僕の世界改変態は当然、『僕以外の人間が全員かわいい幼女になる事』を目標としていた。が、今はその崇高な目標に、陰りが出てきた」
 春木氏はそう言うと、本物のくりちゃんの方をじっと見据えました。自分は先程の、春木氏の自宅においての三枝委員長とのやりとりを思い出しました。「あなたは木下さんの事が好きなのよ」三枝委員長のその指摘は、間違ってはいなかいはずです。現に、春木氏の隣には今、くりちゃんにそっくりな偽くりちゃんが寄り添っています。
「世界改変態の能力は、僕の9つ目の能力と同様、意思による正確なコントロールが出来ないんだ。つまり、『願い』が叶う訳じゃない。『求めている物が手に入る』」
 最悪の事態を、自分は瞬時に想像しました。それは言葉にするにもおぞましく、そして絶望的でした。
 改変とは、文字通り世界を変える事。変態とは、常軌を逸した性癖の事。
 人類が滅びた後の、何も無い荒野に春木氏と幼女になったくりちゃんだけが立っている景色。
 自分が想像したのは、そんな終末でした。

     

エピローグ


 それからの日々について、少し語らねばなりません。
 禁欲生活。というほど大それた物でもありませんが、自分のオナニーの回数は確かに目に見えて減りました。お前のシモの話などはどうでもいいわ、と思われるかもしれませんが、これは最も重要な事です。
 幼女くりちゃんとの生活を楽しんでいた時のように、息子に元気は無いが精神的には満たされているというような明確な理由がある訳ではなく、ただ単にやる気が起きないというだけで、日々の鍛錬とも言える自慰行為を怠っていたのですから、自分を良く知ってくださっている方から見れば、これが一大事であるとお分かりいただけると思われます。
 何故、自分がオナニーに対する情熱、通称マスターパッションを失っていたのかという所については諸説あるのですが、どれもいまいち芯を得ていないというか、こじつけなように感じて窮屈です。ですが、一応はここに記しておいて、そうする事で何か新しい発見が降って来るのを待つとしましょう。
 三枝委員長の、あれだけ豪快で気持ち良さそうなオナニーを見た後だと、自分のが酷くいじましく思えたという説。いくつかの死線をくぐったとはいえ、まだまだ春木氏に勝てないという事を悟って憂鬱になったという説。くりちゃんの「世界をどうこうする前に、いい加減その気持ち悪い性癖を治しやがれ」の言葉に少しは考える所があったという説。などなど。1番最後のに至っては、その後に「このド変態が」というありがたいお言葉も頂戴致しましたが、それはむしろ褒め言葉と受け取っておきました。
 理由はともかく、オナニーの回数が減ったというのは純然たる事実でありまして、おかげさまで勉強の方が捗ったのは、唯一良い影響のようでした。
 ある日突然、幼女という夢の中から、受験戦争真っ只中に放り込まれたかわいそうなくりちゃんはというと、最初、「お前なんかに頼るもんか! 死ね! ばーかばーか!」とお見事とも言える死亡フラグをおっ立てて、そのわずか半日後、頼れる友達が1人も居なかった事に気づき、自分の所へ半泣きで戻ってきました。
「三枝委員長の所はどうなんですか? 『勉強で困ったら遠慮なく来てね』とあの日仰っていたじゃないですか。全裸で」
 と尋ねると、くりちゃんは伏し目がちに視線を逸らして、
「あんた以上に何されるか分からないし……」
 と自分でさえも半分くらいは納得出来る答えを返してくれました。
 直接の原因を作ったのが春木氏とはいえ、自分もわりと長い間くりちゃんを幼女のまま放置して、しかもその解決にはこれっぽっちも役に立っていないという負い目もあって、自分はくりちゃんに勉強を教えてあげる事にしました。人に教える行為というのは不思議なもので、別に今更新しい科目に踏み込むという訳ではないですし、習った事を再確認するという意味では、なかなか良い復習になりました。受験日の10日ほど前にあった模擬テストでも、ほぼ100%の合格率で、担任からは「直前ではあるが、もっと上を目指せるんじゃないか」という指摘をされましたが、例の秘密の「学校合併話」を知っている手前、うんとは頷けず、結局、全盛期の清原の打率くらいしかないくりちゃんの合格率を同情気味に横目で見つつ、黙って首を横に振ったのです。
 自分の、というよりはくりちゃんの勉強漬けの日々が続きました。時々、ふとした瞬間に幼女になっていた時の記憶が戻るらしく(顔を真っ赤にしていきなり殴ってくる時がそうです)、気づくと「これが終わったら……これが終わったら……」が口癖になっていましたが、とはいえ勉強を教えてあげている恩義はそこそこ感じているらしく(頼れるのが自分しかいないという悲しさ溢れる身の上に対する虚脱感もあったのかもしれません)、一物をちょん切られるという憂き目には遭わずに済みました。
 自分は誠意のある人間ですから、赤っ恥にもんどり打つくりちゃんの姿に対して、更に追い討ちをかけるような真似は誓ってしませんでした。確かに何度かおしっこは漏らさせましたが、それは全て自分の部屋の中だけに限定し、自分以外に誰も見ていない状況での事だったので、許される行いのはずです。
 あっという間に受験日がやってきて、自分とくりちゃんは一緒に試験会場へと向かいました。
 つまりこれは、気づかぬ内に例の女性不信が治っていたという事です。一体誰のおかげでそうなったのかは自分でも良く分かりません。


 合格発表は、それから1週間後でした。
 これは全くの偶然で、HVDO能力とは何の関係もないただの事故だったのですが、自分のと、それからくりちゃんの合格通知が一緒に自宅のポストへと届いていました。隣同士である事の幸運。実に気の利いた、お茶目な郵便配達員さんもいたものだと感心しました。
 当然、自分はくりちゃんの合格通知を隠しました。なかなか届かない通知に焦りを感じ始めたくりちゃんに、そ知らぬ顔して「もしも不合格だったら浪人して来年また受けるんですか?」と尋ねると、深刻な表情で「いや、親に花嫁修業をさせられる……」とうっかり答えましたので、「誰の花嫁になるんですか?」とわざとらしく尋ねましたが、流石にそこまで馬鹿ではないらしく答えは返ってきませんでした。
 ははあ、1ヶ月も同棲していた事もあって、両親はもう既にくりちゃんを自分の所に嫁にやる気でいるなあと感じ取れたので、近々きちんと挨拶をしに行っておかなければなるまいと心に刻みました。ついでにくりちゃんの合格通知も燃やしてしまおうとも一瞬思ったのですが、そこまで悪魔ではありませんでした。
「くりちゃん、もし今神様が現れて、『合格させてあげる代わりに何か1つ言う事を聞け』と言われたら、その申し入れを受け入れますか?」
「何言ってんだアホ! ……受け入れるに決まってるだろ」
 見事なまでに切羽詰っていました。自分はふふん、と珍しく笑って言いました。
「それならば自分が神様です。合格させてあげましょう」
 野生のアブドーラ・ザ・ブッチャーより鋭く睨んできたくりちゃん。自分は「じゃじゃーん」と口で効果音を言って(その日の自分は紛れもなくうかれぽんちでした)、合格通知をさっと取り出しました。
 神様は半殺しにされました。
 しかしそれでもまだ、さけるチーズの要領で陰茎を細切れにされなかった分、自分はくりちゃんと仲良くなれたと思うのです。
 松葉杖をつきながら、新調する制服のサイズを測りに行き、ついでに体育館シューズと革靴と通学カバンも購入し、別の日には教科書と、新しい文房具、ついでにペンギンクラブを買った時にも、くりちゃんは自分と行動を共にしました。もちろんその裏には、くりちゃんの両親の政治的策略があったのですが、自分は男らしく気づかないフリをしてここは割愛します。
 ああ、ここが日本ではなくケニアなら、とりあえずくりちゃんを嫁に貰っておいて、それから三枝委員長を第二の妻に迎えて、他に良い小便漏らしが現れたら片っ端からいただくという合理的行動もとれるのですが、いやむしろ、自分がオタリアの雄ならハーレムを形成する事が出来るというのに。「五十妻」という苗字に恥じない、素晴らしけしからん帝国を築き上げるに心血を注ぎ込むのに。という邪にも程がある思想を抱いたその日から、自分の生きる標が決まりました。
 そうだ。自分の世界改変態を、そんな風にすればいいのだ。
 それは実に愉快で、画期的な思いつきでした。


 しかしながら、実現までには様々な障害があるように思われます。
 まず、自分が倒せるHVDO能力者を探すという事。本来、変態性癖なんて物は誰にも知られないように隠して然るべき物であり、おおっぴらにしている人間は極々稀です。そして仮にそんな人物を発見したとしても、果たして自分が安全に勝利を収められるかはまた別の話なのです。例え9個まで能力を得たとしても、たったの1敗でそこまでの努力は全てパーになります。必要なのは連勝であり、アベレージではありません。
 既に知っているHVDO能力者を再度倒すという手段も考えましたが、三枝委員長からの情報によると、どうやらこの方法で10個目の能力を手に入れるのは不可能なようです。というのも、1度勝利を収めた相手に再度勝利をしても新しい能力は増えないらしいのです。三枝委員長が柚之原さんに試してみて発覚し、その姉の知恵様に聞き正してみたところ、リベンジに成功しない限りこの縛りは解けないという新しい法則も分かったとの事なので、この情報は正確なはずです。
 という事は、自分が既に勝利を収めている等々力氏、三枝委員長、音羽君、知恵様には、自分が1度彼らに負けない限りは勝っても意味がなく、能力は当然増えないという事になります。付け加えて、新しいHVDO能力者を見つける事は非常に困難ときています。あの夜以降、自分は既知外のHVDO能力者との接触を持っていません。そもそも、HVDOという組織については未だに謎が多く、一番良く知っているであろうトムには、こちらからコンタクトを取る手段が無いのです。
 そしてもう1つ、自分にとって唯一この法則が有利に働く春木氏の問題があります。
「春木氏、世界を滅ぼす気ですか?」
 あの夜、自分は春木氏にそう尋ねました。春木氏は笑って、こう答えました。
「ははは、そんな気はないよ。無いからこそ、ここは引き分けという事にしよう、と三枝さんに提案しているんじゃないか。もちろん、幼女化能力も既に解除している」
 春木氏の言葉に嘘はありませんでした。
 10個目の能力、「世界改変態」が、意思とは無関係に、当人が心から望む物を与えるというのならば、くりちゃんに恋している春木氏は、例え世界の全てを犠牲にしてでも、くりちゃんの愛を手に入れてしまうかもしれない。無論、それが春木氏の真の望みであれば、という注釈つきですが、果たして人間の心理という物は未知で、正確に測るものさしなどはそもそも存在していないのです。春木氏自身にとっても、心を迷路のように感じているのは同じ事なようで、「確かにくりちゃんは魅力的だけど、世界中の幼女を犠牲にしてまで手に入れる価値は無いと思っている。少なくとも、頭の中ではね」だそうで、ここに1つのロジックが完成します。
 春木氏は、くりちゃんを実際に手に入れるか、あるいは完璧に諦めるまで、世界改変態を行えない。
 よって、今日も自分はのほほんと、くりちゃんの自分に対する罵詈雑言をBGMに、彼女がパンツを汚すのを楽しく見物していられるという訳です。


 長い冬が終わって、もうすぐ春が来ます。
 高校生になれば、嫌でも新しい出会いが待っており、その中には新たなる変態も、そして新たなる小便少女もいるはずです。
 期待に胸を膨らませつつ、ヒビの入ったアバラを気遣いながら、自分は眠りにつきました。
 あ、そうそう。これは割とどうでもいい事なんですが、つい先日、くりちゃんが街を歩いていると、息の荒い太った男に突然声をかけらたそうです。なんでも、「君が裸でいる姿を見た事があるんだけど、何故そんな事になったのかどうしても思い出せない。確かあれは深夜の公園だったような気がする。あ、いやいや、僕は決して怪しい者じゃないよ」とかなりの早口だったらしく、当然急いで逃げたのですが、その時「君、木下くりという名前じゃないか!?」と思いっきり叫ばれたそうです。
 話を聞いて、自分はすぐに合点がつきました。
 三枝委員長があの時ステージで発動させた第3の能力は、あくまでも三枝委員長に関する記憶と記録をふっ飛ばす物であり、一緒に露出プレイをした偽くりちゃんについてはノータッチだったのです。
 という事は、あの時居合わせた百何人かは、くりちゃんの全裸の幼女姿と名前を記憶しているはずで、中には映像を所持している人物も相当数いるはずです。
 自分はくりちゃんからその話を聞いて、声をあげて笑いました。爆笑はなかなか止まず、アバラにヒビを入れられたのはその時の事です。
 しかし、これが笑わずにいられますか?
 くりちゃんが恥ずかしい人生を歩めば歩むほど、自分はそれを幸福に思います。そしてくりちゃんの受難は、まだまだ当分の間続きそうなのですから。

       

表紙

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