十紀人「ふぁああぁ。ん!?」
あくびをしていると誰かに見られている視線を感じる。
あたりを見渡すが俺を見ている人は誰もいなかった。
しいて言えば百鬼の安らかな寝顔がこっちをむいているくらいだ。
まだ授業中なのだから当たり前といえばそうなのだが・・・。
ただの気のせいだろうか。
白雪「ご主人様、どうした?」
後ろの席でノートを広げている白雪が声を掛けてくる。
十紀人「いや、なんでもない。」
白雪「そうか。」
最近になってだがこういうことが多い。
授業中や、休み時間、下校の時、そういったときにどこからか視線を感じる。
政府?だったら粋がすぐに気付いて警告して来るはずだ。
だったら白雪や百鬼を狙う何者か・・・いやそれも違うだろうそんな奴だったら俺を見ないで真っ先に百鬼や白雪を見ているはずだ。
そんなことに頭を悩ましていると授業が終わったようで教師が教室を出ていき騒がしくなる。
百鬼「お昼であります!!」
さっきまで隣の席で気持よさそうに寝ていた百鬼が飛び上がるように起き上がる。
いつものように白雪が百鬼を説教していると静が来て俺達は屋上に向かった。
楓「みなさん。お待ちしておりました。」
屋上に着くと楓が俺たちを出迎えてくれる。
白雪「楓か、いつも済まないな」
楓「いえいえ。最近は屋上で食べる人が多いですからね。」
十紀人「いつもありがとうな。」
楓「お安い御用ですよ。」
そう言って頬を赤らめる楓はなんとも可愛らしい。
静「お兄ちゃん。鼻の下が伸びてますよ。」
粋「ははは。いつもの事だね。」
十紀人「粋!いつもとは何だ!!」
百鬼「そんなことより静、お腹すいたであります。」
静「そうですね。では早速お昼にしますか。」
静は楓取っておいてくれた場所に重箱を広げる。
楓「私までいつもすいません。」
静「いいんですよ。ご飯はみんなで食べたほうが美味しいんですから。」
白雪「そうだな。私もそう思うぞ。」
そんな会話をしながらみんなで静の作ってくれた色鮮やかな弁当をつつき始める。
最近は楓が加わってこの6人で昼食をとることが多くなった。
解放されてからというものいつも屋上は混み合っている。そのために楓はこうしていつも場所をとっといてくれているのだ。
これは楓のクラスが屋上に一番近いからでもある。
それにしても静の言う通りみんなで食べるご飯は美味しい。
静の腕が上手いのもあるが以前静と二人きりで食べていたころよりも一段と美味しく感じられる。
十紀人「ん?」
まただ。また誰かの視線を感じる。
あたりを見渡すが俺を見ている人はだれもいなかった。
白雪「どうした?ご主人様。」
十紀人「いや、誰かに見られたいたような気がして」
粋「それは・・十紀人のファンかな」
百鬼「ん!?どこにいるでありますか!!」
十紀人「いや、今はしないんだけど・・・。」
百鬼「見つけたらやっつけてやるであります。」
粋「百鬼さん穏便に・・。」
百鬼「これ以上マスターに変な虫がついたらどうするでありますか!?」
十紀人「いや、変な虫って。」
白雪「しかし、気になるな。」
十紀人「白雪まで・・。」
白雪「なっ!違うぞ!!私はそういう意味で言ったわけではない。」
百鬼「顔が真っ赤であります。」
白雪「百鬼!貴様!!」
静「あまり暴れないでくださいね。」
楓「ふふふ、お二人は仲がいいんですね。」
白雪・百鬼「良くない!・であります!」
昼食を食べ終わるとその場で解散となった。
俺はというとみんなと別れて中庭にある自販機までひとりでやってきた。
自販機に小銭を入れてスポーツドリンクを買って近くにあった見晴らしのいいベンチに座りあたりを見渡した。
あたりには草むらでじゃれ合っている男子やベンチに座ってガールズトークを楽しむ女子などが見受けられる。
俺は気持ちを落ち着かせて瞳を閉じる。
・・
・
廊下を教室に向かう途中に粋は意識通信を飛ばす。
粋『黒川。』
黒川『主ですか。どうしました?』
粋『以前、調べてもらうように頼んだ件だけど。』
黒川『楓様の件ですか。』
粋『うん。』
黒川『成績は普通。運動神経も普通。体重や身長も普通。いたって普通の女子生徒ですね。ただ・・』
粋『ただ?』
黒川『最近よく夜中に家を出ていくのが目撃されています。』
粋『神隠し事件との関連は?』
黒川『薄いと思われます。』
粋『なんでそう思うのかな?』
黒川『行方不明になった日と思われる日は彼女は自宅にたそうです。』
粋『なるほど。』
黒川『しかし、完璧に白というわけではありませんので警戒しつつ様子を見るっと言ったところでしょうか?』
粋『たしに今はそれでいいかもしれないね。』
黒川『十分に気をつけてください。』
粋『心配なら黒川も学校に来ればいいとおもうよ。』
黒川『私は・・・』
粋『まぁ無理にとは言わないよ。』
黒川『・・・すいません。』
粋『じゃぁ僕は今から読書を楽しむとするよ。』
黒川『はい。学校を楽しんでください』
粋『あぁ束の間の休息を楽しむことにするよ』
黒川『・・・・』
粋は意識通信を終えると自分の机に座り小説を取り出して開く。
綺麗に並んだ活字を見ていると気持ちが落ち着くというものだ。
ちらりと時計を見ると授業が始まるまでまだ時間があることがわかった。
この分だとこの小説も今日で読み終わってしまうだろう。帰りにでも図書室に立ち寄ろうかと考える。
ふと窓の外が騒がしいことに気がついて目を向けると十紀人がすごい勢いで校舎方に走っていくのが見えた。
粋は十紀人の後から走ってくる者たちを見て「あぁ、なるほどね」っと呟いた。
・・
・
同時刻、屋上にて。
屋上は昼食を終えてだんだんと人がまばらになってきていた。
楓はフェンスに手を掛けて町並みを見下ろしながらさっきの食事の時間を思い返した。
みんな笑顔で楽しそうにしてその中心には十紀人がいる。
楓はあまり騒がしいところが好きではないが十紀人のいる空間は騒がしいがどこか温かいと感じる。
そんな空間が愛おしくすら思えてしまう。
楓「賑やかなのもいいものですね。そう思わない?翆」
誰もいない筈の背後に楓は話しかけると翆と呼ばれた少女が姿を表す。
翆「自分には分かりかねますが楓お姉様があんなに笑っていたの初めて見ました。もし楓お姉様が望むなら・・・。」
楓「翆。それ以上は言わないで。」
翆「楓お姉様・・・。」
楓「ダメなのですよ。私は既に匙を投げてしまった。今更後戻りなど出来ないのです。」
翆「ですが・・・・。」
楓「それに計画が成功するまでの我慢です。成功すれば・・・。それまではがんばりましょう楓。」
翆「わかりました。全力を尽くします。」
楓「ん?あれは・・・。」
翠から視線をそらして中庭の方を見る。
翆「いつも思いますが騒がしい奴です。」
楓「ふふふ。そうですね。翆もみなさんと仲良くしてみますか?」
中庭を駆けていく十紀人を見つけて楓は嬉しそうに笑う。
翆「自分は遠慮しておきます。」
楓「残念。」
翆『本当によく笑うようになられたのですね。楓お姉様。』
・・
・
同時刻、中庭にて。
まただ。また見られている視線を感じる。
目を閉じたまま俺は神経を研ぎ澄まさせて視線の先を探る。
十紀人「・・・・そこか!!」
俺は視線がした方を勢い良く見るとそこには人影があった。
???「っひ!!」
その人影は俺に見つかったことに気がつくと一目散に逃げ出だした。
十紀人「あっ!まって!!」
俺はベンチから飛び出すように追いかける。
どうやら俺のほうが足は早いようだ。
みるみる内に相手に追いついって手の届く距離まで来た。
十紀人「捕まえた!!」
???「捕まってたまるかあああぁぁぁぁ!!」
十紀人「なに!!」
手が届きそうなところで相手は急に加速した。
俺の手は空を切るようになった。
十紀人「くっそ!!待て!!何が目的だ!!」
???「お前には知る必要がない!!はぁはぁはぁ!!」
さっきの無理な加速で体力を使ったのだろう。
相手の走る速度が徐々に落ちてくる。
???「くっそ!!行き止まりか。」
十紀人「追い詰めたぞ。さて話してもらおうか。ここ最近ずっと俺を監視していた理由を」
???「っく!!・・こんなところで・・こんなところで・・・。」
相手を見ると男でこの学校の制服を着てる。
政府の工作員か?・・・可能性は考えられる。
俺はいつでも戦闘態勢に入れるように構えを取った。
十紀人「さぁ早く言え。」
???2「そこまでだ!!」
???「会長!!」
後ろからの声に振り向くとそこにはおかしな法被を着た男達が立っていた。
さっき叫んだのはその男達の一番前に居る男であろう。
流石にまずい状況だ。
この人数を相手に戦うようなことがあれば確実に俺は負けるだろう・・。
俺は手に汗を握る。
十紀人「何者だ。」
???2「何者だと!?」
男は睨みつけるように俺を見る。
???2「知りたいか?」
俺は拳に生命力を貯める。
男はニヤリとしたあとにゆっくりと口を開く
???2「いいだろう。教えてやる。我々は!!この学園に降りてきた天使!!白雪様の親衛隊!!またの名を白雪様ファンクラブだ!!」
十紀人「へ!?」
そう言って男達は俺に向けて背中を見せつけてきた。
その背中には大きな字で白雪様万歳やら白雪様最高などと一緒に変な顔文字がプリントされたいる。
俺はあっけに取られるばかりで言葉が出てこなかった。
十紀人「・・・・」
???2「ちなみに私は白雪様ファンクラブ会長を務める須藤(すどう)だ。」
???「私は白雪様ファンクラブ副会長を務める遠藤(えんどう)だ。」
十紀人「えぇっとそうだったのですか・・・」
きょうし抜けといいますかなんと言いますか。
ごめんなさい。こんな時どんな顔を、すれば良いのか分からないの。
などと言いたくなってしまう。
須藤「見つかってしまっては仕方がない。」
遠藤「須藤さん、すいません。」
須藤「いいや、君は十分やってくれた。もう十分だ。」
遠藤「会長!!」
須藤「副会長!!」
なにやら一人で悩んでいると中に入りづらい空気を漂わせているのだが・・。
こうしていても埒が明かないなので俺は口を開く。
十紀人「えぇ~っとそれでなんで俺を監視してたんですか??」
遠藤「っふ!愚問だね。そんなことを口にしないとけないのか?」
十紀人「出来れば・・・。」
遠藤「我らは親衛隊だ。白雪様にくっついてる変な虫をほっとくわけにはいかんだろう。」
十紀人「・・・・」
なるほどそういう事ですか・・・。
俺はさっきからずっと構えていた拳をゆっくりと降ろす。
はてさて、どうしたものだろうか・・・。
遠藤「十紀人くん。我々はついに立ち上がったのだよ。白雪様から変な虫を取り除こうとね。」
十紀人「そうですか。」
遠藤「だが私たちだって手荒なことはしなくない。故に!!我々は!!君に白雪様の解放を要求する!!」
十紀人「解放?」
遠藤「そうだ!!白雪様をメイドとして雇っているなどなんとうらやま・・もといい!!なんと嘆かわしい仕打ちだ!!我々は白雪様に自由を与えたい!!ゆえに!!白雪様の解放を求めるのだ!!」
十紀人「・・・・いや、なんといいますか・・・無理かな?。」
遠藤「貴様・・・今なんと??」
十紀人「えぇ~っと・・無理?」
遠藤「そうか。君なら話が分かると思ったがどうやらそうでも無いみたいだ。」
気のせいなのか?ファンクラブの人たちの目が光って見えるような気がするのだが。
なぜだかすごい恐怖を感じてしまう。
遠藤「この手は使いたくなかったがやむを得ないということだね。全体構え!!」
十紀人「え?」
遠藤「十紀人を討ち取れ!!」
十紀人「えええぇぇぇぇぇぇ!!」
???「待てエェぇぇい!!」
十紀人「何奴!!」
???「とおぉう!!」
今度はどこからとものなく人影が飛び降りて来て襲いかかろうとしているファンクラブとの反対側に立つ。
遠藤「何者だ!!」
???「ふふふ。俺か?俺は、いや俺達は!!」
その声と共に続々とどこからとものなくファンクラブとは違う法被を着た男達が飛び降りて来た。
???「愛と正義の!!百鬼ちゃんファンクラブだ!!俺は会長の後藤(ごとう)だ。」
十紀人「・・・。」
遠藤「貴様らなんだというのだ。」
後藤「貴様らに先起こされてしまったが俺達も十紀人に百鬼ちゃんの解放を要求しに来た!!要求を飲んでくれるのであれば俺達が十紀人を守ってやろう。どうだ悪い話ではないだろう。」
遠藤「貴様ら!!」
後藤「お前らは黙っていろ!!」
遠藤「っく!!」
後藤「さぁ時間がない答えを聴こう!!」
十紀人「えっと・・なんと言いますか・・・・あっ!!あんなところに白雪と百鬼のパンツが!!」
遠藤・後藤「なに!!」
十紀人「今だ!!」
俺はファンクラブの人たちが気を取られてる隙に一気に駆け出した。
後藤「なにもないじゃないか!なっ!!いない。」
遠藤「あそこだ!!」
後藤「逃げたのか!!みんな追うんだ!!何としてでも白雪様ファンクラブより先に十紀人を捕まえろ!!」
百鬼ちゃんファンクラブ「おおおお!!」
遠藤「白雪様ファンクラブの力を見せろ!!十紀人くんを相手より先につかまえろ!!」
白雪様ファンクラブ「おおおおおぉぉぉ!!」
・・
・
十紀人「はぁ~はぁ~ここまで来れば大丈夫だろ。」
俺は中庭を通り体育館の裏に逃げこみ呼吸を整える。
二人が人気があるのは知っていたがまさかファンクラブが出来るまでとは・・・。
白雪様ファンクラブ「見つけた!!こっちだ!!」
十紀人「しまった!!」
白雪様ファンクラブ「あっ!!待て!!」
十紀人「待てと言って待つ奴がいるか!!」
俺はそのまま校舎の中に逃げこむ。
後ろからは白雪様ファンクラブの人たちが追ってくる。
百鬼ちゃんファンクラブ「ヒャッハー! ここは通さねぇぜ!」
十紀人「くそっ!!」
いきなり目の前に百期ちゃんファンクラブの人が現れて俺を捕まえようとする。
俺はすぐに体をひねって方向転換して目の前にある階段を二段飛ばしで駆け上がる。
百鬼ちゃんファンクラブ「なんて奴だ。あの状態で方向転換をするとは。」
白雪様ファンクラブ「そんなことより追うぞ。」
百鬼ちゃんファンクラブ「そうだな。」
どれぐらい逃げただろうか。
もうそろそろ昼休みが終わってもいい頃なのに予鈴すら鳴っていない。
行く先々ファンクラブの人たちと会って休む暇もなく俺は走り続けた。
身を隠すように屋上に非難して体力を回復させている。
十紀人「はぁ~はぁ~もうダメ。」
流石に全力疾走を休みなく走り続けていると限界も早いというものだろう。
百鬼ちゃん・白雪様ファンクラブ「見つけた!!」
十紀人「ちょっ!!もうちょっと休ませてくれよ。」
といったもののここは屋上でファンクラブの人たちは入り口に居る。
ここから出るのにも入り口は一つしかない。
つまりは俺はかなりピンチということだ。
そうしている間にも続々と両ファンクラブの人たちが集まってくる。
後藤「はぁ~はぁ~ちょこまか逃げやがって・・・。」
遠藤「はぁ~はぁ~もう観念するんだね十紀人くん」
十紀人「どうするかね。」
後藤「さて、もう逃げ場もないだろう。」
遠藤「さぁもう一度だけ答えを聴こう。」
十紀人「何度聞かれても答えを変えるつもりはない。」
後藤「残念だよ。」
遠藤「手荒な真似はしたくなかったのだがしかたないね。」
後藤・遠藤「全軍突撃!!」
白雪・百鬼「そこまでだ・であります。」
後藤・遠藤「なに!?」
突如、白雪と百鬼が俺の目の前に現れる。
ファンクラブの人たちは二人の登場に驚き動揺していた。
白雪「貴様ら。ご主人様に何をしている。」
百鬼「答えろであります。場合によってはただでは置かないであります。」
二人は両ファンクラブを睨みつける。
後藤「百鬼ちゃん・・・・っは!」
遠藤「白雪様・・・・・・っは!」
白雪「早く言え。さもなくばこの場で排除させてもらうぞ。」
白雪は静かに拳を握る。
遠藤「っひ!!いや、我々は・・・」
後藤「っう・・・。」
粋「この人達は二人のファンの人たちだよ。」
粋が後藤と遠藤の後ろから現れてそういった。
白雪「へ?」
百鬼「は?」
二人は間の抜けた声を発する。
まぁ意味が分からないといったところだろう。
粋「十紀人大丈夫?」
十紀人「燃え尽きたよ真っ白に・・・。」
粋「楽しそうで何よりだよ。」
十紀人「変わってみるか?」
粋「全力で遠慮したいね。」
粋の肩借りて俺は立ち上がる。
百鬼「ファン?」
粋「うん。簡単にいえば君たちの為に集まった人たちの事だよ。」
白雪「ふむ、良くわからんがまぁいい。それで貴様達の目的は何だ。どうしてご主人様を追いかけていた。」
後藤「そ、それは、ゴニョゴニョ。」
百鬼「聞こえないであります。はっきり言うであります!!」
後藤「えぇっと百鬼ちゃんの解放を目的として・・・。」
遠藤「我々も白雪様の解放を・・・。」
百鬼「つまりどう言う意味でありますか?」
粋「つまり白雪さんや百鬼さんが十紀人ばかりにかまっているから彼らは焼きもちを焼いたんだよ。」
白雪「なぜ焼きもちを焼く必要がある。」
そう言って白雪は粋を見る。
粋「この人達は百鬼ちゃんや白雪ちゃんのことが大好きなんだよ。白雪さんや百鬼さんも十紀人が自分たち以外の女の子とイチャイチャしてたら怒るだろ??」
百鬼「ふむ、ふむ。なるほどであります。まぁ百鬼は可愛いから仕方ないでありますね。」
白雪「いや、そのなんだ。わたしはこういう時なんていえばいいかわからないのだが・・・。」
百鬼はそんなことを言ったが頬がピンク色に染まっている。
白雪もさっきまで構えていたのを解いて恥ずかしそうに頬を掻きながら空をみあげている。
俺は今一度深呼吸してから口を開く。
十紀人「みんな聞いてくれ。俺は二人を束縛しているつもりはない。それに俺は二人を家族だと思っている。だから解放とかそんなことを俺に言われても困るというかなんていうか・・・。とにかく白雪も百鬼も俺の大切な家族なんだ。」
白雪「ご主人様」
百鬼「マスター」
俺の言葉を聞いて両ファンクラブの人たちは押し黙ってしまった。
白雪「みなの者、聞いてくれ。私は既に身も心もご主人様に捧げている。みなの申し出は嬉しいが・・・すまん。」
十紀人「え?身も心も?」
白雪「あぁ身も心もだ。」
百鬼「百鬼もであります。百鬼も身も心も捧げたであります。そしてゆくゆくは結婚であります。」
白雪「け、結婚!!百鬼!!どういう事だ!!」
百鬼「言葉のままであります。百鬼はマスターと結婚するであります。」
白雪「許さんぞ!!そんなこと私は許さんぞ!!」
百鬼「別に許して貰わなくてもいいであります。」
あぁ~黙ってる両ファンクラブの人たちから黒いオーラが立ち上がっていくのが見えます。
これはまずいです。死の予感しか致しません。
ぞろぞろと両ファンクラブの人たちは屋上から去っていく。
しかし、去り際に一度こちらを睨んでくるではないですか・・・。
妹よお兄ちゃんには聞こえます。彼らの声が・・・。
『次は捕まえてやる』『水攻めに合わせてやる。』『貴様には地獄すら生温い。』エトセトラ、エトセトラ。
・・
・
静「へっくちゅん!!」
クラスメイト「風邪?」
静「いや、そういうわけじゃないんですが・・。」
クラスメイト「なら、誰かが静ちゃんの噂しているのかもね。」
静「私の噂をするような人はいませんよ。」
クラスメイト「ん~静のお兄さんとか?」
静「なっ!!ななななな何言ってるいるんですか!やめてください!」
クラスメイト『か、かわいい!!この子、襲っちゃっていいですか?』
・・
・
粋「とりあず、この場は大丈夫だけどこれからも追いかけっこは続きそうだね。」
十紀人「はぁ~大変なことになりそうだ。」
粋「まぁ~賑やかでいいじゃないか。」
十紀人「人事だと思って・・。」
粋「ははは。頑張りたまえ。」
どうやら俺にまたひとつ悩みの種が出来たようだ。
この後数日に渡って追いかけ回された事はいうまでもないだろう。
・・・
・・
・
9月も後半に入ると夏の暑さも徐々に収まり始めてきたがまだまだ暑い。
それだというのに今日から衣替えで冬服になるのだ。
一般的に衣替えは10月以降が時期なのだがうちの学校は周りより少し時期が早い。
タンスから出した冬服は懐かしい匂いを漂わせる。
クリーニングから返ってきてそのままにしておいたためか袖を通すとノリがしっかりかけられているのがよくわかる。
静「お兄ちゃん。そろそろ行きますよ。」
十紀人「わかった。今行く。」
リビングに降りていくとみんな冬服になっていた。
やっぱりこの学校の女子生徒の制服はかわいい。
いや、着ている人がいいというのもあるが体のラインがしっかりと現れているのがなんとも言えない。
そのせいか抱きつきたくなる情動を抑えるのでやっとだ。
百鬼「眠いであります。」
白雪「まったくしっかりしろ百鬼。」
百鬼「なんども言うでありますが百鬼は低血圧であります。」
十紀人「二人ともおはよう。」
白雪「おはよう。ご主人様。」
百鬼「おはようであります。」
静「どうぞ。」
十紀人「ありがとう。」
静が俺の前にコップを置いた。
紅茶と牛乳のいい匂いが漂ってくる。
十紀人「ロイヤルミルクティーか。」
静「はい。どうですか?」
一口飲むと程良く調整された甘さが舌を刺激してまろやかな味が気持ちを落ち着かせる。
目覚めの一杯にしては贅沢な味だ。
十紀人「美味しいよ。」
静「良かったです。」
静の淹れた紅茶を飲み終えて俺達は学校に向かう。
陽射しはまだ元気よく俺たちを照らしていいた。
額にじわりと汗が滲み出るのが分かる。
木々の葉は徐々に緑色から茶色へと移り変わろうとしている。
秋の訪れを匂わせているようだ。
百鬼「もうすぐ秋だというのに暑いであります。」
白雪「お前は精進が足りんのだ。」
百鬼「白雪はいいであります。自分の周りに冷気をただよせればいいのでありますから・・。えい!」
白雪「なっ!!こら!!抱きつくな!!」
百鬼が白雪に飛び付いて服の下から白雪の肌を触る。
百鬼「あぁ冷たくて気持ちであります。」
白雪「離れろ!!やめっ!!駄目だ!!」
白雪の顔が徐々に赤くなっていくのが分かる。
なんて事だこれはやばい。かわいすぎる。
秋空と、女人の戯れ、頬染める・・・字余り。
静「お兄ちゃん。鼻の下が伸びてますよ。」
十紀人「静よ。今のお兄ちゃんの顔を見てはいけない。見ないでくれ。」
静「まったく。お兄ちゃんは・・・ちょっとは私もみてくださいよ・・。ボソ」
十紀人「ん?なにか言ったか妹よ。」
静「なんでも無いです。先行きますよ!」
十紀人「妹よ。待つんだ!!お兄ちゃんを置いて行かないでくれ。」
白雪「貴様はさっさと離れろ!!」
百鬼「痛っ!であります。」
とうとう白雪の鉄拳が百鬼の頭に落ちる。
百鬼は大人しく白雪から離れて再びみんなで学校を目指した。
教室に着くと既に粋が自分の席に付いて小説を読んでいた。
十紀人「おはよう。」
粋「おはよう。十紀人。ふふ、何かいいことでもあったかい?」
十紀人「な、なぜわかった。」
粋「十紀人の顔を見れば分かるよ。」
十紀人「そんなに顔に出ていたか?」
粋「鼻の下の筋肉が緩んでいるのじゃないかなって思うくらい。」
そう言って粋は俺の鼻下あたりを指さす。
まぁこんな感じで何事も無く楽しい毎日を過ごしていた・・・。
未だに政府の動く気配はなく、静かすぎる。
まるで何かを待っているように・・。
十紀人「粋。政府の事なんだが。」
粋「やけに静かすぎるってことかい。」
どうやら粋も俺と同じ気持ちらしい。
粋「たしかに気持ち悪いくらいあれから行動をしてないよ。」
十紀人「どうなんだ?」
粋「今はどうしようも無いかないって感じかな。」
十紀人「ん~。」
粋「警戒は黒川がしているから問題ないと思うよ。」
十紀人「そうか。」
粋「まぁ向こうが動いてくれないとこっちも動けないのが現状かな。」
十紀人「そうだな。まぁ無理に動く必要もないしな。」
粋「そういう事。今は楽しもうよ。」
たしかに粋の言うとおりだなと思い俺も席に着く。
窓から9月の陽射しが差し込み暖かいというよりは暑い状態だ。
上着を脱いで窓開けるよとちょっと涼しくなったと感じさせる風が、秋がもうすぐそこまで来ているのを告げている。
粋「そういえばもうすぐ文化祭だね。」
十紀人「なん・・・だと?」
・・・
・・
・
衣替えから数日がたった教室は慌ただしくなっていた。
今何をしているのかというと文化祭でのクラスの出し物を決めているのだ。
なかなかいいアイディアが出ずに話は行き詰まっている。
前に出ている委員長が無性にかわいそうになってしまう。
委員長「だれかいい案はないですか。」
そもそもなんでこんなに行き詰まっているかというとこのクラスの目標が他のクラスに無い物をやりたいということだからだ。
この時点で文化祭の定番である、出店、喫茶店、お化け屋敷などはアウトとなってしまう。
だったら何をしろというのだ。
生憎、俺の脳味噌ではこれ以上の解答を持ち合わせていない。
委員長「ん~今日までに決めないといけないのに・・・・みなさん案を出してください。」
案があるのであれば委員長を助けるため発言をしたいのはやぶさかではないがなかなかいい案が出てこない。
時計の針を見ると放課後はもうすぐそこまで来ていることが分かる。
このままでは放課後になっても帰れないというやつになってしまう。
百鬼「コンサートミュージカル・・・」
静まりかえっていた教室でその声が響き渡った。
俺は隣を見ると百鬼は俺の方を向いて気持よさそうに寝ていた。
その顔はまったくもって無邪気で可愛らしい。
出来ることなら頭をぐちゃぐちゃに撫でてやりたいくらいだ。
十紀人「寝言か。」
生徒1「いいね!!」
生徒2「うん。俺もいいと思う!!」
あたりからいいねという声が上がり始める。
そうなるとそれは一気にクラス中を盛り上げた。
白雪「はぁ~まったくあいつは・・・。」
粋「いいんじゃないかなみんな喜んでいるから。」
十紀人「まぁな。」
百鬼「ん?なんか騒がしいでありますね。一体何事であります?」
百鬼はあたりが騒がしくなり目を覚ました。
委員長「きまりですね。ではこのクラスの出し物は百鬼さんの案でミュージカルコンサートにありました。」
あたりから拍手が百鬼に向けられる。
百鬼「ん?なんでありますか?よく分からないであります。マスターこれは・・・。」
十紀人「うん。笑えばいいと思うよ。」
百鬼「そ、そうでありますか。」
出し物が決まると狙っていたかのように終了の合図がなる。
委員長は自分の席に戻り今度は教師が教卓の前に出て明日の連絡事項などを喋り終えて教室出て行く。
俺達も帰りの支度をして帰路に付く。
静「もう、すっかり学校の中は文化祭の雰囲気ですね。」
百鬼「文化祭ってたのしいでありますか?」
十紀人「ん~どうだろうな。楽しいじゃないか?」
俺は百鬼たちが来るまで本格的に文化祭に関わったことがない。
たいていは屋上で寝ていた記憶しかないのだ。
だから楽しい楽しくないで言われれば楽しくない方になるだろう。
静「たのしいですよ。みんな生き生きとしてお祭りみたいな感じです。」
白雪「お祭りか・・。なら楽しいのだろうな。」
白雪は目を輝かしてそういった。
たしかに、お祭りなら楽しいだろう。
それに今年は去年とは全然違う。
クラスメイトとも打ち解けれたし、なにより白雪も百鬼も粋も静いる。
みんながいるんだ楽しくないわけがない。
十紀人「俺達のところはミュージカルコンサートだけど静のところは何をやるんだ?」
静「私たちのところは和洋喫茶ですよ。」
十紀人「和洋喫茶?」
静「お茶や紅茶やコーヒーなどが楽しめる場所ですよ。私のクラスには茶道部の人たちが多いですから。」
十紀人「静は紅茶やコーヒーを入れるのがうまいからなきっと忙しくなるだろうな。俺も行くからよろしく。」
静「はい。待ってますよお兄ちゃん。」
十紀人「おう!!お兄ちゃんを待っていてくれ。」
百鬼「百鬼もいくであります。」
白雪「私も静の淹れた紅茶を飲みに行く。」
そうやって話しながら俺達は家に付く。
俺は一歩下がってみんなの後ろ姿を眺めた。
みんな文化祭が楽しみなのだろう後ろ姿がうきうきしているように見える。
きっと今年の文化祭は盛り上がるだろう。
・・
・
数日後俺達のクラスはミュージカルコンサートに向けて準備をし始めていた。
ミュージカルに使う小道具の作成や打ち合わせだ。
この時期になると午前中は通常の授業をして午後からは文化祭の準備となる。
さらに文化祭まで1週間前になると午前中の授業もなくなり一日中文化祭の準備となるのだ。
これだけでも以下にこの学校が文化祭に力を入れているか分かるだろう。
そもそもなぜここまで力を入れているかというとこの学校にはこれといった行事が他校より少ないのだ。
あるといえば修学旅行と文化祭くらいしか無い。それもあって生徒たちが弾ける場所は自ずと文化祭に絞られてしまう。
ちなみに俺達が殺ることになったミュージカルコンサートは徐々に形になって生きていた。
台本はオリジナルなもので大まかなストーリーを言うと村娘が森を歩いていると城を抜けだした王子と出会い、村娘の歌声と美貌に恋におちる。
しかし、村娘には異国のお金持ちの許嫁がいて王子とその許嫁で村娘の取り合いとなってしまう。
村娘は二人が自分の取り合いで傷付くのがみたくないため城のテラスから海にその身を投げ出してしまう。
村娘がどこかの波打ち際で寝ているところを男性が助けて二人は恋に堕ちてしまった。
二人が一緒に住むようになり初めて数年後に許嫁と王子が男の家に来ており村娘と再開を果たしてしまう。
そうして再び村娘の取り合いのために何故かダンスバトルをして勝者を決めることになる。
ここからは観客の歓声で勝者を決めてもらうという風になっている。
まぁ結構ありきたりなストーリーだ。
ここまでは別にいいのだ。いいのだ。
だがなぜだ・・・。
粋「うん。似合っているね。」
なせなんだ。
白雪「ふむ、なかなかにいいものだな。」
どうしてだ。
百鬼「そうでありますね。背が高いのが気になるでありますがかなり良い線いっているであります。」
なぜこうなってしまったのだ。
十紀人「どうして俺が村娘なんだ!!」
粋「仕方がないよ。くじ引きで決まってしまったのだから。」
十紀人「しかしだな。」
白雪「文句を言うとは・・・ご主人様らしくないな。」
十紀人「うぅ~」
百鬼「似合っているから大丈夫であります。」
十紀人「それ褒めてるの?」
生徒1「いや、びっくりするくらい似合っているよ。」
生徒2「うんうん。」
などと会話をしていると教室の扉が開かれる。
静「失礼します。1年4組の道明静ですがお兄ちゃんはいますか?」
百鬼「あっ!静であります。」
静「お兄ちゃんを探しているのですがここにいませんか?」
白雪「静何を言っている。お前の目の前にいるだろう。」
静「へ?」
静がまじまじと俺を見始める。
正直、恥ずかしいです。はい。
静「え?もしかしてお兄ちゃん?」
十紀人「もしかしなくても静のお兄ちゃんですよ。」
静「お兄ちゃんがお姉ちゃんに・・・。」
十紀人「いや、静。俺は好んでこの格好をしてるのではないのだ。これは陰謀だ!!」
百鬼「お城際が悪いであります。」
白雪「あんずるな。ご主人様ならそつなくこなせるだろう。」
今の状況話す前に説明言っておくッ!
俺は今の状態をほんのちょっぴりだが体験した
い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『俺は衣装を着たと思ったらいつのまにか衣装を変わっていた。』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
十紀人「あぁ~夢なら覚めてくれ・・・・。」
そうだ、俺はくじ引きで村娘になってしまい今衣装合わせとして女性物の衣装を着せられているのだ。
ちなみに許嫁が粋で王子が百鬼、男が白雪となってしまった。
いや、どう考えても村娘は白雪か百鬼に任せたほうがいいだろう。
静「でもびっくりするぐらい似合ってますね。」
粋「僕も素直にそう思うよ。」
生徒3「いやぁ化粧のしがいがあったよ。」
十紀人「なんで俺なんだよ。」
静「お姉ちゃん。がんばってくださいね。」
十紀人「はい・・・お姉ちゃんは頑張りますよ・・。」
衣装合わせが終わり俺はしばらく休憩する為に屋上に向かった。
屋上には先客がいたようだ。
楓はフェンスに手を掛けて遠くを見ていた。
その顔はどこか切なげで見ていると胸が締め付けられそうになる。
十紀人「またサボりか?楓ちゃん」
楓「十紀人さんですか。いえサボリじゃなくて休憩ですね。そういう十紀人さんはおサボりさんなのですか?」
十紀人「俺も休憩。」
そう言って彼女の横に来てフェンスにもたれかかる。
日が真上よりちょっと傾いた位置にある。
丁度いい温度の風が吹いて楓の髪の毛をなびかせる。
楓「もうすっかりと文化祭の雰囲気ですね。」
中庭で建設されている巨大特設ステージを見ながら楓がそう呟いた。
十紀人「まったくだ。文化祭がこんなに疲れるものだとは思わなかったよ。」
楓「以前の文化祭ではずっと屋上にいらしましたね。」
十紀人「たしかに屋上にいたねまさか見られていたなんてね話しかけてくれればよかったのに」
楓「以前の私にはそのような勇気などありませんでした。」
十紀人「ははは。俺としてはもっと早く会いたかったけどな」
楓「・・・一目惚れなのです。」
一呼吸後に楓はそう言った。
そしてゆっくりと話し始める。
楓「初めて会ったのは入学式の時、次は廊下で何度かすれちがいました。確信に変わったのは貴方に助けて頂いた時です。」
十紀人「えぇっと・・。」
こうはっきりと言われると反応に困ってしまうというものだ。
しかし、人から好意を向けられるのは嫌な気はしない無理ろ嬉しいと言える。
それがかわいい子なら尚更、嫌なやつはいないだろう。
楓「付き合って欲しいとかそういのではないのです。ただ知っていて欲しかった・・・。」
十紀人「ありがとう。素直にうれしいよ。」
楓「お願いがあります。・・これからなにがあっても変わらずに友達でいてくれますか?」
十紀人「もちろんだよ。」
楓「ふふふ、貴方ならそう言ってくださると信じていました。ありがとうございます。」
この時俺は楓の言葉の本当の意味をもっとよく考えるべきだった。
俺はその言葉の意味を考えずにただ嬉しいと思っていただけなのだ。
楓「そういえば十紀人さんのクラスの出し物はおきまりですか?」
十紀人「うっ!・・・ミュージカルコンサート・・。」
楓「面白そうですね。是非、拝見させて頂きます。」
十紀人「は、ははは。そ、それより楓のクラスは何をするんだ?」
これ以上突っ込まれないように俺は話を変える。
楓「私のクラスはメイド喫茶ですね。」
十紀人「なに!?それは楓ちゃんも着るのか?」
楓「一応、着ますけど・・。」
十紀人「では、是非行かせてもらおう。」
楓「恥ずかしいのであんまり見ないでくださると助かります。」
そう言って頬を紅くしてもじもじしている楓はとても可愛い。
百鬼『マスター。ダンスの練習であります。早く戻ってくるであります。』
十紀人『ん?もうそんな時間か・・。わかった今戻る。』
百鬼『早くするでありますよ。』
十紀人『了解。』
楓を見ていると百鬼からの意識通信が入った。
楓をもうちょっと見ていたかったがどうやらタイムアップのようだ。
十紀人「さて、俺はそろそろ戻るよ。」
楓「はい。私もご一緒に教室に戻りますね。」
そうして二人で屋上を後にした。
屋上の影から二人を見送る影が一つ。
翆「楓お姉様・・。本当によろしいでしょうか・・・」
・・・
・・
・
それから数日後俺達はダンスの練習と舞台打ち合わせが続いた。
ダンスの練習は白雪との訓練より辛くみんなヘトヘトになりながら自宅に帰るといった感じだ。
文化祭前日まで厳しい練習が続きなんとか形になるものが出来た。
正直、間に合うとは思っていなかったがそこは流石というべきだろう大技もマスターしてなんとか文化祭当日を迎えられたのだった。
放送部『只今より第32回明樹学園の文化祭を開幕します。』
スピーカーから文化祭開始の合図で今日から二日間の俺達の文化祭が幕開ける。
俺達は自分の教室でその合図を聞いいていた。
開幕と同時に学校中から歓声の声が校内に響き渡った。
百鬼「いよいよはじまりでありますね。」
粋「たしか、公演は昼と夕方だったよね。」
白雪「そう、聞いているが。」
十紀人「そうか、なら午前中は暇なのか・・。」
粋「まぁ最終調整は始まる前にちょっとだけだしね。裏方の人たちも散歩のついでにビラを配布するって言ってたし僕たちはとりあえずお昼まで暇ということになるね。」
賑やかな教室で話していると教室の扉がノックされて開かれる。
黒川「黒川と申します。伊集院粋様の教室はこちらでよろしかったでしょうか?」
十紀人「黒川!!」
俺の声に反応して黒川がこちらを向く。
相変わらずのメイド服だ。
靭やかな黒髪をなびかせてこちらに来る。
騒がしかった教室が黒川の登場で一気に静かになる。
黒川は威風堂々とこちらに歩いて来る。
黒川「主、今日はお招きいただきありがとうございます。十紀人様にお二人もお久しぶりです。」
十紀人「おう、久しぶり。相変わらず可愛いね。」
黒川「ふふふ。十紀人様もあいかわらずねですね。」
百鬼「そうであります。マスターはいつもこんな調子であります。黒川。元気そうで何よりであります。」
黒川「百鬼も元気そうで安心しました。」
白雪「久しぶりだな。」
黒川「あなたも元気そうですね。」
白雪「あぁお陰様でな。」
粋「まぁ、黒川も楽しんでいってよ。昼には僕達のミュージカルコンサートもあるから。」
黒川「はい。楽しみにしています。あっ。」
黒川が教室が静まり返っている事に気が付く。
黒川「ご学友のみなさん、私は黒川と申します。主の粋様がいつもお世話になっております。」
そう言って黒川はクラスのみんなに深々と頭を下げる。
その瞬間クラスから歓声が沸き上がる。
生徒「粋くんこの子粋くんのメイドさんなの!!」
生徒2「やば!俺、清楚な感じでかわいい!!」
などとクラスメイトたちは粋と黒川を取り囲むように質問攻めにする。
百鬼「すごい勢いでありますね。」
白雪「まったくだな。」
十紀人「まぁみんな新しもの好きだからね。」
それからなんとか粋と黒川を助けだして俺達は静のクラスへと向かった。
静の教室に入ると静が駆け寄ってきて席に案内してくれた。
静の格好は和と洋を組み合わせたファンキーなファッションをしている。
文化祭の為に仕上げた格好らしいがこれはファミレスやカフェテリアなどで制服として使用していてもおかしくない。
それだけ精巧に作られているということだ。
なにより静にぴったり似合っているのがなんとも言えない。
いやぁ~いい仕事してますねぇ。
静「みなさん来ていただいてありがとうございます。それに黒川さんまで来てくれるなんでびっくりです。」
黒川「お元気そうでなによりです。」
静「はい、私はいつも元気ですよ。あっ!みなさん飲み物何にします。」
十紀人「俺はブレンドコーヒーをブラックで」
白雪「では私はカフェモカでお願いする」
百鬼「百鬼はホットミルクが飲みたいであります。」
粋「じゃぁ僕はアメリカンコーヒーをおもらうよ。黒川は?」
黒川「はい、ではカモミールティーを一つもらえないでしょうか。」
静「はい、わかりました。じゃぁちょっと待っててくださいね。」
そう言って静はバックヤードと思われる場所に消えて行った。
そのあと静のところでお茶を楽しんだ後に教室を出る。
粋「じゃぁ僕は黒川に学校の案内をするよ。」
十紀人「じゃぁ俺らはどうしようか」
生徒「あっ!百鬼さんに白雪さん発見。」
白雪「どうした?」
生徒「ちょっと衣装の修正したから今から試着して欲しいんだけどいい?」
百鬼「うはぁ~まだ美味しい物食べてないであります。」
白雪「百鬼よ、ごねるな。・・・そういう事らしいご主人様。私たちは一旦教室に戻る。」
十紀人「仕方ないか、なら一旦ここで解散ということで」
こうして俺は一人になってしまった。
さてどうしたものか・・。
そうだな、楓のところでも見に行くか。
十紀人「たしかあっちだな。」
俺は楓のクラスに向かった。
・・
・
楓のクラスに着くと看板に大きく『メイドさんの喫茶店』と書いてあった。
どうやら行列が出来ているみたいだ。
いつの時代もメイド喫茶というものは行列が出来るものだ。
仕方なく俺は列の最後尾に付く。
廊下の窓から中を覗き込むと忙しそうに楓接客していた。
楓と目が合う。
俺は手を振って来たことを合図すると楓は慌てて俺のところに来た。
十紀人「繁盛してるね」
楓「はい。お陰様で。」
俺は楓の格好を上から下まで見る。
青をベースとしてフフリで着飾ってとても可愛らしい。
なんといってもそそるのが縞模様のオバーニーソックスだ。
それとスカートの間の絶対領域が俺の絶対領域を埋め尽くしてしまうくらいそそられる。
これは萌えずにはいられない。
楓「十紀人さん。鼻の下が伸びてますよ。」
いかんいかん!ついつい鼻の下が伸びてしまったようだ。
俺は顔をキリッと引き締まる。
楓「じゃぁ席に案内しますね。」
十紀人「え?でもお客さん並んでるよ?」
楓「大丈夫です。予約席でとっておきましたから。」
十紀人「そうなの?」
楓「はい。」
楓は可愛らしい笑顔を俺に向けてそう言った。
どうやらここに来て成果だったようだ。
もしこなかったら楓に悪いことしてしまうところだった。
十紀人「じゃぁお言葉に甘えようかな。」
俺は楓とゆっくりお茶を飲みながら会話して店を出た。
十紀人「そろそろ時間か。」
時計を見て時間を確認するともうすぐ昼公演の時間だ。
俺は急いで中庭の巨大特設ステージを目指した。
・・
・
静「ふぅ~お客さんもだいぶ引きましたね。」
生徒「静ちゃん。もうここはいいからお兄さんのステージ見に行きなよ。」
静「え?いいんですか?」
生徒「静ちゃんさっきからそわそわして時間気にしてるの気付いてないの?」
静「わたし・・・」
どうやら自分が時間を気にしていたのに気づいてなかったみたいだ。
ちょっと恥ずかしくなり顔が赤くなるのが自分でもよくわかる。
生徒「ほらほら早く行かないと始まっちゃうよ。」
静「はい、ありがとうございます。」
クラスメイトに頭を下げて静は教室を出て行った。
生徒1「いいのあんたも行きたいんでしょ?」
生徒「私は別に」
生徒1「嘘おっしゃい。入学同時から十紀人先輩が好きって言ってたじゃない。」
生徒「私のは、憧れよ。それに十紀人先輩人気高いし周りにあんなに素敵な人がいたらとても敵わないよ」
生徒1「たしかに」
生徒「てか、そういうあんただって先輩素敵とか言ってたじゃない。」
生徒1「いやぁ最近十紀人先輩と粋先輩の絡みが見れたら私はそれだけで満足だから・・。」
生徒「うっ!それはたしかに・・・。」
生徒1「BLが嫌いな女子はいません。って偉い人がいっていた。」
生徒「誰よそれ・・・。」
・・
・
静は時計を見て時間を確認する。
時計は針は開演時間ギリギリだった。
静は何度も時計を見ながら廊下を走り始めた。
???「きゃっ!!」
静「え?」
その声で静は正面を向いたが目の前に人の影が迫っていた。
急ブレーキをかけるがスピードに乗ってしまっていたため相手にぶつかってしまう。
静「いてて・・・。っは!!すいません。」
???「いえ、私は大丈夫です。貴方は・・ん?静さんですか。」
どこかで聞いた声に静は顔をあげる。
静「楓さん。」
目の前で倒れていたのは楓だった。
そして静は初めて楓の瞳を見た。
普段は前髪で隠れていて見えなかったがぶつかった衝撃で髪が掻き分けられてその隙間から瞳が見えたのだ。
静「・・・・」
楓「私の顔になにか付いてますか?」
まじまじと楓の顔を見る静に楓はそう話しかける。
静「い、いえ、なんでもありません。それよりすいません。怪我とかしていませんか。」
楓「はい、大丈夫のようです。それよりも静さんのお体は大丈夫ですか?」
静「はい。私は頑丈なので大丈夫ですよ」
楓「それより何かお急ぎのようでしたが・・・。」
静「あっ!お兄ちゃんのステージ見に行かなきゃ行けないんです。」
楓「でしたら私も丁度向かう途中だったので一緒にむかいませんか。」
静「はい、いいですよ。」
静は楓の後ろに付いて歩き始める。
そして自分が見たのは見間違いと自分自身に言い聞かせたのだ。
時計を見るとステージ開始まで10分を切っていたぎりぎりだが間に合いそうだ。
・・
・