世界が終わってそれから後で
完結分
「な、何とか振り切ったか?」
「み、見たいですね」
途中からなぜか敵の手がさらに弱まったこともあり、案外簡単に村から離れられることが出来た。
「さて」
顔の血を拭い、小清水さんがよいしょと地面に腰を下ろす。
「説明してもらおうか」
まぁ、当然そうなるだろうな。
「あー妹はロボットで、本体は遠くにあるらしいので、あの体はぶっ壊れても問題ないからって特攻しました」
言い終えてから小清水さんの隣りに座る。
星が綺麗な夜だった。
「そうかいそうかい。もうここまで来たら何でも信じてやるよ」
汚れるのも構わず、小清水さんはそのまま背中から地面に倒れ、大きく伸びをする。
「小清水さん」
「なんだよ、柏木」
「これから、どうしましょうか」
一応目的はあるのだが、なんとなく急ぐ気にもなれないし、第一どこに向かえばいいのか分からない。
「これから、ねぇ」
小清水さんも特に考えていない様子で、二人してぼんやりと空を見上げる。
「うおっまぶし」
昼かと思うほどの明かり、それは、妹の消滅を知らせる光だった。
「ふっ飛ばしたみたいだな」
「ですね」
遠くから聞こえてくる爆音と、わずかに震えた空気を感じ、鼻の奥でツーンとする痛みを押さえてどうにかし、また空を見る。おかしいな、今日は空がやけにぼやけて見える。
「なぁ、柏木」
よっ声を上げて僕に向き直る小清水さん。
僕も急いで目頭を軽くぬぐい向き直る。
「なんでしょうか」
これからどうするか決まったのだろうかと期待を胸に聞いてみる。
「報酬」
「は?」
「いや、報酬」
手をワキワキさせながら、僕に報酬を要求する小清水さん。いや、確かに契約はそうだ。僕が困ったときに助けてくれたらコアをプレゼント。
だがしかし、肝心のコアは先程妹が感動と共に消し去った。
「最後の奴らの群れから脱出したときのは何しにといてやるさ」
まぁ、なんて太っ腹。惚れ惚れしてしまいますわ、小清水さん。
「ない。です」
「ないの?」
「はい」
「じゃ、仕方ないわな」
「仕方ないですね」
小清水さんだって立派なハンター。仕事をしたのに報酬がもらえなかったらそりゃ怒るだろう。さっきまで感動を分かち合っていたと思ったのに、急に生臭い話になってきた。
もしかしたら、このまま僕は質に入れられてどこかに売られていくのかもしれない。
「仕方がないから――」
「ま、まぐろ漁船はいやです!」
「は?」
小清水さんの言葉を遮り、その場に土下座。地面さん。もっとえぐれてください。妹の胸くらいえぐれてください。あ、それは僕の胸なのか。ショック。
「奴隷はいやです! どうか、どうかお情けを」
返事はいつまで経っても帰ってこない。
あぁ、死ぬんだな僕は。死の制裁というやつか。裏切り者には死、あるのみか。
「いや、そんなひどいことしないから、顔を上げてくれよ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、本当さ」
恐る恐る顔を上げ、小清水さんが邪悪に笑っていないのを見て、よかったと胸をなで下ろす。
しかし、それならばどうしようというのだろうか。
「柏木くん!」
「はっ!」
「君は依頼主にかからわず、報酬が払えない!」
「そうであります! 私はクズ野郎であります!」
「それなら、あたしは君が報酬を払えるようになるまで君についていかねばならないな!」
「は?」
「返事はイエスかはいだ。クズが!」
「ハイエース!」
「よろしい」
つまり、話を整理すると小清水さんは僕についてきてくれるらしい。
「では」
小清水さんの右手が差し出される。
「では」
僕も右手を差し出す。
「あらためてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
ふたり仲良く握手をし、笑いあう。
取り敢えず、今後も孤独に怯えなくともすむらしい。
「そろそろ行こうか」
「そうですね、さっきの騒ぎを見て人が集まってくるでしょうし」
立ち上がり埃を払うが、血のせいでベタベタとしている。
これは着替えが必要だ。
「で、でも、僕が言うのも何ですが、よかったんですか?」
「ん? あたしもいそぐ目的じゃないし」
二人して肩を並べて歩く。
「そうですか」
僕の隣には妹は居ないけど、きっとどこかで見守ってくれている。
「おい柏木、服があるぞ!」
「本当ですか?!」
喜ぶ小清水さん。確かに、そこに服はあった。だが、それはよくよく見覚えのある服で、僕は苦笑いを浮かべる。
「しかし、こんなところに残骸があるなんて、あの村が撃退したって言うのは本当だったんだな」
とっても見覚えのあるそれは、僕等が雨宿した大きな残骸。
「柏木、これなんていうんだ?」
「寿司……」
あぁ、運命って言うのはなんて適当で、なんてすばらしいのだろうか。
「寿司か。しかし、ラッキーだな!」
「そうですね。僕等最高にラッキーです」
僕も自分の服を拾って着替える。妹の服は、一着だけショルダーに入れておこう。
見てますか乙臣君。僕等、ラッキーでハッピーです。君はいなくなったけど、いつか迎えに行くから、その時まで見守っていてね。