Neetel Inside ニートノベル
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私が私になった日
【三年前 二月 裏視点】

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 気に入った服が欲しい、かっこいい彼氏が欲しい、可愛い妹が欲しい、あったかい家族が欲しい、美味しいレストランでおなか一杯好き放題食べたい、頭よくなりたい、スポーツできるようになりたい。
 全部。全部叶えたいし欲しい! これって変?
 いや、人間みんなそんなものでしょ。理性ってカバーをかぶせて見ないふりを決め込んでいるだけ。でも私はちっちゃい頃、欲情をうまく隠す術など誰も教えてくれなかった。偏っていたからかもしれない。
 ところで両親、という言葉がある。私はその言葉を使えない。なぜなら二つもないから。
 要するに釣り合った天秤の片方の重りを取り払ったらそりゃ傾くでしょうってことを言いたいわけだよ。ま、やるだけやってとばっちりを食うのは私だから、当人たちにすれば知ったことではないかもしれないね。
 だから。知らない、分からない、知ったこっちゃない、分からせない。
 誰が不幸になろうと、自分さえ幸せならば。
 いいんだよ! あははははは!
 こうしてママに協力しているのもひいては自分のため。自己満足ってやつ。利害が一致しさえすれば誰が幸せになろうと私にとってはまた別のお話、めでたしめでたし。
「久しぶり」
 あいつは言った。
「ごめんなさい、初めましてだと思います」
「覚えてないのも当たり前だ。まだとっても小さかったから」
 だから何だ。記憶にないの分かってるなら初めましてでいいじゃん。どうして昔会ったと主張したがるのかなと思った。
「服、可愛いね。自分で選んだの?」
「ええ、お気に入りなんです。そう言ってもらえて嬉しいです」
 お淑やかに微笑んであげる。ほら、こうすれば満足でしょ? 子供も大人も所詮人間、こんなものだ。自分に映る景色が綺麗なら誰も文句は言わない。
「ママ、私この方気に入っちゃったかも」
「そう? でも盗っちゃだめよ?」
 母親だって、ちょっとママと呼んでかわい子ぶれば私を愛してくれる。
 
 もう少し、あともう少しで全てが始まる。歪んでいるこのわだかまりを潰すにはこれくらいしかない。望みを現実にするには他にない。
 ハッピーエンドが誰かのバッドエンドでも、それは私にとってのグッドエンド。 

       

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