Neetel Inside ニートノベル
表紙

アクティブニートと助手
1:俺の幼馴染がこんなにニートなわけg(ry

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 突然だが俺には幼馴染がいる。
 それもとびっきり可愛い、いわゆる美少女という奴だ。
 家も隣り合わせだし、昔はよく遊んだものである。悪いが結婚の約束もした。
 そう、まさに漫画のようなエロゲーのような設定が、現実に俺には用意されていたのだ。
 羨ましいだろう……俺の事を嫉妬しているだろう……ふは! ふわはははははは!
 ……そうは言うてはりますけどね、やっぱ現実はそう甘くねぇんすわ。
 中学に入り、特に思春期に入るとお互い自然と疎遠、いや、敬遠し合ってしまうもので、その結果帰り道に彼女の姿は消え、臭い男共と帰宅の途につく毎日、だからと言って女の影がある生活を送ってきた訳でもないので、気づけば高3までD(童貞)の意志を継いでしまうという見事にして、憐れな、負け組としてここまで来てしまったのである。
 そして一方の彼女の方であるが、万人が認めるであろう美貌を持ち合わせているので、当然学園のアイドルとして人気を博し、男子生徒の注目の的となりながら、誰とでも仲良くなれる性格から女子の友達も大層多く、正に学生の鏡として順風満帆な生活を送っていた……という事はなく、思春期の影響か相当寡黙な性格になってしまっていたようで、コミュニュケーション能力が友達を作る必要条件の中学において、致命的な欠如をしてしまった彼女は、友達など出来る筈もなく、順風満帆とは程遠い学生生活を送っていたらしい。
 つまり、最強の初期設定を神様によって作って頂いた所で、当の本人がまともにコントロール出来なければ簡単に平凡なルートに切り替わってしまう典型をやらかしたのである。
 恐らくこの辺りで『とか言っちゃってどうせ運命的な再会を果たしちゃうんだろ? 死ねよ、リア充』と言う声が上がると思うのだが――
 すまない、実はその通りなんだ。
 ……が、そうは問屋が卸さないとはまさにこの事。
 今俺の目の前にいるその彼女は美少女というより、何かもうただのニートだった。
「やあ、本当に久しぶりだね、聡ちゃんとはもう二度と会う事はないだろうと思っていただけに、君が来てくれた事に、僕は嬉し過ぎて、今にも天に昇りそうな思いだよ」
 ジャージという見事なまでの家着姿に何故か白衣を纏った彼女は、恐らくかれこれ数年は切っていないと思われる伸びたい放題の髪の毛をゴムで結びながら笑顔でそう言った。
 ……ていうか、何だ、この妙にウザさを感じる口調は。しかも一人称が「僕」だと? え、何、まさか齢18にして厨二ゲーに感化されて、残念な頭になっちゃったの?
 昔はこんな子じゃなかったのに……。
 思わず不良と化してしまった息子を嘆く親の気持ちが分かってしまった。
 ……しかし、顔面だけは小学校から全く変わらない、非常に端整な顔立ちのままで、ツリ上がった目が無邪気にニコっと笑ったその容姿は、最早人間の成せる業ではなかった為に、不覚にも、このやさぐれニートに萌えてしまったのであった。
「どうかしたのかい?」
「いや……何も……」
「それにしても幼馴染というのは本当にいいものだね、このように関係が疎遠になったとしても、僕が連絡するだけで、まるでいつも一緒にいる仲睦まじい友達同士であるかのように、すぐに来てくれるのだから、まさに魔法の言葉だよ」
 そう、そうなのだ。
 運命的な再会(笑)は何てことはない、ただ咲乃が突然俺を呼び出しただけなのだ。
 それも咲乃→咲乃の母→俺の母→俺というまさかの伝言ゲーム的な方法で。
「それは結構な事だが、突然俺を呼んだ理由何だ? お前のその様子からすると、別に手に負えない問題があるから助けてくれ、という訳でもない気がするが……」
「ああ、そうだったね、聡ちゃんに会えた嬉しさのあまりつい本題を話すのを忘れてしまっていたよ。実はね、僕の両親は明日から世界一周の旅に出掛けるんだ」
「え? そうなの? まあ、お前の父親って金持ちだし、当然と言えば当然か……」
 実は俺と彼女は隣人同士ではあるが、その貧富の差は月とボルボックス(だからと言って俺の家庭が貧しいという訳ではないのだが)であり、大企業の社長に加え、この辺一帯の土地は神菜川家が全て買い占めている咲乃の父は莫大な収入を得ているのだ。
 それ故、豪邸は流石に言い過ぎだとしても、そこそこ大きな家を建てているので、俺も一軒家に住んではいるが、隣が圧倒的過ぎるので随分と貧相に見えてしまうという悲しいオチ。
「でもお前の親父って社長なのに、そんな長期旅行している暇あるのか?」
「今は会長だよ、自分より優秀で信頼のある部下がいるそうで席を譲ったそうだ」
「そういう事ね、で、その両親の旅行とお前が俺を呼び出した事に何の関係があるんだ?」
 おいまさか1人じゃ生活出来ないから身の回りの世話をしてくれとか言い出すんじゃないだろうな、同世代の女の子を介護とかマジ勘弁。
「実は前々から人の悩みを解決する意味での、昔で言う万屋、今はなんでも屋と言った所か、のような事をやってみたいと思っていてね、両親が1年程いないこの期間に僕の家を事務所として活動しようと思っているんだ。そこで、聡ちゃんには僕の助手として働いてもらいたい」
「……探偵事務所じゃなくて?」
「なんでも屋だ、別にコ○ンのように難事件を解決したい訳ではないからね」
「よく分からんが、つまるところ、カウンセラーみたいな事がやりたいってことか?」
「厳密に言うと違うけれどね、まあそんな所だ」
 突然何を言い出すかと思えば、見たくれから全く説得力のない事を言い出したな……。
 しかし、確実に不登校な咲乃が自分から何かしたいと言い出した事は良い事なんじゃないのか? それを後押ししてあげるのが大事とかテレビで言っていた気がするし。
 ……ていうか、両親はこんな痛いニートを放置プレイで旅行なんかに行こうとしているのかよ、いや待て、確かコイツの親って小学校の娘に門限を設けて無かった程の放任主義だったっけ……、とは言っても自分の娘がバグっていても問題無しとは流石に半端ないな。
 それともまさか『聡一君が世話してくれるだろうからきっと大丈夫だ』みたいな妙な信頼を寄せられてしまっている危険なパターンだったりするのか……?
「どうかな? 別に無理に協力しろとは言わないよ、何せ随分唐突過ぎる話だとは私も重々承知しているからね、嫌ならはっきりと断ってくれて構わない」
 そう言う割には何故やたらと寂しそうな顔をする。
 …………まあ、別に共犯になってくれと言われている訳じゃないし、社会復帰の手伝いをしてあげるつもりでやればいいか、それに幼馴染がニートっていうのは何か癪だしな、仮に何かあっても俺の親がいる訳だし、変に心配する必要もないだろう。
「いや、手伝うよ、別に忙しいって訳でもないし」
「本当かい! 聡ちゃんならきっと了承してくれると思ってはいたが、やはりこう、いざ言われると、何というか……物凄く嬉しいものだな! いやいや、本当にありがとう!!」
 と、手をグッっと握られて、ブンブン振られて喜ばれた。
 またしても、人外レベルの満面の笑みで。
 うん、その顔面で一喜一憂されたら多分俺じゃなくても了承すると思うわ。
「うんうん、そうと決まったら早速行動に移していかないといけないな、と、その前に、聡ちゃんは進行形で悩みを抱えてはいないかな?」
「俺が悩み、か?」
「そうだ、やはりこういう事をする以上悩みを解決する側が悩みを持っていては医者の不養生もいい所だと思ってね、もし何かあるなら僕が解決してあげるよ」
「それはもっともではあるな」
 俺がコイツに悩みを……か、何でだろう、全く解決してもらえる気がしない。
 かといって何も無い、とも言うのも何か違うしなあ……、本当にコイツがどこまでやる気があるのか、という意味でもどんな事でもいいから何か相談を――
「……彼女が欲しいかな」
「彼女、かい?」
「ああ、恥ずかしながらこの世に生を受けて現在に至るまで彼女というものが出来た事が無くてね、だから俺の相談は彼女を作る為に色々とバックアップして欲しい」
 さて、絶対ここ数年は日の光浴びていないであろうニートはどう返すか。
「? 聡ちゃんは随分とかおかしな事を言うね」
「はあ? 別におかしくも何ともないだろ、歴とした相談だと思うが――」
「いや、そういう意味じゃなくて、僕達は小学校2年生の年の6月12日4時32分54秒ぐらいに僕の部屋で将来の結婚を誓い合ったじゃないか、あれ以来僕はずっと聡ちゃんから愛の告白を待っていたのだけれど……、まさか忘れた訳ではないよね?」
「えっ!? あっいや、忘れた……訳ではないけど……」
ちょっと待て、何を言っているんだお前は。
「何にしても初の依頼が簡単に済みそうで助かったよ、さ、聡ちゃん、僕と付き合おう」
「まっ、待て待て! お前それ本気で言っているのか!? まさかさっさと解決したいからって適当な事言っているんじゃないだろうな?」
「そんな訳がないだろう? 僕は生れてこの方聡ちゃん以外の異性を愛した記憶がないよ」
「よくそんな台詞がサラリと言えるな……」
 天然なのか? それとも恥じらいという感情が死滅しているのだろうか。
「好きである事に台詞も何もないだろう? 不毛な問答に意味はないよ、さあ、早く返事をしてくれ給え」
 そう言うとまた人間離れした笑顔を見せる咲乃。
 っ……畜生、もうどうにでもなれ。
「ふう……全く、助手になってまだ1時間も立っていないのにもうお前をストライキしたくなったよ、ま、試さないけどな」
「実に回りくどい上に、理解不能レベルで下手糞な返事だったけど気持ちは十二分に伝わったよ、形式的になってはしまったが、これで僕達はようやく結ばれたね」
「うるさい、恥ずかしいから止めろ」
 最早どの理由で、どの感情で顔が赤くなっているのか分からくなっていた。

       

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