「ねぇ佳奈。洋を一日だけでいいから貸してくれない?」
「嫌だと言ったら……?」
「言ったら、あんたは永遠にそのままになるだけよ」
「ぐぬぬ……」
あーもう! 何なのよ、この女は! いきなり私の部屋に入って来たと思ったら、
ロープで私の手足を縛りやがって、これって犯罪よね!?
「年中、犯罪チックな事をしてるあんたに言われたくないわね」
「な――っ!? 私のどこが犯罪チックなのよ!?」
私は毎日を普通に、ごく普通に過ごしているだけだというのに……
「普通……ね。弟のパンツの匂いを嗅いだり食べたりするような事が普通だと」
「当たり前でしょ! そんなのどこの家庭でもやってる事じゃない!」
大好きな弟のパンツをモグモグしたり、トイレから出てきたらすぐさま、トイレに
入って思いっきり深呼吸したりするのは普通の事なのよ!
「相変わらずの変態ね。そんな事するのあんただけよ」
「いや、あんたにだけは言われたくないわ」
あんただって十分変態じゃない。いきなり人をロープで縛ったりして、これで変態
じゃなかったら何が変態というのよ。
「勘違いしないで。あんたを縛るのは面倒だからよ。あんたを放っておいたらうるさいからね」
「な――っ!?」
「それにアタシは良心的なのよ。本来ならあんたを無視して、洋を拉致すればいいのに、
わざわざ相手をしてあげてるんだから」
ぐ……っ、確かに良心的だわね。
「でしょ。だから洋をアタシに貸しなさい」
「それとこれは話が違うわよ!」
あんたなんかに愛しの洋くんはあげないわ。
もし一日でもあんたの所に居たら――
あぁ、考えるだけでも恐ろしいわ。無垢な洋くんを騙して、色々と調教をするつもりなのね。
無理やり大人の階段を――ダメ! ダメよ! その役目は私なんだから!
私が洋くんの童貞を――
「ちょっ、あんた何興奮してんのよ? やっぱり変態、変態だわ」
「――はっ!? こ、これは違うのよ。なんて言うかその、妄想が……」
「やっぱり、あんたは社会に出てきたらダメだわ」
携帯を出して、何処かに電話しようとする愛穂。
……ん? 電話……? ま、まさか――
「ちょ、待って! 警察だけは勘弁して下さい! いや、本当にお願いします愛穂様!」
額を地面に擦りつけながら土下座をする。
警察に捕まったら、洋くんと離ればなれになってしまう。
それだけは避けなければならない。例え、どんなに情けない事をしてでも!
「あんた、ある意味カッコイイ性格してるわ」
「愛穂……?」
「警察だけは勘弁してあげるわ」
「愛穂様!」
「その代わり……分かってるわよね」
「うぐ……っ」
警察を勘弁してやる代わりに洋くんを出しさせとは、エゲツナイわね。
でも――
「断る!」
ゴンッ!
「――っ!?」
「それだけは断るわ!」
先ほどよりも激しく、そして勢いよく土下座をする。
「台詞と行動が全然合ってないわよ」
「洋くんは渡さないわ」
そのためなら、何回でも土下座をしてやるわ。
「……はぁ。仕方ないわね」
「諦めてくれるの?」
「今回だけよ。そう、今回だけ。明日以降はまた、洋をアタシの物にするための行動はさせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
ゴンッ!
「羨ましくないけど、ほんとあんたカッコイイわ」
ふふん! これも全て愛する洋くんのためだからね。
私は世界一カッコイイお姉ちゃんなのです!