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第十二話「……あれれ〜おじさん! 何か変だよ!」

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「……ない! ないぞ!」


 きょうこが自分の鞄をまさぐりながら、急に大声で叫びだした。
 きょうこはスポーツ用のエナメルバックの中から次々とモノを取りだし、マックの小さなテーブルの上に並べていく。
 すぐにいっぱいになってしまったテーブルから、リップクリームがポロリと落ちた。


「どうしたんだきょうこ。ないって、何が無いんだよ?」
「……見た感じ頭以外は足りているように見えるが……」


 机に突っ伏していた鈴が顔を上げて言い、真奈はさかむけをいじりながらしれっと辛らつなことを言う。
 それを聞いても一切リアクションせずに、手を止めて涙を浮かべるきょうこ。


「ないんだよぉ……あたしの英語のテストの答案が!」
「テストの答案? 今日返されたやつよね? かばんには入っていないの?」
「うおーもう全部中身は出したよぉー!」


 テーブルを見ればサヤの提案はすでに限界まで試していることが分かる。
 きょうこは歯を噛みしめながら頭を抱えた。


「……別にいいじゃないか。どうせ大した点数じゃないんだろう?」


 真奈がそう言うときょうこは真奈の方をパッと振り向いて、人差し指を突き付けた。
 その指を振りながら、きょうこは大仰な面持ちで話し始めた。


「わかっていない……わかっていないぞ真奈! 確かにあたしのテストは大した点数じゃない、いや、それどころか点数が一切無いレベルの答案だ。だから、最終的に親に見られる前に捨てるのは間違いない。間違いないんだが……」


 きょうこはそこで少し間をあけると、さらに声を張って続ける。


「自分の知らないうちになくなるっていうの駄目だ! ああ全然駄目だぜ! もしも万が一カバンの底にでも入っていてみろ……目ざとい母親にしっかり発見されてしまうかもしれないじゃあないか……」


 残りの三人はきょうこの演説を黙って聞いていたが、最後の方にはばかばかしくなり各自トレーの上に広げた大盛りのポテトをつまんでいた。


「なんでポテト食ってんだよー! 君たちにはこの危うさがわからんのかー!?」
「まあ言いたいことはわかるけどさー。かばんの中に入ってないなら別にいいんじゃないのか?」


 激昂するきょうこに、鈴は興味を失ったように頬杖をついて言う。
 話はそれで収まるかと思いきや、なぜかここへきて真奈が急に立ち上がって喋りはじめた。


「……話はわかった。要は英語のテストの答案を見つけたいわけだな?」
「う、うん。そうだけど……急にどうしたんだ真奈」


 真奈の急な変貌に、きょうこも面食らって目を丸くしている。


「……話は聞かせてもらいました。この事件、この名探偵マナンにお任せあれ。きょうこのテストは必ず私が見つけてみせる……じっちゃんの、名にかけて」
「ま、真奈ー。気持ちはありがたいんだが、せめてどっちの名探偵かはっきりしてくれないか?」


 きょうこの言葉を完全に無視して、名探偵マナン君はポテトを一つ、つまみあげると語りはじめた。


「……このポテトを見ていただきたい」
「な、なんなの真奈ちゃん……ポテトとテストに何の関係が……?」


 サヤはうまい具合にたまたま事件現場に居合わせたキャラを演じる。
 なんだかんだで全員ノリはいいのだ。
 それは鈴も例外ではないようで、突然頭からびっくりマークを出して大げさにしゃべりはじめる。


「こ、これは……端っこの部分が少し赤い……?」
「……その通り。コレのおかげで私には完全に犯人がわかりました」


 真奈はここで一拍置き、犯人を指差して宣言した。


「犯人は……おまえだっ」


 真奈の人差し指の先には……きょうこがいた。


「な、なんであたしなんだ……証拠は、証拠はあるのかー!」


 きょうこもしっかりとだめな犯人を演じている。さっきまでの深刻な様子はどこ吹く風である。


「……私たちはポテトにはケチャップをつけない。にもかかわらずこのポテトの山には、少し赤くなったポテトがいくつかある。この理由がわかるか?」
「ま、まさか!」
「……きょうこ、そのポテトの山を片付けてくれ」
「わ、わかった!」


 きょうこが恐ろしい勢いでポテトを食べ始める。
 ポテトの山の下では……油で赤ペンの滲んだ答案がトレーに張り付いてた。
 

「……これでわかったでしょう。きょうこ、あんたはみんなのポテトを一つにまとめるときに、鞄から紙を一枚取り出して下に敷いたんだ……その紙こそが! 英語のテストの答案だったんだよ!」


 残りの三人がなんだってー! と驚愕する。
 


「……うぅううぅ。そうです……あたしがやりました……。って、みつかったー! やったー! ありがとうマナン君ー!」


 結局独り相撲だったことが明らかになったきょうこが一人喜ぶ。


「……これにて一件落着」


 真奈の背後では、体は子ども、頭脳は大人な探偵に追い詰められた犯人が自供する時のBGMが流れていた。


「いやーマジで助かったよー」
「よかったなーきょうこ。」


 頭をかきながら礼をいうきょうこの肩を、鈴が叩く。


「これで心おきなく捨てられるぜー!」


 そう言いながらきょうこはべったりトレーに張り付いた答案をトレーごとゴミ箱に突っ込んで答案だけを捨てる。
 名探偵は不服そうな顔できょうこ後頭部をひっぱたいた。
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