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第三話「部活に入りたい…。」

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「……部活に入りたいと思っている」


 マックのボックス席に真奈のか細い声が響く。



「……部活う~? なんで今さら? もう7月だぜー」


 突飛な真奈の発言にきょうこが素っ頓狂な声を上げる。片手に持ったダイエットコーラの紙コップにはもう氷しか入っていなかったが、きょうこは飲み終わったあとのドリンクの氷をガリガリやるのが好きなのである。


「……今更感があるのは認めよう。しかしやはり部活でしか体験できないことがたくさんあると思うんだ」



 真奈は真剣な表情で淡々と言葉を紡ぐ。そのただごとではない様子に他の3人も興味をそそられたようだった。


「なんの部活に入りたいの? やっぱり運動部?」


 サヤが素直に尋ねる。


 屋外では真夏の夕方の日差しがアスファルトを赤く焼いている。店内の白い明るさと涼しさとのコントラストが夏の風情を強く感じさせた。


「……入りたい部活の条件を羅列してみる。文化部は青春て感じがしないからダメ」
「おいおい。頑張って青春を謳歌してるアニメ研究部だってあるかもしれないだろうが」


 鈴が呆れたように口を半開きにして言う。


「確かにうちのアニメ研究会の男子たちもいつも青春の汗を流してるわよね♪」
「あれはデブばっかだからだろう……最近暑いしなー。ああ!デブ!嫌な言葉だ!」
 

 嬉しそうに言うサヤに、きょうこが頭を抱えて叫ぶ。そんな二人を無視して真奈は淡々と話を続けていく。


「……運動部がいいけど、日に焼けるのは嫌だから屋内がいい」


 3人は真奈の透き通るような白い肌を凝視した。『ちっ。確かにきれいな肌してやがるぜ。』という心の声が漏れ聞こえていた。
 そんな状態から我に帰ったサヤが口を開く。


「そ、そうね! 日焼けは大敵よねぇ。ってことはバレーとか卓球とかスカッシュとか?」
「……バレーは涙が出ちゃう、女の子だもんだからイヤ。卓球は窪塚洋介だからイヤ。スカッシュ……マイナー乙」


 サヤの提案を真奈がバッサリとたたき切る。全国のスカッシュプレーヤーのみなさん本当にすいません、と真奈は心の中で思った……ということにしておく。


「ってことは剣道とかかー」
「……暑い、臭い、防具が重い。略してAKB48」
「48はどっから出てきたんだ!」


 真奈はきょうこの提案も気に入らない様子だった。そして全国の剣道部のみなさんごめんなさいと……思ってはいない、多分。
 どんどん候補が絞られていく状況に3人も半ばなぞなぞに挑戦するような感じで次なる部活を提案する。


「柔道!」
「……道着がはだけるから恥ずかしい」
「合気道!」
「……以下武道系に対しては同文」
「ボディビル!」
「……イヤ」


 どんな部活を挙げても否定しかしない真奈に、三人もいい加減息が切れてきた。そこで鈴が根負けして真奈に尋ねる。


「んで、結局真奈は何部に入りたいんだ……?」


 その質問に対して少し間を置くと、真奈は語り始めた。


「……昨日すごい熱い、本当に熱い戦いってものがあると知ったの。諦めるってことがどんなにダメなことなのか、すごく噛み締められた……」


 真奈の発言に頭の上に疑問符を出す3人だったが、サヤが先を促す。


「そ、それはなんのスポーツだったの?」
「私生まれてはじめてわかったの……」


 そこで真奈は一呼吸おいて


「諦めたらそこで試合終了だって……」


 3人は乗り出した体を一気に席に落として、それぞれのドリンクに左手を添えた。
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