4人が狭い階段を登って二階にたどり着くと、時間も時間だけに席はそれなりに埋まっており4人全員で座れそうなボックス席はいくつもなかった。
「おーい。こっちの窓際の席空いてるよー」
鈴がそう言うとバラバラに席を探していた残りの3人が集まってきた。
「……その席は非常口に遠い。暴漢が闖入してきたら怖いからあっちがいい」
真奈がぼそっと呟く。本人としては呟いているのではなくしゃべっているつもりなのだろうが、すかさずきょうこが真奈をトレーでつっつきながらまくし立てる。
「声小さい! 理由ネガティブ! 言葉難しい! だいじょーぶだよ。暴漢が入っていきたらあたしがぶっとばしてやるからさー」
長身のきょうこは何らかの武道の心得でもあるのか膝蹴りのマネをする。トレーに置かれたテリヤキマックバーガーセットのコーラがトレーを滑った。さっき「体重がー」と叫んでいたのは今は昔のようだ。
「……お前が暴漢だ」
そんなきょうこにちらっと視線をやりながら、真奈が辛辣に切り返す。
きょうこは「がーん!」といった感じでショックに震えている。
「暴漢の漢は痴漢の漢だから男の人のことよ♪ 女の痴漢は痴女だから、女の暴漢は……暴女になるのかしら……。」
そんな二人に対してサヤは横からメガネをくいっと持ち上げながらとぼけたことをぬかす。
「誰が暴女だっ!」
席も決まらずトレーを抱えたまま4人組はコントを続けている。さすがに収拾がつかなくなりそうだったので鈴が語気を強めて言い放った。
「はいっ! 終了! きょうこは暴女に決定! 暴漢が来たら暴女が撃退するから安心しろ真奈! そしてサヤは乳をよこせ! 以上!」
「「「……はーい」」」
どうも鈴はこの凸凹な4人組のまとめ役でもあるようだ。結局サヤが乳をよこすこともなく、4人は鈴が選んだ窓際の席にえっちらおっちら陣取った。真奈はまだブツブツ言っていたが、すぐに立ち上がれる通路側の席で落ち着いたようだ。
4人は2つ頼んだLポテトを全員でつまみながら(きょうこはそれプラス自分のセットのポテトをつまみながら)、試験の終わった開放感を満喫するのだった。
「鈴さー。今日の国語の試験の問題であった『むすめふさほせの意味を答えよ』って問題わかった?」
きょうこが油でベトベトになった親指を舐めながら尋ねる。それを聞いた鈴は自身満々に無い胸を張って答えた。
「もちろん! 『百人一首の裏ワザ』ってバッチリ答えたぞ! 昨日山かけておかーさんに聞いといたんだけど、なんでこんなんが裏ワザなんだろうなー」
「なにっ! そんな意味だったのか…!あたしゃさっぱりだったからさー。もう先生わらかすしか無い! って思って『「ムスメフサ」を二つ名に持つホセ・メンドーサ』って書いてやったぜー。国語のサトセンあしたのジョー好きだからさ!」
「ムスメフサ・ホセってことか? いみふめーだな」
誇らしげな鈴とへらへら笑うきょうこに、サヤは笑顔をひくつかせながらおずおずと話す。
「あ、あのね……、『むすめふさほせ』っていうのは百人一首でその文字が一文字目に読まれた瞬間に取らなきゃいけない札がわかる文字の覚え方でね……」
「えっ! 百人一首って読まれる言葉と取る札違うの!? 」
鈴がサヤの解説に食いつく。サヤはそれを見て少しだけ嬉しそうに続ける。
「うん。上の句と下の句って言ってね、取る札の方には和歌の半分しか書いていないのよ」
サヤのその言語に興味なさげだったきょうこもずいっと体を乗り出して、驚きの表情を浮かべる。
「神の句とシモの句……? すごいイケてる和歌とちょっとエロい和歌ってこと……?」
「……あほ」
きょうこのその言葉を真奈でさえも呆れ、静かに否定する。
「あ、あほだとー! ちくしょー確かにあたしはあほだけど真奈に言われるのはなんか癪だぞ! じゃー真奈はなんて答えたんだよー!」
そう尋ねられた真奈は、少し考えるように間を置いて答えた。
「……男尊女卑。娘だけが房を干すなんて時代遅れだよ……」
真奈以外の3人の額に一滴の汗が浮かんで、そしてぽたりと落ちるまでの間、誰も何もしゃべらなかった。その沈黙を気まずそうに破ったのはサヤだった。
「あ、あのね真奈ちゃん……」
「「そういうことじゃねーよ!」」
鈴ときょうこの声が綺麗にハモった。