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そのセックスに正義はあるか?

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「姫様、状況を報告させていただきます。よろしいですか?」
「んっ……あふっ……よい……よいぞ……」
「…………。現在わが祖国に属する三十六の諸侯のうち、二十二の諸侯たちが反逆声明を出して王都への進軍準備を進めているようです。宣戦布告するのは彼らなりの礼儀でしょう。いいですか、敵はすぐにも向かってくるのです。すぐに騎士団を編成して攻撃に備えてください」
「その必要はな……あーっ!!!!」
「…………(怒)」
「怒るなよ」
 姫はシルクのレースがあしらえられた布団をなにも着ていない胸元まで引き上げた。布団のなかの膨らみは二つある。
「おまえも知ってるだろ? 一時から二時はわたしのお昼寝タイムなのだ」
「お昼寝タイムで夜伽するのはやめてください」
「んっ……するというより……されてる」
「再開しないでください! あなたにはことの重大さがわかっていないんですか?」
 側近の叱責に姫は流れるような銀髪をすくって背中へ垂らした。
「わかっているとも。だから命じよう、我がしもべ。いますぐ反逆諸侯どもが我が国立図書館から借りだした本の一覧をもってこい」
「は?」
「簡単にいうと貸し出しカードだ」
「それがいまなんになるというのです! 姫、あなたは一国の長として騎士団を」
 側近は姫の灰色の瞳に見つめられ、金縛り状態に陥った。その目はヘドロを溶かしたように熱と深さに満ちていた。
「いいからわたしの言うとおりにしろ。いいな? ブックカードだ。すべてそれでケリがつく……」


 ○


 辺境諸侯シャダイムは鞄のベルトをきっちり締めて、自分の戦いが始まったことを実感した。開戦のほら笛もいらない。触れあう剣の音もいらない。このベルトを締めて旅支度を整えたとき、シャダイムの戦は開戦するのだ。どんなときも、そうだった。
 燃え盛る暖炉の炎を娘のヴィクトリカが寂しげに眺めていた。
「いってしまわれるのですね、父上」
「ああ」
「ほんとうに祖国を……」
「いまの姫は色欲に狂った魔女だ。誰かが裁かなくてはならん。ほんとうに国を思うなら時に国を傷つけなければならない。その傷から流れた血が、この豊穣な大地に染みておまえの子供や孫たちの礎になってくれるなら……」
「父上……あなたという人はっ!」
 ひしっとヴィクトリカがシャダイムに抱きついてくる。その肩は震えていた。シャダイムは亡き妻に似た愛娘を強く抱いて、それからすぐに離れた。
「私はいく。戻ってくるときは懐かしい祖国の旗といっしょだ」
 月夜を走っていく馬に乗った父の背中を、ヴィクトリカは戸口からだいぶ長い間見つめていた……。



「む……? あれは」
 シャダイムは森の奥に人影とざわめきがするのに気づいた。本隊との合流まで時間はない。だが、見過ごしていくこともできない。馬の首をめぐらせて、黒い不穏な空気に突っ込んでいった。
「なにをしている!!」
 ささやきがかわされて、人影が蜘蛛の巣を散らすように森のさらに奥へ消えていった。五、六人はいたろうか。シャダイムはタカのような鋭い目を方々へ向けていたが、馬の足下に女が横たわっているのに気づいて馬をおりた。
「おい、きみ、だいじょ」
 辺境諸侯シャダイムともあろう男が、その女、いや少女を見た瞬間絶句した。
 服は引き裂かれ、みずみずしい肌と熟れる途中の果実のような乳房があらわになっている。その肌を、白い液体が汚していた。幾つかの筋となった滴が、股間の蜂蜜色をした茂みに染み込んでいた。
「?」
 少女は小首を傾げてシャダイムを見上げた。そして自分の哀れな姿を見下ろして、言った。
「あのひとたち、なにがしたかったんでしょう。急にわたしを裸にして、その、男の人にしかないものを押しつけてきたんです。わたし痛くて……でも殺されなくてよかったですわ」
 そういって、輝きの消えた瞳でにこっと笑った。
 シャダイムは咆哮した。





 小川まで少女を連れていき、体を清めさせた。
 少女は数刻前になにをされたのかも知らぬげに、きゃっきゃと青い水と戯れていた。
 シャダイムは木陰に甲冑をつけた背中を預け、星と月を見上げる。星の運行から察するに本隊への合流にはもう間に合わない。だが明日の朝早くに出立すれば決戦には追いつくだろう。
「あはは、おじさん。みてみて、このねばねば変なにおいがしますよ。男の人ってタイヘンなんですねえ」
 シャダイムは首を振って、早く洗い落としなさいと諭した。少女はハーイと素直に言って手のひらで体をこする。
「きみはこのあたりに住んでいるのか。きこりの娘か?」
「はい。でも、父は一ヶ月前に……それからはわたしひとりで木こりのまねごとをしてるんですけど、なかなかうまくいかなくて……今日は朝早くにしか出ない獣の罠を仕掛けに出てきたのです」
「そうか……」
 シャダイムは顔をしかめる。木こりの娘ということはほかに身よりはあるまい。助けなければよかったかもしれない。この少女はこれから死ぬより辛い孤独な一生を送る娘だったのだ。
 シャダイムは自分の正義感からとはいえ軽率な行動を悔いた。あの場ですべての事情を推測することも可能だった。
「ねえ、おじさん」
 身震いして水気を払った全裸の少女がシャダイムの顔をのぞき込んできた。
「わたしの家にきませんか。こんな夜中ですけど、こんなところにいるよりはおかまいできると思いますし」
「いや、私は」
「いいじゃないですか。ほらあ」
 少女はシャダイムの甲冑に腕を絡ませて引っ張る。傷になるといけないから、とシャダイムがあわてふためいても少女は気にしない。
 仕方なしにシャダイムは少女に連れられていった。





 ベッドに少女が腰掛けている。一糸まとわぬ姿で。
 いくらシャダイムがはしたないと言っても今日は暑いの一点張りだ。シャダイムは目のやり場に困って棚の調度や花瓶にさされた花に注目している。
 少女とシャダイムは長い時間、会話して過ごした。少女は久しぶりに人間と話すのか、ときおり支離滅裂ながらも一生懸命に身振り手振りを交えてシャダイムに言いたいことを伝えようとする。それがシャダイムには、娘のヴィクトリカを思い起こさせてほほえましい。よくよく見れば、ヴィクトリカと少女は同じ年頃のようだった。いや、少女の方が一つ二つ若いかもしれない。十五、六か。
「ねえおじさん」少女はふとももの間に手をやった。
「さっきの人たち、わたしになにをしたのかな。おじさん、わかる?」
「いや……」
「わたし、パパと二人暮らしで、あんまりものを知らないの。ねえ、知ってるなら教えて?」
「それは」
 少女が身体をすり寄せてくる。シャダイムは彼女の清められた股を見下ろした。あの男たちにけがされ、彼女はもしかしたらはらんでしまうかもしれない。あのけだものたちの子供を……。シャダイムのなかの悪魔がささやく。
 男である自分には、それをほじくり出し、自分のものを注ぐことができる。彼女は自分に心を許している。どこのちくしょうともしれない連中の子供を産むくらいなら、自分の子を……
 バカな、相手は娘よりも年下なんだぞ。シャダイムのなかの天使が叫ぶ。それは畜生と同じじゃないか。正義の皮をかぶったゲスな行為だ。
 しばらく天使と悪魔がシャダイムのなかで荒れ狂った。その嵐はかつて感じたことのない激しさだった。国家が魔女に統治されたときも、妻が旅立ったときも、いやそれよりもさかのぼって、妻と初めて夜を過ごした時よりも……
 気づいたときには、静脈の浮いた禁断の果実を鷲掴みにしていた。不安げに少女が星空を閉じこめた清廉な瞳でシャダイムを見上げてくる。
 彼はその期待と不安のすべてに応えた。
 それきり、男は二度と森を出なかった。



 ○



「……ミシャウト侯、バッシブ侯、そして最後にシャダイム侯。すべて失踪、ないし声明棄却の伝令がきています。姫、革命戦争は回避されました」
「そうか」
「うれしくなさそうですね」
「ふん。なにが悲しくて二十二人分の茶番を用意してやつらのチンポコを満足させてやらねばならんのだ。わたしのマンポコはまったく納得していないぞ。わたしのとっておきのエンジェルビッチ隊が半分近く永世任務に就いてしまった……なんてことだ……」
「…………。手段はともかく、あなたの、人間の裏表をただの貸し出しカードから暴き出してしまう才能には敬服します。その意図も考えずに迅速な行動に出ませんで申し訳ありませんでした」
「ふん。お世辞はよせ。そんなものじゃわたしの秘肉は満たされん」
「いえいえ、本音ですとも。では、私はこれで」
 部屋を出ようとした側近を姫は呼び止めた。
「おまえ、なにをおびえてる?」
「は?」
「……童貞か?」
「な、なにをばかな」側近は銀縁メガネを指で押し上げる。
「言いがかりもはなはだしい……」
「そうか? だったら見せてくれよ、おまえのテクってやつを」
「ひ、姫どこでそんな言葉使いを……うわあっ!」
 姫は例によって獣のような身のこなしで側近の身体を押し倒した。ふかふかのカーペットの長い毛先が、二人を草原のように包み込む。
 姫の手が側近のベルトにのびた。
「や、やめて! やめてくださっ……」
 そのとき、姫の執務室の窓の向こうに人影が横切った。窓ガラス清掃員だ。いつもは汗くさい男たちのくせに、今日このときばかりはなぜか金髪の若い女の子だった。
 女の子は口をぽかんとあけて部屋のなかの奇妙な光景に呆然としている。
「あっ、ひ、ひめ、お願いですお願いですからやめて、いまはだめ、やだ、みられちゃう、みられっ、あっ、あっ、あっーーーーーー!!!!」
 姫は満面の笑顔で側近のパンツをおろした。
 ぽろん、とちいさな袋と竿がこぼれた。
 金髪の清掃員が手で口を覆い、その目に羞恥と軽蔑と、そして……嘲笑の光が走った。覆った手の端から、ゆがんだ口がのぞいていた。
 陽が暮れるまで側近は、歴代最麗の美姫に犯され続けた。
 その間、金髪の清掃員はずっと窓の外にいて、小さな小さな柱が豊かな肉にいたぶられるザマを蔑んだ。時折彼女からこぼれる忍び笑いを感じて、側近は果てた。あまった皮から滴る体液が、涙のように滴った。
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