――202×年、電脳世界。
「おもしろいな」
デスクトップ、ノートパソコン、はたまた通勤途中の携帯電話から。画面に映る文字列に熱中する読者達。
「また投げやがったよコイツ」
近未来インターネットでは素人小説投稿サイトが繁栄を極め、大手サイトは現実の出版社と提携を結ぶ段階に。“新都社”は特にその筆頭とされ、新都社を含む5つのサイトが5大投稿サイトとして人々の注目を集めていた。
――新都社。
サイト設立当時から一つのテーマであった“作家ごっこ”はよりリアリティを求め、活躍に応じては小額ながら電子マネーも与えられる。その資金元は提携している大手出版社であり、その代わりとしてサイトからプロ作家を輩出する際には必ずその出版社に紹介することになっている。もはや各出版社としても小説投稿サイトの繁栄ぶりは無視できない段階となっており、いわば「プロ養成下部組織」としての意味合いを強めている。
「もしもし、僕だけど。次回作のプロット進んでる?」
作家ごっこ最大の目玉として、“担当編集者”のシステムを全面的に導入。
新人作者は新都社に作品を投稿するとまず編集者に目を通され、その可否を判断される。才能を認められれば編集者がつきそのままサイト上に作品をアップしてもらえるが、編集者のつかなかった作品はお蔵入りとなる。とは言えそのハードル自体は大したものではなく、「才能ある者を抽出する」というよりは「見込みのない者をふるい落とす」ぐらいの認識である。
――新都社文芸首脳会議“五天皇”。
『それではこれより定例会議をとり行う』
味気のないチャットルームに会話文が書きこまれてゆく。
『落花生:今回の議題は?』
『猫:シラン』
『立花:入れ替え戦についてだろ。まあどうってこともないが』
『泥沼:左様。いつも通りに叩き潰してくれるのみ。もっとも青山君、君にはそんな余裕も無いだろうが』
『青山:……きつく言っておきますよ』
『猫:(藁)』
多くの文芸作家の最終目的はプロ進出だが、その最大のステップとして“文芸アワード”というものがある。
MVP、ベストファイブ、ゴールデンノベル賞を主として多くの賞があり、少なくともそこに名を連ねることがプロ進出への近道であることは間違いない。そして首脳会議“五天皇”への参加資格こそが、“ベストファイブ作家の担当編集者であること”なのである。
首席:落花生(伊瀬カツラ担当編集)
次席:猫(後藤ニコ担当編集)
三席:立花(橘圭郎担当編集)
四席:泥沼(泥辺五郎担当編集)
五席:青山(青谷ハスカ担当編集)
新都社の最高責任者には編集長が位置するものの、以下最大の権力、発言力を持つ“五天皇”。編集者共通の最大の目標が五天皇であり、よって誰に言われずとも担当作者をベストファイブにさせる為に献身的なサポートを尽くしている。
当然、作者がベストファイブから外されれば担当編集者も五天皇を降ろされるので、二人三脚一心同体で活動している。……はずなのだが。
『猫:は!!??』
『510nico:わからない~ あ~ だ~めだわたしはも~』
『猫:作品削除って……おい!! 何やったか分かってんの!!?』
『510nico:うっさ。もう寝るから電話しないでね~ ぷ~』
510nicoが退室しました
『青山:ハスカくん……君、顎男先生と空気先生に負けそうなの分かってる?』
『ah:はぁぁ~? だいじょぶだいじょぶww』
『青山:真面目に聞いてくれって! もうコメント数じゃ抜かされてるんだぞ!』
『ah:マジ? ヤッバイね つーかこれから飲み会だからまた明日^^ww』
『青山:おい!? てか君まだ未成年じゃ』
ahが退室しました
『落花生:あの……次回更新分の打ち合わせですが』
『勝良:あ……、もう自分で考えておいたから。そのうち原稿送るんでよろしく』
『落花生:あ、でも一応こちらでも内容の把握を……』
『勝良:え……。文句つけんの?』
『落花生:いえ! そういう訳では全く……はい。それでは、先生の方でよろしくお願いします……』
勝良が退室しました
『泥沼:次回更新分できてます?』
『五郎:あーうん、まあ出来てるんだけど、これ書きたくなったからこっちで書いといたから』
『泥沼:え!? ……あの、今回はこちらの作品の更新をお願いしておいたんですが……』
『五郎:ん? いやわかってるけど、こっちの作品書きたくなったんだってば。そっちもそのうち続き書くから大丈夫』
五郎が退室しました
『立花:先生。執筆の調子はどうでしょうか』
『橘圭郎です:はい! 立花さんのおかげで順調ですよ。次回分も打ち合わせ通りに進んでいますので』
『立花:本当ですか! いつもありがとうございます。それではまた何かあればいつでも言って下さいね』
『橘圭郎です:はい! こちらこそ本当にいつもありがとうございます』
『立花:それではお先に失礼します。作業頑張って下さい!』
立花が退室しました
【首脳会議】
『落花生:順調で、あくびが出るね』
『猫:そんな余裕があるのかしら。MVPの座、危ないわよ』
『泥沼:左様。MVPの座を狙っているのは泥辺先生も同じ。もっとも青山君、君には関係無い話題だろうが』
『青山:……きつく言っておきますので』
「……はぁ」
デスクトップの前で、四人の編集者のため息が寂しくこぼれた。