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10ページ 似非と天才

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 ――ハスカが、その地位に強い執着は抱きつつも、その地位を守る為の行動を起こそうとしないのは。
 ニコが、努力と呼ぶにはあまりにも乏しい程の手間暇しか奮わないのは。
 それは、『頑張らないのにデキる私がカッコイイ』。二人が、そういう美学を抱いているからである。
 二人は似た者同士。似通った思想、美学、性格の元に行動している。かつ、現在二人の実績・実力には大きな開きがあるというのが、後藤ニコが青谷ハスカを気に入った大きな理由だ。
 ただし、努力をしなくてもデキるということは、努力をすればもっとデキる。自らの可能性に蓋をするその考え方が正しいとは決して言い難いが、ただ、『そういう気持ちは分からないでもない』。

 〒猫瀬、犬腹
『犬腹:そうですね~。相手がハスカ先生ですので、もっともっとダークな作風で押していった方が良いかと』
『猫瀬:これをもっとダークに、ですか……』
 猫瀬は今回、【高校生6人を密室に閉じ込めてみた】という過去の短編作品を練り直して入れ替え戦選考に提出した。結果、見事5位挑戦枠に選出されたが、この状態から本番に向けて更に練り込んでゆく。
『犬腹:今のままだと、ただ理不尽なだけでギミックや心理戦に多少欠けます。出来事が淡々と描写されているだけですし、SAWなどの作品との差別化もできていません。たとえばですが、6人がそれぞれ他の5人を殺そうと画策するとか……これはちょっと極端な例ですが、とにかく入れ替え戦ではもっとインパクトを出した方が良いかと』
『猫瀬:う~ん、なるほど……たしかに。じゃあとにかく、もっとダークにということですね』
『犬腹:ええ。同じジャンルで戦う以上、インパクトで負けては勝ち目がありません』

 〒ひょうたん、豊臣千成
『豊臣:え~、今回は泥辺先生が相手ですから。正直、ゲームのトリックや描写力では勝ち目が薄いかと……。何か、今からでも作品を差し替えることもできますが』
『ひょうたん:そうは言ってもですねえ。準豪賞を獲ったのも、【塔から脱出するゲーム】を評価されてのことなんですよね』
『豊臣:そうですねえ。単なるエロというのは基本的に評価対象にすら含まれにくいですから』
『ひょうたん:じゃあ今から作品の方向性を変えるってのはキツイですよ』
『豊臣:まあ、【塔から脱出するゲーム】自体トリックやギミック云々でなくリョナ要素でウケている作品なので、とにかく細かいことは深く考えずにそっち方面で押していった方がいいかと』
『ひょうたん:なるほど。わかりました、その方向で書き直してみます』

 〒黒兎玖乃、白犬
『黒兎:まったくよ~。どうしてくれんだよお前』
『白犬:す、すいません……』
『黒兎:お前、絶対イケるって言ったよな~? どうなってんだよオラ』
『白犬:いやでも、小説ってのは水物ですから……。たしかに私はイケる自信ありましたが』
『黒兎:んなことは聞いてね~んだよお!! お前イケるっつったのにイケなかったんだから責任とれよ!!』
『白犬:あ……でも、今回の【蟲籠 番外編】、連載用に練り直せば【蟲籠】第二部として“文芸しらがな”に載せてもらえるかもしれないらしいですよ』
『黒兎:今そんなの関係ねーじゃ……え、マジ!!!??』
『白犬:は、はい』
『黒兎:うおおお、お前、ちょっとはヤルじゃねーか!!! うっしゃあ、これは燃えてきた!!』
『白犬:よ、良かった……精一杯サポートさせていただきますので、一緒に頑張りましょう』

 こうして、作家達は秋の入れ替え戦に向けてその才能と精力を存分に奮った。
(あ~。今回もニコ先生替わりに書いてくれないかな~。あ、今回手空きじゃないから無理だ)
 その中でも、相変わらずが一人。
 ――今更だが、後藤ニコは紛れもない天才であった。
 努力も意欲も欠いて尚、その地位に留まり続けるだけの才気に溢れている。そんな人間は、本当に一握りだけだったのだ。
 後藤ニコと青谷ハスカは、似た者同士。
 ただほんの少し、“彼女”の方はまだほんの少しばかり、才能と経験が足りていない。それだけの話なのである。

 秋期入れ替え戦 

 青谷ハスカ 257-312 猫瀬
10

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