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11ページ 歓喜と陥落

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 緊張と期待に顔を紅潮させて、結果が記された画面を犬腹が見る。

 青谷ハスカ 257-312 猫瀬

「やったーーー!!! ベストファイブ獲ったどーーーーー!!!!」
 犬腹は絶叫した。
 秋期入れ替え戦第一戦、猫瀬はあの青谷ハスカを下したのだ。
(今回、猫瀬先生の出来は相当良かったが……まさか勝てるだなんて)
「よっしゃーーーよっしゃあ!!!!」
 犬腹はすぐにチャットへとログインした。
『犬腹:猫瀬先生!! おめでとうございます!!!』
『猫瀬:本当に……本当に嬉しい!! まさか、こんな……、本当にびっくりしました!!!』
 当然、このことはすぐに皆も知ることになる。
『顎男:バカな』
『つばき:ハスカ先生が……』
『黒兎玖乃:まぐれってあるもんだなあ。ほんっとミズモノだねえ~小説って』
『硬質アルマイト:……ふっ。実に面白くなってきた』
『落花生:先を越されてしまったな。だが慌てることはない、君もすぐに“そこ”までいける』
『和田駄々:はい。どれぐらい時間がかかるか分かりませんが、きっと、落花生さんの期待に応えてみせます』
『泥辺五郎:……馬鹿め。遊び半分でやっているからこういうことになる』
『橘圭郎:ハスカ先生……。お疲れ様でした。またすぐに戻ってきていただけると信じています』
『伊瀬カツラ:………………』
『後藤ニコ:……ちっ。あのバカ』
 無論、青山も。
(終わった……。負けてしまった。今のモチベーションではもう、もしまた復帰できるとしてもどれだけ先になるか……)
 そして、当人も。
「…………。??」
 ウィンドウの前で茫然とする青谷ハスカ。
 初めて味わう、はっきりとした形を持つ“敗北”。その現実をすぐには受け入れなかった。
「負けたの? 私が」
 しかし、しばらくしてその事実を受け入れると、驚くほど彼女は平静を保っていた。
「フン。胸糞わっる~い。バカじゃないのこのガキ、ぬか喜びしてんじゃあねーぞ。どうせすぐ獲り返すに決まってんだろーが」
 ギシギシッ、と背もたれを後ろに傾ける。
「それにしても、青山の無能ぶりにはビビるっつーの。担当替えてもらわねーと。ほい、サイナラ」
 青山との打ち合わせ用チャットルームを、ブックマークから削除した。

 ――かくして、秋の入れ替え戦は久々の“下剋上”達成に湧き上がった。
 猫瀬はそれまで青谷ハスカが持っていた最年少ベストファイブ賞受賞記録を更新し、新都社の歴史に深くその名を刻むこととなる。
 そして、新たな波紋の誕生とともに。
『ふっ……。今までボクが表舞台にも立たず息を潜めていたのは、全てこの時の為だ。正直、“あの5人”が相手じゃ誰とぶつかっても分は悪かったからね。だがハッキリ言って、猫瀬相手ならボクが勝つ。ボクが王座につく時が来た』

 ○   ○   ○

 一週間後。
『犬腹:いやあ~。ほんっと、ベストファイブ獲得おめでとうございます』
『猫瀬:もー、いつまで言ってるんすかwww』
『犬腹:いやあ、本当に嬉しくって』
『犬腹:それで、三日後に現ベストファイブ作家4名との対面式があります。後ほど、編集長からチャットルームのURLと猫瀬先生専用の入室パスワードがメールで送られてくるはずです』
『猫瀬:えっ。それって、ベストファイブ作家5人だけが入れるっていう伝説のチャットルームのことですか!!? 僕も入れるんですか!!?』
『犬腹:いやいや、当たり前じゃないですかwwもう猫瀬先生もベストファイブ作家なんですからwww』
『猫瀬:うわあ~~、本当に感激です!! もう、ベストファイブの先生方とお話しできる機会を与えてもらえるってだけ幸せなんです。伊瀬カツラ、後藤ニコ、橘圭郎、泥辺五郎……僕が新都社に来てからずっと、神様のような存在でした』
『犬腹:君も、これからはそこに名前を並べられるんだ。もちろん最初は比較され、叩かれることもあるかもしれないが、慌てずにこれまでのスタイルを貫けば良い。きっと評価される。まあとにかくまずは三日後、先生方とたっぷり話してくるといい。それだけで得るものは多いはずだよ。これが、ベストファイブ作家猫瀬としての最初の仕事だ』
『猫瀬:――はい!! 行ってきます!!!』


 三日後。
『猫瀬:あの……、他の先生方は……??』
『橘圭郎:…………。サボりみたいだね……』
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