『青谷ハスカ:知りません!』
『編集長:…………』
『青谷ハスカ:何度も言ってるじゃないですか。編集長の仰るようなことは一切ありませんよ。アレは私が自分で書きました。上手くなったもんでしょ、小説』
――その発言によって、編集長がどうこう考えを変えることは一切なかった。元々正直に白状するとは思っていないし、『やっていない』と言っても、どの道証拠はどこにもない。
『青谷ハスカ:それより、また秋に向けて作品用意しとかなきゃいけないんですから、時間無いんです。どうせ、また私が狙われるんでっしょ』
『編集長:まあ……君がそう言うなら無理に問い詰めようとは思わないが、万が一、この先代理執筆の証拠が出てきたら、その処罰については覚悟しておいていただきたい』
『青谷ハスカ:大丈夫です。それでは、また』
〒TAKITA、北方
『北方:うん、良い出来だ!』
『TAKITA:本当ですか……! ホッとしました』
『北方:頑張ったな。それじゃあ、この【兄の聖戦】第一話は文芸NEW都に載せてもらう。それで、更新日の希望ってあるかな?』
『TAKITA:?? 更新日? 更新って、好きなタイミングでできるんじゃないんですか?』
『北方:ああ。今では更新する日時についてもある程度決まりがあるんだ。好き勝手には更新できないようになってる。まあ更新するのは編集の仕事だから、作家さんは自分のペースで書いてもらっていいんだけどね』
現代の新都社では、完成原稿を担当編集に渡した後、それを掲載される曜日が作者毎に決められている。これは人気作家の更新が偏りすぎないようにするのと、読者が自分の好きな作品・作家の更新日を把握できるようにするための配慮である。
例えば伊瀬カツラの場合、更新日は月曜日・木曜日と決められている。どの作家も週に二回の更新日を定められているのだ。もちろん、週に二回必ず更新しなければならないということではなく、あくまでも更新回数の上限が決められているということである。
伊瀬カツラ、顎男(月・木) 後藤ニコ、青谷ハスカ(水・土) 橘圭郎、泥辺五郎(火・金)
もちろん上記の6人以外の作家達も同じである。そして、それぞれ各曜日の中で仲間意識のようなものが生まれるものであり、他の曜日組に対しての対抗意識は少なからず存在する。――夏の入れ替え戦、後藤ニコが青谷ハスカの代理執筆を請け負ったのは、二人が同じ更新日であり以前から交流を持っていたからに他ならない。
『北方:人気作家になると、更新日も編集長に決められるんだけどね。新人のうちは曜日の希望があれば大体その通りにしてくれる』
『TAKITA:うー……ん、そうですねえ。これ、どの曜日を選んでも同じなんですよね?』
『北方:うん。雑誌のようなランクづけはないよ。単にさっきの6人の好き嫌いで選ぶ作家が多いね。まあ強いて言えば、やっぱりカツラ先生が更新する日は読者も多いかな。気にするほどの差でもないけど』
『TAKITA:それなら、やっぱり僕はニコ先生のファンですから。水曜日・土曜日が良いです』
『北方:わかった。同じ曜日にするのが一番交流するチャンスも多いからね。水・土で希望出しとくよ』
『TAKITA:ありがとうございます。よろしくお願いします』
〒顎男、頬女
『頬女:顎男先生……“ぎゃんぶる稀譚”、今週7位です』
『顎男:えっ!!!? 先月2位だったよね!?』
『頬女:はい。どうにも、顎男先生のギャンブル小説ってネタばらし回とそれ以外の落差が他の作品より激しくて……』
「7位ぃ! くっそ~~~!」
そして――顎男がギャンブル部門で泥辺五郎に差を広げられている時、他のジャンルでは大変なことが起こっていた。
〒つばき、柏
『柏:つばき先生~~~!!!』
『つばき:は、はいっ? どうしたんですか』
『柏:今週、【日常】ジャンルで1位です!! 後藤ニコ先生を抜きました!!!』
『つばき:!!? 嘘!!?』
『柏:本当です!! ここ最近、唐突な作品削除などでずっと不安定な状態でしたが、いよいよ目に見えてクオリティが落ちてきたという感じで……。正直、つばき先生が追い上げた以上に後藤ニコ先生が落ちてきた分が大きい結果ですが、それにしてもあの後藤ニコ先生ですよ!!?』
『つばき:はい! 理由はどうであれ……とにかく嬉しいです!!』
『柏:ぜひ、この順位を維持していくことを考えましょう! 後藤ニコ先生が不調の間にこの位置をしっかりと確立できれば、復調してきた後も十二分に勝負になるはずです!!』
『つばき:はい、もちろんです! 本当に……本当によろしくお願いします!』
(うれしい。あのニコ先生に……やった、やった!!)
〒510nico、猫
『猫:先生……。今週、日常ジャンルで2位に落ちました』
『510nico:!! …………!!?
『猫:やはり、さすがに最近の乱調ぶりは読者にも見抜かれてしまっているようで……。序々に票数は落ちてきていましたが、ついに……』
『510nico:やっぱり、無能な編集は駄目ね……。編集替え、編集長に希望出しておいてちょうだい』
『猫:!!!? そんなっ……!!! 私は今までニコ先生に尽くしてきました!! それだけはやめて下さい!!』
『510nico:尽くしたぐらいで無能が許されるなら誰も苦労しないのよ。バイバイ。サヨナ~ラ』
(そ、そんな……! ニコ先生、本気で私を……!?)
『510nico:あ……』
『猫:! どうしたんですか??』
『510nico:そういえば、誰が1位になったの?』
(そっか……新都社の小説読まない人だからな……)
『猫:それは……つばき先生という方です。同じ女性作家で、ニコ先生より少し若い方です』
『510nico:! へ~……、え』
『猫:それが何か……』
「むっ、か……、つっ、く。なあ~……そい、っつ」
後藤ニコは死んだ眼でぼんやりとチャット画面を眺めながら、途切れ途切れに呟いた。