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船の中で

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 目が覚めるとそこは見知らぬ場所だった。
 豪華な装飾に豪華な食事。そして豪華な衣装に身を包んだ人間。
 普通に考えれば何処かの富豪のパーティー会場か何かなんだろうけど――
 どうして俺がそんな場所にいるのだろうか?
 俺はさっきまで自分の部屋で寝ていたはずなのに……

『おやおや、やっとお目覚めになりましたか』
「お前の仕業かよ! つーか、俺何も望んでないよな?」
 コイツは前回、俺が違う世界を望んだから来たと言った。
 それなのに何でまた違う世界に居るんだよ!? 俺は何も望んでいないんだぞ。
『実はですね……前回の世界はあなたにも些か不満が残ったと思いましてね。私の
方で勝手に気を利かせて、違う世界に案内してみました』
 そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「クソッ! いいから元の世界に戻せよ!」
 お前の気遣いなんか必要ないんだよ。
『前回も言ったと思いますが、元に戻るのならばそれなりの条件を満たすか、死ぬしか
ないと……』
「く――っ」
 確かにそんな事言ってたが、今回はお前のせいなんだから少しくらい融通を利かせて
もいいじゃないか。
『まぁまぁ、そう怒らないで下さい。今は周りをよく見て下さいよ。豪華な装飾に豪華
な食事。こんな世界普通の人は来る事なんて出来ませんよ』
「あんたの言いたい事も分からないでもない――」
 こんな贅沢な場所。一生かかっても来れないだろう。だからこの場所を楽しめ。
 しかし、それは普通の状態だったらだ。
 周りを見る限り状況は普通ではない。
 皆が皆何かに怯えている。
『ああ、大丈夫ですよ。今回は変な魔物なんていませんから。ただ――』
「なんだよ?」
『――ただ、今回のこの場所。豪華客船なのですが……じきに沈没します』
「はぁ!?」
 沈没だと!? なんでそんな場所なんだよ!?
『いいと思いませんか? 目前に迫る死に対する人間の慌てよう。皆が皆、我先に助か
りたいと行動している。そこには自己犠牲という言葉は存在しない。これほど見ていて
面白い光景はないでしょ』
「狂ってやがる……」
 人の必死の様を見て喜ぶなんて……
『さぁ、あなたはどうします? このままだと死んでしまいますよ?』
「クソがっ!」
 いくら本当に死ぬ事はないといっても、死ぬまでのその苦しみは実際にあるものだ。
 出来る事ならそんな物体験したくはない。
 しかし、外に出た所で助かるという保証もない。
「一体、どうしたら……」
 何が正解なんだ? どうすればこの悪夢は終わるんだ?
『早く私を楽しませて下さい。お願いしますよ』
 物欲しそうな顔を浮かべてお願いをしてくる。
 こんな奴の反応を待っていても無駄だ。とにかく今はこの船の中を探しまわってみよう。


「……何もない」
 あるのは人々が置いていった荷物だけ。
 他にあるものといえば――
『ははは♪ 錯乱のあまり心中を図りましたか。これは面白い♪』
 そう。無残な死体となった遺体だけだった。
「――うっ!」
『おや、こういうのは苦手ですか?』
「ぐ――っ」
 こんなのが得意な奴なんているわけがない。
 もしいたとしたら、そいつは狂っているだろう。
『あなたもコチラ側の人間だと思うんですけどね』
「黙れ」
 お前と一緒にするな。俺は普通の人間だ。
『ふむ――もう諦めるのですか?』
「もういい。もう疲れた」
 目の前にあるのはただの絶望だけ。
 希望なんて物は一切ない。
 もう、そんな物を見るのは嫌だ。
『大人しく海の藻屑となるおつもりで?』
「うるさい」
 死ねば終わるんだろ? だからもういいんだ。
 ここでの俺は死ぬ。
 そう決めたんだ。
『そう、ですか。あなたがそう決めたのなら、私はそれを見届けましょう』
 勝手にしやがれ……
 そして俺はここでも死んだ――


『今回もあなたが気にいる事はありませんでしたか。仕方ありません、次の世界に期待
するとしましょうかね。次の世界では――』

『あなたの狂気を期待していますよ♪』
2

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