あいつは確かに言った。
元の世界に戻りたいのなら、それなりの条件を達成しろと。
そして、その中の条件の一つが俺が死ぬ事。
これは二度も体験しているから間違いないのは分かっている。
だが、本当に他の条件はあるのあろうか？
俺が過去、二度招待された世界。あの世界においては死ぬ以外の選択肢はないような気がする。
特に一つ目、いきなりモンスターの前に来て何が出来るっていうんだ。
俺は勇者でも特殊な訓練を受けた人間でも無い。そんな人間がモンスターを前にして、何が
出来るのだろうか？
本当に訳が分からない。
そして、その訳の分からない状況は今も同じで――
『おやおや、どうしました？ 早く行動を起こさないとまた、死んでしまいますよ？』
「うるせえよ！ 何でまた訳の分からない世界に飛ばされてるんだよ！ しかも毎回、毎回危機的状況の所に！」
『ですが、スリルのない世界なんて面白くともなんともないでしょ？』
「だからって、こんな――」
こんな、辺り一面炎に包まれた場所は……
『ふむ、今回は比較的簡単な世界に連れて来たのですが、お気に召しませんか』
「気にいるわけないだろ！ てか、この横で倒れてるオッサンは誰なんだよ！」
『あぁ、それですか。彼はこの光景を作りだした犯人ですよ』
「このオッサンが……？」
『ええ。ここは彼の自殺現場なんですよ。まぁ、彼はただ薬で眠っているだけなので、
まだ死んではいませんが……焼身自殺を図っているのですよ』
「そんな……」
『まぁ、彼の事なんてどうでもいいんですよ。問題はあなたがどう動くかですよ』
「俺が？」
『はい。今回なら死ぬ以外の選択肢を選ぶ事が出来るのではないですか？』
「死ぬ以外の選択肢……」
確かに、状況としてはただ単に周りが炎に包まれているだけだ。もし、ここを突破す
る事が出来たら、初めて無事に生還する事が出来るかもしれない。
『おや、随分とやる気が出てきたみたいですね』
「当たり前だろ。今回は無事に帰ってやる！」
『ええ、頑張って下さいね♪』
奴の笑顔は気に入らないが、今回は本当に死ぬ以外の方法で帰れそうだ。
現状、方法はただ一つだよな。多少の火傷を覚悟で、突っ走る。
これしかない！ よし、行くぞ。
『おっと、すいません。少し宜しいですか？』
「何だよ？」
『いえいえ、少し気になったのですが、彼はどうするのですか？』
「彼……？」
『はい。そこで倒れている彼ですよ。彼はまだ死んでいませんよ。あなたは、そんな彼
を放っておいて逃げようというのですか？』
「ぐ……っ」
『まぁ、選ぶのはあなたです。大体、彼は元々自殺を図った人間です。別に助ける必要
もないでしょう。それに、あなたと彼は無関係の存在です。顔も名前も繋がりも知らない。
そういう意味では別に助けなくてもよいでしょう』
「お前は俺に何をさせたいんだよ！」
さっきから矛盾した事ばかり言いやがって。
『私は私を満足させていただける行動を取っていただけたら満足ですよ』
「クソ野郎が！」
『自覚してますよ』
あークソ！ 一体、どうすればいいんだ。このオッサンを見捨てるか。オッサンと一緒
に助かるか……
そんなの決まっている――
「う、あぁ……」
『おやおや、彼を助けるのですね』
「黙れ！ 絶対にこのオッサンと一緒に外に出てやる……」
そして、コイツの思い通りにならないって事を――
『ふふ、実にバカバカしい行動を取る方だ。そんな余計な荷物を背負っていたら……』
「う、うあ、がぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁっ！」
『まぁ、こうなりますよね。結局、また死ぬような行動を取ってしまいましたか。あんな簡単
な誘導に引っかかってね。それに――ふふ、仮に彼を見捨てたとしても、その先に希望はあった
のでしょうかね？ すぐに外に出られる。そんな幻想が今回の死因ではないしょうか。
私としては、今回は割と楽しめたのでどうでもいいんですがね』
『あぁ、本当に私は最高の玩具を手に入れましたね。あなたが無意味にもがき苦しむ姿。
楽しみに待っていますよ』